第37話 火葬場での経験がいきる時はロクなことがない
三春さんから電話が来た時、オレは小首を傾げた。
時間帯は深夜。
三春さんも普段は寝ているはずで、最初はイタズラか寝坊助かと疑っていた。
だけど、彼女の声を聞いた瞬間に鳥肌がたった。
「陽子ちゃんが! いきなりっっ!」
あまりにも切羽詰まった声。
思い出したのは1周目の出来事だ。
彼女は配信内でリスカをして、炎上してしまった。
それと同じことが起きた。
起こってしまった。
オレはすぐさまマスターキーを持って、十六夜さんの部屋へと走った。
「十六夜さん、起きてますか!?」
ドンドンドン、と。何度も玄関のドアを叩いても、中から物音1つ聞こえてこない。
「十六夜さん、入りますよ!」
返事を待つことなく、カギを回す。
その時には三春さんも合流してきていて、一緒に部屋に足を踏み入れた。
部屋は暗くて、電灯のスイッチを入れることも忘れていた。
鼻にまとわりつく鉄臭さに刺激されて心がざわついていたから。
臭いの元をたどるようにリビングに入ると――
「――っ!」
そこには、力なく横たわっている部屋主の姿。
左手首からは血が流れていて、目撃した三春さんはショックのあまり気絶してしまった。
昔、火葬場で働いていた経験のおかげか、オレは耐えることができた。
周囲の様子を把握するために、軽く周囲を一瞥する。
パソコンはついているけど、配信はしていないようだ。
モニターが発する青白い光に照らされて、十六夜さんの顔色がよくわからない。
だけど、確実に死に向かっているはずだ。
隣には空き瓶があることから、薬も大量に飲んでいるかもしれない。
119番をすると、幸いなことに救急車はすぐに来た。
ここで問題になったのは、連れ添いの人間だ。
この場には十六夜さんの縁者はいない。女性が好ましいだろう。最初の候補は三春さんだったけど、あまりにもショックをうけてしまったせいで不安定な状態だった。
仕方がなく、二本松さんに付き添ってもらうことにした。
さすがの彼女もこんな緊急事態では変なことはしないに違いない。
「リョナと病み系はギリギリ範囲なので」と言っていたから、多分、大丈夫だろう。タブン!
次の日。
オレと三春さんは、二本松さんから連絡をもらってお見舞いにいくことにした。
十六夜さんは意識を取り戻して、メンタルも安定しているらしい。
そうしたら、四分一さんも
それならと五木さんも参戦した。
結局、マンションの住人全員という大所帯でお見舞いに行くことになってしまった。
「ごめんね。こんなことになっちゃって」
病室に入って早々、申し訳なさそうに眉をゆがませる十六夜さんの左手首には、包帯が巻かれている。
そこにあるのは、今回ついたキズだけではない。
何回も同じことをしてきたのだろう。
「陽子ちゃん、体調はどう?」
三春さんはかなり憔悴していて、足元もおぼついていない。
誰の目から見ても、無茶をしているのは明らかだ。
無茶をしている三春さんと、無茶をさせてしまっている十六夜さん。
微妙な空気な空気が漂っている。
そんな中。
「なんでっ! なんでそんなことをっっっ!!!」
突然、四分一さんが叫んだ。
勢いのままに十六夜さんに飛びかかろうとしたから、オレは慌てて羽交い絞めにして抑え込んだ。
「やめてくださいっ!」
「オレのせいですか!?」
「え?」
四分一さんの目から、涙がこぼれていた。
「そんなに嫌だったんですか!?!?」
喉がつぶれそうなほどの大声。
「僕の告白に答えるのが、そんなに嫌だったんですか!?!?」
四分一さんの咆哮は、ほとんど悲鳴に近かった。
誰のものだろうか。
息を呑む音が、イヤに大きく響く。
「ごめん。違うのよ」
対照的に、十六夜さんの声音は小動物のように弱々しい。
「じゃあ、なんでですか?」
十六夜さんは目を伏せて、何も答えない。
答えないのが答えになってしまっている。
「そう、ですか……」
さっきまでとは打って変わって、四分一さんは抜け殻のようになってしまった。
いたたまれない。
誰も声を出せる雰囲気ではない。
もしかしたら、火葬場の空気よりも重いかもしれない。
そんな中、なぜか五木さんが手を上げた。
「もしかして、これが原因?」
この場にはにつかわしくないのんびりした声だったけど、五木さんが取り出したスマホの画面に全員が注目した。




