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【異世界転移、溺愛短編シリーズ】

ぬい活してたら中の人が異世界獣人だった

作者: 藤崎まみ
掲載日:2026/05/22


華は“ぬい活”中心の生活をしていた。

……まさかそのぬいぐるみに、意識があるなんて思いもしなかった。


「今度はずっと一緒だよ、『がう』」


手のひらサイズのぬいぐるみを日々愛でていた。



***



突然目が覚めたら、不規則な揺れを感じ、びくりと目を覚ます。見知らぬ褐色の肌と、濃いブラウン色の髪。


切長な金色の瞳に、日本人ぽくない彫りの深いワイルドなイケメンの腕の中だった。


「目が覚めたか?もうすぐ部屋に着くから待ってろ」


「だ、誰!?えっ!?なに…!」


「大丈夫だ。いい子にしてたら、取って食いはしない」


低い響く声とチラッと薄い唇から覗く鋭い歯。

エスニックな服装で、大きく開いた襟元から見える逞しい胸筋。


男性の頭にはぴょこんと獣の耳のようなものが着いていた。

つけ耳かと疑う華がじっと見詰めていると、ピコピコと動いた。


……ほ、本物の耳!?これって獣人!?


ーー異世界転生した近藤 華は、見知らぬライオンの獣人の男性に保護されていた。


「おっと、痛くされたくないだろ?じっとしてろ」


「ひ、ひぇ……」


お姫様抱っこのような状態に、身動きしようとした華だったが、ギロリと至近距離で鋭い瞳に睨みつけられた。


それに少し体に力を入れたくらいじゃ、少しもビクともしなかった腕の力強さに、小さく震えるしかなかった。


「大丈夫。ここは俺の家だ」


抱かれた腕の上から見えるのは、石壁に囲まれた広い廊下。

地面には絨毯のような布が敷かれているようで、遠くまで続いていて、まるでお城のように大きかった。


窓から見える外は中庭のようで、立派な噴水まであった。


「い、家って、ここが…!?」


「ああ。名乗るのが遅れたな。俺は、ガウル・ヴァルカザード」


玄関らしき広い吹き抜けの空間に出ると、すれ違う数人の耳や尻尾が生えた人たちが、頭を下げて端に避けていく。


……集団コスプレ、じゃないよね。どういうこと?


