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第25話 お姫様になれくても、子供っぽい理想に焦がれてしまう

 活動開始当初、あたしは全く数字をとれていなかった。


 今考えれば、最初の路線がバカだ。


 キャラになり切ることをロールプレイと呼ぶのだけど、あたしはお姫様になりきっていた。

 世間知らずで、頭がメルヘンなお姫様。

 それはそれで見てくれる人はいるのだけど、いかんせんインパクトがなかった。

 インターネットなんて目立たないと数字が増えないのに、本当にバカだ。


 3か月活動を続けても、登録者数も同接もほとんど横ばい。

 未来への不安。

 成功しない焦燥感。

 速攻で退職届を叩きつけた過去の自分への怒り。

 適応障害からの逆転劇! とか本気で考えていた自分への呆れ。


 いろんなものが混ざり合い、心は徐々にやさぐれていった。


 それでも、不思議と配信は続けることができた。


 最初はコメント欄を追いかけるのでいっぱいいっぱいで、リスナーとの会話なんてまともにできなかった。

 VTuberモデルの表情を変えることにももたついていたし。

 配信がうまくできないこともしょっちゅうで、よくメンバーや事務所の人に助けてもらっていた。


 だけど、少しずつ出来るようになってきて、そんな成長の日々が少し楽しかった。

 できるようになると褒めて喜んでくれるリスナーたちにも、何度も救われた。


 活動開始3か月後の日。

 起死回生の一手として、ASMRをはじめた。

 貯金を切り崩して、お高いASMR用マイクを購入したのだ。

 一か八かの大博打。

 結果は惨敗。再生数は3桁。

 無月が「かわいい声」と言っていたのに、全く反響がなくて、コアなファンしか聞いてくれなかった。

 聞いてくれるだけでも嬉しかったけど、期待には程遠い。

 無月は本当に肝心なところで役に立たないんだよなぁ。


 この一件でふっ切れたあたしが行ったのは、はじめての飲酒配信だった。



「それでー。その時の元カレがねー」



 元カレや過去の合コンの話を、かなりの長時間した。

 ほとんどは愚痴に近いもので、女子会で飲みながら話すような内容ばかりだ。


 いままでのロールプレイとは大違い。

 お姫様なんてどこ吹く風。

 困惑するリスナー。

 血管で暴走するアルコール。


 次に目を覚ました瞬間、あたしは絶叫した。

 だけど――


 

 皮肉なことに、この配信で大バズリした。



 シンデレラストーリーみたいにうなぎのぼりの登録者数に舞い上がった。

 上がり調子だったあたしは、周囲に振り回されるように大型企画を動かしはじめた。



 リスナー参加型婚活企画。



 3つ目のターニングポイント。

 シスコン狂の佐久間さんとの出会いだ。


 これが一番最悪な出来事になるなんて……。

 当時のあたしは想像すらできていなかった。


 佐久間さんは、元々ROM専のリスナーだった。

 ROM専とは、コメントもSNSもせずに、ただ配信を眺めるだけのことをいう。


 婚活企画では、100名以上の募集が集まり、まずは書類審査でふるい落とした。

 年収と容姿は大事だからね!

 その中でも最初から特に気になっていたのが佐久間さんだった。


 実際婚活企画で会ってみると、確信に変わった。

 あたしにはこの人しかいない。

 婚活企画で色々とやっていたけど、最早出来レースだった。

 最初からあたしの心は決まっていた。



「佐久間さん、よろしくおねがいします」



 そして夢のような交際がはじめった。

 人生の絶頂とも言えただろう。

 メンバー限定配信でどれだけ惚気話をしたか覚えていない。


 彼のどこが好きだったのかと訊かれると、ズバリ顔だ。

 まるで絵本から飛び出てきたような凛々しくて中性的な顔。

 医者というのもポイントが高くて、まさにあたしだけの白馬の王子様だった。


 お医者さんの仕事が忙しいのか、直接会えることは少なかったけど、毎日のように通話をした。

 デートでは徹底的にエスコートされて、いつもあたしのことを見てくれた。

 不満なんて全くない。

 日に日に好きの感情が大きくなっていく。


 そんな最高の日々は、半年も続かなかった。



「君はきっと妹なんだ!」



 たしかハロウィンだっけ? クリスマスだっけ?

