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宴①

夜の帳が下り、紺碧の空に月と星が静かに佇む。


白く美しい弧。

その姿は白いドレスを身に纏った女帝か、逸話の女神の如く凛としていた。


地表からいくら手を伸ばしても、決して届かない尊い存在。花を捧げても、歌を捧げても、決して触れる事が叶わない。


この命が尽きてこの身が星となれば、いつか貴方の側にいけるだろうか?

私は、それ程に貴女に恋焦がれている。


目を細め、空を見上げる。


慈悲の光を分け与え、いつも平等に見守っている貴方を。


ーーー


終業時刻はとうに過ぎているのに、アードラー商会の屋内には人が多く残っていて、商会建物内の至る所に燭台が置かれ、光で満たされていた。


特に玄関ホールは普段のきっちりとした雰囲気とは打って変わって、さながら街中の飲み屋と化している。


机には料理がたんまりと並べられ、酒樽は一晩で到底飲みきれない程ズラリと並べられていた。


いつもと違うのはそれだけではない。

皆、仕事着ではなくお洒落をし、着飾っていた。


今は秋の中旬。

商会の創立記念日は春頃。

そして忘年会にしては早過ぎる所謂普通の日。


なのにこんなに大掛かりになっているのは、今日が『特別な日』だからだ。


ミリーはこの日の為に忙しさの合間を縫って色々と準備をする側で、実際に計画通りになり始めると感嘆の声が出た。


会場の飾りつけは勿論だが、主役2人を座らせる席の出来栄えが特に素晴らしい。


「流石、うちの商会お抱えの職人達だわ」


うっとりして見つめた。

いつか自分も‥なんて夢心地でいると、1人の中年男の歓喜の声でハッと我に返った。


「こ、この焼印!ま!マジかっ!?」


床に跪き、酒樽を掴んで、ぶるぶると身体を震わせていた。彼の異常に他の男達も「なんだなんだ」と、反応をする。


「んーなんだよ?どうし‥あぁっ!?」


そしてホールの一角でどよめきが起きた。


「これって!ザガン地方の銘酒!市場に5樽しか出回らねぇっていうっあの珍品っ!?」


「「「おぉぉっ!?」」」


「えっ!どれどれ!?」


「マジ?偽物じゃねーの!?」


老若男女問わずその銘酒に群がった。


「早く早く!」


皆が開栓を急かす中、酒樽の真正面にいた中年男は「まぁ、待て待て‥」と宥める。


その中年男こそが第一発見者で、ズラリと並べられた酒樽の中にこの逸品が紛れている事に気づいた人物。


見つけた瞬間は誰よりも興奮し、雄叫びをあげていたのに、今は意外にも冷静だった。


「本当にええんですか?」


後ろを振り返って、この酒樽の提供者に確認をした。


それは本日の主役達ではなく、この場を提供したアードラー商会の商会長アルバートだ。


今日のアルバートは従業員達とは逆にラフな姿。

シンプルな白シャツに深緑のパンツという装いだ。


なのに何故かいつもと変わらずヤケに目立つのは本人が生まれ持つ存在感なのだろうか?


アルバートはニコリと笑い


「勿論だよ。何と言っても今日は2人の祝いの席だからね。これは私からのささやかな振る舞い酒だ」


そして、自分の隣に居る男女の肩に手を置き続ける


「あらためてもう一度言おう。ヨーナス、トレッサおめでとう。君たちがこの先の人生を共に歩むと決断し報告をしてくれた時、私は本当に嬉しかった。特にトレッサ‥君とは血の繋がりは無いけれど、家族と同様に想っているよ」


「アルバート様‥」


トレッサと呼ばれた女性は感極まって涙ぐんだ。

それに気づいたもう1人の男性‥ヨーナスはさりげなくハンカチを彼女に手渡す。


「そう言うわけでヨーナス。私の大事な義妹を宜しく頼むよ。私が口煩く、余計な世話を焼くのは今日で最後だ。亡き父の分まで、私はこの先の君達の幸せを心より願っているよ」


顔は笑っているのに、妙な圧の強さ。


ヨーナスはそれを感じ取ったのか、それとも責任感からか、背をビシッと伸ばし「勿論。任せてください」と答えた。


パチパチと拍手が鳴る。

2人は手を取り、顔を向き合わせ「ありがとうございます。公私共に貴方の期待に応えてみせます」と、礼をする。


「あぁ、期待してるよ」


アルバートの目に涙は‥無かった。

肩の荷が降りたような、穏やかな表情をしていた。


「ヨーナス!トレッサ!結婚おめでとうっ!」


わぁぁっ!と、商会ホールいっぱいに祝福の声が沸く。


「今日は夜通し呑むぞぉぉぉーっ!!」


「「おっしゃゃーっ!」」


その声と共に銘酒は開栓された。


「皆、明日も仕事だから程々にね」


いつもであれば最優先される商会長の一言は、今日ばかりは皆の耳には届かなかった。

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