華の頭の中はパニック状態だった。


男の名前を聞き覚えのある名前に聞き間違えた。


「…え、『がう』?」


「……そう呼んでくれても構わないぞ、ハナ」


『がう』

その名前は、華の“推しぬい”であるライオンのぬいぐるみの名前だった。



***



華は幼い頃からぬいぐるみが大好きだった。


お気に入りのぬいぐるみを寝ても覚めても、肌身離さず一緒に過ごし、学校に行っている間に母親に洗われる度に癇癪を起こしていた。


そんなよく聞く、ぬいぐるみ愛の強い女の子は、実家を出る時に先代の推しとは涙の別れを経験した。


時は流れ、大人になってあるものにハマっていた。


“ぬい活”である。


推し活から生まれた、ぬい活は、アニメや漫画、ゲームなどのキャラクターをデフォルメしたぬいぐるみが多かった。


SNSのぬい活界隈ではオシャレなカフェで写真を撮ったり、ハンドメイドの衣装でおめかししたりする。移動用の保護ケースに入れて、カバンにつけるのも流行りだった。


好きなキャラとずっと一緒にいられる、お出かけできるという夢のような流行りに、童心を刺激された華。


……ある日出会ってしまった。


その名も『ゆるっとあにまるシリーズ』

肉食系動物をデフォルメしたぬいぐるみ商品だった。


ライオンのデフォルメぬいに一目惚れし、迎えることにした華。


社会人生活でストレスの溜まったある日のことで、それは一年以上も前のことだった。


コロンと丸みを帯びた、お座りしている手のひらサイズのらいおんのぬいぐるみ。


ぴょこんと小さく飛び出た耳とふわふわなたてがみが可愛くて、お尻の尻尾もちょろんと付いていて、たまらなくキュートだった。


『今日からよろしくね。うーんとライオンかぁ。

……レオン。ありきたりかな。よし、ガウガウって鳴くから、がう!!』


かなり安直で決めた名前も、毎日呼べば愛着が湧き、子どもの時より、それはもう丁寧に()()()をしたのだった。



***



ある部屋の一室に中でやっと降ろされた華。

絨毯のような敷物の上にへたり込む。


ここは獣人の国で、華の住んでいた世界とは違う世界だと告げられた。様々などうぶつの獣人がこの国にいるそうで、ガウルはライオンの獣人だと言う。


身長は軽く見ても190センチはあるだろう大きな体が、座り込む華の横に片膝をつく。


……もうこれは夢だ、夢でしかない。


華は本気でそう思い、ほっぺたをつねるがヒリヒリと痛むだけ。


……なんとこの目の前の男は“推しぬい”の『がう』だという。


「信じられない気持ちもわからんでもないが、現実だ。

俺は一年半近く、あのぬいぐるみの“中”に居た」


「……はあ!?」


「正確に言えば、こっちの世界で睡眠中のときだけ“中”いた。

意識が中にあるが、動けもしない、話せもしない。毎晩同じ悪夢を見て、地獄かと思った。

……あの日、ハナに買われなかったらどうなってたか」


“推しぬい”に意識があったと聞いて、顔を真っ青にする華。

対照的にうっとりとした表情で、信じられないことを言うガウル。


絨毯の上にへたり込む華の手を取って、恭しく唇を押し付けた。


「俺がこの世界に連れてきた。……あんなに手厚く()()をされたんだ。

お返しをしなくてはならない、一生をかけてでも」


「ひぇぇ、え、遠慮しまっ…」


「まずは、そうだな。身綺麗にしようか。……脱げ」


ギョッとする華が固まっていると、ガウルがパチンと指を鳴らす。


ぺこりとドアから入ってきた、もちろん耳と尻尾の生えた女性達があれよあれよと華を揉みくちゃにしていく。


「ま、まって。がう…!るさん!私元いた世界に戻れないの!?」


「……戻りたいと言わせるつもりはない。

やはり、女中に任せるのではなく俺が洗おうか。

ハナも()()汚れた時には丁寧に洗ってくれただろう」


「無理無理無理…!」


以前、うっかり飲んでいたカフェオレを『がう』にこぼしてしまったことがあった。


それはもう丁寧にぬるま湯で洗い上げ、優しく優しくタオルドライし送風で乾かしたことを思い出す華。


……まさか、中に人がいるなんて思わないから!!



***



華は、隣の部屋にあった浴室で、獣人の女性たちに頭の先から足の先までツルツルに磨かれた。


ぐったりする間もなく、精巧な刺繍がされたエキゾチック風な服を身につけさせられ、ヘアセットまでされていた。


イヤリングやネックレスといったアクセサリーもたくさん見せられて、どれがいいか聞かれて固まっていると、待ちきれなかったのかガウルがやってきた。


「よく似合っている。ネックレスは()()()これにしようか」


「がう、るさん!こんなに高そうなものばかり…!」


「ハナこそ、()()為にたくさん衣装を用意してくれていただろう。

……初めてあの赤いリボンを結ばれた時は、白目を向きそうになったが」


華は、ハッとして思い出す。


社会人としてお金が子どもの時より使えたせいで、ぬい活に力が入っていたのを思い出す。


真っ赤なリボンを首に結んだり、夏には小さな麦わら帽子を乗せたり、ハロウィンには幽霊やかぼちゃの仮装させ、クリスマスにはサンタのポンチョなんてハンドメイドで取り寄せていた。


『がう、お出かけしようか。

()()()リボンは黄色ね!かわいいー!』


それはもう全力で楽しんでいた。

……だってそれは、ぬいぐるみだと思っていたから!


まさか中の人がこんな、デカくてワイルドなイケメンだなんて1ミリも思っていなかったのだ。


ダラダラと冷や汗をかく華。

豪華すぎるアクセサリーや衣装のせいなのか、グイグイ距離を縮めて近づいてくる男のせいなのか分からなかった。


少し距離を取ろうと立ち上がると腕を捕まれ、腰を抱き寄せられた。


ぴとりと身を寄せるように密着させられ、ぼっと顔に熱が集まる。


……か、顔が良すぎる!!


