最終話 VTuber専用マンションは進み続ける
VTuber専用マンション。
その一室を改造している、スナックバー。
そこで今日もパーティーが開かれている。
「かんぱーい!!」
全員で乾杯をしたのだけど、すでに出来上がっている人が数人いる。
かなり自由だけど、この雰囲気が好きだ。
少しみんなの輪から外れて、遠くから眺めることにした。
昨日の配信のせいでヤケ酒に走っている二本松さん。
ウオッカをがぶ飲みしている五木さん。
ゲロを吐いている十六夜さん。
それを介護している四分一さん。
まあ、羽目を外してもらっても問題はないだろう。
なにせ、昨日の二本松さんの配信で、炎上の種は全部解決したんだから!
あれ? 三春さんは?
あ、こっちに近づいてきている。
「どうしたんですか?」
「ねえ、気になったんだけど、あんたを刺そうとした犯人はどうしたの? 警察に突き出したんでしょ?」
ああ、そのことか。
「んー。なんだかよくわかんないこと供述しているらしいんですよね」
「よくわからない?」
「警察の人が言うには、ずっと変なことを言っているらしいです」
「つまり、心神喪失状態ってことかしら?」
「多分、そうなると思います。警察は断言しませんでしたけど」
「それは後味が悪いわね。」
実は嘘をついた。
いや、隠していると言った方が正しいだろうか。
本当は犯人から『一番星銀花』の名前が頻繁に出ていたらしい。
彼女に操られたとか、そんなことを言っていたらしい。
どういうことかわからないけど、深く考えても無駄だろう。
――ごめんね。神様の銀花と怨霊の銀花がいて、怨霊が神様を消すために原因となった君を殺そうとしたみたいなの。
あー。なるほど。そういうことなのか。
って、銀花ちゃんの声が聞こえる!?
あれ? でも姿が見えない。
なんで姿を見せてくれないんだろうか。
だけれど、声を掛けてくれたってことは、今も見守ってくれているってことだよね。
あ、二本松さんが最初の入居者だと思っていたけど、厳密には銀花ちゃんが1人目になるのだろうか。
そう考えると、少し嬉しい気がする。
入居者といえば、これをみんなに訊いておきたいんだった。
「あの、折角の機会なので、みなさんに訊きたいことがあるんですが」
住人全員が、オレの顔に注目した。
「みなさんは、どうしてこのマンションに入居してくれたんですか?」
まずは三春さんが手を上げた。
「あたしは元カレから逃げるためって目的が一番だった。だけど、新しい出会いが欲しかったっていうのもあるわね」
次に四分一さんが立ち上がった。
「僕はこのマンションから強い霊力を感じたので。正体はまだわかっていませんけど」
あれ?
二本松さんの話によると、彼女をループに送り出す時に知っているはずだけど……。
ああ、そうか。みんなループの記憶は引き継がれていないのか。
次に五木さんが手をふらふら~と手を振った。
「はなまるは怜央についてきただけー」
次は十六夜さん。ゲロは止まったみたいだ。
「私は生活に変化が欲しかったかしらー? あと、独りでいるのは寂しかったから」
「でも、もう僕たちがいますよ」
「そうね」
「はなまるもいるよー」
3人はイチャイチャしはじめてしまった。
本当に仲がいい。
最後に、二本松さんだ。
「さ、紗香はお姉ちゃんの影響ですね」
「お姉ちゃん? 誰のこと?」
三春さんの問いに、少し戸惑いながら答える二本松さん。
「えっと、『一番星銀花』の中の人。最初の方。あれ、紗香のリアルお姉ちゃんなんです」
「えええええええええええ!?!?」
三春さんの驚きは理解できる。
オレも似たような反応してたし。
二本松さんはそれ以上詳しいことを話さないつもりらしい。
まあ、幽霊とかオカルトの話が絡むから、こんなパーティーの場では不適切だろう。
「管理人さんは、なんでこのマンションを建てたんですか? 流行りに乗ってお金儲け、にしても価格設定が破格すぎますよね」
予想外に話題を振られて、オレは一瞬しり込みした。
「そうですね。なんと言ったらいいんでしょう」
推しのため。
そう言いかけて、違和感をおぼえた。
少し前までだったら、息を吸うように口にしていただろう。
盲目的に信じ込んでいた。
すべて推しのおかげ。すべて推しのため。
だけど、今は少し変わったのかもしれない。
「きっかけは、自分の心を慰めることだったのかもしれません。宝くじが当たってもお金を使い道がわからなくて、しかも使い切ることを考えると嫌気が差していました」
贅沢な悩みすぎて、自分でも笑ってしまう。
「そこで思いついたのが、VTuber専用マンション。もう会えない推しのため。そう思えば、なけなしの気力が湧いてくる気がしました。金玉を取ったのは、無意識に自分を追い込もうとしていたのかもしれません。大分後ろ向きな理由ですよね」
三春さんが「そうね」と容赦ない相槌をうった。
