セオドアルート
クレア16歳の誕生日、セオドアとクレアは会う約束をしていた。最初に乗り込んだグリーンランド社のホテルのロビーで、2人は会った。
「今日はクレアの誕生日だろ?ほら、いままで送り返されてたプレゼント全部やるよ」
ロビーの机には見覚えのあるプレゼントが山積みにされている。
「どうやって持って帰れって言うの」
「2人で手分けすればいいだろ。割れ物はない。全部クレアが喜びそうなものにしたんだ。エプロンとかレシピ本とか、調理器具とかな。アクセサリーもあったかもしれないが、もう覚えてない」
中身を見もせずに送り返したが、自分の好みを考えてくれているとは思わなかった。
「それで、わざわざ他の奴と先約があった誕生日に会いに来たってことは、俺と結婚して一緒に戦ってくれる気になったのか?」
「結婚はすぐに考えられない。恋人を前提とした友達としてからでどう?」
「遠すぎるだろ。恋人からにしろよ」
笑いながら言うセオドアの表情は柔らかかった。
「じゃあ、恋人で」
「お前なぁ、じゃあとはなんだ。俺がどれだけいい男か理解してないようだな」
「理解してないもん」
「一生かけても理解させてやるよ」
頬に赤みがさし、嬉しそうにクレアを見つめるセオドアの表情は緩んでいた。
「俺と一緒になるからには、新しい開発案があるんだろうな。悪用されるのが怖くてもう開発しないなんて言わないだろ?」
「あるよ。次はね、パンを缶詰に入れていつでもどこでもフワフワのパンを食べられるようにするの。貧しい国に柔らかいパンを届けたいから。悪用されないように、しっかり見張っといてね」
「任せろ。それでこそクレアだ。お前のためなら世界の全てを手に入れてやるよ」
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ーーーーー1年後。
クレアの隣にはセオドアがいた。クレアは箱と紙袋を、セオドアは大きな箱を2つ運んでいる。会社から貧しい国へ支援物資を届けるために荷物を運んでいた。
「あのなぁ、貧困を支援するのはいいが物資を運ぶのは部下に任せればいいだろう。クレアは保存食部門の開発担当なんだから」
「現地を見に行きたいの!ちゃんと見て確かめないと、そこに必要なのはお金か、安全な水か、食料かわかんないじゃない。たんぱく質欠乏症の子供がいるのに教育支援したって意味ないでしょ?見に行くついでに食料品も渡したいから運ぶだけ。ていうか、文句言うなら来なきゃいいじゃん」
「お前を1人にするわけないだろ。俺が欠乏症で死ぬ」
「なにそれ?」
「クレア欠乏症。1日1回は抱き締めないと死ぬ」
「バカ!バーカ!」
クレアが顔を赤くして罵ってくる。ガキかこいつは。
「クレアが俺を骨抜きにしたんだろ。責任とれ」
「なんで私が責任取る側なの」
「俺はいつでも妻になれって言ってるだろ。毎日言ってやろうか、好きだ。愛してる。結婚してくれ」
無言で何も言い返さないことから、照れていることを確信する。セオドアは荷物を置いてクレアの荷物に手をのばす。
「ほら、荷物置いてこっち向いてちゃんと聞けよ」
荷物を奪っても頑なに顔をこっちへ向けないクレアの顎を掴んで無理やり向かせる。唇が歪んで変な顔になっていた。
「この間抜け面め」
「はなふぇー」
セオドアはぶはっと吹き出し声をあげて笑う。
「ほんと、お前には敵わないよ。まだ俺が本気で愛してないとでも思ってんのか?」
「思ってないよ。知ってるから」
「愛し合えれば結婚できるんだろ?クレアはいつになったら俺を愛してると認めるんだ」
「…………あと30年ぐらい」
「ちょっと待て、さすがにそれまでには子供が欲しいし産まれる前に籍はいれたい。………よし」
クレアの手首を掴んで会社の使われていない会議室に連れ込む。しっかり鍵もかけた。
「ちょっ!!やめて!ごめん待って」
「選ばせてやるよ。子供を授かるのと、先に籍入れるのどっちがいい?」
騒ぐクレアが困るのはわかっていて、わざと聞く。
俺は愛を知らなかった。クレアと関わるうちに理解した。愛とは自分の全てを捧げたくなるものだ。信仰に近い感情だった。クレアに俺の全てを捧げたって惜しくない。クレアが望むならなんだってくれてやる。他の人を思っていてもそばにいて欲しいと思った。たとえ報われなくても、そばで見守れるならいいとさえ思っていた。商業ギルドを見張れと言われ、頼られたことが嬉しかったのだ。
なんの気まぐれか知らないが俺のもとへ来てくれた、今は俺だけの女神だ。今までもこれからも、俺を翻弄させるのはクレアだけだ。
俺が心から愛しているのを知っていて、クレアは俺を振り回す。だから、これくらいのイタズラをしたっていいだろう。
「あー、うるさい」
顔を赤くして騒ぐクレアにキスをして唇をふさいだ。
ーーーセオドアルート 素直になれないエンド




