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条件

「ほーっほっほー、良いお返事待ってましたよ。クレアさんは店を持たずに情報提供を行う契約のみというご意向ですな」


 商業ギルドの応接室で父とクレアは、あの腹立つちょび髭のギルド長と面会していた。なぜ髭の先っちょだけ少しカールさせるのか。いっそクルンクルンにしてしまえばいいのに。クレアの条件は父に伝え済みだ。ギルド長との話は今後のことを考え、クレアが主に行うことになった。


「情報提供料はこちらの条件を冒険者ギルドさんがのんでくれれば、1~3%とします。情報提供料を安く抑えれば販売価格も安くなり、冒険者さん達にとっても良いと思います」


「なんと欲のない。最低1%なんて、それは破格ですね。して、その条件とは?」


「空気の成分すらコントロールできる風魔法と氷魔法を扱える冒険者さんに新しい商品開発の協力を頼みたいのです。守秘義務が守れる信頼出来る人にお願いしたいです」


「風と氷……。扱いに長けている者となればかなり上位の冒険者となる。では、この条件に合う人に依頼出来れば情報提供料は1~3%、依頼出来なければ8~10%に価格が変わるとして冒険者ギルドに交渉しましょう。冒険者に安く商品を提供出来る方が良いに決まっている。きっと冒険者ギルドも尽力してくれるでしょう、が……」


 少し悩むような素振りで話すギルド長。


「新しい商品開発は具体的にどのような商品をお考えで?もちろん企業秘密までは話さなくていいので、どんな商品か概要だけでも。冒険者ギルドに利点があると、より交渉が上手くいきやすいので」


「瓶が不要の軽量化した保存食です。上手くいくかはわかりません。また、新しく油漬けじゃない保存用の柔らかい肉の製造も視野にいれてます」


 試したいのはフリーズドライだ。フリーズドライ食品は、文字通り凍らせた食品を乾燥させて氷の結晶を飛ばすことでお湯を入れれば元通りになる保存食である。軽くて常温保存可能だ。


 空気の成分すらコントロールできる風魔法としたのは、加工肉の保存パターンも考えているからだった。お菓子やウィンナーの袋がパンパンになってスーパーで販売されているのは、酸素による酸化を防ぐためにわざと窒素を充填して長持ちさせている。


 干し肉が主流の今のお肉より、ウィンナーやベーコンのほうが食べやすい。

 ウィンナーを作って窒素を充填して熱で密閉したあと、120度で4分間加圧加熱殺菌すれば、酸化することなく、封を開けるまで何年も保存できるウィンナーを販売できる。これは災害用に製造販売されているウィンナーの作り方だ。この世界では加圧加熱が行えないので実際には魔法で120度まで上げる。


「保存食の軽量化と新しい保存用の肉の製造に風と氷魔法とは、私にはよくわかりませんが、きっと何かノウハウがあるんでしょうね。わかりました。新しい保存食開発のために探していると伝えれば冒険者ギルドもいい人を用意してくれるでしょう」


 ギルド長はそばに控えていた職員に冒険者ギルドの副ギルド長以上の人を呼ぶよう指示を出した。


「クレアさんが持参してくれた製造方法を読む限り、3ヶ月以上持つことを確認してからの販売ですな。各飲食店に製造についての説明会も必要でしょう。早く準備に取りかかる必要がある。話し合う時間が少し長くなりますが、今日契約をまとめましょう」

 

 冒険者ギルドの人を呼ぶように指示を出してから10分もしないうちに、応接室にノックの音が響いた。


「失礼します。冒険者ギルドの副ギルド長、ヒルデ様です」


 職員が連れてきた人は、その服装でどこを守るのかよくわからない踊り子のような装備をした女性だった。170センチはある高身長にスラッとした手足、褐色の肌、切れ長の紫色の瞳、瞳と同じ紫色の長い髪。腹筋の縦線が見えることから、鍛えている女性なのだろう。


「ヒルデさん、ご足労いただきありがとうございます。どうぞお掛けになって下さい」


「こちらからお願いした保存食のことですから。こちらに失礼しますね」


 勝ち気な見た目とは異なり、可憐な声をしていた。


「こちらが保存食を発案したクレアさん、後見人であるクレアさんのお父さんのフレッドです。クレアさん、こちらが冒険者ギルドの副ギルド長ヒルデさんです。冒険者としての腕も確かです」


「こんなにお若い女性が冒険者の食事に革命を起こしたなんて、同じ女性として尊敬します」


 微笑むヒルデさんは大人の魅力に溢れ、クレアが男なら色気でコロッとやられただろう。


「とんでもないです」


 萎縮しているクレアを見てヒルデは柔らかく微笑んだ。


「ご謙遜を。さ、ギルド長。ご用件をお伺いしてもよろしいかしら?」


「クレアさんは瓶詰保存食の情報提供することを快諾してくれました。革命を起こした食品の製造法を、それが冒険者の皆様のためになるのならと、それはそれは美しい心構えです」


 話を盛りすぎではないだろうかと思いつつ黙って聞いた。


「私は商人として情報提供料は10%まで取れるとアドバイスしましたが、クレアさんは売上の10%となると販売価格にも影響が出るからと心苦しいようでして。冒険者ギルドのギルド員が新しい保存食の開発に協力してくれるなら1~3%の情報提供料で良いという破格の条件を提示してくれました」


 ヒルデはまぁ、と呟き驚いた様子だ。


「それはありがたいですわ。それで、こちらはどのような協力をすればいいのかしら」


「風魔法と氷魔法に長け、新しい商品開発について情報漏洩する恐れのない信頼出来る者の協力を頼めるでしょうか」


 ギルド長がそう言うとヒルデは目を瞑り眉をしかめた。逡巡したのち、口を開く。


「……適任がいるわ。けど彼は3ヶ月後に帰ってくる予定なの。契約書に協力者のことは明記させてもらいます。だから情報提供はすぐに、こちらの協力者を用意するのは3ヶ月後と少々不公平な契約となってもよろしいかしら?」


 ヒルデはまっすぐクレアを見る。


「問題ありません」


「話はまとまりましたね。ではその条件で、冒険者ギルド、商会ギルド立ち会いのもと契約書を作成しましょう」


 こうして、瓶詰保存食の製造方法は町全体に広まった。

 情報提供料が売上の1~3%と安価なこともあり、町だけでなく国中のダンジョンそばの飲食店に瞬く間に広がり、今後利益が増え続けていくとは知るよしもなかった。

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