第18話 合コンと人狼は紙一重①
さて早速だが、オレは今、合コン会場にいる。
その場にいるのは合計10人の男女。
会場はチェーン店の居酒屋だ。
(オレだけが)見知ったメンバーが焼き鳥を囲んで自己紹介をしている。
男性はオレ以外に4人。
1人はやせ型の男で、田中というらしい。
1人は背が高くてアスリート風の男で、鈴木というらしい。
1人は中肉中背の男で、小林というらしい。
1人はマッチョで、佐藤というらしい。
全員独身で、同じ会社の同僚同士であるらしい。
オレだけ仲間ハズレだ。
失礼を承知で言わせてもらうが、なんとも覚えにくい苗字たちだ。
特徴もへったくれもない。無個性の極みだけど、本当にいい人たちだ。
次は女性陣。
いわずもがな、オレをここに連れてきた三春小桜。現在酔っぱらって大暴れ中
2人目は体格から中性的な印象をうける女性。佐久間というらしい。
3人目は胸が大きい。とにかく大きい。大木というらしい。
4人目は地味なメガネっ子だ。小川というらしい。
5人目は元気そうで引き締まった体の女性。明石というらしい。
ちなみに、他の参加者は当然のようにオレ達より若い。
まるで売れ残りの半額弁当の気分だ。
酔っている三春さんが羨ましい。
ちなみに、なぜ1回目の合コンで人物の説明をしなかったかというと、単純にオレが覚えられていなかったからだ。
いくら人の顔を名前が覚えられなくても、さすがに4回目となると否が応でも少しは覚えてしまう。
まあ、席が変わるとまたわからなくなってしまうけど。
オレに自己紹介の番が回ってきた。
三春さんの鶴の一声のせいでトリにさせられたのだ。
しかし、ループで何度も経験していることだ。
すでに手慣れている。いや、口慣れているというべきだろうか?
「玉枝無月です。33歳。マンション経営をしています」
一瞬で、女性3人の目が鋭くなった。
オレ イズ カネズル。
「趣味はVTuberの配信鑑賞。それと、マンションの管理です」
一気に、女性達が白けている。
あー。こいつはダメだ。30を超えてもVTuberなんて見てるやつなんて、金を持っていてもこっちから願い下げだ。
そんな本音が言外に滲んでいる。
凍った空気を吹き飛ばすみたいに、アスリート鈴木さんが三春さんに声を掛ける。
「三春さん、配信をやってるって言ってましたけど、もしかしてVTuberだったりしますか?」
「お、わかる? オーラでてる?」
「マジですか!? どういう名前で」
「えっと、それはねー」
「言ってはいけません!!!」
ピシャリ、と言い放つと三春さんは「ごめん」としゅんとした。
VTuberの顔バレは意外とよくあることだ。
最初からVTuberとしてのみ活動をしている人は少ない。
VTuber活動の前に顔を出して配信していた人も多くいるから、顔がわかっている人が実は多いのだ。
それに、人間は秘密を暴きたくなる生き物だ。
身バレすることだってあるだろう。だけど、それを公言してはいけない。認めてはいけない。
着ぐるみには当然人が入っているのはわかっているけど、それを暴いてはいけないのと一緒だ。
「へー。VTuber」
男達の目の色が変わった。
とってもわかりやすい。シチュエーションとしてはおいしいだろう。
あーあ、イヤだ。
VTuberってそういうのじゃないのに。
三春さんの周りに男たちが群がっていく。
女性は、その中で必死に自分に目を引こうとしてる。
その様子を遠目で眺めて10分近く。
中肉中背の小林さんが話しかけてきた。
「あの、さっき三春さんから聞いたんですけど、高校時代の元恋人同士なんですか?」
「まあ、そうですけど」
「すごいじゃないですか!」
彼は輝いた目を向けてきた。
他人の恋バナが好きなタイプなんだろうか。
「まあ、すごい偶然だと思いますけど」
「相手、VTuberですよ。未婚ですよ!? 自分にチャンスがあるって思わないんですか?」
「別に。終わった恋なので」
「またまた。一緒に合コンに来る仲じゃないですか」
「まあ、それはそうですけど……」
小林さんは突然、頬を膨らませた。
「僕の方が年下なんですから、敬語はやめてくださいよっ!」
ふいに、視線が鋭くなってしまう。
「あー。なんていうか、色々あったんで……」
「ああ。なんか、すみません」
素直に謝ってくれるあたり、本当にいい子だ。
こんな年下に気をつかわせてしまって、本当に申し訳ない。
フリーター時代、年下が上司になることが何度もあった。
最初はあまり気にせず敬語を使わずにいたのだけど、そのせいで酷い扱いを受けたことがあった。今でもトラウマで、明らかに相手が年下でも敬語で話さないと落ち着かない。
「ちょっとお花摘み行ってきます」
「言い方きもー」
「うるさい。だまれ」
トイレから戻ると、席が変わっていた。
すでにある程度ペアができはじめていて、少し寂しい。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「あ、はい」
中性的な佐久間さん。
彼女だけは、毎ループオレに話しかけてくる。
話の内容は本当に他愛のないことだ。
VTuberの浅い話だったりとか、昔の話だったりとか。
正直、話している時間は無駄だ。
この時間を使って、三春さんの炎上を阻止することを考えていたい。
だけど、ここで空気を悪くするような勇気もない。
ふと、彼女の手に目が留まった。
「ん?」
「どうしたんですか?」
なんで気付かなかったのだろう。
今までは緊張してたせい? この場にいる人に興味がなかったせい?
違和感が、膨れ上がっていく。
目の前の女性。
顔も体も中性的。
香水はかなりきつめにつけている。
そして、声と仕草がすこし――
「あの、あなたですよね」
自然と、声を発していた。
天啓に似た確信が脳内を支配している。
「何がですか?」
彼女は、小動物みたいな顔を傾けた。
正直、顔だけを抽出すれば、オレの目では平常時の二本松さんと見分けがつかない。
だから、気づいてしまったのだろうか。
顔以外の違和感が目につきやすいから。
「あなた、なんで女装してるんですか?」




