第22話 思い出ポロリポロリ
ふと気づくと、街中を歩いていた。
三春さんのことで思考が堂々巡りしていて、頭の中がぼんやりとしている。
なんで歩いているんだっけ。
ああ、そうだ。気分転換にコンビニでアイスでも買おうと思ったんだ。
って、もうコンビニ過ぎてるじゃん。
顔を上げると、朝日がのぼりかけている。
日の出を見るなんて、いつぶりだろうか。
フリーター時代に夜勤をしていた時以来か。夜勤、生活リズムを整えてしまえば楽だったなぁ。
ゆっくりと視線を下ろしていくと、フェンスが視界に入る。
「……ぁ」
フェンスの奥に見えるのは、少し黒ずんだ壁。
四角な建物。
大きな時計が中央で微笑んでいる。
母校だ。
まだ時間が早いためか校門は閉まっているけど、無意識に学校銘板を撫でる。
「ここで、2年間一緒に過ごしたんだよなぁ」
校庭に植えられた桜は、すでに青々しい葉をつけている。
一見すれば、オレが通っていたころと変わらない校舎だ。
だけど、卒業してから15年近くが経っている。
オレを知っている人物は1人も残っていないだろう。
だけど校舎の姿を見るだけでも、映画のエンディングのように過去の記憶が流れていく。
入学早々、小桜先輩に告白して交際がはじまった。
それから多くの時間を共有して、みずみずしい青春を過ごした。
色んなところに一緒に行った。
カラオケ。海。プール。映画館。勉強会。ハンバーガー屋。ファミレス。水族館。動物園。ホテル……などなど。
全部全部、覚えている。
当時彼女に告げた言葉も。
好きです。
愛してます。
ずっと一緒にいましょう。
先輩以外考えられない。
最高に幸せです。
世界で一番の幸せ者だ。
このまま死んだっていい。
一生離したくない。
今思い出すと、歯が浮いて尻の穴がむずがゆくなってしまう。
「小桜先輩」
フェンスを叩くと、閑静な街にガシャンとけたたましい音が鳴り響いた。
ここはもう、オレが立ち入る場所じゃない。
高校時代の時は特に気にならなかったけど、フェンスの高さが不気味に感じる。
だけど、同時に実感する。
ああ、守られていたんだ、と。
あの時はいろんなことが煩わしかった。
さっさと大人になって、自由になりたかった。
何かが新しく出来るようになることが、当たり前だと思っていた。
だけど、大人になるとそうはいかない。
卒業は大人へのカウントダウンではなく、タイムリミットだった。
「まったく、くだらない」
あの時のオレが、今のオレを見たらどう思うだろうか。
絶対に嗤ってバカにするだろう。
そして、こういうんだ。
――絶対にお前みたいにならない。
ああ、ならないと思っていたよ。
なるわけがないと思っていた。
だけど、思っただけで現実は変わらない。努力をするのにもお金も時間も必要で、そんな余裕がなければ一生のし上がれない。
それこそ、豪運がない限り。
オレは今、偶然最高の推しに出会えて、宝くじに当たったからいい暮らしが出来ている。
彼女と再会できたのも運が良かったからだ。
運が良かっただけ。
オレには、運しかない。
運だけ。
それなら――
まだ、運が残っていてもいいだろ。
今高校の前にいるのだって、偶然だ。運だ。
まだまだ、オレは運に溢れている。
そう、思い込め。
全部うまくいく。
成功させてみせる。
すべての障害をはねのけて、自分の理想を実現してやる!
あの頃できていたのだから、今できない道理なんてないだろっ!
未来を考えるな。
周囲を見るな。
空気を読むな。
無敵感に溢れろ。
高校時代のオレのように。
目を閉じて、肺いっぱいに高校の空気を吸い込む。
清々しくて、青々しくて、みずみずしくて、とてもしょんべんくさい。
だけど、無敵エネルギーに溢れた空気だ。
制服を着た時のようなシャッキリとした感覚に襲われて、自然と指が動く。
スマホに打ち込んでいくのは、レシートのような長文。
これから行うのは、最低で無敵な行為だ。




