表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/67

第57話 自分だからできること 自分がはじめた物語

 VTuber『一番星銀花』の中の人だったお姉ちゃんは、幽霊になった後、グッズを並べた祭壇の影響で神様になっていた。


 そんな信じがたい話を、本人が肯定してしまった。

 


「合ってるの!?!?」

 


――だって、色々説明がつくから。今まで起きた超常現象も、私が神様になっているなら納得できる。



「超常……現象?」



 もう頭がおいつかない。

 ずっとキュルキュル音が鳴っている気がする。



――ループってわかる? アニメとかであるでしょ? 同じ時間を繰り返して理想の未来を掴む話。



「えっと、知ってるけど……」



 お姉ちゃん、アニメ見るんだ。

 あんまり見るイメージがなかったけど、そういえばVTuberになる前は声優養成所にいたって聞いた気がする。



――実は、管理人は時間をループしてたの。



「えっ!?」



――管理人は時間をループして、みんなの炎上を回避していたのよ。みんなループのことは覚えてないと思うけど。でも彼、時々ごまかしきれてなかったから、違和感あったんじゃないかな?



 あれ?

 紗香以外の住人みんな、戸惑いながらも頷いている。


 紗香だけ気付いていなかったの?



――この中の誰かが炎上すると、VTuberマンションが火事になって、時間をループする。そういう現象が起きていたの。



「マンションが火事でループ!?」



 さっきから理解不能なことばかり言われ続けて、頭がぐわんぐわんと揺れている。

 ちょっと休憩してエロ同人誌を読んでいいかな!?



――ループは私の力だったんだと思う。



 お姉ちゃんは自分の手をじっと見つめた。

 まるで、自分の手足が動くのを確かめるみたいに。



――最初に5人同時に炎上した時、強く願った。こんなのはイヤ。時間が巻き戻って、やり直してほしいって。マンションが火事になるのは、最初にループ関係なく火事になっていたのが原因かな?



 本当に神様みたいなこと、やってたんだ。

 ループなんて、もう理解の範疇を越えている。



――なんとなく私の力っぽいなって思ってたんだけど、確信が持てた。四分一怜央くん、ありがとう。



「いえ、『一番星銀花』の力になれて光栄です」



 四分一さんが慇懃無礼にお辞儀をすると、

 なんか四分一さんのテンションがまちゃくちゃ高い。


 いや、当然なのかな。

 今起きているすべては、彼の大好きなオカルトそのものだ。



――だから、またループすれば……『一番星銀花』の力を使えば、管理人が死んだ事実を変えられる。



「あ、そっか」



 管理人さんがループで、住人の炎上した世界を変えていたのなら、管理人さんが死ぬ世界を変えることだってできる。



――でも、ただループさせるのではダメ。同じことの繰り返しになってしまうから、誰かが記憶を引き継いだままループしないといけない。



――紗香。お願いできる?



「え、紗香……?」



 いきなり白羽の矢が立って、おもわず一歩退いてしまった。



「それなら、あたしの方がいいでしょ!?」



 いきなり割って入ってきたのは、小さな体の三春さん。



「あたしの方があいつと付き合いが長いし、一番年上! あいつのことなら、この中で一番知っているし、言う事を聞かせる手段だってある。だから、あたしが一番適任でしょ!」



――ごめんなさい。多分できないの。



 三春さんが言っていることは正しく聞こえるけど、お姉ちゃんは弱々しく首を横に振った。



「なんでっ!」



――自分の力を理解できるようになって、気付いたの。紗香しか時間を越えられない。血がつながっているからかな。



「――っ!」



 まだ三春さんは諦めていないようだ。



「じゃあ、あいつはっ! 無月は!? あいつも血はつながってなかったでしょ!?」



――それは……。



「おそらく、祭壇を作ったことで『一番星銀花』を祀る神主に近い存在になっていたのでしょう。だから、神の力に馴染みやすかった」



 おそらく、お姉ちゃんの中でも答えが出ていなかったのだろう。

 だけど、四分一さんが助け舟を出した。



――なるほどね。やっぱり、紗香じゃないと難しそう。



「なんでっ! 怜央くん!!!!」



 キッと睨まれて、四分一さんの額に冷や汗が滲んだ。

 


「なんでそんなに自分で助けに行きたいんですか?」

「紗香ちゃんは黙ってて!!!!」



 すごい剣幕で、何も言い返せない。

 怒った時のママよりずっと怖い。

 三春さんは他の住人に語り掛けていく。



「ねえ! おかしいでしょっ! みんな何も思わないの!?!?」



 誰かが息を呑む音が聞こえた。



「ループしたら、またあいつが死ぬところを見るかもしれないのよ!? 何度も何度も、何十回も!!! 紗香ちゃんに――まだ若い女の子に、そんな人の命を背負うことなんて……させ、られないでしょ……」



