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Sランクパーティー

「護衛のパーティーが決まりましたよ」


 冒険者ギルドから帰ってきたヴィンセントに声をかけられた。ヴィンセントに付き添ってもらい、護衛依頼を頼んでから3日程しか経過していなかった。あの日散々からかわれていたが、ヴィンセントは今も前髪をかきあげた髪型にしている。


「もう決まったんですね、どんな方ですか?」


「ダンジョンの踏破に一番近いと噂されるSランクパーティーです」


「Sランク⁉」


 Aランク以上は貴族クラスでないと指名依頼出来ず、Sランクとなると国家依頼を請負うことになる。迷宮ダンジョンと呼ばれるダンジョンの踏破に一番近いと噂されるとは雲の上の存在である。もちろんそのパーティーの人がクレアの家の宿屋を利用したことはない。


「保存食のクレアさんの依頼と見て受けたようです。彼らは一か月以上ダンジョンに潜りますから、瓶詰保存食は革命だと喜んでました。きっと感謝の表れでしょうね」


「それは、嬉しいですが。なんだか申し訳ないような」


「大丈夫。色んな店から販売されるようになった保存食の数がある程度用意出来るまではダンジョン潜らない予定だったらしいので、それまで暇なんですよ」


 そうは言われてもこんな小娘がSランクに護衛してもらえるなんて身の丈に合っていないのではと不安を抱える。


「不安そうですね。ほら自信もって、俺だってAランクなんですよ?」


「……え?」


「……え?知りませんでした?」


 お互いキョトンとした顔で見つめあう。


「いま、初めて知りました……。ずっとうちの宿屋に泊まってくれてますけど、依頼料相当な金額なのでは?」


「俺にとってはお金をもらえる休暇みたいなもので助かってますよ。それにどうせ指名依頼料と言ってもギルド払いですから、本来ギルドの取り分である仲介手数料が引かれたあとの金額なのでたいして痛くないでしょう」


 実際には結構な金額だがクレアが気にするのは目に見えているので黙っておくことにした。ヴィンセントは放っておくと各地のダンジョンに入り浸るので、協力期間はこの町に居続けろというギルドからの命令で開発が終わるまで支払われるのである。


「それでもAランクなんてすごい方は依頼も多いでしょうから、早めに開発しないといけませんね」


 クレアが頑張らないとと気負うのを見て、言わなければよかったなと悔やむ。あまり無理をすると前のように倒れてしまうのではないかと心配になった。


「誰も思いつかなかった保存食の開発なんですから長期依頼になるのはギルド側も覚悟の上でしょう。俺も助かってますから、焦らずゆっくりでいいんですよ。ダンジョンに行ってみたり、保存食の香辛料とか新しい食材探しに遠くへ行ってみたりするのもいいんじゃないでしょうか。それも保存食開発に必要なことですから」


「そうですね、期待されている分美味しく良い物を用意しようと思います」


 まだ困り眉で不安そうではあるが、少しは持ち直したようだった。


「クレアさんが納得出来る物を作りましょう、俺も協力しますから。そうそう、護衛パーティーとの顔合わせはいつにしますか?」


「顔合わせですか?」


 何故するのか理解していなさそうなクレアを見て、ヴィンセントは仕組みを説明する。


「護衛となると何日間か一緒に過ごすことになる依頼が多いので、顔合わせをして相性が悪ければ別のパーティーに変更出来るんですよ」


「Sランクの方を変更なんて滅相もないです!」


 慌てて両手をブンブン振って否定する。


「Sランクだからこそ、なかなか癖の強い人達だから会った方がいいですよ」


 理由を聞いて確かに、と納得したクレアは翌日ヴィンセントと共に冒険者ギルドへ向かった。


 ギルドの二階にある応接室へ案内されると、すでに5人が待っていた。ドアを開けた瞬間全員の視線がクレアへ真っ直ぐ向けられる。

 テーブルの空いた席へ案内され、ヴィンセントと並んで座った。


「よう団長さん。こちらが今回の依頼主、保存食のクレアさん」


 ヴィンセントは相手と面識もありリーダーらしき人へクレアを紹介する。


「初めまして、今回は依頼を受けていただいてありがとうございます」


「初めまして。こちらこそ、クレアさんの保存食には日頃お世話になってます。今回護衛依頼を受けた不死鳥のタンク兼アタッカー担当シミリスです」


 光が当たると紫がかっていることがわかる髪色の、短髪でがたいの良い二十代半ばほどの男性が真っ先に挨拶をする。不死鳥というのが彼らのパーティー名のようだ。


「同じく不死鳥の治癒魔法担当アドルフォイ。もし内臓破裂してもその場で治せるから安心して」


 それのどこが安心できるのか。しれっととんでもないことを話すのは、髪はオレンジよりの金色で長い前髪が鬱陶しそうなひょろっとした男性だ。二十歳前後に見える。シミリスと並んでいるから体格差がわかりやすい。


「ちょっと、クレアさんに怪我させちゃダメじゃん!護衛任務であんたの役目はないの!あたしは弓を使って先制攻撃で相手に状態異常にしたり支援魔法で援護したりしてます。あと罠解除担当のジュリーでーす!」