「ちっ…!近いです…!」


「衣装を着せられたあとは、いつもこうして頬擦りしてくれた」


「…っぬいぐるみだったから…!!」


「……百も承知だ。

だが毎日、一年以上も続けられた俺の気持ちにもなってみろ。いつか倍にして返すと決めていた」


いつの間にか部屋から、獣人たちが消えていて2人きりの状態に気づく華。


頬に添えられた大きな手がすりすりと肌を撫でる。


ふわっと鼻についたガウルのお日様のような匂い。


……この匂い、知ってる。


『がう』とかなり似た匂いで、スンッと鼻をひくつかせてしまう。


ガウルは緊張で固まっていた華の体の力が抜けるのを感じて、頬をぴとりと擦り合わせる。


「……本当に『がう』なの?」


「そうだとずっと言っている」


そっと呟くように囁く華に、やっと分かったかと嬉しそうにゴロゴロと喉を猫のように鳴らすガウルだった。



***



この国では大きな絨毯の上が、ソファのように寛いで座るところのようで、習ってぺたりと座る華。


大きな体をぴとりとくっつけて全然離れようとしないガウルに、初めはドキドキしていたが少し気持ちが落ち着いてきていた。


……慣れってこわい。


暫くすると大きなローテーブルが運ばれてきて、たくさんの料理が並べられた。やたら肉料理が多く、ガウルが肉食動物の獣人だということを思い出す。


「さ、好きなだけ食べてくれ」


「すごい、こんなに食べられるかな」


「ハナは牛肉より、豚肉か鶏肉が好きだろう。よく食べていた」


「……そっか、見てたんだっけ。なんか恥ずかしいね」


豚小間切れと鶏胸肉は一人暮らしの自炊のお供に、安くてヘルシーでちょうど良かったなんて言えない華。


ガウルが『がう』だと理解してから、少しだけ口調が砕けていた。


異世界転生という驚くしかない状況なのに、人間生きていてはお腹が空く。


目の前の豪華な料理に口をつけると、スパイシーな味付けでとても美味しかった。


「……どうして、ぬいぐるみの中に入ってたの?」


「お節介な親族に(まじな)いを使われた。伴侶探しのな」


「え、ハンリョ?まじないってのろいってこと?」


「そうだ。あまりに俺がフラフラとしているから、いい縁を繋げる呪いをかけたらしい」


呪いを受けて暫くすると、ガウルは眠ると暗い場所で金縛りにあったような感覚に襲われた。


やがて日が経つにつれて、視界が開け身動きが取れないまま、巨人がたまに前を行き来するのが見えた。


ーーそしてある日、華が視界に現れた。


毎日見る不思議な夢に何かされたかと調査すると、ある相手と縁が繋がっていると診断を受けた。


『心が育ち強く願えばこの世界に引っ張ってこられる』

術師からそう説明を受けていた。


「心が育つって…?

『がう』は私にされるがまま、好き勝手されてただけだったよね?……なるべく大事にしてたつもりだったけど」


「ああ。それはもう毎日触られたし、何処へ行くにも連れて行ってくれたし、食事も寝室も共にした」


「い、言い方…!寝る時はちゃんと枕元に座らせてたじゃない」


「仕事にも連れて行ってくれて良かったんだぞ」


……こっそり鞄に入れて連れて行こうとしたこともあったが、社会人としての泣け無しのプライドが邪魔していた。


転がって落としたり、寝返りで潰したりするのが嫌だった華は『がう』におやすみの挨拶をしたあと、枕元の定位置に座らせていた。


ガウルは、食事をする華を満足そうに見ながら、彼女の顔にかかった髪を耳にかける。


指が耳周りを撫でられるのにゾクッとする華。


「……そうか、ハナは人間族だったな。

獣人の求愛方法は、丁寧な()()()だ。自分の時間を相手と共有しようとするのも熱烈なアピールとして含まれる」


「……え??」


「しかとハナからの求愛行動を受け取った。

今度は俺がハナにして返そう。倍返しで」


ガウルは一年と少しの間、強制的に華からの猛烈な求愛行動を毎日のように受け、すっかり華にベタ惚れだった。


……まさか、異世界の獣人族の求愛行動が“ぬい活”と変わらないなんて知りませんが!?


「俺はハナの“最推し”なのだろう?」


「……ぬ、ぬいぐるみだと思ってたから…!」


「今はそれでかまわない。ゆっくり返させてくれ」


「ひ、ひぇ……」


密着したイケメンにグイグイアピールされ、ついにはガウルの尻尾まで華の腰にぴとりとくっついていた。


……まるで逃がさないとばかりに。



***



華は、獣人族の国での暮らしに少しずつ慣れ始めていた。


行き交う人は、異国情緒のあるエキゾチックな服装や装飾が多く、そして多種多様な耳や尻尾を持ち合わせていた。


たまに旅人や商人に耳のない人、つまり人間族を見つけたりもしたが、話す機会は訪れなかった。


……何処へ行くにも何をするにも、ガウルがべったりとくっついて離れないからだ。


家の中でも外出中でも、体の一部が触れている。

離れていても数メートル先から、まるで獲物を捉えた猛獣のようにギッと華を睨みつけるのだった。


せっかく異世界に来たんだから、少しくらい異国感を味わいたかったし、こちらの人間の暮らしが知りたかった。


「……どうした、ハナ。欲しいものがあったか?」


「いいえ、ナンデモナイデス」


ほんの少しだけ、目を盗んで人間族に声をかけたかったが、指を絡めて繋がれた手が全く離れない。


たまに商品を手に取ろうとすると離してくれるが、するりと流れるように腰に手が回される。

それか、大きな体で包み込まれるように後ろから抱きつかれ、顎を頭に載せられる始末。


……隙がなさすぎる……!


