第56話 推し活も行き過ぎると宗教になってしまう
お姉ちゃんの現状についての考察が、四分一さんの口から語られていく。
「まずは『一番星銀花』がどのような存在なのか、共通認識を擦り合わせておきましょう」
これほどのグッズを集める人間も相当だけど、これだけのグッズを出せるVTuberも異常だ。
「『一番星銀花』を一言で表なら、『VTuberの始祖』。VTuberに携わる人なら――いや、ネットに触れている人なら絶対に目にしたことがあるような、伝説的存在。『VTuberの神様』と呼ばれることもあります」
昔から、『一番星銀花』の中の人――紗香のお姉ちゃんは完璧だった。
なんでもできる。学業も部活動も優秀。誰とも仲良くなれる。みんなに好かれる。顔もスタイルもいいし、常にだれかを助けている。
将来はアイドルになってもおかしくないし、どこに行っても愛されるイメージしか湧かない。
まるでアニメで見た女神様みたい。
少なくとも紗香はそう思って、憧れていた。
「ですが、突然声が変わったことにより、大きな炎上を引き起こすことになります」
ふとお姉ちゃんの様子を伺うと、悲痛な表情を浮べていた。
死んだ今でも、当時のことはトラウマなのかもしれない。
VTuber黎明期と現在では、VTuberの在り方が全く違う。
現在は配信が中心で、多くの人は2次元の絵を動かしている。
それに対して、黎明期は動画が中心で、3Dモデルで電脳世界を自由に動き回っていた。
現在のVTuberは配信がメインのマルチタレント。
昔は動画やライブに出るアイドル、またはぬいぐるみキャラクターみたいな存在だった。
だからこそ、『中の人』に対する考え方がファンと制作側で食い違っていることがあったのだと思う。
「結局、リスナーに対する詳細な説明がなされないまま、『一番星銀花』は活動休止をし、ラストライブを最後に表舞台から姿を消しました」
――そう。その通り。その後、私は死んだ。
四分一さんは小さく頷いた後、淡々と話をつづけていく。
「『一番星銀花』は今でも影響力を持っています。VTuberと言えば、と訊けば多くの人が『一番星銀花』と答えるかもしれません。もはやVTuber界の神様です。そして、今も活動復帰を望む声が後を絶ちません」
たしかに、紗香も『一番星銀花』の活動休止の裏事情を知っていなければ、活動復帰を願っていたと思う。
もしかしたら、管理人さんも。
「人々に存在を望まれる存在。これは『偶像崇拝』に近い状態です。しかし、それだけでは『神』になる条件が整っていませんでした」
人差し指をぐるっと回して、視線を誘導する四分一さん。
「最後のピースはこの部屋。みなさん、この部屋を見てどんな感想を抱きましたか?」
この部屋。管理人さんの部屋には、大量の『一番星銀花』のグッズが飾られている。
「こどおじ部屋」
「コレクション部屋」
「オタク部屋」
三春さん、五木さん、十六夜さんが感想を告げていったけど、どれもしっくりこない。
違う。
他に、もっと神様に近い言い方があったはずだ。
インパクトがあって、コンパクトで、よくネットで目にする言葉――
「…………祭壇」
「はい。その通りです」
四分一さんは満足げに頷いた。
「よく聞きますよね。オタクがグッズを大量に並べたコーナーを『祭壇』と呼ぶ。普通はキャラの誕生日などを祝うために作られますが、ここは常に祭壇と呼ぶにふさわしい状態ですね」
祭壇と言えば、神などの超自然的存在を祭るために作られるもの。
オタク用語では少し意味合いが変わってくる。
「いや、名前が同じだけじゃないですか」
「名前には力があります。特に、神のような実態の持たない存在にとっては、名前が全てと言っても過言ではありません。だからしばしば、同じ発音なだけで同一視されることもあります」
オカルトとか宗教の世界ではそういうものなのだろうか。
「〝信仰〟と〝祭壇〟。この2つが揃ったことで『中の人の幽霊』は『一番星銀花という神様』へと変じた。だから、朧気だった存在が意識を持ち、この部屋の中を自由に動けるようになった。あるいは、そうなることを、この部屋の主が無意識に望んでいたのかもしれません」
四分一さんは言い切った後、短く息を吐いた。
「これが僕なりの考察です」
話が終わると、静寂が部屋を包んだ。
みんな、頭の中に浮かんでいる言葉は同じだと思う。
そんなバカな。
「そんな嘘みたいなこと、ありますか?」
「事実、実際に起きているので。僕の仮説は逆説的に導き出したにすぎません」
自信満々な四分一さんを除いて、紗香たちは反応に困っていた。
そんな中、深い息を吐いたのはお姉ちゃんだ。
いや、神様とか幽霊って息吐くの?
――私、神様になってたんだ。
すごく納得した顔をしている。
――ありがとう。なんだかしっくり来たわ。うん、この仮説、間違いないと思う。




