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新たな保存食

 あの腹痛の冒険者と出会い、保存食作りを始めて1年が経過しようとしていた。


 パックの依頼をしてから2ヶ月半、予定より長めの日数が必要となったが、魔道具ギルドからクレアと冒険者ギルドへパックが出来たと連絡が届いた。


 パックが出来上がったことで、クレアの仕事は慌ただしくなる。先に渡してもらったパックを利用していくつか試作品を作り、パックの出来を確認する。密閉保存は問題なく出来ており、食品を入れたあとに熱で封をすることも、湯煎も問題なく出来た。修正はパックに切れ目を入れて開けやすくするようにして欲しいと伝えるだけで済んだ。あとは、食品が半年持つことを確認するだけだ。


 フリーズドライの保存テストはバギサンから試作品として先に渡された袋で2ヶ月持つことは確認済みだ。現時点では2ヶ月しか確認出来てないが、実際にどれくらい持つかはまだまだ見守る必要がある。瓶詰保存食の加熱殺菌で2ヶ月以上持つことはわかっているので、同じ加熱殺菌を行うパック保存食は長期保存食として各ギルド立ち会いのもと先に契約することとなった。


 宿屋の仕事はしばらく免除してもらって商業ギルドと冒険者ギルド、魔道具ギルドの各代表者と保存食開発のクレア、パック開発のバギの5人で販売について協議する。


「まず確認だが、フリーズドライとパックを使用した保存食は以前話していた一律1%の情報提供料ということで、変更はないか?」


 冒険者ギルドのギルド長エクエスが確認する。


「この技術の情報提供料が1%なんて低すぎます!前回は条件付きだから見逃したが、お人好しにも程がある!!今後の新たな開発者のためにもこんな前例は作ってはいけない!」


 反対するのは商業ギルドのギルド長アレックスである。


「国中にこの技術を普及させることが一番大事なので、この安さでいいんです。なんなら0.5%でもいいくらいです」


 瓶詰保存食は着実に広まり、今では瓶詰の情報提供料だけで家族が養えるほどの収入になっている。支店を構える宿屋は2%にしていたが、1%に減らしても充分な売上だ。


「うむ。今や国中に広まりつつある瓶詰保存食だ。このフリーズドライも同じように広まると考えていいだろう」


「なんでもいい、せめて何らかの条件をつけて下さい!こんなに販売が上手くいくことが確約された技術の方が珍しいんだ。あの情報提供料はこの条件があったから安くなったのだという例にしてもらわなければ商業ギルドとして認められない!」


「今後の開発者のために安くしてはならないという理由はもっともです。それでは、私は保存食の参考にするため、ダンジョンに潜った際に身の程に合わないSランクパーティーの方に護衛していただきました。私が護衛を頼むときは、本来貴族を護衛するAランク以上の方に勤めてもらうというのを条件にするのはいかがでしょうか」


 クレアの護衛はAランク以上に、というのは以前ヒルデから伝えられたことだが、条件として組み込んでしまえばいいと考えたのだ。


「今のクレアさんの護衛を強固にするのは当然だ。その条件に、依頼料は冒険者と商業の両ギルドで折半するというのを入れよう。それから、クレアさんは今後同業者からの嫉妬や妬みも買うだろう。ボディガードとしてAランク以上をいつでも派遣するという内容にしたらどうだ」


 エクエスがクレアの案に付け加えて提案する。


「若い女性の開発者は破格の情報提供料の代わりに身の安全の保障を求めたということか……。うむ、それならいいだろう。冒険者ギルドの仲介手数料を引いた金額を折半ですよ」


