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霧島 摩利香シリーズ(仮)

クラスのマドンナ的美少女にいきなり告白されたと思ったら、幼馴染にエチィ本を買ってるところを見つかってゆすられる青春ラブコメ

作者: szk

 ――ヒナちゃんは、大きくなったら何になりたいんだい?

 


 ――ヒナね、ママみたいになりたいからお嫁さんになるの!



 ――……



 十四歳……それは恋の予感……青春の始まりである。



 女子の胸が膨らんでいくのと同じくして、男子たちの心に芽生えた新たな夢もまた膨らんでいく。

 今まで女子のことなんて興味ないと、頑なに意地を張っていた男子たちの砂上の楼閣も、いよいよその青き春風によって崩れ去るのだ。

 


 「おい、やっぱさ、うちの学年で一番可愛いのって、あの二人のどっちかだよな?」



 中学二年の二学期、まだまだ残暑長引く九月の半ば、昼休みの教室でのことであった。

 僕が窓際の席で一人ボーっとしていると、近くで数人の男子たちが、IQ3くらいのノリでニヤニヤしながらある話題で盛り上がっていた。



 「一人はうちのクラスの榛名(はるな)さんで決まりだよな」

 「うん、そこは固いね、異論なし!」



 男子たちの話題といえば、専ら同学年の女子で誰が一番可愛いかなどという、何の生産性もなくしょうもないものばかりだ。

 僕はボーっとしながらも、彼らのしょうもない話題に聞き耳を立て、密かにその意見に相槌をうっていた。

 


 (ふん、お前ら、馬鹿のくせにわかっているじゃないか……)



 机に突っ伏していた僕は、顔を上げて教室の前の方で他の女子と楽しそうに喋っているある少女を見た。

 白い肌に涼し気な目元、大人っぽいセミロングのショートレイヤーが、控えめで上品な印象を与える容姿端麗のまさに美少女だった。

 彼女こそ、このしけた教室に咲いた一輪の百合の花、学年中の幼気な男子たちのハートを虜にする榛名 雨嶺(はるな あまね)さんなのだ。



 榛名さんの美しさにボーっと見惚れていると、僕の視線に気付いたのか、彼女は僕の方を見つめて柔らかく微笑んだ。



 (ややや……やばい!! 目が合った! ちょ……超可愛い、眩し過ぎる!)



 僕は慌てて目を逸らし、さも隣で盛り上がっていたしょうもない男子たちの輪に入っている振りをした。

 いや、しかし汗が止まらん。彼女の半径二メートル以内に近寄っただけで、きっと僕は茹でダコのようになってしまうに違いない。



 「もう一人もまあ、言うまでもないよな……」

 「ああ、あの子だろ?」



 まあいい、ここは心を落ち着かせる為に、彼らのしょうもないお喋りに付き合ってやるとしようじゃないか。

 で、うちのクラスの最強美少女、榛名 雨嶺さんと恐れ多くも双璧をなすという謎の美少女って一体誰なんだ?



 「五組の天城(あまぎ)さんだよな……」

 「ぶぅぅぅーー!!!!」



 想定外の答えに、僕は思わず吹き出してしまった。周囲の男子たちは僕に注目をする。



 「あ、天城って、もしかしてあの天城 毘奈(あまぎ ひな)のことか!?」

 「そ……そうだけど、どうしたんだよ、那木(なぎ)? 天城なんて名前の奴、学年に一人しかいないだろ?」



 ああ、その通りだ。僕の知る限り奴は一人しかいない。世界に天城 毘奈が二人もいて堪るもんか。



 「ななな……なんで天城 毘奈なんだよ!?」

 「なんでって、そりゃ可愛いからに決まってんだろ? ……なあ?」

 「ああ、あの愛くるしい笑顔に、男の永遠の憧れポニーテール……」

 「控えめな榛名さんとは違って、明るくて元気なのもいいよな!」

 「そうそう、部活で少し日に焼けた小麦色の肌がまたいい!」

 「陸上で流してるあの爽やかな汗が堪らない! 天城さんの汗なら全然飲み干せるぜ!」

 (死んでしまえ……)



 天城 毘奈の魅力を情熱的に語る彼らに、僕は唖然としてしまった。

 とういうのも、僕は天城 毘奈のことをよく知っている。何を隠そう、毘奈は僕の幼馴染なのだ。

 だから僕は、天城 毘奈に対して彼らみたいな幼気な幻想なんて抱いちゃいない。



 「あ、そうか、那木って天城さんと同じ小学校だったっけ?」

 「も……もしかして、知合いなのか!?」

 「あ……ああ、一応家が近いし、小さい頃から知ってるけど」

 「くぅぅー!! なんて羨ましいんだ!」



 僕が毘奈の幼馴染だと知った途端、彼らのテンションは更にうなぎ上りとなった。



 「あのさ、皆んな勘違いしてるみたいだけど、毘奈って結構ガサツで鬱陶しいし、すぐに人を揶揄って馬鹿にしてくるんだぜ? 小さい頃から、あいつに何回煮え湯を飲まされてきたか……」

 「お……おい、那木」

 「ん……何?」

 「お前……天城さんのこと、毘奈……て、名前で呼んでるのか?」

 「あ……まあ、そうだけど」

 「な……なんてことだー!!!」

 「クソー!! 今度絶対紹介しろよな! なっ!!」



 ダメだこりゃ。僕がちょっとこづいてやったところで、彼らの天城 毘奈に対する幻想はダイヤモンドよりも硬いようだ。



 ああ、僕だって分かってる。あいつはスポーツ万能で、勉強も僕よりできて、おまけに誰とでも仲良くなれるコミュ力モンスターときてる。

 まあ、見た目だってどんなに低く見積もっても人並み以上だろう。それも分かってる。

 問題はそんな毘奈に対して、僕がコンプレックスを持ってしまっていたということさ。小さな頃、うちの親の口癖は、「毘奈ちゃんを見習いなさい」……だったっけかな。



 まあ、その辺の僕の個人的事情は置いておこう。



 榛名 雨嶺さんと天城 毘奈のどっちが可愛いかだったっけ?

 おいおい、愚問だな。本気で聞いてるのか?



 そんなもの、誰が何と言おうと100億パーセント榛名 雨嶺さんに決まっているじゃないか!



  ★  ★  ★  ★



 分かっていたさ。僕みたいなイケメンでも何でもない皮肉屋が、まさか榛名さんとお近づきになんてなれるわけがないってね。

 だから、今日も僕は穏やかな日に照らされながら、窓際でボーっと授業を聞いているのさ。



 「……ん、なんだこれ?」



 ふと気付くと、僕の机の上には見覚えのない紙屑が置いてあった。

 なんだよ? 誰かの悪戯か? 人の机にゴミなんぞ捨てやがって。



 (これ……なんかのメモか?)



 よく見てみると、その紙屑は小さなメモ帳かなんかを何重にも折ったもののようだった。

 ああ、これはあれか? よく女子が授業中とかに回しっこしてるあれなのか?

 正直、今までの人生の中で全く縁のないような代物だったので、僕は何かの間違いかと思って開けるのを憚った。



 「まあ、いいか……」



 だが、どうせ大した内容も書かれてないんだろうし、間違いなら間違えた奴が悪いんだ。

 僕は謎に包まれた女子の生態を垣間見るチャンスだと思い、その未知のメッセージを開いてみることにした。



 (えーと、なになに……)



 “いきなりごめんね。今日の放課後、体育倉庫の裏に来てくれないかな? ちょっとお話したいことがあるんだけど――”



 ほうほう、どうやら誰かからの呼び出しらしい。一体誰がと思い、僕はメモの続きを読んだ。



 “――みんなには内緒だよ、お願いね! ――あまね”



 ……あまね?



