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いざダンジョンへ

 二泊三日でダンジョンに行ってくると伝えると危険だと反対してきた父親をSランクの護衛がつくからとヴィンセントを巻き込んで説得するすったもんだはあったものの、なんとか迎えたダンジョン見学当日。ギルドで不死鳥の皆さんと集合し、朝からダンジョンへ向かった。ダンジョンは危険なため入り口が警備されており、受付で身分証を提示して何日潜る予定かを伝える。戻ってこなかった場合何らかのトラブルが発生したとみて捜索隊が出動できるようにしているそうだ。登山みたいだなと思いながら列に並んで受付を待つ。


「不死鳥と保存食のクレアさん。二泊三日で」


「彼女が噂の……。どうぞ」


 不死鳥の団長シミリスの後ろについて手続きをおこなった。入口の警備の人達にジロジロ見られ居心地の悪い思いをしつつ、受付を終えてダンジョンに入る。入り口は木で補強された洞穴のようだった。後から入る人の邪魔にならないよう開けた場所まで進み、ビクトールが背負っているカゴの中に入る。ちゃんとダンジョン内が見えるように体育座りをしても頭が出るサイズだ。しかも乗り心地を配慮してくれたのか、毛布やらクッションやらで走っている振動が和らぐようにしてくれている。


「クレアさんの荷物はアドルが持ちます。もし振動で気持ち悪くなったらアドルに言ってくれれば治癒魔法で治せるので遠慮なくどうぞ」


 内臓破裂を治せる人に乗り物(?)酔いを頼むのも気が引けるが、カゴの中で吐くわけにもいかないので遠慮なく頼もう。


「それじゃ、行くか」


「はいよー」


 ジュリーが小さな杖のようなものを振りかざし、全員の身体に身体強化の魔法をかける。そのままクレアにも淡い光がオーロラのように波打って身を包んでくれた。


「クレアさんには念のため、走りながら倒した魔物の死体とかうっかり飛び散っちゃうかもしれないからバリア張っとくね」


「ありがとうございます!」


 心から感謝の気持ちが表れた。


「今日の目的は4階まで最短で地下に行くこと。ルートは頭に入ってるな、駆け抜けるぞ」


 全員が団長と頷きあい、駆け出した。

 人間に背負ってもらっているはずなのに、バイクに乗っているかのような速度で進んでいる。迷宮と呼ばれるほど広く、道に迷いやすいダンジョン内をたった1日で地下4階まで駆け抜けるなんてこのパーティーしか出来ないのではないだろうか。


 走りながら時々現れる魔物は瞬殺され、クレアの視界には主にシミリスに切られたりビクトールに殴られ破裂したりと、なかなかグロい姿の魔物が飛んでいく。ぶよぶよしたゼリーのような物体はスライムかなぁとかろうじてわかる程度で、他の魔物は死体というか肉塊にしか見えないなぁと宙を舞うスライムの残骸を見ながら思った。


 時折ジュリーがスタミナ回復の魔法をかけ、たまに現れる体の大きな魔物はリリィが風魔法でかまいたちを飛ばして細切れにし、何時間も立ち止まることなく走り続けた。


 他の冒険者たちを何十人も追い越して階段から地下へ降りる。地下三階へ降りたとき、やっと食事休憩となった。昼食はお店で用意してきたサンドイッチと糖質とミネラル補給にレモンの蜂蜜漬けだ。長時間走ること考え、茹で卵と鶏むねのひき肉を使用したソースを挟んだ低脂質高たんぱくサンドイッチである。リリィに魔法でお湯を少量沸かしてもらい、希望者にはフリーズドライのスープとコーヒーも用意した。


「なんでお湯をかけただけで出来るの?」


 興味深々な表情でリリィに聞かれる。


「まだ開発中の保存食なので、内緒です。他の人にも内密にお願いしますね」


 ジュリーがスープを飲みながら興奮して話しだした。


「これすごいよね!あのまずい硬いパンでもこのスープがあればお湯沸かすだけでスープにパン浸しながら食べられるわけでしょ?ほんとすごいよクレアさん!神!女神!しかも自分たちで作るより美味しい!どれくらい持つの?」