 苦々しい顔をしながらも認めたアレックス。無言で頷くエクエス。話は次へ進む。


「フリーズドライの製造には風と氷の魔法使いの協力が必要になります。人材派遣は冒険者ギルドで請負っていただくということでよろしいでしょうか」


 クレアはエクエスに確認する。


「ああ、但しこの仲介手数料は依頼してきた店から適正価格でいただく」


「もちろんです。次に、この技術について各地への伝達及び飲食店などへの周知は商業ギルドにお任せしてよろしいでしょうか」


「ええ。各支部に伝達し、一斉に取りかかりましょう。講習会や人件費といった経費は、販売を希望するお店へ講習料として請求します」


「わかりました。最後にパックの販売についてですが、販売価格についてはバギさんからご説明をお願いします」


「おうよ。材料は企業秘密にさせてもらう。どうせ作るのは魔道具ギルドだからな。材料費が1枚辺り0.3ゴールドだ。製造に圧をかける特殊な設備が必要になるから、材料費は設備費のことを考えると販売価格は1枚3.5ゴールド以上になる。そこに、俺への技術提供料を加算して100枚入り400ゴールドで販売ってとこだな」


 1枚4ゴールド、日本円だと40円だ。日本のレトルト食品の金額を考えると高く感じるが、瓶詰と比較すればかなり安く抑えられる。これなら今まで販売価格が一瓶50ゴールドを越えていた保存食も、30~35ゴールド程に抑えられるはずだ。


「それから、作ったのは俺だが構造を考えて依頼した嬢ちゃんにも取り分があるべきだと思う」


 そこは盲点だった。


「販売価格が上がってしまうのは避けたいです」


「嬢ちゃんならそう言うだろうと思ってたぜ。そこで提案なんだがな、この構造の情報を魔道具ギルドに買い取らせてもらえんか」


「買取りですか?」


「ああ、嬢ちゃんは構造について他に漏らさない誓約書を書いてもらう。このパックの製造販売出来るのは魔道具ギルドのみとなる。その代わり情報料として30万ゴールドを嬢ちゃんに支払う。どうだ」


「30万!?」


 依頼料が10万だったのに、3倍になって返ってくるとはどういうことか。


「ここからは私が。魔道具ギルドの経理です。クレアさんはこのパックをダンジョンの保存食として使用することを目的としてますが、一人暮らしの方や旅行のお土産に名物料理の包装としての利用など、考えられる用途は多岐にわたります。我々としては先行投資してでも独占したい。圧をかける設備に費用がかかったため今は回収のために高めの販売価格を設定してますが、設備を整えれば1枚1、2ゴールドでの販売も可能になります。値下げはしても値上げしないことをお約束しますので、どうか売ってくれませんか」


「売るのは構いませんが、依頼料を支払ったのはギルドですし……」


 受け取っていいものか戸惑うクレア。エクエスは呆れたように話す。


「クレアさんはお人好しが過ぎるんじゃないか?依頼料は魔法使いの人材派遣による仲介手数料で回収する。君が考えたんだから受け取って当然だ。もっと強気でいきなさい」


 組長の貫禄を持つ人に言われたくない。


「わかりました。パックの権利をお売りします」


「ありがとうございます」


 それぞれのギルドから大筋は了承されたので、誓約書の内容を微調整して署名する。


 フリーズドライとパック保存食はクレアがあと2ヶ月保存テストを行い確認したあと一斉に周知され、各店で商品の保存が問題なく持つか確認してからの販売となる。


 ダンジョン攻略に3ヶ月も潜る人はいない。販売日を早くするため最初は保存期間3ヶ月として販売することとなった。半年後も持つことを確認したら保存期間は半年として販売するお店も出てくるだろう。


 各店からの一斉販売は12月か1月の予定となった。クレアが成人を迎える、16歳の誕生日頃となる。

時系列の補足説明


クレア14歳

6月に腹痛の冒険者と出会い瓶詰保存食を作る

9月に瓶詰保存食販売

10月~11月あたりで他店と冒険者にトラブル発生、商業ギルドへ呼び出される


クレア15歳

2月にヴィンセントと出会う

3月にシミリスと出会いダンジョンへ潜る

4月にシミリスとデートする

6月下旬にパック完成。←イマココ


8~9月に各店へ一斉周知

12月~1月発売予定

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