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料理の魔法使い

 ダンジョン見学を終えて、皆でギルドへ帰還の報告をしに行くとヒルデさんが出迎えてくれた。


「無事に帰られてなによりです。ダンジョンはいかがでしたか?」


「とても参考になりました。試したい新作が沢山あります」


「そう。楽しみにしてますね。不死鳥の皆さんもご苦労様」


「いや、こちらもクレアさんの新作を食べさせてもらえて本当に感激した。あれは瓶詰を凌駕する保存食だ」


「貴方が手放しに褒めるなんてよほど良いものなんでしょうね」


「瓶詰保存食は別だが、あれを食べたときに今までダンジョンで食べていたのは家畜のエサだと思ったくらいだ。人間であることを思い出させてくれたよ。我々が出資金を出してでも優先的に販売してもらいたいくらいだ」


「出資金?」


 ヒルデは出資金に引っ掛かり聞き返す。


「あぁ。長期保存のためにヴィンセント経由で魔道具ギルドに特殊な包装材を依頼しようと資金を用意してるそうだ。冒険者ギルドが出資することで発売が早まれば、たとえ仲介手数料に不満を持ってるギルド員だろうと我々に還元してくれたと全員がギルドを見直すだろうな。ギルドが出資しないのであれば、パーティーの活動費から出資しようと考えている」


「そう………。ねぇクレアさん、ギルドとして出資を検討するためにも私と冒険者ギルドのギルド長にも試食させてもらえないかしら?」


「もちろんです。ご用意でき次第お持ちします。でも、いいんでしょうか。ヴィンセントさんや不死鳥の皆さんの依頼もすべてギルドから支払っていただいているのに、さらに出資をご検討いただくなんて……」


 プレッシャーで胃に穴が空きそうである。不安そうなクレアをみてシミリスは声をあげた。


「クレアさんは自信を持つんだ!!たとえ出資金が10万ゴールド、100万ゴールドとかかっても、あれは全国で爆発的に売れる!億を越える経済効果がある!!」


 団長の声が大き過ぎてギルド中のギルド員が何事だと注目する。


「それから、クレアさんに頼みがある。あれからよく考えたんだが、開発の目処がついたら私たちのパーティーに入ってくれないか。私のご飯を毎日作って欲しい」


 わっと歓声が沸き上がる。

「公開プロポーズだぁぁぁ!!毎日俺の飯を作ってくれってよぉぉ!!」

「あのダンジョン狂の団長が保存食の娘にプロポーズしてるぞぉぉお!!」

 ピィーー!と口笛の音がする。シミリスは歓声を否定せず続けた。


「クレアさんの作る料理は魔法のようだ。料理の魔法使いとして、支えて欲しい」


「胃袋だぁぁ!胃袋を掴まれてるぞぉぉ!!」

「あのシミリスにも人間の感情があったんだぁぁぁ!!」


「いやいやいや!パーティーの話ですよね?プロポーズじゃないですよね?」


 騒ぎが大きくなり、クレアは慌てて否定する。


「プロポーズと思ってもらって構わない。妻としてダンジョンでも支えてくれるなら、俺にとってはこれ以上ない最高の伴侶だ」


 真剣にクレアを見るシミリス。そこに声がかけられた。


「ちょっと待ったぁー!」

 

 アドルフォイである。


「クレアさんは、ずっとこんなダンジョン狂いと過ごすより癒してくれる人と過ごしたいよね?僕なら保存食で忙しいクレアさんを支えるよ。もともとダンジョン踏破のために国の命令でパーティーに加入してるからね。ここの攻略が終われば、クレアさんを支え続けることを誓おうじゃないか」


「アドルは養われてぇだけだろうがー!!」

「引っ込めヒモー!!」

「情けねぇぞー!!」

 歓声は罵倒に変わり、あちこちからブーイングが聞こえる。騒ぎを見かねてヒルデが助け舟を出してくれた。


「あらあら、クレアさんが誰を選ぶかは自由だけど、まだ未成年なんだから貴方達犯罪よ。ギルドの風紀を乱さないためにも、見逃せないわ」


「すまない。クレアさんは受け答えもしっかりしていて、まだ未成年とは知らなかった。てっきりジュリーのように幼く見えるタイプかと勘違いしていた。では、成人してから返事をもらえないだろうか」


「は、はい」


 クレアは急展開にたじたじである。


 騒いでいたギルド員達は「結果はお預けかよ」と残念そうにしながら解散する。


「まさか団長に家庭を持つ意志があるなんて思わなかったわ」


 リリィも、他のメンバーも驚いていた。


「ほんとほんと。ダンジョンが恋人なんだと思ってた。アドルは本気かわかんないけど、団長は本気だね」


 リリィはクレアを見てニヤリと笑う。


「クレアさん、よければ今度個人的にお茶しに行きましょう。色々話してみたいわ」


「あたしも行くー!」


 あっ、これ絶対恋ばなだ。誰が気になってるか根掘り葉掘り聞かれるやつだ。


「開発の目処がついたら、ぜひ」


「絶対だよ!」


 忙しいことを理由にして遠回しに断りたかったが、どうやら断れないらしい。すでに気が重いクレアであった。

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