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協力

 シミリスが戦争を起こさせないとまで言ってくれたのに、落ち込んでいるわけにはいかないと自分を奮い起たせ、クレアは保存食の契約に新たな文言を追記することにした。


『保存食を戦争、紛争等争い事に利用することを禁じる』


 商業ギルドを通じて全店舗に通達し、大量購入のお客様には用途確認のうえで販売することを規約に入れた。


 戦争に利用するとわかったうえで販売すれば、店は販売する権利を剥奪する。虚偽申告により購入した者には、全店舗と取引することを禁じる。


 また、クレアは情報提供料の大部分を貧困で苦しむ国の支援に当てることにした。戦争は資源の奪い合いで起こるものであり、貧困がなくなれば、戦争は起きないと考えた。


 本当はお礼のパーティーを開く予定だったが、急遽変更して集まってもらった。クレアは宿屋にごく親しい人だけを呼んだ。ヴィンセント、不死鳥のシミリス、リリィ、ジュリー、アドルフォイ、ビクトールそしてセオドア。全員が揃うと家族にも席を外してもらい、遮断を使う。


「全員来てくれて嬉しいです!今日は協力して欲しいことがあって、皆さんをお呼びしました。シミリスさん、ヴィンセントさんとセオドアさんにあの映像を見てもらってもいいでしょうか」


「ヴィンセントはいいが、そっちの男は信用出来るのか?」


「大丈夫です。彼はグリーンランド社の次期社長となる方です。宿屋や飲食店を国内外で展開する彼なら、戦争を防ぐことに協力してくれます。ね、セオドアさん」


「いきなりだな。だが、クレアの言う通りだ。宿や飲食店は国が安定してないと利益が出せない。戦争が起こるなら部下の安全を守るために撤退しなければならなくなり損失は膨大となる。俺は世界中をグリーンランド社で支配する男だ。俺に出来ることなら協力しよう。特に資金面なら任せてくれていい。不安なら、魔法で誓約をかければいいだろう」


「あの大企業か……」


 悩むシミリスを見て、ジュリーが声をかけた。


「ごめんね。セオドアさんがあの会社の人でも、あたし達は貴方を知らないから、魔法で見た映像のことは他言出来ないよう誓ってもらうよ。話そうとしただけで胸に激痛が走って喋れなくなるけど、いい?」


「わかった。妨害の魔道具を外すから待っていろ」


 腕輪とベルトを外して「やれ」と一言。ジュリーが魔法をかけると、鎖が全身に巻きつき収縮して胸へ収まる。


「それじゃあ、2人はこの映像を見てくれ。見て欲しいのは最後のドラゴンの話すとこだが、最初からになる」


 そして、ドラゴンとの戦闘が始まる。


「……壮絶だな」


 セオドアは口元を手で抑えながら呟く。


「私達は死んでも挑み続ける狂った不死鳥だからな。無理しなくても、見るのは倒した後からでもいいぞ」


「いや、知っておこう。どれだけ過酷なのか知っておけば、覚悟が鈍らない」


「そうか」


 セオドアとシミリスの会話を見て、後ろでリリィとジュリーは周りに聞こえないよう小声で話し出す。


「ねぇ団長ライバル増えてない?」

「どう考えても増えてるわよねぇ」


 ヒソヒソする2人と遠巻きから見ているクレアを除いて、男性陣は映像を見ていた。


「ここ、団長の蹴りで死んだかと思った」


 ビクトールがドラゴンの尻尾から庇われ蹴り跳ばされたシーンで話す。


「すまない。とっさに加減が出来なかった」


「待て待て、仲間同士の攻撃で死ぬことなんてあるのか」


「強化した状態だから加減が出来なくてな。それが原因で仲間割れすることもよくある」


「すごいな、冒険者ってのは」


 クレアが初めて見たときは映像を見るだけで精一杯だったが、セオドア達はよく会話をしながら見れるなと思いながら眺めていた。


「なぁ、ずっと回復しててなんで鼻血が出るんだ」


「脳の熱暴走って感じかなぁ。僕は魔力が枯渇してくると高熱のような状態になって、目や鼻なんかの粘膜部分から出血するんだ。お尻の方からも出るよ。あとねー、魔力がないのに無理やり絞り出すイメージで回復をかけるから口からゲロも絞りでてくるよ」