 ……あまね?



 ……雨嶺!!?



 間違いない。これは榛名さんの名前だ。しかし一体僕なんかに何の為に?

 いや待て、落ち着け! 僕の頭から、これは届け間違いであるという前提が、どっかに吹っ飛んでるぞ。

 そうだ、榛名さんからお呼び出しなんてあるわけがない。……と、僕は恐る恐る前の方に座る榛名さんをチラ見する。



 「……え?」



 するとどうだ。あの榛名さんが……榛名 雨嶺さんが僕に手を振りながら、ニコニコと天使のように微笑んでいるじゃないか。

 僕は慌てて、ほんとに自分? と、人差し指を顔に当てて合図する。彼女は少し恥ずかしながらそれに肯いて見せた。

 僕は自分の頬を内出血が起こりそうな勢いでつねった後、アホみたいに何回も首を縦に振る。彼女はそれを見ると安心したように前を向いた。



 これは来た……来るべき時なのだ。僕は胸に大きな決意を秘め、来るべき放課後を待った。



  ★  ★  ★  ★



 有史以来、こんなにも放課後が待ち遠しい日が、かつてあっただろうか?

 僕はその後の授業を半ば夢見心地で聞き流し、来るべきその時を待っていた。



 「よし……時間だ」



 僕は帰りのホームルームが終わると、よもやずっとトイレでも我慢していたんじゃないかってくらいの勢いで教室を出た。

 ああ、もう僕の覚悟はできてる。さあ、来るなら来い! 僕は途中誰かに呼び止められるも、気にも留めないで一目散に体育倉庫の裏へと向かった。

 そして僕はその荒涼とした約束の地で、聖女 榛名 雨嶺の降臨を待ったのだ。



 「あ! あっぶねー!」



 おっと、この来るべき大事な時に、僕としたことがズボンのチャックが全開じゃないか。つい夢見心地で気付かなかったぜ……。

 でも、ちょっと待てよ。冷静に考えてみれば、この呼び出しが何の目的だったかなんて一言も書かれていなかったじゃないか。



 「しかしな、他に何か僕を呼び出すようなことあったっけか?」



 まさか、こんなところに呼び出してまで、僕のチャックがずっと全開だったことを指摘するわけでもあるまい。これは告白しかないだろ。

 だが自慢じゃないが、同じクラスになって以来、榛名さんとはほとんど真面に口をきいたことがない。果たしてするか? そんな相手に……?



 「あ、那木君! 来てくれたんだ!」

 「は……はは、榛名さん!?」



 いや、来てしまった。もうここまで来たら、つまらない心配なんて野暮ってもんだ。僕みたいな恵まれない民にこそ、聖女はきっと舞い降りるんだよ。

 このファーストコンタクトで、僕の緊張ゲージはほぼマックスに達していた。



 「えーと……そそそ、その、ぼぼぼ、僕に……おお、お話しというのは……?」

 「いきなり呼び出しちゃったりして……ごめんね、実は私、前からさ……」



 榛名さんは両手を祈るように胸の前で握りしめ、照れ臭そうにもじもじしながら言った。

 やばい、もうこの時点で僕は意識を失いそうだった。見てるだけで昇天してしまいそうな可愛さなんだもの。

 そうだ、僕はずっと……生まれてからこの方ずっと、君からのその言葉を待っていたんだ。

 榛名さんは覚悟を決めた様子で、叫ぶように言った。


 

 「ずっと那木君のことが好きだったの!!」

 (ウォーーー!! キタァァァァァーーーーーーー!!!!!!!!)



 夢ではない。僕の人生は、今この瞬間から本当に始まるのだ。



 「だから……その、私と付き合って……くれるかな?」

 「……!!」



 「はい、喜んで!」……と、すぐにご注文を承りたいところだったが、ここは待て、一旦落ち着くんだ。ものには順序ってものがある。



 「えーと……そ、そのー、凄く嬉しいんだけど、何でほとんど話したこともない僕に……?」



 そうそう、そこだけははっきりさせておかないとね。僕としても一番気になるところだ。

 彼女は恥じらいながら言葉を紡ぐ。



 「那木君はね……知的で物静かで大人な感じがして、他の男子とはちょっと違うなーって……。そうしたら私、那木君のことが気になりだしちゃって……いつの間にか、那木君のことばかり考えるようになってたの」



 そうかそうか、やはり本当に価値が分かる女子には隠せないんだ。この僕の溢れ出る大人の魅力ってやつをね。



 「それでね、気付いたの。私、那木君のこと好きになっちゃったんだって……。夏休みの間も、ずっと那木君のことばかり考えてた。だから、もう我慢したくない! 那木君と一緒にいたいの!」

 「あ……そ、そんなに?」

 「ダメ……かな?」

 「う……ううん! そそそ、そんなことないよ!」



 榛名さんに上目遣いで見つめられ、僕は唇をブルブルと震わせながら首を何度も横に振った。

 この聖女 榛名 雨嶺にここまで言わせてしまっては、全人類の男たちは皆誠心誠意その気持ちに応えるしかあるまい。



 「ぼぼ……僕でよろひ、よろしければ、よ、喜んでお願いしまふ!!!」

 「う……嬉しい! ありがとう、那木君!」



 榛名さんは満面の笑みを浮かべ、とても嬉しそうに両手でガッツポーズをした。

 初秋の爽やかな風が、色づく前の木々の葉と、シルクのような彼女の髪を優しく揺らす。彼女の透き通るような白い肌、涼やかで優しそうな瞳、熟れた果実のような唇、近くで見てたら鼻血が出そうだ。

 


 僕らは一旦携帯の連絡先を交換し、まだクラスの皆んなには内緒ということで付き合い始めることになった。

 僕と榛名さんの二人だけの秘密……いいじゃないか、いいじゃないか。



 思えば長かった。悪辣な幼馴染には散々揶揄われ、生意気な妹には馬鹿にされ続けたが、ついに時は来た。時代が僕に追いついたんだ。

 思い上がったスクールカースト上位の階級主義者共よ、運動できればモテると思ってる憐れな脳筋至上主義者共よ、さあ、僕にひれ伏すがいい! 

 これからは、僕のようにクールで思慮深い大人な男の時代なのだ。



 僕に風が……時代の風が吹いていた。



  ★  ★  ★  ★



 ――ヒナちゃんは気立てがいいからね、きっといいお嫁さんになるよ。



 ――ホントに? ヒナ、可愛くて優しい、ママみたいな嫁さんになれる?


 

 ――……



 その日の帰り、恐らく僕は近年稀に見るニヤけ面で下校していたに違いない。

 だって、こんな素晴らしいことがあるか? 学年中の男子が憧れるマドンナ的美少女に告白されたんだぜ?



 それにだ。これは単なる付加価値かもしれないが、ついに僕はあの悪辣な幼馴染、天城 毘奈に……何をやっても負け続けていた毘奈に勝ったんだ!