獣人族の中でも、動物の種族によるヒエラルキーは存在するらしい。


ライオンの獣人であるガウルは、肉食獣人の中でもかなりハイスペックな存在らしく、気軽に声をかけてくる獣人が少なかった。


家もすごく立派だったし、お手伝いさんまで沢山いた。


……もしかして、異世界ものあるあるで王子様だとか言わないよね。まさかね…。


やんごとない立場にいることは、分かっているのにあえて聞かずに知らないふりをしている華。


「ハナ。もう店はいいのか?そろそろ家でゆっくりしよう」


「ガウはおうち好きだねぇ」


「……外でくっつきすぎると怒るだろ」


諦めてガウと呼ぶようになった華。


デフォルメアニマルのぬいぐるみだった『がう』と呼ぶにはワイルドなイケメンすぎて違和感があり、響きは同じだが気持ちが違った。


見慣れない南国フルーツを齧りながら、帰る方向に向かう。ついでにこの国の新聞のようなものや気になった物を買ってもらっていた。


海外の市場のような空気感が面白くて、つい寄り道をしてしまう華。しまいには強引に腕を引かれて帰路に着いた。


華の手にはカバンひとつ持たされず、手ぶらのままガウルの自宅へ向かう。


……いつもはお気に入りのトートバックに『がう』がいたのになぁ。


着の身着のままこの世界にきた華は、一年毎日愛でた“推しぬい”が手元にないことに寂しさを感じていた。


……置いてきてしまったんだろうか。

今度こそずっと一緒だと誓ったはずなのに。


絨毯の上でくつろぐのになれない華に合わせて、大きなクッションがいくつか置かれている。


ボフッと倒れ込むように仰向けで寝転がると、ガウルがすかさず華の体に寄り添うように座り込む。


「疲れたか?マッサージでもしようか」


「え、い、いいよ。大丈夫」


「どこか浮かない顔をしている。……自分の世界が恋しいか?」


「……それはまぁ、帰れないって言われると」


つい仰向けに寝転がってしまったが、ぴっとりとくっつくガウルの顔が非常に近いことに気づく。


背を向けようとしたが、クッションの沈みこみで上手く体の向きを変えられない華。


拒まれなかったと勘違いしたガウルは、ゴロゴロと喉を鳴らす。


……ライオンっていうかでっかい猫ちゃんみたいになってる。


「顔が近いデスヨ」


「なぜたまにカタコトになる」


「……恥ずかしいの!」


「照れたふりか?先程も市場で、何度も別の男をチラチラと見ていただろ」


ぎくりと体をビクつかせて、目をそらす華。


なんだか雲行きが怪しい。


体の向きを変えようと脚を上げぐっと反動をつけてガウルとは反対に寝返ろうとすると、脚をガシッと握られてしまう。


「に、人間族っぽい人がちらほらいたから、その、話を聞きたくて……」


「アプローチ中によそ見とは、マナーが悪いぞ」


「そんなこと言われても…!!私は求愛行動なんてした覚えは…!」


覆い被さるガウルにギロリと睨みつけられ、圧の強さに固まってしまう。蛇に睨まれた蛙のようになっていた。


……悔しい、顔がいい…!!


色黒の肌に、切り長の目。彫りの深さとスッと高い鼻。


ガウルの見た目は華の好みどストライクだった。


薄い唇がゆっくり開いて、赤い舌がペロリと尖った歯をなぞる。


……食われる!?


