第45話 夜の月は星に囲まれているから、逆ハーレムみたいなものだよね
VTuberとして活動をはじめても、最初はうまくいかなくて、クリエイターとトラブルになることも多かった。
だけど、そんなことは今話してもしょうがないから割愛する。
VTuberとしての私の転換期は、やっぱり夜職をカミングアウトしたことかなぁ。
最初は受け入れられるとは思わなくて隠していたのだけど、お酒で酔った勢いで言ってしまった。
離れていくファンもいたけど、ついてきてくれるファンも多くて嬉しかった。
それで、いっそのことと思ってはじめたのが『夜職の裏話雑談』だった。
私たちにとっては当たり前の話でも、触れたことのない人にとっては新鮮だったのだろう。
今までにないぐらいに動画が回り、話題になった。
それに、VTuberは意外と夜商売に近しい所がある。
違うのは、面と向かって会うことがないことぐらいかな?
他人を楽しませて、お金をもらえる。これほど楽しいことはない。
だって、お金をもらるのよ?
お金をもらえる、ってことは、使えるお金が増えるだけじゃない。
ああ、この人は私をこんなに評価してくれるんだ、って実感できる。
血の繋がったお父さんは3000円のお小遣いを渡すだけでも人格を否定してきたのに。
VTuberとして徐々に人気が上昇してきたころ、私は今の生活が怖くなった。
仕事や配信では人と触れ合うことがあっても、友人や恋人がいない。
親しい人がどこにもいない。
もし、このまま病気になったらどうしよう。働けなくなったら困る。
誰かに、少しでも支えてほしいなぁ。
そこで出会ったのが、VTuber専用マンションだった。
管理人さん。紗香ちゃん。小桜ちゃん。四分一くん。五木くん。
結果として、面白くて心強い人たちに出会えた。
くだらない知友でリスカしちゃっても、心配してくれる人たち。
ここに引っ越してよかったと思える。
「話があるんです」
「どうしたの?」
リスカ後、退院した翌日。
私の部屋に四分一くんがやってきた。
すごく男らしくて凛々しい顔をしていて、少し怖い。
四分一くんの顔立ちはどことなくお父さんに似ていて、ちょっとしたことで身構えてしまう。
「3人でお付き合いする、という話です」
私は思わず、息を呑んだ。
3人でのお付き合い。
そんな非常識がまかり通るとは思っていない。
あくまで理想にすぎなくて、ひとりよがりなお願いだった。
「ずっと考えていたんですけど、やっぱり前向きに」
「……そう」
当然すぎる結論だ。
私の胸の中では、悔しさも湧いてこない。
あれ?
四分一くん、なんでそんな顔をしてるの?
とっても覚悟が決まった顔。
「だから、まずはVTuberとして3人でお付き合いしてみませんか?」
「えっと……」
一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。
なんでそんな結論になったのか、全く想像がつかない。
「それに、なんの意味があるのかしら?」
「すみません、僕が覚悟を決めたいだけなんです。VTuberとして疑似体験して、心を固めたいんです。VTuberは半分仮想の存在です。それなら、アニメのような三角関係だって構築できてもおかしくない」
「……そう」
あまりにも予想外の展開に、頭がついていけない。
「僕は本気です」
強い眼差しで見つめられて、つい顔を背けてしまう。
「あなたのリスナーが離れるかもしれないわよ? 五木くんだって……」
「それはなんとかなります。僕もはなまるも、VTuberは副業みたいなものですから。それに、それくらいのことはなんともないです。僕たち、若いですから」
「……五木くんには言ってあるの?」
「これははなまるからの提案なんです」
「……そうなの」
徐々に、逃げ道が塞がれている感覚だ。
私が望んだ展開なのだけど、複雑な気分。
いざ夢が近づいてくると、尻込みしてしまう。
今まで理想がかなったことがないから、これも嘘なんじゃないかと疑ってしまう。
だけど、目の前の四分一くんの表情が、これが現実だと紛れもない事実だと伝えてくれている。
深呼吸をして息を整えてから、私は微笑んだ。
「わかったわ。そうしましょう」
「ありがとうございますっ!」
本当に無邪気で嬉しそうな顔を向けられて、あることに気付く。
あれ?
私の頬、いい感じに笑ってる?
とびっきりの笑顔じゃないけど、心の底からの笑顔っぽかった?
こうして、私たちの奇妙な三角関係は動き出した。




