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第1話……レベルを食べる男

 十六歳になったある日。

 花が咲き乱れるお気に入りの庭で仰向けにゴロゴロしていると父さんがオークの形相(ぎょうそう)で現れた。手にはドラゴンを一撃で(ほうむ)れるドラゴンスレイヤー。なんて物騒なモンを持ってるんだ……!


「エドウィン!! お前はまた魔法学園をサボり、こんな所で(なま)けおって……父さんは悲しいぞ! というわけで心苦しいが私は決心した……。お前をこの家から追放する。永久にな」



「……は? 何を言っているんだよ、父さん。冗談だろ!?」

「これは冗談ではない。親子の縁を切る! 二度と顔を出すな」



 いきなり怒り狂う父さん。ブンブンとドラゴンスレイヤーを振ってくるので、俺は身の危険を感じて逃げ出した。危なすぎるだろう!! 殺す気かよ。



 ――こうして俺は侯爵家を追い出されたワケだ……。なんてこった、学園生活をサボるようになってから外の世界なんてロクに歩いていないぞ。



 勘当され、正直ショックだったけど、それよりも胸が苦しかった。あんな優しかった父さんが俺を追い出すだなんて。



「……くそっ。なんだよ、今日は俺の十六の誕生日だぞ、少しくらい祝ってくれてもいいだろう。……って、ぐッ!?」



 胸が苦しい。

 急に激痛が走った。

 やばい、俺死ぬのか。



 パタッと倒れて、その瞬間――幻影が見えた。これは……天国か? それとも地獄か? その先には女神が見えたような気がした。



『――力が欲しいですか?』


「な、なんだこの可愛い声……ああ、欲しい。父さんを見返せるような力が……!!」


『分かりました、エドウィン・ハークネスさん。では、貴方にはレベルを食べる(・・・・・・・)力……【レベルイーツ】を(さず)けましょう』



「え、レベルを食べる力? うああああぁぁぁぁ…………!!」



 突然白い光が俺を包み込む。そして、セアリアス帝国中にその光が散っていったと思う。それ程の規模だった。


 ――やがて光が止む。


 俺は意識を取り戻して、自分が何故か帝国の中心に近い噴水広場に居る事実に気づく。いつの間に……ベンチに座っていたんだ?


 いや、それより【レベルイーツ】だって?


 そんなスキルは聞いたことがない。



 まさか、と思い俺はスキル一覧を見る。



 すると……




「あ、ありやがった!! 本当に【レベルイーツ】がある。効果は……マジかよ」




【レベルイーツ】

【効果】

 他人のレベルを食べられる。

 食べた分だけレベルを奪い、自身のレベルをアップする。食べられた者はその分のレベルを失う。

 このスキルの所持者はレベルキャップが存在しなくなり、無限大に上げられるようになる。その分、能力値アップ。

 相手のレベルを確認可能。




 ……嘘だろ。レベルを本当に食べられるのかよ。すげー。


 今の俺のレベルが(なま)けまくって『Lv.1』だから、これはレベルアップするチャンスだ。ただ、善良な市民のレベルを奪うのも何か違うし……うん、悪人など敵対する者に限定しよう。それなら()らしめる意味でもいいだろう。


 善行がきっと親父の耳にも伝わり、戻ってくれと懇願(こんがん)してくれるはずさ。ああ、きっと俺はその為にこの能力を(さず)かったんだ。ありがとう、女神様。俺、頑張るよ。




 ――その時だった。



「きゃああああああああ!!」



 ちょうど噴水の前で女性が襲われていた。おぉ、美人なメイドさんだ……しかも、背が低くて胸も大きいとかロリ巨乳メイドかよ――って、そうじゃないな。


 レベルの高そうな大男二人組が金髪のメイドさんを、こんな人目に付く場所の真ん中で襲っていた。やばいな、あんなゴツゴツ筋肉の男二人を相手にするとか返り討ちに遭い、ボコボコにされそう。


 だが、周囲の人間はビビって距離を置いていた。なんと俺しか噴水に座っていない状況だ。なんで!?


