これは恋の話
「あの護衛のときに話しただけなので、どうと言われてもよくわからないです」
「そうよねー。団長が早すぎるんだよ。ねぇクレアさんって前にヴィンセントのこともギルドで話題になってたよね」
「あぁ、ヴィンセントが髪型を整えてカッコつけてクレアさんとギルドに来たって噂になってたわね」
「魔道具オタクのヴィンセントに、ダンジョン狂の団長、アドルはふざけたヒモ発言してるから冗談だろうけど、なかなか浮わついた話が出ない奴がクレアさんと話題になってるよねー」
「クレアさんは実際どんな人が好みなの?お付き合いしてる人はいる?」
「彼氏はいませんよ。好みは、うーん。誠実な人でしょうか。一緒にいて落ち着けるというか、安心できる人がいいです」
「意外と大人な意見ね。今まで付き合ってた人っているの?」
「………います」
クレアとしてはいない。しかし、ここでいないと答えるとヴィンセントに二度と会えない大切な人がいると伝えたことがややこしくなるのでいると答えることにした。
「どうして別れたのか聞いても良いかしら?」
「遠くに行ってしまって、そのまま……という感じです。ヴィンセントさんがその彼に似てて、彼のことを思い出して泣いてしまったことがあって、まだ元カレを少し引きずってるんです」
「あー!!それであいつ髪型変えたんだ!クレアさんの元カレに似てるから!」
「元カレと違う姿にしようって、かなりクレアさんのこと意識してないとわざわざ変えないわよね。あの寝癖のままギルドの昇格試験に来るヴィンセントよ?」
「これは、団長にライバル出現だわ」
「私のことはいいですから、お二人はどうなんですか?」
「あたしはダンジョン踏破して褒賞金受け取って、それを元手にダンジョンに潜る人向けの服飾系に進みたいと思ってるから、生涯独身の予定だよ。クレアさんがダンジョンでも美味しい食事を用意してくれたみたいに、ダンジョンでも可愛い服やアクセサリーをつけられるようにしたいんだ。やりたいことがたくさんあるから、恋愛はいいかなって思ってる」
確かにジュリーはダンジョンではシンプルだが、普段着はダンジョンに潜る女性には見えない可愛い姿をしている。
「私は彼がいるけど、ダンジョンに潜るのをやめてくれって言いだしたからそろそろ別れようかしらと思ってるわね」
「そこだよねー。彼女がダンジョン潜るの嫌がる男は多いから、なかなかうまくいかなくて疲れちゃうんだよね」
遠くを見て深いため息を吐くリリィお姉様とジュリーお姉様。これ以上聞いてはならない。
「パーティー内で恋愛関係にならないんですね」
シミリスは公開プロポーズのときにパーティーに入って欲しいと言っていたので、パーティー内の恋愛関係はよくあることなのかと思っていた。
「んー、ギルド員では同じパーティーで恋人になる人もいるけど、うちは死に戻りしても踏破を諦めない不死鳥だからね。好きな人が目の前で死ぬのを見るなんて耐えられないから、自然と対象外になるって感じかな。若い女性が苦手なビクトールも、私達は女性として認識してないみたいだし」
言われて納得した。あとで生き返るのがわかっていても、目の前で愛する人が死ぬのは耐えられない。
「あ、でも団長と結婚してパーティー入ってくれるのは大歓迎だよ!団長はなかなか死なないし、タンクっていう率先して攻撃を受けて皆の壁になる役なんだけど、絶対クレアさんを助けてくれるから安心して。ていうか団長を振ってパーティー入ってくれても歓迎するよ。美味しいご飯が食べられるなら団長の恋愛事情なんてどうでもいいから」
ジュリー、スーパードラァァァァイ。
「団長に恋愛感情があることすら知らなかったものね。パーティー組んで何年か経つのに、恋人の話なんて1度も聞かなかったもの」
「恋人通り越してプロポーズだったねー」
「そういえば団長って26歳だけど、クレアさんは歳の差が気になる人?」
「いや、気にならないです」
前世の記憶が27歳まであるので。
「そう。団長にも可能性があるなら、ぜひデートして欲しいわ。どんなデートだったか、またお茶しましょうね」
「これからも仲良くしてね。パーティーは危険すぎるから無理は言わないけど、今日みたいにお買い物したりお茶したりしよー。ダンジョンばっか潜ってると歳が近い女友達ってなかなか出来ないんだよね」
「はい。ぜひ!」
気が重かった恋の話しだったが、意外と楽しい時間を過ごせた。
そして、不死鳥の2人は団長にショッピングのお礼で絶対に断られないからクレアをデートに誘えと焚き付けるのだった。