「でも、今は違います。みなさんの活躍を見届けたい。支えたい。力になりたい。そして、みんなで今まで見たことのないような未来を――理想のマンションを作りたいんです」
推しを忘れたわけじゃない。
「なるほどね。あんたらしいわ」
他のみんなも頷いている。
少しはオレの想いが伝わったのかな。
そうだったら嬉しい。
「で、このパーティーは一体なんなの? みんな気にせず楽しんでるけど」
「何って、新しい入居者の歓迎会ですよ」
「はぁあ!?」
三春さんは驚きのあまり、咳き込んでしまった。
「全然聞いてないんだけど!?」
「ちょっとしたサプライズです。いいリアクションでしたよ」
呆れたような目線を向けられて、オレは思わず目を背けた。
「主役が最初からいないのはおかしくない? 相手不機嫌になるわよ」
「大丈夫ですよ。そんなことを気にするヤツではないんで」
「その口ぶり……知り合い?」
「まあ、知り合いと言えば知り合いですね」
「なんだか含みのある言い方ね。新しい入居者の正体はなんなのよ」
これ以上からかいすぎると、三春さんが不機嫌になりそうだ。
「オレの妹です」
「妹!? あのすごく変わった子!?」
そうか。
三春さんは高校時代にあったことがあるのか。
「いつの間にかVTuberになっていたようで、このマンションに住みたいと泣きつかれまして」
「はー。VTuberって意外と色んなところにいるわねぇ」
「全く。本当ですよ」
しみじみと頷いていると、今度は二本松さんが横から話しかけてくる。
「あの、訊きたいことがあるんです」
「なんですか?」
「管理人さんの妹、〇〇大学に通ってませんでしたか」
二本松産が告げた大学名を聞いて、オレは目ん玉をひん剥いた。
「なんで知ってるんですか!?」
「えっと、紗香も同じ大学に通ってきましたから」
「え!?」
「紗香と同じ学年ですよね?」
「あ、たしかに!」
え!?
どういうこと!?
いや、そういうことかっ!
「あ、あー。やっぱり。そうなんですね」
「もしかして知り合い、なんですか?」
「えーと、親友というか、紗香のオタクの師匠なんです」
「えっ!?」
「ふたなりについても、彼女から教えて」
「はぁ!?」
まさか、2人がそんな親しい関係性だったなんて……。
ああ、これはイヤな予感がする。
ただでさえ暴走したら危ない2人なのに……。
どんな化学反応が起きるかわからない。
いや-―
まあ、それでもいいか。
演者同士の絡みで化学反応を楽しむのも、VTuberの醍醐味のひとつだ。
VTuber。
そう。
この愛すべき住人たちはみんな、個性豊かなVTuberだ。
この世界には、本当に色んなVTuberがいて、みんな自分の理想を乗せている。
例えば。
姉の死を乗り越えるためにネットの世界に出て、最終的に姉を越えようとしている天使。
白馬の王子様を探していたけど、自分らしい生き方を選んだお姫様。
好きな人と一緒にいるため、幼馴染への劣等感と和解したオカルト好き獣人。
大好きな幼馴染とずっと一緒にいるため、それ以外を許容することにしたバ美肉おにいさん。
自分を支えられる男を探して、2人の男と仲良くなった夜の蝶。
みんな、素敵な理想を持っている。
でも、現実はそんなに甘くなくて、自分のことをうまく理解できていなくて、なかなか最初思い描いた理想に手が届かない。
それでもあがいて。あがいて。あがき続けて。
自分の納得する理想をみつけた。
諦めたわけじゃない。
妥協したわけじゃない。
最初に描いた理想が、本当の理想とは限らない。
理想は常に変わり続けている。彼らはそれを見つけて、つかみ取ったのだ。
オレはそんな彼らを見て、元気と活力をもらっている。
コンコン、と。
店のドアが叩かれた。
「お、来たようですね」
オレは新しい住人を迎えるために、ドアへと向かった。
扉を開けた先には、どんな未来が待っているだろうか。
穏やかな日々になるだろうか。
楽しい毎日が来るだろうか。
いや、またループして、奔走する羽目になるかもしれない。
ふと横を見ると、銀花ちゃんの髪先が見えた気がした。
それだけで思わず口角が上がってしまう。
「そうだよね。なんとかなるよね」
ドアノブを握って、ゆっくりと回す。
ドアを押すと、向こう側からまばゆいばかりの光が差し込んだ。
相手が身内でも、これは言っておかないと締まらない。
「ようこそいらっしゃいました。新しい入居者ですね?」
今は前を向いて時間を進められるのが、何よりもうれしい。
VTuber専用マンションは、絶賛入居者募集中だ!
これにて、このお話は完結となります
こんな変わり種の作品を今まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
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