第43話 主人公からしたら胃痛案件であるが、本人たちが幸せならオーケーです
深呼吸をしても、心が全く落ち着かない。
今からすることを考えると、唇どころか喉までも乾いていく。
『怜央くん、大丈夫?』
「はい、なんとか」
スピーカー越しよ十六夜さんの声からは、不安が感じられる。
それでも僕のことを気遣ってくれていることが何よりも嬉しい。
『はなまるは全然へーきだよー』
「だろうな」
『はなまるくんはすごいねー』
『でしょー?』
顔は見えないのに、はなまるのニヤケ顔が目に浮かぶ。
この数日で、はなまるは陽子さんに猫のように懐いてしまった。
まあ、いいんだけどさぁ。少し微妙な気分なのは僕の問題だからさぁ。
「陽子さん、はなまるを甘やかさないでください」
『だって、かわいいから』
「僕はかわいくないんですか?」
『比較するものではないでしょう? はなまるくんにははなまるくんの良さが、怜央くんには怜央くんの良さがあるから。どっちも好きだし、2人でいる時はもっと好き』
『そうだよー。怜央は嫉妬しすぎ―』
「はなまるは黙れ」
雑談のおかげか、少し心がほぐれてくれた。
これならなんとかやれそうだ。
ピコン、とメッセージが届いた。
確認すると、 事務所のマネージャーからだった。
内容は激励の言葉。
今回、彼には本当に迷惑をかけてしまった。
他の2人は個人勢だから気にする必要はないかもしれないけど、僕は企業に所属している。
今回の件は絶対に交渉したいといけなかったし、確実に反対される内容だった。
だけれど、必死の説得をしたら最終的には折れてくれた。
会社の代表にも直談判するのにも助け舟を出してくれたし、感謝してもしきれない。
『ねえ、改めて訊くけど、本当にいいの? 2人とも』
『はなまるは楽しいからいいよー』
僕は一拍置いてから返事をする。
「僕はまだ、迷っています」
『そうよね』
だけど、今迷っていることは問題じゃない。
「迷いを振り払うために、やるんですから」
『……うん』
『怜央えらいぞー』
「はなまるから褒められても嬉しくない」
『なんでー?』
僕達のやりとりが面白かったのか、クスクスと笑う陽子さんの声が聞こえて、こちらも思わず笑みがこぼれてしまう。
ああ、この選択肢を選んでよかった。
自分がどこに向かいたいかなんてとっくにわかっていた。
邪魔をしているのは、プライドとか倫理観、固定観念などなど。
はなまる風にいうなら、それらは全くキラキラしていない。
これから行うのは、それらを少しずつ崩していく作業だ。
モニターの右下を確認すると、いい時間だ。
バッチリと覚悟を決めるとしよう。
大丈夫だ。
僕は今、キラキラしている。
呪物コレクションたちも見守ってくれている。
いや、それは呪われそうか?
「2人とも、準備はいいですか?」
『はい』
『おっけー』
「では、配信開始します」
配信を開始するボタン。
VTuberになってから、これを何度も押してきた。
初配信した時も、1周年配信の時も、呪物紹介した時も……。数えきれないほど押してきた。
だけど、今回はもっともっと特別だ。
どこか遠い世界の扉を開くような気分で、僕はボタンを押した。
そしてこの日、ネットはある話題に染まった。
ある者は驚愕し、ある者は興味を示し、ある者は泣き、ある者は興奮した。
まるでお祭り騒ぎのような大炎上。
いや、これは炎上なのだろうか?
様々な物議を生み、数日間SNS上で言及され続けた。
『 【超絶悲報】 VTuberが3人での交際を発表 ファン発狂でクソワロタwwwwwwwww』
――VTuberとして、一度お試ししてみない?
それが、あの日はなまるがしてきた提案だった。
すみません、1/24~26の間は更新できる可能性が限りなく低いです
9割お休みになります
更新できても1000文字程度ぐらいかもです
過去作を読んで待っていただけると嬉しいです




