第35話 告白した時点で2択しかないのはおかしい
オレと三春さんは一緒に、パーティーを抜け出した2人を尾行した。
場所はマンションの裏側。
まるでスポットライトのように、街灯が四分一さんと十六夜さんを照らしている。
オレたちはしゃがんで生垣の裏に隠れている。
「すみません。こんな場所に連れ出して」
「どうしたの?」
いつもより、2人の態度がぎこちくみえる。
「あの、本当は色々と段取りを踏まないといけないのはわかってるんです。ですが、どうしても我慢できなくなりまして――」
四分一さんの息を吸う音が、こちらまで聞こえてきた。
「僕、十六夜さんのことが好きなんです。付き合ってください!」
しばらくの静寂が続いた。
四分一さんからすれば永遠に感じたかもしれないけど、ほんの3秒ほど。
「えっと、どうして私なの? マンションの中で探すなら他にいるでしょう? 私は風俗で働いてるのよ?」
静寂を破った十六夜さんの眉は、八の字に曲がっていた。
だけど、四分一さんは全くひかない。
「マンションにいる人が好きになったんじゃありません! 十六夜さんだから好きになったんです!」
普段の四分一さんからは想像できないほどに、漢らしい啖呵だ。
「いい――」
一瞬三春さんが声をあげそうになったから、とっさに口を塞ぐ。
体も小さいけど、口はもっと小さいなぁ。無理やり押さえつけると罪悪感がすごい。
「私はこんなんよー?」
「素敵です」
「ううん。それは私をわかってないとおもう」
「では、教えてください。これから。多くの時間を一緒に過ごしたいです」
「ねえ、そう言ってくれた人が前にもいたの。結末を聞きたい?」
今恋人がいない時点で、ろくな結末な訳がない。
「その人と僕は違います」
「そうね。でも、同じようなことを言った人は、同じような結末になりやすいものよ?」
「それは十六夜さんの経験則ですか?」
十六夜さんは、静かに頷いた。
「なら、僕はそれを打ち破る最初の男になります」
四分一さんの顔は真剣そのものだ。
だけど、十六夜さんの表情はまったく動かない。
「……ごめんなさい。ちょっと返事は待ってちょうだい? できれば期待しないで」
「待ちますよ。ずっととは言えませんけど」
「ありがとう。意外と素直なのね」
「好きな人の前では素直でいたいので」
「……そう」
こうして、告白は終わりを迎えた。
足音が聞こえなくなって、腕の中の三春さんが身じろいだ。
「ちょっと、もう離してくれない?」
「あ、すみません」
「あー。苦しかった」
わざとらしく深呼吸をする三春さんを見て、オレは疑問を投げかける。
「なんで十六夜さんは告白をオーケーしなかったんですかね」
「別に、それは人の勝手でしょ」
「それはそうですけど、四分一さん自身を嫌っているようには見えませんでした」
「まあ、陽子ちゃんは難しい子だから」
難しい? いまいち腑に落ちない。
「そこまで難しいですか? とっても優しくて、気立てのいい人だと思いますけど」
「そりゃあ、仕事柄そういう側面が強くなるでしょ」
三春さんは、ため息混じりに続ける。
「彼女、結構不安定なところあるのよ。主にメンタルが」
「不安定、か……」
思い出したのは、1周目の炎上のこと。
彼女は配信でリストカットしたのだ。
「その顔、心当たりがあるの?」
「……はい」
「まあ、そんな一面は滅多に見せないけど。というより、安定している時だけ外に出ているのかな」
「よく廊下でゲロを吐いている姿とは一致しない気がします」
「お酒の力を借りてるってことでしょ。実際、あの子はそんなにお酒が強くないし」
「強くないんですか?」
「いつもお酒飲んでるけど、飲んでる量は大したことない。多分、肝臓もかなり危ないと思う」
「……そう、ですか」
オレが沈んだ声で返すと、三春さんはオレの手を引っ張ってスナックバーに戻った。
スナックバーの中には四分一さんと十六夜さんの姿はなかった。
あんな告白の後なのだから、戻ってくるわけがないか。
複雑な気分だ。
だけど、そんな甘酸っぱい気分は一気に吹き飛んでしまった。
それだけ衝撃的な光景が広がっていたのだ。
スヤスヤと眠っている五木さん。
彼のそのズボンに手を掛けているのは、二本松さん。
「え、えっとっ! これは酔いのせいで……」
今、オレはどんな顔をしているのだろうか。
三春さんが若干怯えているころから、なんとなく予想できてしまう。
「じゃあ、これからアルコール禁止ですね」
「そんなぁ!?」
オレは必死の弁明をする二本松さんをスルーしながら、五木さんの様子を伺った。
もしかして、この凶行が前回の「マンさん」発言の原因だろうか?
そうと考えれば得心がいく。
いや、前回にこのイベントが起きていたかはわからないか。
念のため、五木さんの顔を覗き込んで――
あれ? かなり飲んでも赤くならないはずの顔がほんのり赤くなっている。
それに寝息が少し不規則すぎる気がするし、うっすら瞼を開けてる。
これ、寝たフリしてるのか?
オレがにらみつけても、五木さんは寝たフリを続けた。




