第15話 迷探偵タマナシの珍々推理 前編
炎上したのは、三春小桜。
1周目の炎上よりも1週間ちかく早いタイミングだった。
内容はほとんど同じ。
彼女の元カレを名乗る人間がネットにある記事を投稿したのが発端だ。
ちなみに、彼女の元カレはかなりの数が存在する。両手では数え切らないだろう。
特に中学校時代は多いらしく、1~2か月で恋人が変わっていた。
同級生。先輩。後輩。イケメンが中心だったけど、告白されればとにかく付き合っていたらしい。
なんでそこまで恋人を――愛を求めていたのか。
彼女の家庭環境が関係しているのかもしれないけど、今考えることではない。
三春さんの炎上の話に戻そう。
一番問題なのが、記事の投稿主だ。
開示請求(ネットに書き込んだ人の住所などを知る手続き)なんてしていないし、直接本人に聞いたわけでもない。
でも、オレは確信している。
これを書いているのは彼だ。
配信という公の場でお付き合いすることになり、妹を理由に三春さんから離れた男。
今もリスナーとして配信を見ていることが、非常にきな臭い。
今でも好意をもっているのか、それとも監視しているのか……。
長年VTuberリスナーをしていたからだろうか。彼の記事を読んでいると否応なく感じ取ってしまった。
ねちっこい愛情と、おどろおどろしい憎悪。
【あいつはかわいかったけど、かなり我儘でサイアクの女だった】
【夜は特にひどくて、束縛が大好きな変態】
【実は○○というアカウントで他のメンバーに誹謗中傷している】
【今は同じ事務所の××ってスタッフと付き合っている。だから頻繁に案件をもらえている】
【親との関係は最悪で、かなりのアバズレ】
【こんなヤツを推しているようなヤツは、簡単にカルト宗教にハマるだろう】
などなど。
普通なら怪文書として扱われて、無視されるような内容だろう。
ネットの人間は嘘の臭いにはかなり敏感で、少しでも嘘っぽいと感じればあまり乗らないだろう。
だけど、ネット上ではこの話が真実だという見方が大半だ。
一部配信で話していた内容と合致していて、
すべてが嘘でも、すべてが真実でもない。嘘と真実が入り混じっている。
だからこそ真実が見つかれば見つかるほど、嘘にも真実性が宿ってしまったのだ。
かなり悪意のある、巧妙なやり方だ。
三春さんは知るべきじゃない。一度信じてお付き合いした人が自分を誹謗中傷しているなんて、あまりにも残酷な事実だから。
彼女が知らないところで処理しなければならない。
1人のリスナーの手によって、配信者が泣かされる。
オレが最も嫌いなことの1つだ。
配信者の笑顔のためにリスナーは。
リスナーの笑顔のために配信者は活動する。
キレイごとに聞こえるけど、そうあるべきなんだ。
「ねえ。なんでなの?」
「…………」
マンションが炎上した時、三春さんは震えていた。
近づいて声を掛けようとした瞬間「ひっ!」と短い悲鳴とともに、拒絶された。
この時、ようやく自分の考えの甘さを思い知らされた。
彼女も気付いていたのだろう。この事件の犯人に。
いや、話を聞いただけのオレが気付くのだから、本人が気づかないわけがない。
「もう、やだ……」
弱気に泣いている姿を見るだけで、胸が締め付けられた。
またループできるとはいえ、記憶には残る。
そして、マンションは燃え尽きて、また次の周回に移動していく――
「え?」
早々に、違和感を覚えた。
そこはいつもの、マンションの外ではない。
上を向いても空はないし、周囲には植木じゃなくて酒が並んでいる。
一瞬どこだかわからなかってけど、数秒経ってやっと飲み込めた。
マンション内のスナックバーだ。
「ねえ、明日、一緒に合コンに出てくれない?」
三春さん声が聞こえた。
彼女は完全に酔っぱらっていて、上目遣いでオレを見ている。
つい最近、この光景を見た。
スマホを確認すると、予想通りの時刻。
この現象は一体、なにを意味しているのだろうか。
わからないけど、起きている現象は理解できる。
ループで巻き戻る地点が、切り替わった。




