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嫉妬

ヴィンセント視点

 面白くない。

 ヴィンセントはここ数日ずっと不機嫌である。


 講習会のことなど、何か連絡があればチェックインで混むまえの夕方に宿屋に訪れているヴィンセントは、あの腹立たしい蛇男とクレアが宿屋の食堂で休憩しているのを見かけた。


 蛇男と2人で話している様子を見て胸がざわついた。


 講習会のときに落ち込んだクレアが団長の話で笑顔が戻ったのも胸に痛みが走った。

 ヴィンセントと出掛けるときは素朴なままだったのに、団長と出掛ける日にお洒落するのも気に入らない。

 ある日泣き腫らした顔で帰ってきたから心配すれば、団長と悲恋ものの舞台を見に行って泣きすぎたと笑顔で言う。泣き顔は俺しか見てないと思っていたのに。


 そして、極めつけはこれである。


「ヴィンセントさん、保存テストも終わったのでお世話になってる不死鳥の皆さんに保存食の試作品をあげようと思うんです。加工を手伝ってもらえませんか?」


 それはつまり、シミリスへのプレゼントを俺に手伝えということか。氷と風の魔法使いが必要なのは知っているし、開発が終わってからも護衛としてよく会っているから頼みやすいのもわかる。


 だが面白くない。予定を確認すると言って宿屋をあとにした。


 後日、ブスッとしたまま新しい魔道具でも見に行こうと魔道具ギルドへ行くと、バギから声をかけられた。


「ちょうど良いとこに来た。これ、嬢ちゃんに頼まれてたコーヒー用のパックな。渡しといてくれ」


 細長いパックの束を渡される。そのコーヒーはシミリス達へのプレゼント用だろうと、ますます機嫌が悪くなる。


「なんだ、嬢ちゃんと喧嘩でもしたのか」


「してない」


 喧嘩出来るような関係性でもない。


「そういや嬢ちゃん、縁談の話がきたんだってな。商業ギルドからうちにまで噂が届いてたぞ。今度は大企業の御曹司だってな。不死鳥のプロポーズから綺麗になったもんなぁ。嬢ちゃんがモテるとお前も大変だな」


「俺は別に、クレアさんが決めることだ」


「あ?子供だから手ぇ出すなとは言ったが、まさかまだ好きだって言ってねぇのか?」


「言ってない。クレアさんと仲は良いけど、そういうのじゃ………」


「お前なぁ、どうせ機嫌悪いのも嬢ちゃんがモテてるからだろ。他の男に嫉妬しといて惚れてねぇわけねぇだろう」


 バギが呆れた様子で言った。


「隙あらば魔道具盗んでいこうとしやがる悪ガキの癖に嬢ちゃんと話すときだけすーっげぇ猫被って穏やかな青年になりきって、嬉しそうにニコニコ一緒にいるくせによぉ。おれは別に……ってよく言えたな」


 バギのモノマネが腹立つ。それは俺の真似かと問いたい。


「不死鳥だの大企業だのすげぇ奴らから言い寄られてんだ。さっさと伝えとけよ。ほら、パック持っていくついでにでも」


「ついでで言うわけないだろ」


「お、意外とシチュエーションにこだわるタイプか。俺も母ちゃんにプロポーズするときは花束用意したなぁ」


 しみじみと語るバギは放っておいて、宿屋にパックを届けに行くことにした。


 今日は蛇男はいないようだった。


「ヴィンセントさん、娘にご用事ですか?」


 ヴィンセントに気づいたクレアの母が声をかける。クレアの護衛もしているので、両親からは信頼されていると思う。


「魔道具ギルドから、コーヒー用のパックが出来たので届けにきました」


「渡しておきますね」


 クレアに会えず残念に思いながら宿屋をあとにする。予定もなく、ぼーっとしながら町へ向かう。迷宮ダンジョン以外にもあちこち潜りに行くので、拠点は町中にしていた。町からだと乗り合い馬車にも乗りやすい。


 帰るか。


 拠点にしている宿へ向かった。長期不在でも荷物を預かってくれるから助かるのだ。


 俺が団長や蛇男に感じていたのは嫉妬なのか。歩きながらバギに言われたことを思い返す。


 以前にも散々からかわれたことがあった。

 依頼主なので丁寧に接するようにしていたが、あの時から態度に表れていたのだろうか。


 町中を歩けば、沢山荷物を持ったクレアが1人で歩いていた。両手いっぱいに紙袋を持って重たそうだ。


「クレアさん、外出なら声をかけてくれればよかったのに。1人は危ないですよ。荷物持ちます」


「……バレてしまいましたか」


 バツが悪そうである。紙袋の中にはラッピングされたものが入っていた。団長へのプレゼントだろうか。荷物を持とうと手をのばす。


「自分で持ちます」


 護衛なのに1人で買い物に出掛け、荷物を持つのも断られ、ショックを受けた。


「あの、このプレゼントのこと、皆には内緒にしてくださいね」


「………皆って?」


「新しい保存食が発売されたら、お世話になった皆と慰労会といいますか、パーティーをしたいなと思ってまして……。ヴィンセントさんや不死鳥の皆さんとか、バギさんとか、皆に渡すプレゼントを買いに行ってたんです。今日はヴィンセントさんが来る予定じゃなかったから、内緒で用意するつもりだったんですけど、残念ながら見つかってしまいました………サプライズの予定が……」


 落ち込むクレアがあまりにも可笑しくて、ヴィンセントは笑ってしまった。


「俺は何も見なかったことにしますよ。ほら、俺の分じゃないのだけ持ちますから」


 4袋のうち2袋を渡される。


「重たいでしょう、もう1つ持ちます」


「いや、その、これ好きそうだなーとか、これもいいなーって悩んだ結果複数になりまして……」


 恥ずかしそうにゴニョゴニョ言うクレア。自分のことを考えて色々用意してくれた事実が嬉しくて、幸福感に包まれる。


 最初はクレアの力になりたいと思った。次第に会えただけで喜び、他の男の話を聞けば嫉妬し、笑いかけられることで幸せになり、泣いてる姿を見れば心配する。多くの感情を与えてくれる人だ。彼女の姿に一喜一憂してしまう。


 こんなに感情を振り回されるのはクレアだけだ。ヴィンセントはクレアが好きなのだと、自分の恋を自覚した。

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