 少年のように短い綺麗な銀髪、褐色の肌にクリクリの大きな瞳の小柄な女性だった。クレアと同じくらいの年齢に見える。


「攻撃魔法担当のリリィよ。私の影に居てくれたら、敵が50m以内に近づくことはないわ」


 燃えるように赤い髪、すらりとのびた手足、お腹は引き締まり胸とお尻は丸みがある。同じ女性として羨ましくなるプロポーション、女性から見ても美しい人だ。シミリスと同年齢くらいだろうか。


「打撃メインのアタッカー、ビクトール」


 黒髪をオールバックにし、不機嫌なのか目つきが悪いのかつり上がった眉に細い目。クレアより30センチ以上身長が高く、こちらを見下すように見ているようだ。ヤのつく自由業のご経験者だろうか。打撃メインなだけあり、パーティー内で一番体格がよくプロレスラーのようだ。


「この5人でパーティーを組んでます。長期のときは荷物運びに馴染みのある人間を雇ってますが、クレアさんが保存食の参考にダンジョンに潜るならそこまで日数はかからないと思い今回は我々だけにしました。よろしいでしょうか?」


 クレアのような小娘が相手でも、Sランクパーティーのリーダーであるシミリスは礼儀を欠かさない。


「はい。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。ダンジョン内のことはどれくらいご存じですか?」


「うちの宿に宿泊されるお客様が話している内容を聞きかじった程度で、迷宮と呼ばれるほど広大で魔物が現れる危険な場所というくらいしか知りません」


「一般の方はそれくらいでしょう。内部をざっくり説明すますね」


 シミリスが説明してくれた内容はこうだ。

 地下1階~地下3階までが土や岩で出来たダンジョンで、魔物も弱いものが多い。

 地下4階~地下7階が遺跡のようなダンジョンで、魔物の種類も多く見応えがある。アイテム回収メインの冒険者はこの辺りまでしか潜らないことが多い。

 地下8階が氷、地下9階が樹海、地下10階が溶岩、地下11階が虫と各階特徴的で過酷な環境が続く。

 地下12階から城に入り、地下13階が城下町の廃墟と続き、城からダンジョン終盤の特徴であるドラゴンが出現するので、おそらく地下15階から長くても地下20階までには踏破出来るのではないかと予想されている。


 シミリスが説明してくれたダンジョン内の話はクレアの想像以上に過酷だった。体に卵を産み付けてくる虫の魔物なんて遭遇したくない。


「踏破目的以外は地下7階まで活動していることが多いので、保存食の参考にするのもその辺りまででいいでしょう。地下8階からは環境が厳しすぎるので潜らない方がいい」


「そうします。何日くらいかかるでしょうか」


「初日に地下3階まで駆け抜けて、2日目に4階5階を見て回りアイテムで帰還する1泊2日か、3日目を足して6階7階を見て回る2泊3日。じっくり見て回るなら各階1日ずつで1週間程でしょうか」


「では、仮に2泊3日として、私は皆さんについていけるでしょうか」


 3階まで駆け抜けるところなんて出来る気がしない。


「ああ、クレアさんが走る必要はありません。道中は椅子のような物か、カゴを私とビクトールが交代で背負って、そこにクレアさんに座ってもらい移動しようと思います。ダンジョン内は足下にトラップなどの危険もあるので念のため。魔物が現れたらカゴを降ろすので、リリィのそばへ行って下さい」


「わかりました。それでは2泊3日でお願いします。皆さんの食事はこちらで用意します」


 クレアはせめてものお礼に、食事だけでもと思い申し出た。せっかくだから瓶詰保存食ではなく、フリーズドライの試作品を持って行くつもりだ。


「それはありがたい。今月いっぱい潜る予定はないので、何日から行くか決まったらヴィンセントにお知らせください」


 爽やかな笑顔で話すシミリスに安心感を覚え、このまま依頼して大丈夫だと感じた。顔合わせが済み、他に用もないのでギルドからヴィンセントと並んで歩いて帰る。


「思ったより皆さんいい人そうでしたね。ヴィンセントさんが癖が強いなんて言ってたから身構えてました」


「あれは相当猫被ってましたね」


「そうなんですか!?」


「ええ、とくにシミリスとジュリーが。シミリスは踏破にかける熱意が高くダンジョンの鬼と恐れられ、パーティーメンバーと争うことも多かった。ギルドで乱闘騒ぎが起これば大体シミリスがいました。今のパーティーになってからは有能揃いで落ち着いてますがね。ジュリーも普段は気だるそうにしてます。依頼主の前だから明るく振る舞ってたんでしょう。普段と変わらないのはビクトールくらいでしょうか。もともと兵士として男だらけの職場で働いていたので若い女性に免疫がなくて緊張するそうで、いつも不機嫌そうにしてますよ」


 ビクトールさんはパーティー内に若い女性が2人いて大丈夫なんだろうか。


「護衛中ずっと好青年の仮面を被れるかはわかりませんが、依頼主のクレアさんには変な態度をとらないでしょうから安心してください」


 ニコニコ楽しそうに話すヴィンセントを見て、一抹の不安を覚えるクレアであった。

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