 何しろ、あいつより先に彼氏彼女ができたんだからな。しかも相手はあの榛名さんだ。これはもう、紛うことなき圧倒的な完全勝利に他ならない。



 「ひゃっほー! ざまーみろ!」



 と、僕が一人で浮かれていると、ふとある古びた書店が目に止まった。

 そこは僕が定期的に書籍を買いに来る、品揃えがいいわけでもない、本当に小さくて小汚い本屋だった。

 何故僕がこんな本屋に来るかと言えば、答えは簡単さ。ここでは他では手に入り難い、ある貴重な書籍が手に入るのだ。



 「うん、今日は気分がいいし、ちょっと寄ってくか」



 最近では規制だなんだって、置いてる店も少なくなってきた。映像コンテンツの普及で、だいぶ需要も減っている。それでも、電子より紙媒体を愛する僕が求めしもの。それは、旧時代より紡がれし男のロマン……。ここではエチィ本が買えるのだ。



 僕は雑然とした店の奥深くに眠る、かの本のコーナーへと向かう。

 なになに? 中学生のくせして、店員の目はどうなのかって? 問題ない。ここの店主は、店番をしながらいつも眠っているような年配のおじいちゃんだ。万引きされたって気付きやしないだろう。



 「……ゴクリ」



 かの本のコーナーに来た時、急に僕はいつもとは違った感覚に襲われる。

 だってついさっきまで、あの学年一の美少女、榛名 雨嶺を至近距離で見ていたのだ。

 あの彼女の透き通るような白い肌、涼やかで優しそうな瞳、熟れた果実のような唇を思い出すだけで、胸が高鳴り、ムラムラ度は限界突破だ。

 今日は学校帰りだし、物色だけに留めようと思ったけど、これはもう我慢できない。



 (えーと、いつも買ってるやつは……)



 僕はいつも買うような比較的マイルドなエチィ本を手に取ろうとした。

 いや待て、僕は今日から彼女のいる大人な男だ。もっとハードな知識がなければ、榛名さんに笑われてしまうんじゃないか?

 頭の中で謎のロジックが発動する。僕は店内で一時間以上悩んだ挙句、これまで買ったことのない、それはもう本の名前すら口にするのも(はばか)られるような、とびきりエチエチな本を手に取っていた。



 (さすがに今日は、何か他の本も……)


 

 いくら半分眠ったようなおじいちゃんとはいえ、今日のこの本を買うのには勇気がいる。だけど想定内だ。こういう時の為に、旧時代からの伝統的な対処法があるのだから。

 僕はその本の上に、ドストエフスキーの『罪と罰』とかいう本を乗っけてスケープゴートにした。おかげで問題なく買うことができたよ。何故だか黒いビニール袋に入れられたけどね。



 そんなこんなで、無事ミッションをクリアした僕は、全てを出し切ったアスリートみたいな顔をして外へ出る。

 本屋に長くいたせいで、辺りはすっかり薄暗くなりつつあった。本当に素晴らしい一日だったな。

 そして、安心しきっていた僕が、深呼吸をして帰ろうとした、まさにその時だったんだ。



 「あ! 吾妻、今帰り? こんな時間までどうしたの?」

 「げっ! ひ、毘奈!?」



 僕を呼び止めたのは、ポニーテールに少し日に焼けた小麦色の肌がトレードマークの、お節介で鬱陶しいあの悪辣な幼馴染、天城 毘奈であった。

 しまった、本屋で時間を使い過ぎてしまったが為に、こいつの部活の終わりの時間にかち合ってしまったか!?



 「可愛くて優しい幼馴染に“げっ!”はないでしょ! どうしたの? そんなに驚いて?」

 「べべべ、別に、何でもねーよ!」

 「……怪しい! 吾妻、何か隠し事してるでしょ?」

 「ななな、なわけねーし! は、早く帰れよな!」



 あからさまに狼狽する僕。毘奈は部活後にした制汗スプレーの甘い香りを漂わせながら、訝し気な顔をしてどんどん詰寄って来る。

 まずいぞ、こいつは馬鹿みたいに勘がいいから、疑われたら最後、独裁国家の秘密警察並みに執拗なんだ。



 「なーにその黒い袋? 本屋さんで何か買ったの?」

 「そそ、そんなのお前には関係ないだろ! いいからほっとけよ!」



 僕はとっさに、例の本が入った黒い袋を後ろに隠した。やばい、早くカバンの中にでも入れておくんだったぜ。

 とにかく、何としてもこのブラックボックスの秘密だけは死守しなければならない。全てが……全てが終わってしまう!


 

 「あっ! 吾妻のママが買い物してる!」

 「な……なに!? ……って、ハッ!!?」



 焦っていたのか、毘奈の見え透いた嘘にハメられ、僕は振返って無防備な背中を晒してしまう。そのチャンスを奴は見逃さなかった。

 毘奈はひょいっと僕から黒いビニール袋を取り上げ、興味深そうに中を物色し始める。



 「えーと、なになに……『罪と罰』か、難しいの読むんだね。もう一冊は……」

 「ちょッ! おまッ!! ふざけんな! 返せー!!」

 「え……なにこれ? 雑誌? 巨○女教師の〇▼?×個人授業で、僕の※●△はもう……」

 「アー!! アー!! アー!! 読むな読むな読むな!!!」



 僕の最後の悪あがきも、この秘密警察相手では無力に等しかった。毘奈はしたり顔で再び詰寄って来る。



 「ふ~ん、そういうことだったんだ。なるほどね~」

 「な……なんだよ」

 「中学生がこんな本買っていいのかな~? 吾妻の家の人が知ったら~、どう思うんだろ~?」

 「ぐぬぬぬぬ……」



 なんということだ。よりにもよって毘奈なんかに見られてしまうとは……。まさに、我が人生最大の苦境!



