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第39話 告白の回答 無限延期編

「いや、3人でお付き合いとか絶対におかしいでしょ!」



 ここはマンションのスナックバー。

 四分一さんは完全に酔いが回っているせいで顔が真っ赤だ。

 いや、本当に憤慨しているのかもしれない。



「僕、何か間違っていますか!?」

「間違っていないと思いますよ」

「ですよね!?」

「でも、正解でもないと思いますよ」



 オレの言葉を受けて、四分一さんは苦虫を嚙み潰したような顔をした。


 三角関係なんて、倫理的に間違っている。

 それは間違っていない考え方だけど、完璧な答えからは程遠い。


 倫理なんて、ものごとの良し悪しを決めるための物差しの1つでしかない。



「なんで、オレははなまるの幼馴染として生まれたんでしょうね」


「最初ははなまると一緒にいることに疑問なんて持っていませんでした。むしろ、僕の方が積極的に絡んでいた気がします」

「幼い時は立場が逆だったんですね」



 コクリと頷いた後、彼は続ける。



「生まれた時から一緒で、幼稚園もずっとはなまるといた記憶しかありません。ですが、小学校に上がってから違和感をおぼえはじめました」



 オレは「意外です」と相槌をうった。



「最初のきっかけは、クラス分けだった気がします。1年生の時からクラスを別々にされて、登下校だけは一緒でした」



 ふと、幼い2人が並んで登下校している姿が脳裏に浮かんだ。



「他の友達と触れ合うほど、はなまるがおかしいのだと気付いていきました。天然で、人の話を聞かない。それが当たり前じゃないと知って、距離をとろうと思いました」



 四分一さんの表情からは、哀愁が漂っている。

 


「ですが、周囲からの認識は『はなまるという変人の親友』で、はなまるとの中継役をずっとさせられていました。そんなある日、気になっていた女の子に呼び出されました。告白されるのかと期待していたのですが、はなまるへのプレゼントを渡してほしいといわれたんです。それから、何度も同じようなことがありました」

「それはつらいですね」

「そうしているうちに、徐々にはなまると一緒にいるのがイヤになって、劣等感が溜まっていって、今があって……今回も……」



 どんどん尻窄みになっていった。

 完全に意気消沈した四分一さんを前に、オレは慎重に口を開く。



「すみません。1つ訊いていいですか?」

「いいですよ」

「四分一さんが好きになった女性は、ほとんどが」

「はい。ほとんどというか、全員だったと思います」

「あの、それって――」



 オレは自分の中の考察に確信を持ちながら、口に出していく。



「四分一さんが好きになる女性は『五木さんに恋する女性』ってことなんじゃないですか?」



 驚愕して、目を見開く四分一さん。



「僕が略奪愛大好きな人間みたいに言わないでくださいよ」

「そうではなくて、恋する女性に恋をする人なんですよ。四分一さんは」

「…………たしかに、そうかもしれません」



 心当たりがあるのか、ゆっくりと頷いた。



「つまり僕って、生まれながらも負けヒーローってことじゃないですか」

「そうかもしれません」



 恋する乙女が好きになってしまう。

 たとえ、その好意が自分に向いていないものだと知っていても。


 まるで、ラブコメにおける主人公のライバルポジみたいだ。


 そういう人間は、かなりの劣等感を抱えて生きてしまうのかもしれない。



「僕、どうすればいいんでしょうか」

「オレに訊きますか?」



 恋愛経験なんて、三春さんとの1回しかない。

 相談相手としてはあまり適切ではないだろう。



「管理人さんはいいですよね。元カノと仲がよくて」

「彼女とは、もうそういう関係ではないので」

「じゃあ、なんであんなに仲がいいんですか」



 そう訊かれると、明確に答えるのは難しい。



「まあ、嫌って別れたわけじゃないですから」

「じゃあ、なんで別れたんですか?」

「結局、恋心なんて水物(みずもの)ですから。異性の好みだって変化します」

「へー。三春さんと付き合ってる時から変わったんですか?」

「今の好みで言えば、二本松さんの方が近いです」

「えー。意外ですねー」



 やばい。こういうことは言わないようにしていたのに。

 オレ自身がマンションの風紀を乱してどうするんだ。


 無理やりにでも話を戻そう。



「それよりも、四分一さんのお悩みですよ。もう一度、十六夜さんと話し合うべきだと思います」

「そうですよね。そうするしかないですよね」



 口ではそう言っているけど、いまいち踏ん切りがついていない様子だ。

 若者を奮起させる言葉ってなんだろうか。



 カランコロン、と。



 考えていると、店内に新しいお客さんが入ってきた。



「あの、ここにマンションの管理人がいると聞いたのですが」

「あ、はい。オレですが……」



 穏やかそうな40代ぐらいの男性だった。


 知らない人。

 このスナックバーはマンションの一室を改造しているから、外部から客が来ることは基本ない。

 それに、目の前の中年男性は『マンションの管理人』と呼んでいた。

 もしかすると、住人の誰かの関係者だろうか。



「はじめまして。十六夜陽子の父親です。娘がいつもお世話になっております」

「あ、ご丁寧にありがとうございます。管理人の玉枝無月です」



 丁寧にお辞儀をすると、火葬場で働いていた頃を思い出してしまう。



「今日は少しお話があってお伺いしました」



 イヤな予感がする。

 今親がマンションの管理人に挨拶する理由なんて、1つしか思い浮かばない。




「陽子実家に帰すことにしまして。本日はそのご挨拶と、今回の事件のお詫びをと思いまして」

「…………え?」



 四分一さんの声が届いていたのか、十六夜さんの父親はオレに菓子折りを渡してきた。



「陽子さんが、このマンションを出ていく?」



 さっきまで赤かった四分一さんの顔が、一気に青ざめていった。

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