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第42話 はなまるな答えなんて生まれない

「……はなまる。見てたのか?」

「うん。見てた」



 僕は恥ずかしさ半分怒り半分の感情を押さえつけて、はなまるに問う。



「なんでずっと隠れてたんだよ」

「隠れてたんじゃなくて、ずっとボーッとしてた」

「自分の部屋でボーッとしろよ」

「なんだか1人でいたくなかったから」



 いつもより元気がないように見える。

 こんなはなまる、久しぶりに見るかもしれない。

 前に見たのは、はなまるの姉が無くなった時だろうか。



「何か困っているのか?」

「んーん。そこまでじゃない。困ってるのは怜央の方でしょ?」

「何を言いたいんだよ」

「ねえ、もう決めたのー? 十六夜さんの提案をどうするの?」

「今は考えなくていいだろ」

「ダメだよ」



 はなまるは悲しそうに、僕の顔を見つめてきた。



「今の玲央、全然キラキラしてない」



 キラキラ。

 小さいころからはなまるが口にしている、謎の口癖だ。



「なんなんだよ、キラキラって。意味わかんねえんだよ」

「あれ? 言ったことなかったっけ? キラキラのこと」

「聞いた覚えはない」

「そっか」



 何故か寂しそうな顔をしたはなまるは、昔話をはじめた。

 


「よく小学校の先生が言ってたよね。大変よくできました。はなまるです、って」



 空中に『はなまるマーク』を描くはなまる。



「あれって、あんまり好きじゃないんだ」

「そうだったのか?」

「だって、丸の上がはなまるって、ちょっと理屈がわからないかなーって」

「子供が喜ぶからだろ」

「うーん、それはわかるんだけど、おかしいよねー」



 言いたいことがいまいちわからない。



「それに、はなまるはなまるをもらっても嬉しくないし」

「意外だ」

「なんではなまるって名前を付けられたか、玲央は知ってるでしょ?」



 はなまるの両親から何度も聞かされた。



「はなまるな子供になるように、だろ?」

「でもそれって酷いよね。ずっとはなまるじゃないと、はなまるじゃなくなっちゃうの?」

「そんなことはないだろ」

「でも、小さい頃は本気で思ってたんだ。先生からはなまるをもらわないとって。そうじゃないと、捨てられると思ってた」



 そんなこと、全く知らなかった。

 いや、僕が覚えていないだけなのか?

 劣等感ばかり募って、はなまるを見ていなかった?



「小学校1年生の時、国語のテストではなまるをもらえた。満点じゃなかったけど、90点ぐらいだったかな? それを隣の女の子に自慢をすると、突然泣き出したの。なんでだと思う?」

「……お前より点数が低くて悔しかったのか?」

「ううん。その女の子、100点取っていたのにはなまるがついてなかったの」



 はなまるの周りではよくあることだ。

 贔屓(ひいき)

 はなまるの両親は著名な学者だったことや、はなまる自身が人を引き付ける美貌を持っていたことが大きな要因だろうか。



「とっても不思議だった。なんでもっとはなまるにふさわしい人がいるのに、その人ははなまるをもらえないんだろう。はなまるって人を喜ばせるためなのに、なんで悲しませるんだろう」

「…………」



 僕ははなまるの横顔を見つめ続ける。



「ずっとはなまるを取り続けても、誰も幸せになることを保証してくれないよね? はなまるをくれた人はその時だけ褒めるだけで、」


「はなまるって、なんの意味があるんだろう。この社会の中では価値がないのかもしれない」


 

 はなまる。

 100点。

 テストでそれを取り続けていい大学を出たとしても、成功や幸せが約束されるわけじゃない。

 あくまで可能性があがるだけだ。


 人は努力や結果を評価してくれるけど、その報酬が受け取れるか保証なんてどこにもない。


 努力は必ず報われる。

 そんなことを言う人に限って、努力や結果を評価しない。


 努力を必ず報わらせてみせる。そう言ってくれる人の、どれだけ少ないことか。



「だから、キラキラの方が好き」

「キラキラってなんなんだよ」

「なんだろうね?」

「自分でわかんないのかよ」



 突然、はなまるは僕の頬に触れてきた。

 別に気にすることじゃない。

 2人っきりの時は、よく頬に触れてくる。



「でも、キラキラを教えてくれらのは怜央だよ?」

「……え?」



 そんなことをした覚えはない。



「小学校に入ってしばらく経った頃かな。帰り道で、はなまるは落ち込んでた」

「なんでだ?」

「はなまるをもらえなかったから。その時の怜央にも打ち明けると、すごくバカにされた」

「だろうな」

「『はなまるなんて気にしてどうする。もっと出来たことに目を向けろよ。はなまるじゃなくて、やりたいことを見ろよ。キラキラしてるぞ』。当時の怜央、そう言ったんだよ?」



 話を聞いて思い出した。

 確かにそんなことがあった。


 僕にとってはすぐ忘れてしまう程度のエピソードだったのに……。



「そうだったのか」

「うん。衝撃的だった。やりたいこと、最初ははなまるを取ることだけだったから」



 はなまるは僕に向けて、やわらかな視線を向けてきた。



「ねえ、どうしても3人でお付き合いするのはイヤなの?」

「だって、おかしいだろ」

「そんなにおかしい?」

「間違っている」



 はっきりと言い切りたいのに、尻すぼみになってしまう。



「ねえ、もっとキラキラになろうよ」

「だけど……」



 いくらでも頭の中から否定の言葉が浮かんでくる。

 だけど、なぜかそれらを動く口に出すことができない。



「だったら、こういうのはどう?」



 悪戯の相談をするように耳打ちするはなまる。

 その内容を聞いた僕は、驚きで目を見開いた。

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