 「ぜ……絶対に言うなよ! 頼むから、誰にも……誰にも言うなよ!」

 「な~にそれ? 言えって振りかな~? あ~あ、どうしようかな~♪」

 「頼む、お願いだよ! 何でも言うこと聞くからさ!!」



 あーあ、言ってしまった。こういう時、一番言っちゃダメなやつだ。転落人生の始まっちゃうパターンだよ。

 毘奈は僕のその反応に驚いた様子であったが、すぐに滅茶苦茶嬉しそうな顔をして言う。



 「ホントに? ホントに何でも言うこと聞いてくれるの!?」

 「あ……うん……まあ」

 「じゃあね――」



 そうして毘奈は、半ば放心状態であった僕に、とある要求を突きつけてきたのだ。



  ★  ★  ★  ★



 ――那木君!」



 「……へ?」



 ――那木君、どうしたの? ボーっとしちゃって?」



 「あれ? ここはどこだ? それに、この聞いてるだけで、とろけてしまうような甘くて優しい声は?」



 ふと気付くと、僕はとある海の近くの大型ショッピングモールにいた。周囲を見渡せば、若いリア充カップルたちが、我が世の春を謳歌するように闊歩している。



 「もう! 今日は二人の初デートだっていうのに、どうしちゃったの?」



 そうかそうか、忘れていたよ。あの日学校から帰った後、携帯メッセージで榛名さんと日曜日に初デートする約束をしたんだったっけ。

 僕があまりの嬉しさにボーっとしてしまっていたもんだから、榛名さんは少し不満そうに僕の右袖を掴んだ。



 「いや、ごめん! 榛名さんとデートに来れて、あまりに幸せ過ぎちゃって」

 「やだ、那木君たら、そんなにはっきり言われたら、私……恥ずかしい」



 榛名さんは僕の右袖を掴んだまま、俯いて照れ臭そうに顔を赤らめた。いかんいかん、鼻血が出てしまう。

 しかしあれだ。このカップルばかりのロクでもない環境に、以前の僕であったら、完全に臆してしまっていたことだろう。

 でも、今は大丈夫だ。僕の隣では学年一の美少女、榛名 雨嶺さんが夜空に瞬くどんな星々よりも、燦然と輝いているのだから。



 「ふわーはっはっは! 思い上がった、有象無象のリア充カップルたちよ! 僕こそはリア充の中のリア充! さあ、皆平伏して道を開けるがいい!」



 僕のこのかけ声によって、周囲のカップルたちは一斉に道を開け、大名行列でも通るみたいに平伏して頭を深々と下げていく。



 「さあ、行こう、榛名さん。これで僕らの恋路を邪魔するような愚か者は、誰もいないよ!」

 「キャー! 那木君て男らしい。素敵よ!」



 榛名さんは僕に寄り添うようにべったりと腕にすがりつき、僕らはレッドカーペットを歩く映画スターのように進んで行く。

 もはや、誰も時代の寵児たる僕を止めることはできないのだ。



 「おやおや? 向こうに一人、頭が高い愚か者がいるぞ?」



 開かれた道の先には、見覚えのある少女が一人棒立ちして、リア充の中のリア充たる僕らをジーッとガン見していた。

 少し日に焼けた小麦色の肌、そして特徴的なポニーテール、誰かと思えば、それは僕の悪辣な幼馴染、天城 毘奈であったのだ。



 「これはこれは、どなたかたかと思えば、未だに恋人すらいないお可哀想な天城 毘奈さんではないですか!」

 「だーれ? この人、那木君の知り合い?」

 「いやまあ、知合いと言えば知り合いだけど、ただの取るに足らない鬱陶しい幼馴染さ。榛名さんが気にかけるようなことじゃないよ」



 僕にそんことを言われても、毘奈は気味が悪いくらい無表情で、ただ僕のことを無言のまま見つめている。

 分かったぞ、毘奈は僕に先に恋人ができたことを妬んでいるんだ。そうに違いない。

 確かに以前は、運動に勉強、ご飯の早食いに至るまで、何一つこの忌々しい幼馴染に勝つことができなかった。だが今は違う……。



 「毘奈、見苦しいぞ! 全ては栄枯盛衰、お前の時代はもう終わりなんだ! かつて栄華を誇ったスペインの無敵艦隊が、アルマダの海戦でネルソン提督率いる英国艦隊に打ち破られたようにな!」

 「キャー! 那木君って博識、素敵よ!」



 ふ……決まった。僕はこれ見よがしに大袈裟なポーズをとって毘奈を指さした。榛名さんは更に僕にべったりとすがりつく。

 すると、これまで無言で微動だにしなかった毘奈が、急にしたり顔をして呟いたんだ。



 「あっれ~? 吾妻、私にそんなこと言っちゃって、いいんだっけ~?」

 「な……何を!?」



 僕はこの時ハッとした。僕は何かとんでもない、人類の存亡にも関わるような重大な出来事を忘れてしまっているんじゃないか?

 だが、今は榛名さんの目の前だ。男として弱気なとこは見せられない。



 「は……はは! 冗談はよせよ。このリア充の中のリア充たる僕を……ぶ、侮辱するのか?」

 「ふふん、じゃあ吾妻、これな~んだ?」

 「……は! それは!?」



 毘奈が背中から取り出したのは、僕があの時買った、それはもう本の名前すら口にするのも憚られるような、とびきりエチエチな本だった。

 僕が度肝を抜かしていると、毘奈は横にあったショッピングモールのお店の中を伺い、その中にいたある人物を呼び出す。



 「おーい、おじいちゃん!」

 「おお……なんじゃ、毘奈ちゃん?」

 「ほ……本屋のじいさん!?」



 なんと、毘奈が嬉々として呼び出したのは、僕行きつけのエチィ本が買える書店のおじいさんであった。

 おじいさんは毘奈に呼ばれるがまま歩み寄り、毘奈はもったいぶった感じでおじいさんに問い質す。



 「ねえねえ、おじいちゃん、毘奈教えて欲しいことがあるんだけど~♪」

 「なんのことじゃ、毘奈ちゃん? 毘奈ちゃんの頼みなら、何でも教えてあげちゃうよ」

 「おじいちゃんのお店で売ってた、このとびっきりエチィ本を買ったのって、一体誰だったの?」

 「あー、それはそうじゃのう……確か……」



 毘奈のもったいぶった演技がやたらと鼻につくが、これはまずいぞ。隣にいる榛名さんも、あの本を見て滅茶苦茶引いている様子だ。

 そしておじいさんは数秒考えた後、思い出したかのように僕のことを指さした。



 「おー! その子じゃ、その子! 物凄い真剣な顔して、一時間以上も悩んでおった。買うときは、純文学の本をさり気なく上にのせてたのう。よーく覚えとる……」

 「や……やめろ! ぼ……僕は……」



 それまで僕に平伏していた周囲の一般カップルたちは、この一件を聞いて立ち上がり始め、女性陣を中心に騒然としだす。



 「うっわー、マジ引く、何あれ?」

 「キモ……何がリア充の中のリア充よ、ただのむっつりスケベじゃない」

 「サイッテー!! あんなの彼氏とかマジ無理!」

 「女を消費物としか見られない、女の敵よ!」

 「さっきは偉そうにしちゃって、単なる裸の王様じゃん!」

 「そうそう、それに、買うときにそれらしい本を一緒に買うところとか、凄く小さいよね」



 化けの皮が剥がれた僕への、女性陣からのバッシングは留まることを知らない。本当にまずいぞ、このままでは榛名さんまで僕に幻滅を……。



 「ちょっ! 皆んな待って! は、榛名さん、違うんだこれは! 事実だけど誤解というか、誤解だけど事実というか!!」

 「那木君……やっぱり私の思い違いだったみたい。あんな本の名前すら口にするのも憚られるような、とびきりエチエチな本を買う人だったなんて……」

 「本当に違うんだあれは! あれは榛名さんに恥ずかしくない、大人な男になる為に!」

 「確かに、那木君は他の男子とは違ったね、それ以下だもん。私、もう帰る。じゃ……」

 「あ……は、榛名さぁぁぁーーん!!!!」



 膝をつき、必死に手を伸ばす僕を尻目に、愛想をつかした榛名さんはすたすたと去って行く。

 そして、絶望に打ちひしがれている僕に対し、毘奈が勝ち誇ったような高笑いを上げる。



 「あはははははは……詰めが甘かったようだね、吾妻。この私に勝とうなんて、百億年早いんだから♪」

 「く……またしても僕は、この忌々しい幼馴染に……」

 「吾妻は地面を這いつくばってるのがお似合いよ。だから、ずっと私の足元で靴でも舐めてればいいの♪」

 「うぐ……!?」

 


 毘奈は膝をつく僕の背にどしんと腰かけ、大胆に足を組んだ。まさに僕の完全敗北だ。

 だがしかし、今はダメでも、いつか必ずこの悪辣な幼馴染にぎゃふんと言わせて……。



 「あ、それから吾妻!」

 「え……何?」

 「ネルソン提督がスペインの艦隊と戦ったのは、アルマダの海戦じゃなくて、トラファルガーの海戦だから」

 「ぐぎぎぎ……ぎゃふん!!」



 ……。



 もう皆んな気付いているとは思うけど……。



 これは夢……。



 ……悪夢です。





 「うわぁぁぁぁーーー!!」



 僕がとび起きたのは、金曜日の深夜だった。さっきまでの地獄絵図はどこえやら、窓の外では虫たちが秋の歌を静かに奏でている。

 とりあえず、あれが夢だとわかって、僕は胸を撫で下ろす。榛名さんとの初デートは、まだ二日後だからな。



 だけど、僕にはぬか喜びしている余裕はなかった。楽しみな榛名さんとの初デートの前に、土曜日は毘奈の要求で、一日一緒に付き合わなければならないんだ。

 それにしても毘奈の奴、明日は一体どこでどんなエグい要求をしてくるのだろう? いや、そもそも明日だけで終わるのか?