 感情がグチャグチャになっているのか、三春さんは崩れ落ちてしまった。

 もしかしたら、想像してしまったのかもしれない。

 三春さんがもしループして、管理人さんが死ぬ姿を目撃する未来を。

 ただでさえ心が弱っている彼女は、想像だけでも心が折れてしまった。


 でも、そうか。

 紗香のためだったんだ。


 紗香のことを案じてくれていたんだ。



――紗香。



 お姉ちゃん。とってもつらそう。



「ねえ、お姉ちゃん、ループは紗香にしかできないの?」



――ごめんなさい。



「謝らないで。これでも嬉しいんだ」



 今、紗香は笑えているかな。



「紗香、お姉ちゃんの気持ちを知りたくてVTuberをはじめたの。お姉ちゃんが死ぬ寸前まで見ていた景色に、少しでも近づきたくて」



 お姉ちゃんに手を伸ばす。

 だけど、触れることはできなくて通り抜けてしまった。



「このマンションに来たのも、きっかけは『お姉ちゃんが死んだ場所』だったから。後ろ向きな理由だったの。だから、前向きな役目でできて嬉しい」

「でも、紗香ちゃん……」



 三春さんが、涙を流しながら近づいてきた。

 本当は他人を気遣えるような精神状態じゃないのに、紗香のことを助けようとしてくれている。


 そんな彼女がいてくれたから、覚悟を決められた。



「ごめんなさい。これは、紗香がやるべきこと。一番最初にここにきた住人で、お姉ちゃんの妹である紗香がやるべきこと」



――ごめんなさい。



「だから、謝らないで。これは紗香がやること。ううん、紗香がやるべきだし、なにより、やりたいと心の底から思っている」



 多分、紗香しかループできないのは『お姉ちゃんの妹』という理由だけじゃない。


 この話は、紗香がはじめた物語なんだ。

 紗香が火葬場で『一番星銀花』の名前を出さなければ、管理人さん(当時の火葬場のスタッフ)が中の人の死を知ることがなかった。

 普通の、どこにでもいる『一番星銀花』のファンに収まるはずだった。


 それなのに、管理人さんは――玉枝無月さんはお姉ちゃんの死を知ってしまったせいで、異なる道を進ませてしまった。


 知らなかったから、宝くじが当たってもこのマンションを建てなかったかもしれない。

 ううん。絶対に建てなかった。


 死んでしまった、もう会えない推し。その心の隙間を埋めるために、マンション経営をはじめた。


 本人から聞いたわけじゃない。

 でも、なんとなくわかる。


 紗香も似たようなものだから。

 お姉ちゃんの気持ちに少しでも近づくために、VTuberをはじめた。



「ねえ、お姉ちゃん」



――何?



「ループから抜け出せたら、いっぱいお話しよ? 話したいこといっぱいあるから」



――もちろん。私も本当はいっぱい話したい。でも、少しでも早くしないと、ループするのが難しくなるから。



「わかってるよ。ねえ、お姉ちゃんはふたなりって好き?」



――ふたなり?



「女の子にちんこが生えてるやつ」



――え?



 あ、顔真っ赤になった。

 清楚だなぁ。

 やっぱり、お姉ちゃんはお姉ちゃんだ。



「ごめんごめん。冗談冗談」



――やめてよ。



 お姉ちゃんは顔を手で仰いだ後、真剣な表情に戻った。



――最後に。どの時間に行くのかは、私にもわからない。管理人が死んだ直前かもしれないし、もっと。でも、管理人が死んだ瞬間にループするはず。



「わかった」



 今度は、他の住人に向き直るお姉ちゃん。



――あと、他のみんなにもお願いがあるの。



 みんな、真剣な顔で返している。



――今すぐ、炎上してくれない? そうじゃないと、ループがはじめられないの。管理人はVTuberじゃないから。



「どういうこと?」



 紗香が訊ねると、お姉ちゃんはバツが悪そうに答える。



――『一番星銀花』はVTuberの神様。だから、VTuberの炎上を止めるのには力は使えるけど、管理人はVTuberじゃない。だからこそ、管理人の死んでしまうと炎上してしまう。そういう状況が必要なの。



「うん」「わかりました」「りょーかい」「わかったわ」



 それから、みんなの行動は速かった。

 全員でおもいつくばかりの罵詈雑言をブイックスに投稿。


 そのあまりにも過激な内容に、一気にネットに拡散された。

 ファンは信じられずに、アカウント乗っ取り説まで出る始末。


 あっという間に炎上して、紗香の体は光りはじめた。



「じゃあ、行ってきます」



――よろしくね。



「うん、任された」



 お姉ちゃんに何かを託されるのって、こんな気持ちなんだ。

 すごく頼もしい気持ち。


 お姉ちゃんが託してくれる自分が誇らしい。


 そして、紗香は時間を越えた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 



 次に目を覚ました時には、紗香は青空の下にいた。

 手にはキャリーケースが握られている。



 この光景には見覚えがある。



 少し歩くと、VTuber専用マンションが見えた。

 その入り口には、男の人が立っている。冴えない立ち姿の、30代男性。


 たった数日会っていなかっただけなのに、涙が顔を出してしまった。

 もう一生、動いている彼には会えないと思っていた。


 今涙を流してはいけない。

 多分、今の彼は紗香を知らない。


 素知らぬ顔で、声を掛けるんだ。

 


「あなたが、このマンションの管理人さんですか?」


 

 管理人さんは振り向くと、驚いたように目を見開いた。



「あの、本当にオレたち、以前会ったことないですか?」



 なんでそんなことを言うのだろうか。

 ループの記憶が残っている?

 いや、多分、これはループの記憶なんかじゃないんだ。


 なんとなく覚えているんだと思う。

 火葬場で見た紗香の顔を。



「あ、えっと、すみません。多分、初対面だと、思います……」



 心がチクリと痛んだ。

 だけど、これくらいでへこたれるつもりはない。


 紗香は、管理人さんが死ぬ未来を変えるんだ。



 ループがはじまった地点。

 

 それは、紗香がはじめてVTuber専用マンションに来た日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