「おい、兄ちゃん。なにジロジロ見てんだ」

「……え、ああ……」


 しかも、金髪のメイドさんにも『助けて』というヘルプミー的な眼差しを向けられていた。おいおい、俺に助けろてか? 侯爵の家を追い出され、超低レベルの俺が?



 ――いやだが、思い出せ。



 俺にはレベルを食べる力【レベルイーツ】があるんだ。コイツ等のレベルは……おぉ、相手のレベルも見えるのかこれ。透視可能とか気が利く!



 ボスオークみたいな大男の方が『Lv.12』、感じの悪いゴブリンみたいな男が『Lv.8』か。合わせて『Lv.20』……全部、喰ってやる。



「うおおおおおおおおおおおお……って、俺、そんな超絶熱血キャラじゃなかったわ。ここは、普通に【レベルイーツ】発動!!」



 キュイン☆ と何か発動して視界が反転した。なんだ、この裏世界……まるで直視の……いや、それは止めておこう。黒々とした世界がそこにはあった。暗闇!



 まさか、こんな混沌(カオス)としたものがレベルの正体なのか!? おいおい、どうせなら甘そうなスイーツとかそういうのに変換してくれよな。まあいい、食べてみるか。



 ――実食(イーツ)――



 その混沌(レベル)を手で掴み、口に放り込む。すると柔らかな触感と甘いシュークリームのような味わいが広がった。うめえええええええええ……レベルうめえええええええッ!!



 そうして、俺は『Lv.1』→『Lv.20』にレベルアップ! マジでレベルを喰っちまった。と同時に、前代未聞、世界初のレベルを食べた男になった。



 男二人とメイドさんは俺の謎のジェスチャーに困惑していた。そうだろうな、レベルの概念が見えないヤツ等かすれば何事かと思うだろう。



「な、なんだァ!? 食べる動作? 腹でも減っていたのか、このボケナス」

「さあ、なんでしょうね兄貴。あのヒョロ男、頭おかしいんじゃねぇです?」

「まあいい……とにかく、こっちはクソ平民共よりレベルが高ぇんだ。負けはしない……メイドを拉致る前に男を殺っちまうぞ」



 二人が向かって来る。

 まさか己が『Lv.1』になっている事も知らずに。もちろん、俺は『Lv.20』である。この差は明白。




「こんな堂々と可愛いメイドさんを襲ってんじゃねえ! ジャスティスパアアアアアアアアアアアアアアアアアアンチ!!」




「「技名かっこわりいいいいいいい!! うぎゃああああああああああああああああああああ!!!」」




 俺の渾身のパンチが暴漢二人の頬にそれぞれ命中。吹き飛び転がっていく。遠くまでゴミのように飛んでいき、やがてどこかの分厚い壁に激突。撃沈した。



「か、勝てた。この【レベルイーツ】……最強だな」

「あの。助けて戴き、ありがとうございました! 宜しければお名前を聞かせて戴けませんか」



 そういえば、超可愛い巨乳金髪メイドさんを助けたんだっけ。こうして至近距離で見ると本当に胸がメロンのように大きく、お尻も凄い……実に俺好みだが、こういう美人メイドは大抵、どこかの男貴族に仕えているんだろうな。



「俺はエドウィン・ハークネスさ」

「エドウィン・ハークネス様……? え、あの侯爵様の……」

「ああ、追い出されたんだ。じゃあね、俺は暫くしたら帝国を出てクソ親父を見返す旅でもするさ」

「いえ、あの……今は冬季ですので帝国の周辺は危険ですよ? 寒いですし、凍っていますし……危険な水属性モンスターも頻繁に現れます」



「…………あ」



 そうだった。季節的に冬。大地は雪や氷で覆われてしまい、危険だった。まともな装備がなければ即凍死。時期が悪いな、もう。



「宜しければクリスタル騎士団へ来られませんか? 私は騎士団のメイドなんです。さっきの二人も恐らくですが、過去、騎士団長・ベリル様に成敗された方々で、その恨みで私を……」



 クリスタル騎士団のメイドさん!?

 そうか、それで狙われて……納得。

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