 やっぱりあれだ、テレビとかでも言ってたけど、こういうときは勇気を出して、ゆすられてるのを周りの誰かに相談した方がいいんじゃないのか?

 そうでないと、僕は一生あの悪辣な幼馴染の奴隷として過ごすハメになるかもしれないのだからな。        

 しかし、だからと言ってこんなこと……。



 「一体誰に相談すればいいんだーーー!!!!」

 「吾妻! 一体何時だと思ってるの!!」

 「お兄ちゃんうるさい!!」



  ★  ★  ★  ★



 次の日、僕は毘奈に言われた通り、すぐ近くの彼女の家に迎えに行った。

 インターホンを押すと、三秒も待たずして玄関から毘奈が飛び出してくる。



 「おっはよー、吾妻! お迎えご苦労、大儀であった!」

 「ったく……相変わらず、朝からテンションたけーな……」

 「ん……なんか言った?」

 「い……いや、なんでもないよ! おはよう、毘奈」



 おめかしして準備万端の毘奈は、淡い水色のワンピースを着て、少し大きめのトートバッグをさげていた。

 これは明らかによそ行の格好だ。何しろ、いつもはTシャツと短パンで近所をうろうろしているんだからな。



 「あーずま、見て見て! このワンピ、買ってもらったばかりなんだ! どう? 似合う? 似合う?」



 毘奈はトレードマークのポニーテールと、おろし立てのワンピースの裾をたなびかせながら、得意気にくるっと回って見せた。

 悔しいが、確かに似合っていた。何も知らない男子であれば、コロッとやられていただろう。ただ、僕がそれ以上に思ったことは。



 「ああ、似合ってる……ていうか、なんか毘奈がそういうの着てると、小さい頃のこと思い出すな」



 そうだった。あの夏の日の昼下がり、いつも毘奈はこんなワンピースを着て、縁側からひょこっと顔を出し、僕に外で一緒に遊ぶようせがんでいたっけ。

 そして、僕は泥だらけになるまで毘奈に付き合わされ、その挙句に母親に怒られていたんだ。懐かしいけど、複雑な気分だった。



 「そうだね、最近私、ワンピ着ないもんね。でもね、今日は特別な日だからさ、オシャレしたんだ!」

 「……え?」

 「細かい話はあと! 時間がもったいないよ、早く行こ! 吾妻」



 首を傾げる僕を尻目に、毘奈は速足で嬉々としながら進みだした。

 僕は毘奈の奇妙な言葉に疑念を抱きながらも、連れられるがまま地元の最寄り駅へと向かう。



 まあ、このまま地元で連れ回されなかったのが、僕としてはせめてもの救いだ。せっかく榛名さんと付き合えることになったのに、万が一毘奈なんかとデートしていたなんて噂でも広がってみろ。僕の幸せが全て水の泡となってしまう。



 「それにしても、他人が聞いたら、えらい事態だよな……」



 曲りなりにも学年一二を争う可愛い女子二人と、土日で代わりばんこにデート(?)することになるとはな。学年中の善良な男子生徒諸君が聞いたら、僕は袋叩きに合っちゃうだろうね。



 僕は毘奈に言われるがまま、同じ金額の切符を買う。幸いにも、交通費を出せとまでは言われなかった。僕が大してお金を持ってないことを、知っているからだろう。



 「なあ、いい加減どこに行くのか、教えてくれないか?」

 「ダーメ、着いてからのお楽しみなんだから♪」



 ここまで来ても、目的地は秘密であるらしい。僕としては、一体どこに連れて行かれて、どんな仕打ちを受けるのか、不安で仕方がないのだが。

 電車に乗ると、毘奈は外の景色を見ながら、まるで小さな子のようにはしゃいでいた。



 「吾妻、見てあれ! あの面白い形のアパート、まだあるよ!」

 「……そうですね」



 土曜日の行楽地に向かう家族連れ、はたまた今の僕には複雑に見えるリア充カップルに囲まれた車内。

 僕は大いなる不安を抱きつつ、どこの地獄かもわからない目的地への到着を待ったのだ。



  ★  ★  ★  ★


 

 ――もちろんだとも、おばあちゃんが約束するよ。



 ――じゃあ、おばあちゃんもヒナがお嫁さんになるとき、結婚式来てくれる? 

 


 ――……



 小一時間電車に乗り、僕らはとある駅に辿り着いた。ここは見覚えがある。小さな頃、毘奈と一緒によく連れて来てもらった場所だ。

 駅を出て、哀愁漂う商店街を抜けて行くと、その場所はあの頃と変わらず、今もひっそりとそこにあった。



 「どう、吾妻、懐かしいでしょ? よーし、今日は気合入れて一生懸命遊ぶぞ!」


 

 毘奈は唖然とする僕に、得意気な様子で微笑みかけると、両手を上に挙げてグッと体を伸ばした。

 そこは、今をときめく若者たちがこぞって行くような、海辺のアミューズメントパークなどではない。ただの古くて安っぽい、寂れた遊園地であった。

 そうだ、ここは亡くなったばあちゃんが、小さかった僕と毘奈をよく遊びに連れて来てくれた遊園地だ。

 


 「ああ、もうどのくらい来てないんだろう……」



 小さな頃、夏休みにでもなると、日中は忙しかった両親の代わりに、僕の面倒を見てくれたのは母方のばあちゃんだった。

 そして、早くに亡くなっていた幼馴染の毘奈の祖母は、ばあちゃんの旧来の親友であったのだ。その為、幼い僕とよく遊んでいた毘奈のことを、ばあちゃんは本当の孫のように可愛がり、毘奈も本当のばあちゃんみたいに懐いていた。

