第48話 親は超えるべき目標であって、壊す壁であってはいけない
「……怜央くん。はなまるくん」
隣の小桜ちゃんが呼んでくれた?
わからないけど、助けに来てくれたのかな?
玲央くんは無感情な顔のまま、お父さんの前まで近づいてきた。
「お前はあの時の……。これは家族の問題だ。引っ込んでろ」
「暴力をふるったら、それはもう家族ではないですよ」
「何を言ってるんだ……?」
小首を傾げるお父さんを見て、身の毛がよだつ。
本当に理解できてないの?
この男にとっての家族って、コレなの?
「もうあなたの家族は壊れています。家族とは呼べない程に」
「ああ、なるほど。お前、恵まれて生まれてきたんだな」
「ええ。そうですよ。僕はすごく恵まれています。裕福な家庭に生まれて、何不自由なく暮らして、不思議な幼馴染がいて、あなたの娘さんに出会えました」
鼻で嗤うお父さん。
「恵まれているヤツに、俺の気持ちはわからないだろう? 引っ込んでいろ」
「僕はあなたの気持ちを理解するために来たんじゃないんです。陽子さんを助けに来たんです」
「だから、引っ込んでろと言ってるんだ」
今すぐ殴り掛からんばかりの迫力で、お父さんが凄んだ。
だけど、怜央くんは一歩も引いていない。
いや、よく見ると手が震えている。
「それよりも、あなた、子供を殺した経験でもあるんですか?」
「あぁ!?」
お父さんが少し動揺したのを見て、怜央くんはしたり顔を浮べる。
「僕、霊感があるんですよ」
「霊感? 何を言ってるんだ? バカバカしい」
「本当にバカバカしいですよね。あななんかに、子供の幽霊が憑いているなんて」
「あ!? 子供?」
「身に覚えでもあるのですか?」
「…………弟、か?」
幼いころ、交通事故で無くした弟。
何度も話を聞かされていた。
「弟さん、言っていますよ? あなたに殺されたと」
「ふざけるなっ!」
「違うというのですか?」
「大体、俺が長男だった。跡取りだったんだ。俺が生きて、弟が死んだ方が親のためになるだろっ!! 違うか!?」
「弟さんよりも、落ちこぼれだったのにですか?」
怜央くんには何が見えているのだろう。
何が聞こえているのだろう。
よくわからないけど、弟の死因はお父さんの急所だったようで、激昂して飛びかかっていく。
「やめてっ!」
お父さんの拳が振り上げられて一瞬、明確なイメージが見えた。
馬乗りにされて、血を吹き出す怜央くんの姿。それが数秒後の未来に待っている。
「ねえ、もういい加減にしないー?」
突然、はなまるくんが怜央くんとお父さんの間に割って入った。
それでもお構いなしに、お父さんは拳を振り下ろそうとしている。
「しょうがないなぁ」
はなまるくんが腰を落とした瞬間、雰囲気が変わった。
腰の横に拳を持ってきて、次の瞬間、爆発のような音が響いた。
お父さんが壁に叩きつけられた音だと、遅れて気付く。
「押ッッッッ忍ッッッッ!!!!」
普段の温厚なはなまるくんとは想像できない程の声量だった。
構えも完全に堂に入っている。
「どういう、こと……?」
「こいつ、実は空手の有段者なので。僕も道場に通っていたんですけど」
「そうなんだよー。すごいでしょ?」
「あ、うん、すごいね」
お父さんは気絶しているようで、動く気配はない。
すぐに管理人さんと小桜ちゃんがやってきて、亀甲縛りした上でどこかに運んで行ってしまった。
見届けた後、怜央くんが私頭を抱きしめてくれた。
「もう大丈夫ですよ」
「……玲央くん」
とても優しい手つきで、頭を撫でられた。
こんなに優しくなんて、お父さんにも、どんなお客さんにもされたことがない。
あれ……。
「……ごめん。ごめんなさい」
涙が止まらない。
恥ずかしい。
失望されるかもしれない。
早く泣き止まないと。
「大丈夫ですよ。いっぱい泣いてください。僕には頭を撫でることしかできませんけど」
情けない。
私の方がお姉ちゃんなのに……。
「うわあああああああああん。こわかったああああああああああぁぁぁぁ」
まるで今までせき止めていた感情があふれ出しているみたいに、ポロポロと涙が落ちていく。
結局、疲れて眠るまで、泣き続けてしまった。




