第24話 青春を振り返っても、ため息しかでてこない
高校に上がっても、あたしの生活は豊かにならなかった。
それどころか、周囲との貧富の差が激しくなった。
学力は平均的な高校なのに、なぜかお金を持っている人が多い。
だけどそれは、あたしの彼氏もお金を持っている、ということだ。
昼食を奢ってもらったり、ささやかなプレゼントをもらえることが増えた。
本当にうれしかったし、にこやかに「ありがとう」とお礼を言うと、相手も微笑んでくれた。
まあ、不思議と長続きはしなかったんだけど。
食費が少しでも浮けば、ママの助けにもなるし、おしゃれをする余裕だってできる。
多分、ママなりのプライドがあったのだろう。普通のバイトは禁止されていて、家計に貢献できる方法がそれぐらいしか浮かばなかった。
そんなある日、高校6人目の彼氏からある話を聞いた。
「3人前の彼女から聞いたことがあるんだけど、このアプリで大人に会うと、お金がもらえるらしいよ?」
一瞬うさんくさく思ったけど、彼氏からの話を無下にすることもできなくて、一度アプリを使ってみることにした。
プロフィールを書くと、早速『会いたい』というメッセージが届いた。
多少はお金をもっていそうだっな30代後半の男性。
ホテルで待ち合わせをして、彼氏と同じようなことをして、3枚のお札をもらった。
大金だ。
すごくうれしくて、あたしは早速、高級なハンドクリームを買った。
最近ずっとママが手荒れに悩んでいるのを知っていたから、きっと喜んでくれると思って。
「ねえ、このお金どうしたの?」
震えた声が耳に入った瞬間、おもわず息を呑んだ。
ママは泣き出して、その姿を目撃したあたしも悲しくなって、涙があふれてきた。
あたしが全てを話を終えると、ママは骨ばった腕で抱きしめてくれた。
「お願い。もう二度と、こんなことはしないで……」
当時、ママの泣いている理由はわからなかった。
だけど、とても悪いことをしたことを自覚して、それ以降同じことはしなくなった。
だって、お金があってもママが悲しむなら意味なんてなかったから。
そして――
「一目惚れしました! 付き合ってくださいっ!」
2年生のはじめに、玉枝無月に告白された。
当時はあまりにも熱烈なアピールをされたものだから、ついつい受けてしまった。
この時はちゃんときんた……睾丸がついていて、むしろ精力は人並み以上だったと思う。
高校を卒業するまでの2年間。
あたしと無月の恋人関係は続いた。
2年間はあたしの中で最長記録だ。
あとにも先にも、これほど続いた恋人関係はない。
だけど、彼は最高の恋人だったわけじゃない。
それどころか、ドキドキすることなんてほとんどなかった。
あたしにとっての『玉枝無月』は王子様とは程遠くて、どちらかというと白雪姫の小人に近い。
あたしが何かをしなくても勝手に喜んで、愛を囁くようなヤツだった。
そんな彼が、少し理解できなかった。
なんで愛を囁いて見返りを求めないのだろうか。
彼は何であたしを好きといってくれるんだろうか。
普通、愛を返してもらうために愛するんじゃないの?
この世界の人間は、わからない人ばかりだ。
交際が1年半近く続いたある日、無月の家にお招きされることになった。
普通の家庭。
家族団らんで、わきあいあいとしていた。
父親がいて、母親は幸せに満ちているのか、小太りだった。
あたしのママとは大違い。
握手をすると、とても温かい手だった。
あたしのママとは大違い。
とても優しい家族。
そんな人たちに囲まれて、あたしの頭の中は真っ白になっていた。
ああ、無月は違う世界の住人だったんだ。
一気に、彼と一緒にいるのが怖くなった。
だから、受験を理由に距離を置くようにして、高校卒業時には自然と別れた。
高校卒業後。
無月には進学と嘘ついたけど、上京して就職していた。
嘘をついた理由は、自分でもよくわかっていない。
その職場もあまりいい場所ではなかった。
セクハラパワハラは当たり前。残業も多かった。よかったのは給料だけ。
着実にメンタルが摩耗していく。
家に帰って、玄関で寝てしまうことなんて何度もあった。
残業中に涙があふれることなんて、毎日のように繰り返した。
だけど、長続きしなくて苦労したママの背中を知っていたから、死に物狂いで食らいつき続けた。
だけど、適応障害の4文字でブレーキがかかった。
療養中、1つの動画を見て、衝撃を受けた。
『一番星銀花』というVTuberの動画。
2つ目のターニングポイント。
VTuberというコンテンツに出会った。
VTuberになったのが、2つ目のターニングポイント。
はじめようと思ったきっかけは『流行っているから』だった。
なんだか面白そうだったし、人を喜ばせることをしてみたくなった。
それに、無月から声をすごく褒められていたし。
だけど、どうやって配信していいのか全然わからなくて、とりあえず大手事務所に書類を送ることにした。
完全にダメ元のつもりだったのに書類審査が通って、面接まで進んでしまって――
そこで、あたしはメチャクチャに訴えかけた!
「あたしはお姫様になりたいんですっ!」
自分が何を言ったのかは覚えていない。
とにかくがむしゃらに全力で思いの丈をぶつけまくった。
いや、叩きつけたのかもしれない。
数週間後にきたのは、合格通知。
わが目を疑ってすぐに連絡すると『ヤバイから合格にしましたっ!』とすごく明るい声で答えられた。
ヤバイってなに!? あたしはすごく真剣だったんだけど!?
お姫様、最高じゃん!
なれるじゃん! VTuberなら!
ずっと憧れて欄だから仕方ないよね!?
……ごほん。
とにかく。
配信未経験にもかかわらず、あたしは大手VTuber事務所に入ることができた。
それから約1年後、あたしはVTuberとしてデビューを果たす。
もちろん、モデルはお姫様。
かわいくてプリティーで、気高くてフリフリな、ザ・お姫様。
理想のあたし。
こうなりたかったあたし。
イラストレーターにいろいろと無茶ぶりをしてしまったけど、いつまでも見ていられるキャラクターに仕上がった。
こうして。
VTuberとしてのあたしの逆転劇がはじまる――はずだった。