 優しいばあちゃんに手を引かれ、この小さな遊園地に連れて来てもらうことが、幼かった僕と毘奈にとって何よりの楽しみだった。



 よく見れば、年季の入ったアトラクションには、塗装剥がれやサビが各所に見られた。だがこれも、時間が止まったみたいにあの時のままだ。

 僕がそうやって懐かしさに浸っていると、毘奈ははしゃぎながらとあるアトラクションへと駆け出していく。



 「吾妻! これこれ、ここに来たらまずこれに乗らないと!」

 「そ……それか」



 入口近くにあったのは、席に座って空中を振り回される絶叫系のアトラクションだった。小さい頃から毘奈はこれが大好きで、酷いときは十回くらい連続で付き合わされたっけ。

 そのトラウマがあってか、僕はこのアトラクションに座っただけで、眩暈がしてくるんだ。



 「きゃはははは! 吾妻も手あげようよ!!」

 「う……ぼ、僕は、いいぃぃぃぃ……!!」



 滅茶苦茶はしゃぐ毘奈の横で、僕はきっとこの世の終わりみたいな顔をしていたに違いない。なるほど、これが毘奈の用意した地獄の一丁目ってやつか。



 「あー楽しかった! 吾妻、次はあっちのジェットコースター乗ろ!!」

 「ええ!? 二回続けて絶叫系かよ?」

 「な〜に? 嫌なの、吾妻?」

 「い……いや、喜んで付き合うよ!」

 「うん、よろしい!」



 ふと油断してたら、毘奈がしたり顔で凄んできた。ダメだ、今日の僕は絶対にこいつに逆らうことはできない。

 仕方なく、僕は毘奈の後ろからくっついて行く。こっちのジェットコースターも、僕にとっては曰く付きなんだ。



 「やったー! 吾妻、私たち先頭の席だよ!」

 「ぐぐぐ……なんでこう悪いことばかり……」



 このジェットコースターは、別に富士山の近くにある遊園地みたいな、落差ウン百メートルの超絶絶叫マシーンってわけじゃない。

 一番怖いのは、車体やレールの各箇所が老朽化してて、軋んだり変な音をたてるのが、気味の悪い恐怖心を誘うってことだ。



 「もう少しだね、吾妻! わくわく、わくわく!」

 「こ……この音、だ、大丈夫なのか?」



 ピークへ向けてゆっくりと登るその年季の入った車体は、あの日以上に異音を放ち、レールは期待を裏切らずギシギシと軋んでいた。

 毘奈のテンションと僕の恐怖のボルテージも、それに併せてどんどん上昇していく。

 そして車体が下へ傾くと、僕はそのまま車体ごと地上に落下して、地面に叩きつけられるような幻覚を見たんだ。



 「おおぉぉぉーー!! 気持っちいいぃぃーー!!!」

 「ううぅぅぅ……気持ちわるぅぅぃぃ……」



 そうして毘奈の地獄のような先導の元、僕はたった数時間のうちに、あらゆる凶悪なアトラクションの餌食となっていった。



 (まだだ、こんなところで負けるわけにはいかない。明日は……明日は、憧れの榛名さんとの初デートなんだから!!)



 僕はその希望を胸に刻み、この地獄の使者から受けるあらゆる試練に耐えたんだ。



  ★  ★  ★  ★



 ――そうだね、吾妻やヒナちゃんが結婚するまで、生きていたいものだね……。



 ――大丈夫だよ、おばあちゃんいつも元気だもん! 長生きできるもん!



 ――……



 ばあちゃんが亡くなった時、毘奈はお通夜の席で、本当の孫である僕や妹がドン引きしてしまうくらい泣きじゃくっていた。

 あまりに酷い有様だったもんだから、途中お坊さんがお経を読むのをやめ、毘奈のお母さんが外へ連れ出したくらいだ。

 あの時、毘奈は泣きながら約束がどうだとか、わけの分からんことを必死に叫んでいたっけ。今となってはもう、本人ですら覚えているのか分からない……。



 午前中、散々毘奈に振り回された僕は、午後一時を過ぎてようやくお昼を食べさせてもらえることになった。

 何でも、毘奈がお弁当を用意してきたとのことだ。僕らはフリースペースのテーブル席に向かい合って座る。



 「じゃじゃーん! 喜べ吾妻! 今日は毘奈ちゃんの最高傑作なのだ!!」

 「……え?」



 毘奈がバッグから取り出した、二段になってる弁当箱を開けると、何の変哲もないおにぎりと焼きそばが入っていた。

 自信作って言うけど、僕はどう口にしたらいいのかわからず、言葉を濁す。



 「えーと、何だか……炭水化物ばかりだね……」

 「な~に? 吾妻、文句あるの?」

 「い……いいや! とても斬新で先鋭的なお弁当だと思ったんだ! いただきます!」



 まあいいや、弁当の中身に関しては大いに疑問だけど、この内容であれば大ハズレはまずないだろう。

 僕は毘奈のご機嫌を伺いながら、安っぽくて冷えた焼きそばを口に運んだ。



 「どうどう? 吾妻、美味しい? 美味しい?」



 最初、僕は毘奈がどんな魔法を使ったのか分からなかった。

 だけど、僕は鬱陶しく感想を求めてくる毘奈を忘れてしまうほど、その何てことない焼きそばの味に感動し、思わず持っていた箸を落っことしてしまっていた。

 毘奈はその反応を見て、得意気に笑った。



 「コラコラ、お行儀悪いぞ! でも、驚いたでしょ? この味出すの、苦労したんだ……」

 「じゃあ……こっちは……?」


 

 僕は落っことした箸も拾わないまま、弁当箱に並んだ冴えないおにぎりを掴んで、何かを確かめるようにかぶりついていた。

 そうか、やっぱりだ。間違いない。この独特の甘じょっぱい味噌の風味、忘れるわけないじゃないか。



 「これ……ばあちゃんの味だ……」



 毘奈が最高傑作というわけ。この焼きそばとおにぎりは、小さな頃、お腹を空かせた僕と毘奈に、ばあちゃんがよく作ってくれたものだった。

 ばあちゃんが亡くなった今となっては、本当の娘である母親でさえも出すことができなかった味。

 もう決して口にすることができないと思われたこの味を、毘奈はあの頃の記憶だけを頼りに再現させていたのだ。



 「そう、大正解! じっくり味わいなよ、ただ美味しく作るよりずっと大変だったんだから! ……って、吾妻……え?」



 完全に想定外だった。不覚にも僕は毘奈の作ったおにぎりを食べながら、ボロボロと涙を流していた。

 さすがにここまでの反応は予想していなかったらしく、一緒におにぎりを頬張っていた毘奈も……。



 「ちょっと、やめてよ! 吾妻が泣いちゃったらさ、私まで涙が出てきちゃうよ……うううっ」



 策士策に溺れるっていうやつか……? いや、ちょっと違うな。

 とにかく毘奈は、僕を驚かせようと作ってきた弁当を食べながら、一緒にわんわんともらい泣きしていたんだ。



 「ママ! あのお兄ちゃんとお姉ちゃん、おにぎり食べながら泣いてるよ」

 「まあ、きっと普段満足に食べられていないんだわ……」

 「なんて可哀想な子たちなんだ……」



 何も知らない第三者にとっては、きっととてもシュールな光景に映っていたに違いない。

 僕らはそんな周りの目に全く気付かないまま、自分たちの涙がしみ込んだほろ苦い味のおにぎりと焼きそばを、様々な思いを胸に噛みしめていた。



  ★  ★  ★  ★


 

 ――しかしね、吾妻は少し引っ込み思案なとこがあるから、ヒナちゃんみたいな子が吾妻のお嫁さんに来てくれると、おばあちゃんも安心なんだけどねえ。



 ――……



 毘奈の作った奇跡みたいな弁当のおかげで、僕は周囲に醜態を晒しながらも、何だか絆されてしまっていた。

 いかんいかん、毘奈の術中にハマってしまってる場合じゃない。午後もどんな目に遭わされるか分かったもんじゃないんだから。



 「吾妻! あれあれ、お化け屋敷入ろう!」

 「……ええ!?」



 別に僕はお化け屋敷が嫌いってわけじゃない。毘奈と一緒に入るお化け屋敷が嫌いなんだ。

 っていうのも、毘奈はお化け屋敷に入りたがるくせして、結構お化けが苦手だったりする。そんな女の子と一緒に入ったりすれば……。

 おっと、今何か邪まな想像をしただろ? お化けに怖がる女の子が、抱き着いてきて……みたいなね。世の中そんなご都合主義みたいにはいかないのさ。



 「いやぁーー!!! こっち来ないでーー!!」

 「ぐぇっ!! おふぅっ!!」



 僕にとって怖いのはお化けじゃない。お化けに驚いた毘奈が繰り出す、やけにキレのいい裏拳や回し蹴りだ。まさにそれは、暗闇から襲い来る凶器に等しかった。



 「あー! 吾妻、凄く怖かったね!」

 「いや、僕は凄く痛かったよ……」



 僕は毘奈から受けたダメージも癒えぬまま、園内のゲームセンターに入り、毘奈の要望でエアホッケーで勝負することになった。

 僕は覚悟を決めて集中力を高める。別に勝つ為じゃない。ハナッからこんな体力馬鹿に、勝とうなんて思っちゃいないんだ。


 

