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第36話 この炎上ループには必勝法がある

「管理人さん、ごめんねー」

「いいえ。誰かがやらないといけないので」



 オレは今、五木さんの部屋をお片付け中だ。

 前回の片付けから2週間も経っていないはずなのに、すでにゴミ屋敷になっている。

 彼にはゴミが勝手に増える魔法でもかけられているのだろうか。


 前の周では、この片付けは先送りにしていた。


 普段なら四分一さんと2人で片付けするのだけど、彼は姿を見せなかった。

 告白の返事を待たされているのだから、片付けなんてしている余裕はないのだろう。


 ゴミをかき集めていると、ちょうどよく頭が冴えてくる。


 五木さんの炎上は、三春さんの時とはまったく性質が異なる。


 三春さんの時は、悪意ある第三者の介入があった。

 佐久間というクソボケシスコンゴミクソ野郎に炎上させられていたのだ。

 

 五木さんの場合は真逆だ。

 彼自身の行動が原因で炎上している。


 だからこそ対処が簡単でもあり、難しくもある。

 ちゃんと注意すれば炎上を止められるかもしれないけど、それには感情の駆け引きが必要になるだろう。


 オレは液タブで絵を描いている五木さんに向けて、慎重に言葉を投げる。



「あの、五木さんはかわいい顔だちをしていますけど、女性と付き合ったことはあるんですか?」

「どうしてそんなこと訊くの?」

「ちょっと気になったので」

「うーん、ないなぁ。告白されたことは何回もあるけど」

「まさか、全部断ったんですか?」



 一度も告白されたことのないオレにとっては、信じられない話だ。



「うん。だって、みんなキラキラしてなかったし」

「容姿が不満だったんですか?」

「ちがうよー。そんな。はなまるがこんなにかわいいんだから、恋人が。それに、玲央はあんまり顔がいい方じゃないでしょ?」



 四分一さんの顔立ちは、いかにも普通だ。どこにでもいそうな、祠を壊しそうな顔。



「まあ、そこがかわいいんだけどねー」

「四分一さんのこと、本当に好きですね」

「うん。怜央ははなまるの次にキラキラしてるから」

「じゃあ、はなまるさんと四分一さんで世界のツートップですか?」

「そーゆーことー」



 自己肯定感高いなぁ。


 視線を感じて振り向くと、五木さんと目があった。

 彼の瞳は、どこか虚ろだ。

 焦点が定まっているはずなのに、全く違うところを見ている気がする。



「それにしても、玲央もなんで告白したんだろうねー」



 その言葉を聞いた瞬間、思わず持ち上げていたペットボトルを落としてしまった。



「……見てたんですか?」

「うん。寝たフリでごまかそうとしたんだけどなー」

「隠さないんですね」

「だって、管理人さんうっすら気づいてたでしょ? 今2人っきりだし、ちょうどいいかなーって」



 そういうことだったら話が早い。

 ここからは直球ストレートだ。



「十六夜さんのこと、どう思ってるんですか?」

「うーん。なんていうか、全然キラキラじゃないなぁ、って」

「キラキラ、ですか」



 キラキラが何を意味しているのか、オレにはわからない。

 きっと、五木さん本人にしかわからないだろう。



「あと、十六夜さんからはたまに変な視線が感じる」

「変な」

「嫌な感じーなやつー」



 いまいちわからない。

 こういう時は質問して紐解いていくしかない。



「女の人が怖いんですか?」

「怖いとかはよくわかんない。でも、なるべく近くにいてほしくないかなー」

「……そう、ですか」



 怖いとか嫌いという感情はあるみたいだ。



「十六夜さんと四分一さんが付き合うことについてはどう思いますか?」

「んー。あんまりしてほしくないかも」

「なんでですか?」

「イヤな予感がするからー」



 イヤな予感。

 かなり適当な語句だけど、五木さんの口から出ただけで予言のように思えてしまう。



「それでも、配信で『チンさん』とか『マンさん』とか言うのはダメですよ?」

「なんで? みんな言ってるじゃん。DMでもよく見るよ?」



 いや、どんなクセの強いDMが来てるんだよ。

 すごく気になるけど、ここで話の腰を折るわけにはいかない。



「それでも、ダメなんです。みんな驚いてしまいます」

「みんなって、リスナー?」

「そうです。驚きすぎて、怒ります」

「そうなの? よくわからないなー」



 どう説明したものか……。

 そうだな。五木さんにとっても推しは四分一さんみたいなところがあるし、彼を例えに使わせてもらおう。



「もし、四分一さんが女言葉で話しはじめたらどう思いますか?」

「……ちょっとイヤかも」

「それと一緒なんです。リスナーも五木さんにイメージと違うことを言われたくないんです」

「うーん。なるほどー」

「はい」

「うん。そうだね。わかったー」



 ふにゃりと笑いながら頷く五木さん。

 これで解決したのだろうか?


 それからゴミの片づけを終わらせて、彼の部屋を後にした。

 その日の配信では炎上することがなく一安心。


 推しに囲まれて、心穏やかに眠ることができた。


 それなのに――


 

 次の日、十六夜さんがリスカした。

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