 もうあまり覚えていない。


 佐久間さんは詠唱がはじめた。

 妹がどんな子だったのか。

 どれだけ素晴らしい妹だったのか。

 あたしがどれだけ妹に似ているのか。

 そして、亡くなった話がしれっとされた。


 あたしが呆気に取られている間に、別れることになってしまった。

 意味が分からなくて、配信でもなかなか話すことができなかった。


 それなのに、彼はあたしに付きまとってきた。

 配信では頻繁にコメントをするし、SNSでも爆速でリプをしてくる。


 DMはもっとひどくて、思い出すことも脳が拒絶する。


 どれだけイヤと伝えても「君は妹だから」で押し通そうとしてくる。


 不気味で恐ろしくて、理解ができない。

 それからは地獄のような日々だった。


 そんなある日、あたしは我慢の限界に達した。

 逃げ出そうと画策して、極力佐久間さんにバレないように、VTuber専用マンションに引っ越した。


 これであのシスコン狂から逃げ切れた。


 まさか、そこで元カレに出会うなんて、完全な予想外だった。

 宝くじを当ててお金をもっているみたいだし、キープぐらいしてやってもいいだろう。


 無月がいるからだろうか。あたしはVTuberマンションがすぐに好きになり、住人達とも積極的に絡むようにした。

 無月がバーをやっていると聞いてからは、できるだけ通うようにした。

 客がいない間1人でいるのもかわいそうだし、あいつと話していると心が落ち着く。


 住人との絡みは新鮮だった。

 今までは他の活動者とはリアルで絡むことがなかったし、個性豊かな人達だ。


 すぐに佐久間さんのことを忘れて、夜もゆっくり休めるようになった。

 だけど――



 引っ越しから2週間後に、佐久間さんからのお手紙が届いた。



 絶望した。


 明日合コンがある。

 きっと、あの佐久間さんもいるだろう。

 前もそうだった。


 会いたくない。

 怖い。

 何をされるのだろうか。

 勝手に逃げ出した報復をされる?

 お酒で酔っぱらえば見逃してくれるかな?


 不安でいっぱいになった。


 だから。



「ねえ、明日、一緒に合コンに出てくれない?」



 無月のスナックバーで飲んでいる時、あたしはついつい言ってしまった。

 やってしまったと自覚した瞬間、騒がしい音が耳をつんざく。



「うわっ!?」



 突然、無月が転んだのだ。

 なにやってるんだ、こいつ。



「すみません、ちょっとふらつきました」

「大丈夫?」



 彼の顔を見て、あたしは思わず叫ぶ。



「ちょっと、頬が真っ赤に腫れてるじゃないっ!」



 頬が真っ赤に腫れていた。


 他人のケガをみるのは、本当に嫌いだ。

 特に大人の男のケガは。不倫で詰められていたパパと重なってしまう。



「大丈夫です。これは気合をいれてもらっただけですから」



 いや、転んだ拍子でケガしたんじゃないの!?

 頭でも打った!?

 さっきまでケガしてなかったはずだし、絶対そうでしょ!?


 だけど、無月はあまり気にしていないようで。



「それよりも、明日、合コン一緒に行きましょう」

「いいの?」



 にっこりと自信満々に笑う無月。



「もう、小桜先輩の背中を見送るのはイヤですから」



 今の無月の顔が、高校時代の無月に重なって見えた。

 だけれど、大人びた雰囲気も残っている。


 小桜先輩。

 高校時代の呼び方だ。

 胸のあたりで、じんわりしたむずむずが広がっていく。



「ねえ、無月」

「なんですか?」

「……なんでもない」



 無意識に小首を傾げる。

 自分が何を言おうとしていたのか、全くわからない。


 あたしは昔から、他人の考えていることをよくわからなかった。

 よくわからないままでも気にしないし、相互理解しようとも思わない。別人なのだから考えが違うのは当然だし、同じ考えに染める時間が無駄だ。

 そんなことをしても1銭にもならない。


 でも結局、自分の考えていることが一番わからない。

昨日は更新できず、申し訳ございませんでしたm(__)m

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