第31話 新章突入はおさらいから、とでも思っているのか?
世の中のVTuberには、いくつもの苦労がある。
配信面・リスナー面もあるだろうけど、居住面もかなり苦悩しているだろう。
収入が不安定なせいで信頼値は低く、配信業の特性上、騒音トラブルを起こすのは目に見えている。
そんな住人を受け入れてくれるマンションなんてほんのわずかで、居住面ではかなり苦労しているだろう。
しかも、身バレの危険とも常に隣り合わせだ。
身バレはVTuberの神秘性を失わせるだけではなく、中の人を危険にさらす可能性すらある。
そんなVTuberの助けになればとはじめたマンション。
それがVTuber専用マンションだ。
今日も絶賛営業中である。
さて最初の入居者が来てから、すでに2ヶ月が経とうとしている。
今は平和な生活が続いている。
誰も炎上しない生活。
活動している限りは、常に周囲の視線にさらされ続ける。
VTuberの配信を見る人間は、ファンだけではない。
粘着アンチやたまたま見ているだけの視聴者も多い。
少しの発言で揚げ足を取られて炎上してしまう、恐ろしい世界だ。
まあ、それ以上に魅力にあふれているのだけど。
なぜオレがそこまで炎上を気にしているかというと、このマンションの特異性のせいである。
なんと! このマンション、住人が炎上したら実際に燃えるんです!
しかも、それだけではありません!
管理人であるオレが時間をループしてしまう!
ループしたら本当に大変だ。
毎日毎日似たようなことの繰り返しだし、何をやってもうまくいかない。
そんなこんなで炎上しない日々は希少で、毎日推しに感謝している。
「ねえ! パーティーしない!?」
そう叫んだのは、三春さんだ。
今いるのはスナックバー。
三春さんは当たり前のようにここにいて、もはやこの店の備品なのかと疑ってしまう。
今日は珍しく、スナックバーに五木さんがいる。
可愛い顔をして、なぜか芋焼酎を飲んでいる。
ネタ枠のつもりで仕入れたのだけど、五木さんの舌にあっていたみたいだ。
「パーティーって、何かのお祝いにやるものじゃないですか。何かありましたっけ?」
「ふふふ。そんなことも考えずに、あたしが提案すると思った? というか、酷いじゃない、本人の前で」
不敵な笑みを浮かべる三春さんを見て、オレは小首を傾げる。
「なんと! 明後日は五木はなまるくんの誕生日なのよ!」
「!?!?!?」
オレの頭の中に戦慄が走った。
住人の誕生日を忘れるなんてなんたる怠慢っ!
平和ボケしすぎていたみたいだ。
「早速準備に取り掛かりましょう」
「よしきた!」
袖をまくって、準備を始めようとした瞬間。
「えー。勝手に話が進んでるー」
そうだ。本人の意思を確認しないと。
五木さんは少し不満そうに頬を膨らませていた。
すでに瓶の半分を飲み干しているのに、全く顔が赤くなっていない。
ザルなのだろうか。
「えっと、誕生日パーティーを開いてもよろしいですか? ご家族やご友人との予定があれば断っていただいていいのですが……」
ちなみに、VTuberの誕生日は中の人の誕生日と別の場合がある。
五木さんもそのタイプだ。
「いいよー。別に。みんなでいた方が楽しいし。ちょっと除け者にされてるのが寂しかっただけだからー」
「わかりました。それでは、改めて準備しますね」
五木さんは「たのしみー」と言いながら芋焼酎をラッパ飲みしはじめた。
「おーけー。じゃあ、みんなに連絡してみるね」
「あ、それならオレがメールを送りますよ」
「大丈夫大丈夫。住人のグループを作ってあるから、こっちの方が早い」
「………え」
一瞬、頭が真っ白になった。
「あの、オレ、そのグループの存在を知らないんですけど……」
「当然でしょ。住人のためのグループなんだから」
「あ、いや、そうなんですけど……」
自分が知らない間に仲間外れにされているのは、かなりショックだ。
フリーター時代に何度も経験してきたけど、このマンションでも味わうなんて……。
その鬱憤を晴らすように、オレは全力でパーティーの準備をはじめた。
最初は料理の準備――だったのだけど、普段から手の込んだ料理は作らないから悪戦苦闘した。
それを見かねた三春さんと十六夜さんの手によって、キッチンから追い出されてしまった。
現在はスナックバーをパーティー会場に改造する任を受けて、今はせっせと飾りつけのわっかを作っている。
「いやー。いいですねー。青春って感じで」
そう楽しそうに言ったのは、四分一さんだ。
オレと一緒にわっかを作ってくれている。
「何を言ってるんですか。まだ22歳ですよね」
「そうですけど、もうこの歳になったら、こういうことをする機会ないじゃないですか」
「確かにそうかもですね」
正直、友達の家で誕生日パーティーをしたことがないから、世間一般の基準がわからない。
相槌で誤魔化した。
「たまには、あいつのお陰でいいこともあるんですね」
「そういえば、お2人は幼馴染でしたね」
「実家が近所なので、家族ぐるみの付き合いなんですよ」
「素敵な間柄です」
オレの言葉に、愛想笑いを浮かべる四分一さん。
「そんなことはないです。尻ぬぐいばかりさせられているし、周囲からは付属品扱いです」
「付属品……」
「だって、はなまるの方が目を惹きますよね? 腰ぎんちゃく。金魚の糞。色々と呼ばれてきました」
「それは酷いですね」
「あいつばかりがチヤホヤされてました。オレはいつも中継役。はなまる宛てのラブレターやチョコなんて数えきれないぐらい渡されました。そのせいで同年代の女性にドキドキしなくなりましたよ」
「苦労してたんですね」
「まあ、もう慣れましたけど」
四分一さんは作り上げたわっかを横に置いた後、話を続ける。
「ここはいいですよ。そんなことは言われませんから」
「みんな、本当にいい人です」
クセが強いけど、本当にいい住人ばかりだ。クセが強いけど。
「VTuberをはじめたきっかけも、僕だけを見てほしかったからなんです」
「そうなんですか?」
「周囲の人間は関係ない。容姿も関係ない。はなまるのいない世界で僕を見てもらえる。だから、VTuberとして成功した時は本当にうれしかった。結局、はなまるもVTuberをはじめたんですけど。しかも、僕と幼馴染だと打ち明けて……」
本当に腹が立っているのか、珍しく彼の口端が歪んでいる。
「もう、諦めてます。僕はずっとはなまるの金魚の糞なんです」
自虐を込めた笑い声を聞いて、オレの心がザワついた。
「そんなことはないですよ」
「綺麗ごとを言わないでください」
「あなたのファンを信じてください」
「……ファンを、ですか?」
オレは力強く頷く。
ファンの気持ちを代弁するなんておこがましいかもしれないけど、外れてもいないはずだ。
「四分一さんにもいっぱいいるはずですよ。あなたが一番だと言ってくれるファンが。だから、信じてあげてください」
「……そう、ですね」
オレの言葉選びが悪かったのか、また愛想笑いを浮べている。
少し不安を抱きながらも準備を終えて、はなまるさんの誕生日パーティーが幕をあけた。




