第20話 合コンと人狼は紙一重③
「なんで先に帰ったわけ?」
VTuberマンションの前で呆けていると、三春さんの声が聞こえた。
「あ……。すみません」
まだ5分もボーッとしていないつもりだった。
だけど、彼女が合コンから帰ってきたということは、1時間はここにいたのだろう。
「ねえ、何かあったの?」
「どうしてそんなこと訊くんですか?」
「酷い顔してるわよ」
それはそうか。
オレの表情筋は昔から素直すぎる。
「佐久間さんと、何かあったの?」
「佐久間さん?」
「あんたねえ。さっきまで」
「佐久間さんと外に出ていってたじゃない」
「……そうでしたね」
「もしかして、聞いたの?」
オレはゆっくりと頷いた。
「多分全部ではないですけど、話を聞きました。偶然、女装を暴いてしまったので」
「……そう」
彼女の顔は暗闇のせいで見えない。
「王子様みたいな人でした。悪い意味で」
「そうよね。王子様でも、ヴィランな王子様」
ヴィラン。つまり敵役だ。
お姫様を守って救うのが王子様の役目。
だけど、お姫様の気持ちを一切考慮しない場合は監禁とかわらない。
「なんで、あんな人を選んだんですか?」
「本当になんで選んじゃったんだろうなぁ。血筋なのかなぁ。ママもパパに不倫されてたし」
そのせいで彼女の家庭はメチャクチャになって、彼女はかなりの苦労を経験してきた。
「ごめんね。巻き込んじゃった」
「……いえ。三春さんは、よく今まで耐えてきましたね。すごいです」
オレの言葉に、三春さんは目をみはった。
「そうだよねー。あたし、今まですんごい頑張ったよね」
諦めと安堵が入り混じった表情に、胸の中がざわつく。
「逃げられないんですか?」
「逃げようとして、あんたのマンションに引っ越したのよ?」
「…………なるほど」
「でも、まあ、当然のように逃げられなかった。簡単に見つかっちゃった。これでも色々と対策したんだけどなぁ」
たしか、彼女の荷物はかなり少なかったはずだ。
引っ越して来てから色んなものを買っていた。
それに引っ越してくる前に色んなホテルに泊まってリフレッシュした、とも言っていた。
全部、追跡対策だったのだろう。
「出会った時、彼、言ってたの。どんな脅威からもあたしを守ってくれるって」
彼女は遠い昔の出来事を語るみたいに続ける。
「君はお姫様なんだ。全部僕に任してくれればいい。お茶の間で座ってくれているだけでいいって」
「そんな守られるだけのお姫様は三春さんには似合いませんよ」
「……そうかも」
しゅんとする姿を見て、思わず戸惑ってしまう。
「否定して暴れることを期待しんですけど」
「ごめん。そんな気分じゃない」
「……そうですよね」
微妙な空気が流れている。
三春さんと会って以来、こんな空気になったのははじめてかもしれない。
別れる時だって、こんなに重々しくなかった。
色の薄くなった彼女の唇が、ゆっくりと開かれる。
「あたし、このマンションを出ていくから」
「そんな必要は――」
「あるでしょ? あんた、あの人を止められるの? 人を刺すぐらいは平気でするような人よ?」
対峙したからわかる。
たしかに、彼なら確実に実施するだろう。
「すぐにとはいかないけど、さようなら」
言うや否や。
彼女の背中が、遠のいていく。
高校生の時と比べると少し猫背になっていて、むしろ小さくなったように見える。
足取りも重々しくて、常に後ろ髪を引っ張られながら歩いているように見える。
ふと思う。
引き止めなくていいのだろうか。
いや、彼女ももう大人だ。
彼女が決めたことなのだから、尊重するのが大人の対応じゃないか?
そもそも、オレたちはただの元恋人同士。それだけだ。
彼女がいなくなれば、炎上の種は1つ減る。
あの怖い人間ともかかわらないで済む。
あの男の目の前にいるだけで恐怖を感じた。
不気味でおどろおどろしい人間。
もうあんな感覚は味わいたくない。
ここで引き止めなければ、いい事ずくめじゃないか。
勇気を振り絞る必要なんて全くない。
それなのに――
「ま、まってっ!」
オレは、声を絞り出していた。
彼女の細い肩がピクリと跳ねた。
振り向いて、顔を伏せたまま近づいてく。
オレの目の前まで来たと思ったら。
「ばか」
それだけ告げて、また去っていく。
意味が分からないまま肩を掴もうとした瞬間、体がつんのめった。
オレの手足が、縄で縛られていたのだ。
「いつのまにっ!?」
拘束好きのスキルをこんなところで活かすんじゃねえよ!!!
拘束の神様も泣いてるぞっ!
身動きが取れないオレは、彼女の背中をみつめることしかできなかった。
悔しい。
悲しい。
モヤモヤする。
情けない。
色々な感情が絡み合って、オレの心を締め付けていく。
それから4日後。
三春さんの部屋はもぬけの殻になっていた。
かなり重要な話なので、後日加筆修正予定です




