第19話 合コンと人狼は紙一重②
「女装って何のことですか?」
よく見れば、仕草に男らしさが残っている。
五木さんのバ美肉演技と比べると雲泥の差だ。
あの人の場合は無意識かもしれないけど。
最初から先入観を捨ててみれば、簡単に見破ることはできただろう。
だけど、すぐにお酒を飲むし、合コンのメンバーに興味を持てなかった。
だから何周しても、中々気づけなかった。
女装しなければ、本当に王子様のような顔立ちをしている。
三春さんの公開婚活配信ではモザイクが掛かっていたから、顔までは把握できていなかった。
「あなた、三春さんの元カレですよね?」
「それはあなたのことですよね? マンションのオーナーと住人として再会したって……」
「オレも彼女も『オレのマンションに三春さんが住んでいる』なんて一度も言っていませんよ」
そこまで言わないことは、事前に打ち合わせてあった。
女装男は、目を大きく見開く。
「ちっ、めんどくせえなぁ」
小さな声だけど、オレだけに聞こえるように発したのだろう。
「すみません、ちょっと外で話しましょう」
突然手を引かれて、店の外に連れ出される。
周囲から見れば、カップル成立に見えるのだろうか?
気にしている様子はない。
居酒屋の外に出ると、電灯のない裏路地にたどり着いた。
「それで、正体を暴いて、あなたは何をしたいんですか?」
一瞬、言葉に詰まる。
彼の正体に気付けたのは、本当に偶然だ。
暴いてしまった拍子に、答え合わせをしてしまったに過ぎない。
「あなたは、本当に元カレーー配信で交際した医者なんですよね」
つまり、過去のループで三春さんが炎上した原因の記事を書いた人物。
「ええ。そうですよ」
「オレは、あなたのことで相談を受けました」
実際には相談なんて受けていない。一方的に少し情報を聞き出しただけだ。
ループのことを伝えても話がこじれるだけだし、話すべきじゃない。
「ほう」
「あなたは何をするかわからない人物だと聞いています。彼女、相当困っていました」
「まあ、彼女からそう映るのも仕方ないでしょう」
「なんで、彼女を困らせるんですか。あなたがフったんでしょう。妹と面影が重なるから、と」
「不思議なことを訊きますね」
にっこりと笑う、女装男。
「彼女が私の妹だからですよ」
「……は?」
全く理解できない返答に、低い声が出た。
「恋人としてわかれても、兄妹の絆はつながったままです。私には彼女を守る義務がある。彼女の自由をどれだけ奪っても、彼女の命を守り通して、」
「彼女の自由を奪ってって……」
「安全と比べて、安いものでしょう?」
目の前の男性が、人間に見えない。
顔が消失しているように、オレの目に映っている。
「女装も、守るためだって言うんですか?」
「そうですよ。女性でないと入れない場所はいっぱいありますからね」
「…………なんなんですか、それ」
「確かに社会通念上間違っていることは承知していますよ。ですが、彼女を守ることと比べると些末な問題です」
なんで彼女は、3ケタはいた男の中から、この人を選んでしまったのだろうか。
絶対に何をしても守る。
それが、王子様とでも言うのだろうか。
「もう、彼女に近づかないでください。彼女が、あなたに気付く前に」
振り絞って、オレは言い切った。
「彼女は気付いていますよ?」
「へ?」
「気付いていても、気付かないフリをしている。というか、事前に伝えてあります。あの子が出席する合コンにも婚活パーティーにも、私は常に潜んでいました」
ショックで、声が出ない。
「妹があなたを連れてきたのは、せめてもの抵抗なのかもしれませんね」
女装男は少し楽し気に笑いながら、ミュージカルのように踊りながら続ける。
「ああ。声が聞こえるようです。助けて。助けて。助けて。私の王子様」
まるで、自分が悲劇のヒロインであるかのように。
「だけど、彼女もいつかきっとわかってくれるはずです。感謝してくれるはずです。私が守っていることが、どれだけ尊いことか理解し、私を受け入れてくれるでしょう」
ああ。
三春さん。
彼女は強い。
強すぎて、抱え込みすぎている。
このままじゃあ、いつか壊れてしまう。
だからオレは今、勇気を振り絞って舌を動かす。
「三春さんは、あなたの妹ではないですよ。本当の妹さん、亡くなってるんですよね?」
「ええ。そうですよ」
動じるどころか、不気味に笑っている。
「だから、彼女は妹代わりですよ。当然でしょう?」
「……は?」
脳の理解が追い付かない。
彼は妹の死を受け入れて、そのうえで三春さんを新しい妹としてるのか?
どうして?
「前の妹も、男を見る目がなかった。だから死んだんです」
「死んだから、似た女性を代わりにしているんですよ。もう同じ失敗は繰り返さない。妹の死を無駄にしないためにっ!」
三春さんは、本当に見る目がない。
最悪だ。
「これでわかってくれましたか? どちらが彼女の人生の邪魔なのかを」
口紅が塗られた男の唇。
耳元に近づいてくる。
「これ以上、彼女に関わらないでくれますか?」
三春さんの兄を自称する狂人。
彼の瞳は、どこまでも黒くて暗くて、光を全く反射していなかった。




