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猫が非合法な世界

作者: KARYU

 健康には問題は無いものの、どこか沈鬱な雰囲気を漂わせた女子高校生が、夕方の街中をフラフラと歩いていると。

 ビルの間から、サングラスとマスクで顔を隠した男が現れ、その女子高校生に声を掛けた。


 「お嬢さん。いいブツ(・・)が入ってますよ」


 たったそれだけの言葉に。

 女子高校生はピンと来るモノがあったのだろう。

 怪しげな風貌の男に従い、ビルの間へと入って行く。


 「はっ、早く……見せてよ……」


 女子高校生は、まるで禁断症状でもあるかの様に、男に求めて。


 「ふっ。多分、気に入って貰えると思いますよ?」


 男はバッグの中から、紙袋を取り出して。

 それをそっと女子高校生に渡した。


 女子高校生は、恐る恐るという感じで、受け取った紙袋を覗き込んだ。


 「うにゃん?」


 中に入っていたのは、何の変哲もない、ただの子猫だった。


 「──はうあっ!?」


 それでも女子高校生は歓喜に打ち震え、短く声を上げると。

 次の瞬間には、紙袋の中に顔を突っ込んで、勢いよくすーはーと深呼吸を始めてしまった。


 「ふふふ。やはり、気に入っていただけたようですね。私の目に狂いは無かったようでなによりです」


 男は得意げな顔でその様子を眺めていた。

 女子高校生は、一人仕切り子猫の臭いを堪能した後。


 「……これ、触っても?」


 不安気に、男にそう訊ねた。

 男はニヤリと笑みを浮かべて。


 「ここでは、不味いですね。この先に、人目に付かない場所があります。そこでなら、構いませんが、その代わりに……」


 男の言葉を受けて。

 女子高校生は、暫し逡巡したものの。

 やがて覚悟を決めた様子で、男に従い、奥の道を抜けて行った。




 二〇XX年。日本政府は世界に先駆けて、一般家庭における猫飼いを禁止にした。

 世に言う禁猫法である。

 後の世でどう評価されるかは不明だが、時の首相や野党党首らが超党派で結成した研究グループにより発案された法案である。

 傍から見ていたら何がどう転んだのか不明なのだが、ともかくこの法案が可決されて。一般家庭での猫飼いが禁止されるに至ったのである。




 さて。この法案の、そもそもの根拠なのだが。

 研究グループによれば、猫には人を洗脳する能力があるというのだ。


 これは機密であり、なのに世間に広まってしまっている噂なのだが。そもそもの発端は、とある野党の女性党首が、それまで付き合っていた男にフラれた事にあるらしい。そしてその原因が、恋人が飼っていた猫にあったと言うのだ。

 ただの猫飼いにありがちな、猫ファーストなだけの様な気もするのだが。ともかく、野党党首はそれを異常だと感じたらしく、歪んだ方向へと邁進したらしい。

 そして、個人的に、当時の首相へとその話を持ち掛けた様だ。

 これは、猫による人類の侵略である、と。


 首相は、初めはなんて馬鹿なことをと取り合わなかった様なのだが。

 試しに、家族に猫を与えて様子を見てみろとしつこく迫られ。根負けして、猫を飼うだけなら良いかと思ったらしい。

 それまで、家では犬は飼った事があった様だが、猫は初めてらしく、妻と娘には大変喜ばれた様だ。


 それには首相も喜んで、あの野党党首もたまには良い事をするじゃないかと別方面で感謝したのだが。

 家族の様子を見ている内に、次第に不安になって行ったという。

 その理由は、家族が家長である自分を蔑ろにし始めたと感じたからだ。

 そしてそれは、次第にエスカレートして行った様だ。

 妻が、自分の食事よりも猫の餌を優先させる様になるに至り。

 試しに一時的に猫を取り上げてみたところ、妻が怒り狂い、娘が半狂乱になってしまった事で、確信してしまう。

 単に、それまでも猫を飼いたかったのだが、首相が許可しなかったために飼えずにいたのを、ようやく飼える様になったことで大喜びしていただけだった様な気がしないでもないのだが、ともかく首相の家庭がそんな状況になってしまい。

 奇しくも、映画やTVで猫の姿をよく見かける様になっていたことも重なって。

 首相は野党党首の話を信じる様になってしまったのだ。


 そして、超党派の研究グループを結成して。

 猫の前では阿呆みたいになる人間の例を色々と集めてしまい。

 ある種の説得力を持たせるに至ったのだ。


 そして、法案を提出したのだが。

 当時の議員には圧倒的に犬派が多かったという不幸も重なって。

 禁猫法案は可決されてしまったのだった。


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