「半年から1年くらいは持ちますよ」


「1年!?」


 目を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべる。


「瓶詰保存食でも衝撃を受けたが、これは……。これがあればダンジョン踏破の難易度が劇的に下がるんじゃないか?」


 信じられないものを見るような顔でシミリスは手元のコーヒーを見た。


 隣に座るアドルフォイは「これ相当儲かるよな」と下世話な話をしている。ビクトールは黙々とサンドイッチを食べていたが、口を開いてぼそっと「うまい」と呟いた。ヴィンセントがビクトールは若い女性が苦手だと言っていたので、きっと彼なりの感謝なのだろう。


「ねぇクレアさん、今回用意してくれた食事って他にどんなのがあるの?」


 ジュリーは大きなくりくりの瞳をキラキラさせながら聞いてくる。


「同じお湯で戻る豆乳スープがあるので豆乳スープを使って茹でたパスタとチーズを入れて絡めるだけのクリームパスタにしたり、野菜もお湯で戻るように加工できるのでミートソースの瓶詰と揚げなすやキャベツ、ニンジンを合わせて鍋で煮てパンにのせたりしようかなと思ってます。保存食じゃないですが、おやつにドライフルーツをお酒のシロップにつけてしっとりさせたあと練り込んで焼いた甘いパンもあります。アルコールはとばして、お酒の風味だけ残ってます」


「最高じゃん!!簡単にダンジョンでまともな食事を食べられるなんて信じらんない!!おやつ今食べるー!」


 鞄からパンを出して渡すと幸せそうにジュリーは頬張っていた。


「クレアさん、これはいつから買えるようになるんですか?今後試作品を分けていただくことは出来ませんか?もちろんお金は支払いますから」


 シミリスが血走った目で怖い顔をしてクレアを問い詰める。ダンジョンの鬼と呼ばれるシミリスに怯え言葉に詰まっていると、シミリスはさらにズイズイ顔を寄せてきた。


「団長ストーップ、顔怖いよ。気に入ったのはわかるけど、クレアさん怯えてるから離れて離れて」


 アドルフォイが団長を制止してくれて心底助かった。


「すみません、気に入っていただいてありがたいのですが、実は湿気に弱いので今魔道具ギルドで特殊な包装の開発を頼もうとしてまして。他にも瓶詰しなくても長期保存出来る包装も依頼したくて、まだ開発費用の前金を貯めているところなので発売がいつになるかわからないんです」


「その開発費用はいくらですか?私が魔道具ギルドの言い値で払います。出資させてください。全員パーティーの活動費からでいいだろ?」


「さんせー!!優先的に買わせてね!」

「もちろん」

「僕もいいと思う」

 ビクトールは無言で頷く。


「いや!そんな!悪いですよさすがに!!ヴィンセントさんが値切ってくれたとはいえ3万もかかるんですよ!?魔道具ギルドの言い値なんて10万ですよ!?」


「ダンジョンでまともなご飯が食べられるなんて、そんなことを知ってしまったら早く開発してもらえないほうが辛いんですよ!私たちにお金は払えても開発はクレアさんしかできないんです。我々を助けると思って受け取ってください」


「そうだそうだー!!これで吐血覚悟でどこに毒があるかわからないドラゴンを食べなくてすむんだー!」

「もう痺れながら変な魚を食べなくてすむんだー!!」

「笑いが止まらなくなる変な草も!叫びだす根っこも食べなくて済むんだわ!うっかり耳から血を流さなくて済むのよ!」


 皆の食料事情が想像以上に過酷すぎる。

 様子がおかしいのを見かねて、ビクトールがこそっと教えてくれた。


「俺が加入する前、何度死に戻りしてもダンジョン踏破に挑み続ける狂った不死鳥って呼ばれてて、それがパーティー名になってるんだ。みんな死に戻りを経験しすぎて少しおかしい」


 不死鳥の名前の由来は死に戻りしまくってるからだなんて……。


 Sランクパーティーの恐ろしさを垣間見た気がした。


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