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遺跡の中

 様子がおかしくなった皆だったが、ビクトールがパーティーの活動費よりまずは冒険者ギルドが出資するのが筋じゃないかと真面目な話をして落ち着かせていた。


 我々が優先して買えるように自分達で出すんだと荒ぶるシミリスを、冒険者ギルドが出資すれば保存食のことで他の冒険者から冒険者ギルドへの支持が上がり、クレアが資金に悩んでいるという悩みを聞き出資の話をギルドへ持ちかけることで保存食のクレアさんとギルドの仲を強固にするのに一役買ったパーティーだとギルドから自分達の株も上がるから、万が一ギルドが出資を渋るようであれば我々が出すなり今回の護衛依頼料を辞退するなりして都合をつければいいと説得していた。


 というか、この勢いだとシミリス達は出資したことを理由に買い占めかねない。暴走するメンバーを依頼主の手前、なんとか落ち着かせようとするビクトールは常識人であった。


 クレアはクレアで、Aランクのヴィンセントの指名依頼料とSランクパーティーの護衛依頼だけでもかなりの金額なのにさらに出資を募るだと?と内心ハラハラしていた。今回の護衛依頼料を辞退して前金の都合をつけられるということは、Sランクパーティーの護衛任務は3万から10万くらいするものなのかと考えると冷や汗が止まらない。


 なんとか落ち着いたメンバーとまたダンジョン内を駆け抜ける。午前と違うのは今日の夕飯はクリームパスター♪と歌う声が後ろから聞こえることくらいだ。相変わらず魔物の肉塊が視界を舞っている。


 地下1階から地下3階は土の中のアリの巣のようなダンジョンだった。こんなに横道だらけでよく崩落しないものだ。


 ダンジョン内にはあちこちで道を照らすために火が灯っているが、この洞穴の中で酸素はどこから供給されているのか謎だ。不完全燃焼で一酸化炭素中毒を引き起こさないのだろうか。これもダンジョンの不思議の1つなのだろう。氷の階や城の階なんて、地下に何故そんなものがあるのか謎は深まるばかりだ。


 気温は多少蒸し暑い程度で、カゴの中で過ごす分には問題ない。ずっと走り続けているパーティーメンバーは汗を流している。スポーツドリンクの粉みたいに、ミネラル補給出来る保存食も必要になりそうだ。


 思い付いた保存食のアイディアをメモしながら過ごす。いつの間にかまた階段につき、地下4階へ降りて広い遺跡の中のようなダンジョンに切り替わった。ひんやりとした空気が漂っている。


「よーし到着。宝箱の部屋が空いてれば、そこで野営にしよう」


 駆け抜けていた旅はやっと歩きに変わり、遺跡の中を見て回る。お目当ての宝箱の部屋はすぐ見つかったようで、広い部屋にポツンとあった宝箱を叩き割った。宝箱の中からは肉塊が現れたので、どうやらミミックのようだった。ミミックはしばらくするとサラサラと黒い霧となり、モンスターの絵が描かれたメダルが落ちた。


「汗で風邪引く前に浄化浄化」


 治癒魔法使いのアドルフォイが綺麗な白い杖で魔法をかける。服が汗ではりついて強調された体のラインがエロスを醸し出していたリリィさん含め、全員ダンジョン突入前の綺麗な姿に戻った。


「ダンジョンでお風呂には入れないけど、これで我慢してもらえる?」


 アドルフォイはクレアを気づかって声をかけた。


「大丈夫です、ありがとうございます。ご飯用意しますね」


 要望されてた豆乳クリームパスタ、野菜スープと寝る前なのでコーヒーではなくレモンの蜂蜜漬けをお湯で薄めたホットドリンクを用意した。男性陣が物足りないといけないので瓶詰保存食のコンフィも温めておく。せっかくなので、市販品ではなく試作品の怪鳥のコンフィである。淡白な怪鳥の肉をニンニクと唐辛子でペペロンチーノと同じ味付けにした。


 作り方を見たいとシミリスとリリィが食事の用意を見学したが、昼食のときに説明した通りだ。作り方のコツをしいて言うなら豆乳スープをソース用にお湯を少なくして濃いめにしたくらいである。あとはお湯を沸かすのみで出来上がりだ。


「この食事が半年から1年……毎食………」


 どこからとともなくボソッと聞こえた呟き声に、また皆がおかしくなるのではと若干身構えたが理性を保ってくれた。


 パーティーメンバーは交代で見張りをしてくれて、クレアはジュリーとリリィの間で雑魚寝した。


 石の上に毛布を広げて寝るのは節々が痛くて熟睡できない。睡眠不足のまま次の日を迎えた。

 今日もカゴに入り、遺跡のダンジョンを歩いて探索する。トラップが多いそうで、ジュリーが先頭を歩く。


「この遺跡のような階層では、魔道具が出やすいのでヴィンセントもよく潜ってますよ」


 団長が遺跡内を案内してくれる。昨日と違い雑談する余裕もある。


「魔物だとゴーレムがよく出ます。たまにゴールデンゴーレムが出てレアアイテムが狙えるので、アイテム回収をメインに活動してる人達が多いですね」


 保存食のきっかけになったお腹を壊した冒険者も、この辺りで腹痛になったのだろうか。彼が冒険者の食事事情を教えてくれたから思い付いた保存食が、まさかこんなに大事になるなんて思ってもみなかったな。


 せっかく護衛付きで安全にダンジョンへ潜れたのだ。学ぶことが沢山ある。ダンジョン見学ツアーに集中した。


 ダンジョン探索中にフリーズドライが役立つことはシミリス達の反応で十分理解した。戦闘で汗をかくことを考え、味付けは濃いめのほうがよさそうだ。


 スポーツドリンクの粉やミネラル補給できるもの、甘いものが好きなジュリーのような冒険者向けに甘いメニューも何か考えたい。


 ダンジョン内には安全な場所はない。食事の用意をする時間もない。調理器具を運ぶ余裕もない。鍋1つで簡単に用意できるものがいい。やはりバリエーションを増やすには、レトルトパウチが必要不可欠だ。


 ダンジョン探索が長期になるとビタミンC不足により出血する壊血病、日光不足からビタミンDが不足することで起こる骨軟化症など、気になる栄養障害もある。いかに不足を回避するかがダンジョン踏破には必要となってくるだろう。


 フリーズドライではスープだけでなく、野菜も用意する予定なので、フリーズドライの食材を使用したレシピ集があってもいいかもしれない。簡単に調理出来るとわかれば初めて見る食べ物でも挑戦しやすいだろう。


 クレアにとって実りの多いダンジョン見学となった。

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