 「吾妻、そこ、覚悟!!」

 「ひゃぁぁーー!!」



 台から弾き飛ばされたエアホッケーの円盤が、僕の右頬を吹き抜けるようにかすった。毘奈の放つ円盤は、三回に一回くらい僕に直接飛んで来るんだ。

 だから、僕がエアホッケーをする時に一番気を付けなきゃいけないのは、如何に怪我をしないかだった。



 「ありゃりゃ、また失敗! 吾妻、やっぱり器用に避けるね」

 「ふん、甘いな毘奈……何年お前とエアホッケーをやってると思ってるんだ! お前の放つ攻撃など……」



 最早何の勝負だか分からなかったが、僕は毘奈が打ち飛ばす弾丸のような円盤を、紙一重のところでかわしていく。

 そう、僕の目にあの衝撃が飛び込んでくるまではね……。



 「当たりはしなぃ……ぎゃぁー!!!」

 「あ、ごめん! 吾妻、大丈夫?」



 顔面に円盤がぶち当たる寸前、僕は何か見てはならないものを見てしまった気がした。

 ゲームセンターの中からガラス越しに見えた光景、この寂れた遊園地には決して似つかわしくない、今をときめく女子中学生と思われるグループだった。



 「う……嘘だろ?」



 その女子中学生の中心、大人っぽい白のキャミソールを着ているあの子、間違いない。

 透き通るような白い肌、涼やかで優しそうな瞳、熟れた果実のような唇をした、僕の世界美少女遺産登録済みの絶対的美少女、榛名 雨嶺さんじゃないか!


 

 「ねえ、吾妻、どうしたのどうしたの?」



 あからさまにキョドる僕に、首を傾げる毘奈。ヤバイヤバイヤバイ、何でこんな遠方の寂れた遊園地に榛名さんが来るんだよ。偶然にしちゃ、でき過ぎだぞ?

 もしかして、榛名さんがここに来るのを全て知った上での、毘奈の手の込んだ策略なのでは? とも思ったが、さすがに無理があったので、その仮説は捨てる。

 やはりあれだ。惹かれ合う僕と榛名さんは、知らず知らずのうちに同じ場所へ引き寄せられてしまう運命にあるのだ。そうに違いない!



 「ぐぬぬ……毘奈、ちょっと場所を変えようか」

 「え? 別にいいけど、本当にどうしたの?」


 

 しかし、まずいぞ。万が一、僕と毘奈が一緒にいるときに榛名さんに出くわしてしまったら、僕は初デートの前の日に、他の女子とデート(?)している最低野郎になってしまう。

 そうかといって、毘奈に状況を説明して園内から出るわけにもいかない。何しろ、僕と榛名さんが付き合い出したのは、国家機密に匹敵するようなトップシークレットなのだからな。



 「ほら、毘奈、ぐずぐずするなって、早く行こうぜ!」

 「ちょっ! 待ってよ、痛いよ吾妻!」



 僕は焦るがあまり、咄嗟に毘奈の腕を掴んで駆け出していた。とにかく、何としてもバレるわけにはいかない。遠くへ、遠くへ行くのだ。



  ★  ★  ★  ★



 ――えぇー! 吾妻とー? 



 ――おやおや、吾妻は人気がないんだね。



 ――……



 どこだ? どこに行けばいいんだ? たとえ榛名さんから離れたとしても、毘奈に勝手に動き回られたんじゃ元も子もない。考えろ、考えるんだ!

 僕が焦ってる中、毘奈は不思議そうに手を引かれていたが、それももう限界だった。



 「ちょっと吾妻! 本当にどうしたの? さっきからおかしいよ!!」

 「ああ……いや、確か、こっちに僕が乗りたかったものがあったような、なかったような……」

 「んん……そうだ吾妻、せっかくここまで来たんだからさ、観覧車に乗ろうよ!」

 「え? 観覧車って、いや……悪くないかも」



 僕はがむしゃらに走っている間に、観覧車乗り場のすぐ下まで来てしまっていた。

 そうだ、観覧車であれば毘奈に園内を動き回られる心配もないし、榛名さんに見つかる危険も少ないな。渡りに船じゃないか。



 「そうそう、観覧車に乗りたかったんだ! さすが幼馴染、僕のことよく分かってるな!」

 「え? 吾妻ってそんなに観覧車好きだったっけ? まあいいけど……」



 少し訝しむ毘奈をよそに、僕は逃げこむように観覧車のゴンドラへと跳び乗った。僕の向かいに毘奈が座り、ゴンドラはゆっくりと上昇していく。

 しかし、まずは時間を稼げたが、一体この後はどうするんだ? 観覧車が一回りしてしまえば、活動的な毘奈はじっとなんかしてやしないぞ。

 難しい顔をする僕とは裏腹に、毘奈は小さくなっていく周りの様子を無邪気に見回していた。全く、いい気なもんだ。



 「吾妻、今日は楽しかったけどさ、やっぱりあの頃みたいにはいかないんだね……」

 「え? なんだよ急に」



 いつもの鬱陶しいくらいの幼馴染の横顔は、快活さの中にどこか憂いを帯びていた。

 観覧車は静かに上昇を続け、ただでさえ小さなこの遊園地を、猫の額ほどもない大きさへと変えていく。遠くの空を見渡そうとすれば、視界を遮るように都会のビル群が建ち並んでいた。



 「昔はさ……おばあちゃんに連れて来てもらってた頃は、この遊園地ももっと広く感じたよね。丸一日いても全然飽きなかったもん」

 「まあ僕たち、もう中二だもんな」



 僕には毘奈のこの時の心境が、何となく分かった。確かに、あの夏の日の空はどこまでも広くて、世界は僕らには理解が及ばないほど偉大だった。

 いつからなんだろう。世界をどこか息苦しく感じるようになって、今はこんなことで頭を悩ませている。

 毘奈の影響からか、僕も昔を懐かしんで少しセンチな気持ちになっていた。そんな僕を、毘奈の何気ない一言が大きく揺さぶる。



 「そうだね……吾妻にも彼女ができちゃうわけだ」

 「へ……か、彼女って……ええ!?」



 なんだ、一体何が起こったんだ? なんでこいつが、毘奈がそのことを知ってるんだ? 鎌をかけてる感じでもない。僕をハメる為の高度な策略だったとでも言うのか?