「が、ガウ……」


「ちゃんと見張ってないと不安だ。

向こうでも浮気者だったからな、ハナは」


「え?それはちょっと聞き捨てならない!あんなに『がう』を愛でてたのに!?」


「最後の一週間。二体増やしただろう。熊と狼だ。

俺がいながらなんでまた家に連れてきたんだ」


まるで別の男を連れ込んだかのように責めた言い方をしたがは、こつんと華とおでこをくっつけるガウル。


必死で記憶を呼び覚ます華。


確かにここへ来る前、ボーナスも入ったところだし、『がう』の同じシリーズのぬいぐるみを二体お迎えしていた。


ーーでもそれは浮気なんかではなかった。


「あれは……!流石に仕事には連れて行けないから、家で『がう』が寂しくないよう仲間を増やそうと思って……」


「本当か?その割には連れてきた初日は、寝る時の位置が少し俺は遠くなったぞ」


「……クマちゃんの座りが悪くてバランスが…」


まるで浮気をチクチク責められ、弁解する女になっていることに気づく華。


言い訳をする華に、痺れを切らしたガウルは掴んだ華の脚を撫で上げる。


「このまままでは飽きられると思って、ハナをこちらに呼ぶことにしたんだ」


大きな手と熱い体温にビクリと硬直する華だが、顔を赤くしつつも、頭の中では『がう』のことを考えていた。


……三匹で並べてもっと、写真撮りたかったなぁ。


「……寂しいか?」


「………うん。でも世界よりも『がう』に会いたい」


「『がう』は俺だ。

抱きつくのも、甘えるのも全部、今まで通り俺にすればいい」


現代社会でストレス発散のための“ぬい活”。


華の精神安定剤で、『がう』を手のひらに乗せて頬擦りしたり、ぎゅっと握って匂いを嗅ぐことが何よりの心の癒しだった。


……心細さを誤魔化せるだろうか。


華はそっと促されるままガウルに腕を伸ばす。


覆い被さるように抱きしめられ、太い首に腕を回す。

鼻からいっぱい息を吸って親しみのある匂いを楽しむ。


……あぁ、この匂いだ。落ち着く…けど。


「……でかいし、かたいし。……お、男の人過ぎて恥ずか死ぬ!!」


「なんだ、もう少しだけいいだろう。ハナからのハグをやっと貰えたんだ」


「ガウってばぁ…!」


まるで覆い被さるように体重をかけられて、離れられないハナ。


視界に、ご機嫌にゆらゆら揺れるガウルの尻尾が見えた。

なんなら鼻歌すら歌うガウルに、華は首を傾げる。


「その歌……私が好きだったドラマの挿入歌」


「ああ。毎週一緒に見た。

ハナ。求愛行動の説明をしていなかったが、アプローチする相手からのハグに応えるのは、相愛の意味になる」


「……ぼ、ボディランゲージすぎない!?獣人族しゃべらないの!?」


「ハナの世界でもこんなにくっ付くのは恋人だけだろう?一緒に映画でも見た」


「……ぐぅ…たしかに??」


毎週楽しみに見ていたドラマや週末には一緒に行った映画館で見た恋愛映画。


『がう』片手に視聴していたことを思い出す華。


すっかりガウルの言葉に上手く乗せられていた。


「好きだ。異世界から連れ込むほど、愛してる。返事はなくてもいい」


「……ガウ、ずるい。私がイケメンに弱いのも知ってるでしょ」


「使えるならなんでも使う。……俺の見た目は嫌いじゃないはずだ」


好んで見ながら萌えていた俳優やアニメ、漫画の好きなキャラまで全て把握されていると気付いた華は顔を赤くする。


「……キスをしてもいいか?」


体に触るのも触らせるのも強引のくせに、そこだけは確認を取るガウルに、華はたまらなくなってしまう。


肯定も否定もできなくて、至近距離のガウルにぎゅっと目を閉じる。


「……これはボディランゲージじゃないのか?」


「もう意地悪…!んっ…!」


するっと頬を大きな手で撫でられ、からかうような言葉に目を開けると、唇が重なった。


ぐっと後ろのクッションに押し付けられるような、情熱的なキス。

呼吸すら奪われて、どんどん体の力が抜けていく。


ざりっとするとネコ科の独特な舌に、身体を震わせる。


「はぁ…、ん、もう、むりっ…!」


「……『心が育ったら、この世界に連れてこられる』そう言ったが、俺の心だけじゃないぞ」


「えっ!?」


「ハナも思ってくれていたんだろ?

『これからもずっと一緒にいたい』と」


もう絶対に離さない、と言わんばかりに華をぎゅっと抱きしめるガウル。


華は既に絆されかけている事実に気が付きながらも、これだけは言いたかった。


ぬいぐるみだと思っていたんです…!!!


初代の推しは涙の別れとなかったが、自分で見つけてお迎えした“最推し”とは死ぬまで一緒だと確かに心に誓っていた。


……それがこんなことになるなんて。


華は獣人族の国で、深く深くお世話される日々を送ることになったのだった。


「……もう一回いいだろ?こっちは長い時間、焦らされたんだ」


「ガウ…お願い、まって。……べろ、ザラザラする」


「すぐ慣れるさ。ほら、口を開けろ」




ーfinー






お読み頂きありがとうございました!



ガウルは、華ちゃんにゾッコンです。



一週間だけ一緒にいた

クマちゃんとオオカミくんにも意識があったり、なかったり……




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