 アドルフォイは飄々と言うが壮絶である。


「なんで女性は軽装なんだ?鎧ならお腹に穴が空かなくてすみそうなのに」


「鎧並みに強化はかけてるわよ。軽装にしないと戦闘中に持久力が足りなくてバテちゃうのと、私は風と炎がメインだから鉄製の防具は火傷の原因になるのよ」


「なるほど」


 戦闘が終わり、ドラゴンの語る内容を全員黙って見た。


「これって……」


 ヴィンセントがクレアを見た。セオドアもクレアを見る。2人とも、クレアを生まれ変わりではないかと思ったのだ。


「2人ともお気づきの通り、私は生まれ変わりです。敗戦国に生まれ、新たな戦争が起きている世界からこの世界へ生まれ変わりました。保存食の作り方は、前世の知識です」


「じゃあ、前に言ってた遠くへ行ってしまった恋人って」


 リリィさんが口を開いた。


「前世で結婚を約束していた恋人です。結婚する前に、私は事故で死んでしまいました」


 ヴィンセントはハッとする。自分と似ていると言っていた二度と会えない大事な人は、前世の婚約者だと気づく。


「前世のことはもういいんです。前世で暮らしていた国も星も、私が死んでから滅んでしまったようですが、その後を知る方法もありません。私は生まれ変わって、この世界で生まれたんです。でも、私は前世の知識をこの世界に持ち込んでしまいました。瓶詰保存食は本来、戦争のために開発された食品です。ダンジョンのドラゴンは、争いを生まないために前世の知識を持ったまま生まれ変わった人間がいると話していたのに、私は戦争で使われた技術を持ち込んでしまいました」


 涙を溜めて、唇を噛み締める。


「だから、だから私は戦争を防ぎたい。今は世界規模の戦争は起きてませんが、国同士の争いはあります」


 震えて上ずった声で続ける。


「私の保存食が戦争に利用されれば、戦争は長期化します。人々はそれだけ長く苦しむことになります。だから、戦争が起きないように協力して欲しいんです」


「戦争に発展するのを防ぐとしても、世界のあちこちで領土を巡る小競り合いは続いてます。どうやって防ぐつもりですか。いちギルド員の俺が役に立てるのか……」


 ヴィンセントの指摘はもっともだ。この世界のあちこちで隣国同士の戦争は起きている。


「前世の世界でも、国同士の戦争はずっと続いていました。星が滅ぶ原因となったのは文明が発達し、世界規模の戦争が長期化したからだと思われます。この世界でも戦争が続けば次第に兵器の威力が上がり、空から爆弾が落とされ、生物兵器が利用されるでしょう。前世では特定の人種が迫害され、ガス室で多くの方が虐殺された事件もありました。私の育った国では原子力という化学の力を利用した爆弾が落とされました。原子力の威力によっては、何十年も人が住めない環境になるほど汚染されます」


 クレアから語られる戦争の恐ろしさに、皆黙って耳を傾ける。


「戦争は貧困が原因で起きると思ってます。貧しいから奪おうという発想になるんだと思います。戦争を防ぎ、戦争を長期化させないために私は情報提供料を貧しい国の支援に当てたいと思います。シミリスさんは」


 クレアが話す前に、シミリスは自ら口を開いた。


「私はドラゴンが言った通り、私やギルド員ですべてのダンジョンを踏破し、星が滅んだ理由を伝えよう。同じ人間で争った先は滅びだと、世界中に広めようと思う。クレアさんの保存食のおかげでダンジョンを踏破できたんだ。この技術を悪用させるわけにはいかないからな」


「不死鳥のメンバーとして協力するよー」


ジュリーが明るい声をあげた。リリィは笑顔で、ビクトールは無言で頷く。


「ヴィンセントさんは、魔道具ギルドで兵器に使えそうな魔道具など、不穏な物があれば教えてください。人に使われる前にこちらで買い取ります」


「そろそろあちこち回るつもりでしたからね、それぐらいなら出来そうです。こっそり壊しておくのも協力しますよ」


ヴィンセントは悪そうな笑顔を浮かべる。


「セオドアさんは、商業ギルドへ対抗できる規模の会社です。もし、商業ギルドの方で兵器を開発して販売する動きがあれば圧力をかけてもらえませんか。私が、次期社長としてのセオドアさんに頼むのもおこがましいですが」


「ふん。俺に声をかけたということは次期社長として協力すると最初から踏んでいたんだろう?お前の目論み通り協力しよう。俺は強かなクレアが好きなんだ」


 さらっと話すセオドアにヴィンセントとシミリスが反応する。


「あ?」


 一気に柄が悪くなるヴィンセントをジュリーとリリィが抑える。


「どーどーどー」

「抑えて!ここは抑えるのよ!」


 こそこそ後ろからヴィンセントに話しかける。


「では、私と不死鳥メンバーは冒険者ギルドから戦争を未然に防ぐよう尽力しよう」


「俺は魔道具ギルドから」


「俺は商業ギルドだな」


 こうしてクレア達はこの世界の戦争を未然に防ぎ、星が滅びないように協力することとなったのだ。

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