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第30話 三春小桜はつよく気高く咲き誇る

「へー。今の時期ってこんな感じなんだー」



 小桜さんが駆けると、青々しい葉っぱが微笑むみたいに揺れる。

 その背中をゆったり眺めていると、思わず頬が緩んでしまう。


 オレたちの眼前には、大きな桜の木が(たたず)んでいる。

 だけど、時期を外しているせいか完全な葉桜となっていて、葉っぱが生い茂っているせいか枝が垂れさがってきている。


 たしか、1人目の二本松さんがやってきたのは4月の頭だった。

 地域が違うと言っても、あの頃はまだ桜の見ごろだったはずだ。

 時間の流れを感じる。



「ごめんね。そんなケガしてるのに」

「いえ、いいリハビリになったので」

「そう?」



 あの合コン騒動から、まだ1週間も経っていない。


 顔の腫れは完全に引いていないし、体中もまだ痛む。

 この間にも炎上してループしていないのは、本当にありがたい。ゆっくりと怪我を癒すことができる。

 もしかしたら、オレの体調を気遣って静かにしてくれているのかもしれない。


 さて、そんな体を押して遠出しに来た理由は、なんとも言えないものだったりする。



「まさか、ウェディングドレス姿の撮影に同席させられるとは思いませんでしたよ」

「しょうがないじゃない。さすがに1人で撮るのは恥ずかしかったんだから」

「そのせいで色々勘違いされましたけど」

「まあ、別にいいでしょ。写真館なんてどうせもう来ることがないんだから。遠い場所だし」



 そう。

 2日前、突然三春さんが言い始めたのだ。

 ウエディングドレス姿を撮りたい、と。

 以前までだったら「婚期が遅れるから絶対に撮らない」と言うはずだ。あの事件を通して彼女の中で何かが変わったのかもしれない。


 

「相手がオレでよかったんですか?」

「んー。一番都合がよかったからね」

「そんなことだと思いましたよ」



 都合がいい、は褒め言葉なのだろうか。

 考えるのはやめておこう。



「いやー。あの男にウェディングドレス姿を見せたら、どんな顔をしますかね」

「どうだろ。うーん、キモイこと言われそう」

「踏んでほしいとか?」

「考えたくもないなぁ」



 あのシスコンストーカーの佐久間は一応生きている。

 三春さんのことを女王様と呼ぶドMに暮らすチェンジをしているけど。

 放置しても放置プレイだと勝手にとらえるため、今は比較的無害だ。



「あ、そうだ。今日のことも配信で話すけど、いいでしょ?」

「オレは全然気にしませんけど、炎上しませんか?」

「大丈夫よ。あたしのリスナーは徹底的に角を折りまくってるから」



 角を折る、とは処女厨ユニコーンが抱く幻想を配信やSNSでぶち壊すことをいう。

 処女性に惹かれる男は大勢いる。


 いう間でもないけど、彼女には処女性なんて全くない。


 なんで炎上しないし、人気なんだろうか。


 もしかして、彼女のリスナーはオレと同じ気持ちなのだろうか。


 まだ実をつけていない桜が、最も美しい。

 彼女はまだまだ咲き誇っている。


 彼女が葉桜になって実を結んだ時、果たしてオレは隣にいるのだろうか。

 未来のことはわからないし、なんとなく違う未来が待っている気がする。


 だけど、それが今のささやかな幸せを堪能しない理由にはならない。



「さて、気分転換とネタ作りも終わったし、家に帰ってVTuber活動としゃれこみますか!」



 背伸びをする三春さんの姿は、とても晴れやかとしていた。


 彼女のVTuberとしての姿はお姫様だ。


 理想の彼女自身。


 彼女本来の姿ではないかもしれないけど、本来の姿以上に彼女を表していると思う。

 理想や夢も含めて、三春小桜なんだ。



「三春さん」

「なに?」

「好きですよ」



 本心だ。

 心の奥底からの本心。


 今は恋人でもないし、ただのマンションの管理人と住人の関係でしかない。

 だけど、あんな美しいウェディング姿を見た後で感情を抑えられるわけがなかった。


 彼女は喉を鳴らした後、意地悪っぽい笑顔を浮かべる。

 

 

「推しの次に?」

「そうですね。よくわかりましたね」

「当然でしょ。あんたはあたしの小人なんだから」

「小人?」

「そう。いつでもあたしの傍にいてくれる小人」



 いつでも。傍に。

 その言葉が、頭の中で回り続ける。



「いつでも。傍に、ですか」

「うん、いつでも。傍に」

「だけど、王子様じゃない」

「わかってますよ」


 

 ゆっくりと頷いて、空を見上げる。

 視界いっぱいに広がるのは、透き通った青空。


 暖かい風に運ばれてきた小桜さんの香りが鼻先をくすぐる。

 甘い風はスーッとオレの心に染み込んで、心の中を温かさで満たしていく。



 花は愛でて、匂いを分けてもらうもの。



 今は、これだけで十分だ。

これにて『三春小桜編』完結となります。

次回からは他の住人がメイン!

ですが、三春さんにはまだまだ活躍してもらう予定ですので、お楽しみにしていただければ!


一旦ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

少しでもあなたの心が動きましたら、☆評価・レビューなどを頂けると嬉しいです

(評価を頂けるほどに、この作品が色んな人に広まるきっかけになります!)



また、明日の更新はお休みさせていただくと思います(執筆欲が我慢できなくなったら、わずかな可能性で更新するかも)

次回以降の話、なんとなくでしか考えていないんです(´・ω・`)

最終章はがっつり考えてあるのですが、その間が……。

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