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第33話 若者の気持ちがわからないと思ったとき、脳死しているだけである

 五木はなまるさんの炎上理由は、配信での言動だ。


 普段の彼はかなり天然で、攻撃性とは無縁のように思える。

 配信の中でもそれは変わらない。


 いつも上機嫌でのんびり屋。

 唐突に変なことを言うし、子供っぽくて少し舌足らずな話し方をする。

 まるで妖精みたいな印象を受けるのに、自分でキャラデザをしたうえで動くようにモデリングをして、確定申告までこなせる。

 そんなギャップにやられている人が多い。


 かなり風変わりだけど、魅力にあふれたVTuberだ。

 

 そんな彼が、突然言い出してしまったのだ。

 「マンさん」とか「チンさん」だとか――まるでネットでレスバを繰り広げている人が使うような言葉を吐きはじめたのだ。


 普段からそういうことを口にしているVTuberなら炎上しないだろう。

 しかし、彼のイメージはさっきも言った通り、天然で無害な人だ。

 さらにはバ美肉という繊細な立場にいるのも影響したのだろう。


 切り抜き動画を皮切りに炎上し、一晩のうちにSNS中に広まってしまった。


 話の内容もかなりセンシティブで、彼にしては毒のある言い方が多かった。

 マシュマロ雑談をしていたのだけど、おもに夜職をしている女性に対してかなり当たりが強かったように感じた。


 なんであんなことを言っていたのだろうか。

 炎上した後、彼は四分一さんと大喧嘩をして口を閉ざしてしまっていた。



「では、五木はなまるくんの23歳の誕生日を祝しまして! かんぱーい!!」



 そして11周目。

 ループして戻ってきたのは、五木さんの誕生日パーティーだ。

 ちょうど三春さんが音頭をとっている。


 つまり、このパーティーにターニングポイントがあるということだろうか。

 相も変わらずループの原理はわからないけど、炎上を止めたいという強い意志を感じる。



 オレは部屋の隅に座りながら考えに(ふけ)る。


 なんで五木さんがあんな言動をしたのか。

 このパーティーの中に原因があるはずだ。


 だけど、オレの記憶の中では、五木さんは終始上機嫌だった。

 どこかのタイミングで不機嫌になっていたことはない。


 一番印象に残っている出来事は四分一さんと十六夜さんの逢瀬(おうせ)だろうか。

 あの後の結末を知る前に、五木さんが炎上してしまっている。せめて、告白をオーケーしたかは知りたかったなぁ。


 ……ダメだ。考えてもわからない。


 自分の中で考えても埒が明かなくて、オレは五木さんに突撃してみることにした。


 最初は前と同じようにプレゼントの感想を聞いて、終わった後に(たず)ねてみる。



「五木さん、悩み事はありませんか?」



 今はとにかく、少しでも情報が欲しい。



「んー。いっぱいあるよ?」

「いっぱい、ですか?」



 意外だ。

 五木さんに悩み事なんて全くないと思っていた。



「ニキビできやすいなー、とか。絵がうまくかけないなー、とか。ご飯食べるの面倒だなー、とか。いろいろ」



 おもわず崩れ落ちそうになった。

 悩みが軽すぎる。

 いや、五木さんらしいけど。



「えっと、もっと深い悩みはないですか?」

「深い?」

「例えば、女性絡みとか」

「女性かー。2人目のママのことは大嫌いだしなー。女の人はあまり得意じゃないかも」



 彼の口から『大嫌い』の3文字がすんなりでてくるとは思わなかった。

 思わず喉が鳴る。


 

「そうなんですね」

「うん。色んな所を触られたりしたからー。今のママは優しくて好きー。あんまり歳変わらないけどー」

「いっぱいママがいるんですね」

「うん。パパがお金持ちだから。あれ、怜央から聞いてない?」

「四分一さんはなにも……」

「うーん、じゃあ、多分はなまるに遠慮してたのかな?」



 小首を傾げた後、五木さんはプレゼントでもらった二本松さんのイラストを撫でた。



「この世界って結構イヤなことが多いけど、絵の世界はいいよねー」

「そうですね。夢があります」

「うん。絵の世界なら。どんなに優しい世界でも、簡単にできちゃう。いい絵が描けるとみんなよろこんでくれる。絵を描けば描くほど、理想のせかいにちょっとだけ近づける」

「いいですね」

「ネットの世界もすき。みんなの視線がみえないから。触られることもないし」



 そう語る彼からは、天然さがわずかに失われている気がした。



「今、すごく世界がキラキラしてる。毎日が楽しい」

「よかったですね」

「うん。怜央も一緒にいるし、キラキラ~」

「四分一さんのこと、本当に好きなんですね」



 五木さんはとびっきりの笑顔を見せた。

 


「うん。怜央はとってもキラキラ」

「素敵な人ですよね」

「うん!」



 元気に頷く姿を見ていると、ふと訊いてみたくなった。



「五木さんは、どうしてVTuberをはじめたんですか?」

「怜央がはじめたからー」

「どうして? 別に四分一さんがはじめたからって、後を追う必要はないですよね?」

「だって、一緒にやった方が楽しいからー」

「怜央さんが望んだんですか?」



 オレの問いに、にこやかなな笑顔でこう返した。



「んーん。でも、はなまるが嬉しいんだから、怜央もうれしいよね」



 一瞬、めまいがした。

 この人は自分の言っていることを正しく理解しているのだろうか。



「うれしい、ですか。四分一さんが」

「うん。当たり前だよね。怜央とはなまるの仲なんだもん」

「…………」



 目の前の人間は無垢すぎる。

 自分が嬉しければみんなも嬉しいはずだと信じている。


 一見すれば素敵な感性だと思えてしまう。

 だけど、実情はまったく違う。

 どこまでも独りよがりだ。


 四分一さん。

 彼は言っていた。

 自分は五木はなまるの金魚の糞だと。


 彼はこのことを知っているのだろうか。

 いや、絶対に知っているだろう。


 一体。

 彼の諦めはどこまで深いのだろうか。

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