第7話 講座は万能ではないし、基本的にパフォーマンスが悪い
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申し訳ございません
「あの、今日からお世話になる二本松なんですけど……」
たどたどしい女性の声が聞こえて振り向くと、二本松さんが不安げな顔でたたずんでいた。
まるで初めて出会ったような反応。
実際に彼女視点では初対面だろう。
もう3回目の光景。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ついつい絶叫すると、二本松さんの後ずさる音が聞こえた。
どうしても我慢できなかった。
絶望と安心が入り混じって、感情がどうにかなってしまいそうだ!
結論から言おう。
今回もダメだったよ。
二本松さんが炎上して、すぐにマンションも燃えた。
何度も業者にガス漏れを確認してもらったのに、理論的な対策は通用しなかった。
だけど、本当によかった。
またループできて、本当によかったっ!
もう終わりかと思っていた。
でも、1回目より絶望感がひどい。
まさか、1回目よりも早いタイミングで炎上すると思わなかった。
「あの、どうしたんですか……?」
おそるおそるといった様子で近づいてくる二本松さん。
オレは彼女に掴みかからんがばかりに、距離を詰める。
「なんで、なんでなんですか!?!?」
「ふぇっ!?」
「オレ、言いましたよね!?」
「え、すみませんっ! 何か約束を間違えましたか?」
「玉ナシおちんちんを見せれば、炎上するようなことはしないって!」
彼女はもう、あの時の彼女じゃない。
そんなことはわかっている。
だけど、言わずにはいられなかった。
炎上対策講座を実施したのだけど、それをまともに聞くような人たちではなかった。
ある人は泥酔して眠り、ある人は全く聞く耳をもたず、ある人はクネクネと奇妙な踊りをしていた。
動画サイトに投稿したら10万再生はとれそうなぐらいの力作を作ったのに……。
唯一まともに見てくれたのは、二本松さんだけだった。
だけど彼女も見てくれただけで、内容を守る気はあまりなかった。
そこでオレはどうすれば炎上するようなことを避けてくれるか、質問したのだ。
当時はまだ時間がループする保証がなかったから、それだけ必死だった。
彼女の要求する内容は、もちろん決まっているのに。
オレはズボンを下ろすハメになった。
さらには三春さんも悪乗りして、逃げられないように拘束されて――。
それでも、オレはよかったんだ。
マンションを守るためなら、どんなでも本望だ。
それだけに裏切られた時のショックは、あまりにも大きかった。
本人からしたら悪気なんて一切なかったのかもしれない。
彼女はちょっとお酒に酔っていて、判断を誤ったんだ。
誰も想像すらすまい。
ブイックスにて、玉ナシおちんちんを見た感想を世界に発信するなんて……。
しかも、レシートみたいな長さで。
いや、過ぎたことを考えるのはやめておこう。
今回新しく得られた情報に目を向けた方が建設的だ。
今回新たにわかった情報は、2つ。
このループは偶然起きたものではなく、再現性があるということ。
そして、5人全員が炎上しなくても、1人が炎上すればアウトの可能性がある。
『二本松さんが炎上』がトリガーの可能性も捨てきれないが、3回目以降のチャンスがあるなら検証してみたい。
「あの、初対面の女性に、それはどうなんですか……?」
「あ、すいません」
長い思考を終えて、現実に戻ってきた。
二本松さんからの視線はすごく冷たい。
やばい。感情的に動きすぎた。
「動画、撮りました。なんか怪しかったので」
彼女のスマホから流れたのは、オレが『玉ナシおちんちんを見せれば、炎上するようなことはしないって!』と言ってしまった音声だ。
どこからどう見ても、危険人物である。
「えっと、これ、警察に見せてもいいんですよ……?」
彼女は何かを期待して、舌なめずりをした。
まるでエロ同人誌みたいに。
あ、墓穴を掘ったかもしれない。
警察のお世話になったら、マンションの炎上を阻止するどころではない。
「あの、ここを見せたらチャラにしてくれますか?」
その日。
マンション炎上RTAの最速記録が更新されたのだった。