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第41話 唯一持っている才能が特異なものという設定はロマンがある

 十六夜父が去った後、僕は自室でずっと考えていた。


 僕はどうすればいいのだろうか。


 このままでは、十六夜さんと離れ離れになってしまう。

 今すぐに起きることではなくなった。

 だけど、お金の用意ができれば、すぐにでも娘を実家に戻そうとするだろう。



 正直、十六夜父の方が道理にかなっている。



 そんなことは自覚している。

 十六夜さんの精神状態は、お世辞にもいいとは言えない。

 普段はかなりおっとりした雰囲気にごまかされているけど、心の内が一致しているとは限らない。

 お酒の常飲して吐しゃ物を吐き散らかすのに、誰かに愚痴を漏らしていたり怒っているところを見たことがない。

 それはつまり、誰にも相談や愚痴ができていないこと表しているのではないだろうか。

 ストレスと感じない人間なんていない。人間にできるのはストレスを発散したり、ストレスを隠すことだけだ。

 隠した場合、そのストレスはずっと心を蝕み続ける。


 怪談やオカルトの世界だと、そういう人ほど壊れやすい傾向にある。

 抑え込むのは恐怖だけでいい。

 十六夜さんは確実にため込むタイプだ。

 今はかなりパンクに近い状態。精神病院に入院させられても不思議じゃない。


 だけど、親の言う通りにすることが、本当にそれが彼女の幸せにつながるのだろうか?


 確信を持って言える。

 あの父親の元で、幸せをつかむなんて不可能だ。

 彼は娘のことを見ていない。娘に付属したレッテルしか見ていない。娘の感情なんて歯牙にもかけていない。


 だから、僕が彼女を救うんだ。



「ははっ! 単体(・・)だと告白を断られた男が何を考えてるんだかっ!」



 ついつい自虐が漏れてしまう。

 今ははなまるのことなんて考えたくない。


 十六夜さんのことを考えていたい。



「いっそのこと、あの男を呪殺するか?」



 一瞬、本気で考えてしまった。


 僕は自分の部屋をぐるりと一瞥する。

 棚にはぎっしりと不気味な物体が並んでいる。

 不思議な模様が刻まれた小箱。

 呪いの日本人形や西洋人形。

 古い椅子。

 不気味なミイラ。

 おどろおどろしい仮面。

 

 その他もろもろ。


 様々な呪物を取り揃えている。

 ただのコレクションで、実際に使うことは想定していない。


 全部一応適切に保管しているけど、それでも少しのミスで自分に呪いが降りかかる可能性がある。


 ちなみに、このマンションにきた理由には、この呪物コレクションが関係している。


 このマンションには、特別な力が満ちている。

 どんな呪物も押さえつけられるほどの力。

 おそらく、土地神よりも強力だろう。



「一体、なんでなんだろうなぁ」



 土地柄、なにか特別な事情があるわけではなさそうだ。

 詳しいことはまだ掴めていないが、神様に近い存在は確実に存在する。


 おそらく、玉枝さんの部屋に。


 タイミングがあれば、この力の正体を知りたいのだけど、残念なことに機会に恵まれていない。



「まったく、わかんないところだらけだなぁ。だからこそオカルトは面白いんだけど」



 オカルトが好きになったきっかけは、ツチノコだった。

 存在していないのに、存在していると嘘が広まっている存在。


 小さいころにはじめて知った時は不思議だった。

 なんでこの世界の人達はそんな嘘を広めているのだろうか。


 最初は書物を漁った。

 それでは足りなくなって、ネットの世界を漁り、匿名掲示板にたどり着き、様々な交流をした。


 そうして学んでいくうちに気付いた。


 この世界を妄想で塗り潰していくの楽しいのだ。


 オカルトには著者がいない。

 ひとつの噂が広まり、多くの人の手によって尾ひれができ、ひとつの物語が形成されていく。

 言うなれば、匿名の大多数による合作。


 それがたまらなく好きだった。

 

 そうしてオカルトにハマっていき、現場にも行くようになって、あることに気付いた。



 僕は幽霊が見える。

 幽霊の声が聞こえる。



 僕に唯一与えられた才能は、これだけだった。


 だけど、最高の才能。


 気付いた瞬間、世界が変わった。

 バカにしてきたやつも、こんな世界は見えていない。

 

 オカルトだけが僕を見てくれている。

 オカルトがあるからまだ僕は生きている。



「だけど、オカルトってバカにされる対象だからなぁ」



 公言したら、ほぼ100パーセントいい顔をされない。

 基本的に何でも自由にさせてくれる僕の親も、さすがに眉をひそめていた。

 ハマってはいけないもののひとつとして数えられるだろう。


 実際、ハマらない方がいい。

 もっと安全で楽しい趣味なんていくらでもある。


 刺激やスリルも含めてオカルトだ。



「なあ、お前たち、力を貸してくれないか?」



 呪物コレクションに語り掛けてみる。


 うんともすんとも言わない。

 呪物なんてこんなものだ。

 こちらが力を利用できるものではない。


 そこがかわいくて面白いところなんだけど。



「そうだよな」



「惚れた女を自分の力で救ってこそ男だろ」



 そう奮起して、やる気を振り絞る。

 想像するんだ。

 今頑張って十六夜さんの心を射抜けば、あの柔らかくて大きい体を自由にさせてもらえる。

 おっぱいを揉みしだいたり、唇をいっぱい吸ったり、太ももにほっぺをスリスリできるぞ!


 よし、力が漲ってきたっ!


 早速なにか行動しようとした瞬間。



「玲央。ちょっといい?」

「うお!?」



 部屋の隅から突然声が聞こえて、僕は飛び上がった。

 よくよく見ると、体を縮こませたはなまるがいる。

 全く気付いていなかった。


 さっきまでの独り言聞かれてたのか? 恥ずかしいんだが!?

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