 僕が顔面蒼白でしどろもどろになっていたもんだから、毘奈は少し申しわけなさそうに微笑んだ。



 「あははは……同じクラスの榛名さんに告られたんでしょ? 知らないと思った?」

 「な、なんでそれを!?」

 「毘奈ちゃんは何でもお見通し……って言いたいとこだけど、あの日さ、放課後に吾妻、凄い勢いで体育倉庫の方に走って行ったでしょ? 呼び止めても、全然気付かないからさ、付いて行ってみたんだ……」

 「じゃ……じゃあ、もしかしてあの現場を!?」

 「別にのぞき見するつもりはなかったよ。でもさ、まさかそこで吾妻が告られるなんて思わないでしょ?」



 なんてことだ。最初から、こいつには何もかもバレていたってことかよ。さすがだよ、この秘密警察の諜報能力にかかっては、きっとケツの穴の毛の本数ですら把握されていることだろう。

 でもこいつの雰囲気からは、今日ここに榛名さんが来てることを知っている風には、微塵も感じられなかった。ここは毘奈に協力を求めたいところだが、もう何がなんだか分からん。



 「じゃあ、お前は全部知ってて、ここに来る為に……?」

 「彼女できたのに、今日は付き合わせちゃってごめんね。でもさ、彼女いるのが分かってて、吾妻を連れ回すわけにはいかないでしょ? だからさ、知らない振りしちゃった」

 「そうまでして……ここに?」

 「ここはさ、小さな頃、大好きな場所だったんだ。だけど、おばあちゃんが亡くなって、いつの間にかここにも来なくなってたから……。だからね、どうしても最後に吾妻と一緒にここに来たかったの……」



 毘奈は遠くの空を見上げながら、少し寂しげに微笑していた。ああ、僕は榛名さんのことで頭がいっぱいで、このいつもすぐ近くにいた幼馴染のことを、少しも分かろうとしていなかったのかもしれない。

 毘奈は今もあの頃の思い出を……ばあちゃんや僕との思い出を、とても大事に胸に抱えていたんだ。だからどうしても今日、毘奈はここに来なければならなかった。

 きっと、毘奈は胸にしまったその大事な思い出を、最後にもう一度その目に焼き付けておきたかったのだろう。

 あの日、突然逝ってしまった大好きだったばあちゃんへ、まるでさよならでも言いに来たみたいに……。



 「可愛い子だよね……榛名さん、うちのクラスの男子たちもしょっちゅう噂してる」

 「ま……まあね」

 「吾妻のこと心配してたからさ、きっとおばあちゃん、凄く喜んでると思うよ。もちろん私もね!」

 「ばあちゃんはともかく、何でお前が喜ぶんだよ?」



 そんなこと聞くんじゃなかった。言われなくたって、僕だって知ってるんだ。このお節介で鬱陶しい幼馴染が、本当はどんな奴かってことくらい。



 「だってさ、吾妻が幸せになってくれたら、私も嬉しいじゃん!」



 よしてくれよ、そんなこと言われて微笑まれたら、自分が如何に小さい奴かってことが身に染みて分かっちまう。

 毘奈のその清々しい発言に、僕はうっかり本音を漏らしてしまった。



 「ごめん、てっきり毘奈は僕の弱みを握って、一生奴隷のように服従させるつもりなのだとばかり……」

 「何それ、酷くない? ちょっと揶揄っただけだよ! 私のこと、何だと思ってたの!? ……まあ、吾妻が是非そうして欲しいなら、考えてあげないこともないけどね♪」

 「お前のは冗談に聞こえないっつーの……」



 観覧車のゴンドラはピークを過ぎて、降り口に向かって下降を開始していた。

 いずれにしろ、もう時間がない。ここはもう、恥を忍んで毘奈に協力を仰いでみるしか……。



 「ごめん毘奈、実は相談したいこと……が、ええ!?」

 「ど、どうしたの、吾妻!?」



 毘奈に榛名さんが来てることを伝えようと、何となくゴンドラの降り口付近を伺った時だった。

 なんか、やたら可愛い女の子が歩いてるなと思ったら、案の定それは僕の彼女であり、学年二大美少女に数えられる圧倒的美少女、榛名 雨嶺だったのだ。

 やばいぞ、よく分からないが、三人して観覧車を興味深げに眺めてるじゃないか。



 「吾妻、だからどうしたの? 急に椅子の下に隠れちゃって!?」

 「し、知らないけど、ち……近くに、は……榛名さんが来てるんだよ! このままだと見つかっちゃう!」

 「ええぇー!? 吾妻、なんでそんな大事なこと早く言わないの!!」

 「だ、だって、付合ってること秘密なんだから仕方ないだろ!」



 残された時間はあと僅かだった。このまま普通に降りてしまえば、榛名さんと鉢合わせてしまう可能性大だ。

 毘奈は狼狽える僕を見ながら、唐突に覚悟を決めた様子で言った。



 「いいよ吾妻、私に任せて!」

 「……え?」



 毘奈は急にバッグの中をガサガサと漁り始め、僕は彼女に言われるがまま、あることをしてゴンドラを降りたんだ。



 「もう、あっくんたら、高所恐怖症だったなら先に行ってよ! 大丈夫? 早くあっちで休もうね」



 僕は毘奈が弁当を包んできた大きめのバンダナを頭に被り、さも気持ち悪そうな感じで口にハンカチをあてながら、毘奈に抱えられるようにしてゴンドラを降りる。

 そして観覧車を眺めていた榛名さんたちの横を通る時、毘奈が僕と彼女たちとの間に入る形となり、何とかバレずにその場を離れることができたんだ。


 

 「なにあの彼氏? ダッサ!」

 「でも、あの女の子、どこかで見たことなかった?」

 「そう……?」



 榛名さんを含む三人組は、すぐ横を通った怪しいカップルを不審に思いながらも、それ以上の詮索をしてくる様子はない。

 僕は首の皮一枚、あわやあわやというところで、未曾有の大惨事を回避することができたってわけだ。毘奈に助けられたってのが、少し皮肉なお話ではあるけどね。



  ★  ★  ★  ★



 僕らは観覧車からかなり離れたところまで走り、近くにあったベンチに腰を下した。

 ドキドキとハラハラで、二人とも安堵の溜息を吐いていた。



 「あードキドキした! でも上手くいったね!」

 「はあ……はあ……疲れた。本当にどうなるかと思ったよ……」

 「ふふん、さすが私の作戦でしょ? これで吾妻に貸しイチね!」

 「物凄く思うところはあるけど、助かったからいいよそれで」



 あんなことがあった後だとは思えないくらい、僕らが見上げた空に浮かぶ雲は穏やかに流れていた。

 時間も午後四時を回り、徐々に日も傾いてきている。榛名さんの件もあるし、少し休んだら早めに帰るのが得策だな。



 「昔はさ、ここに来たあと、おばあちゃんがよく銭湯に連れてってくれたよね」

 「ああ……まだあるのかな、あの銭湯」

 「確か吾妻、学校上がる前でさ、女湯に入らされるの凄く嫌がってたよね? 面白かったな……」

 「へ、変な事思い出すな! お前も少しは恥じらえよ」

 「別にいーじゃん、小さい頃なんだしさ!」



 もう帰る間際になって、僕らは少し名残惜しかったのか、つまらない思い出話に花を咲かせてしまっていた。

 でも、もうこの時間も終わりなんだ。ずいぶんバタバタとしてしまったけど、なんだかんだで最後に毘奈とここに来れて良かった気がする。


 

 「休んだことだし、そろそろ帰ろうか……」

 「……ちょっ! 吾妻こっち来て!」

 「は……え?」



 不意に何かに気が付いた毘奈が、すっかりリラックスしきっていた僕の腕を取り、アトラクションの物陰へと引っ張った。



 「ど、どうしたんだよ? 急にこんなとこまで! そ……それに……」

 「しっ!! 静かにして、榛名さんたちだよ!」



 ああ、分かってる。今回も危ないとことだった。でも、問題はそこじゃない。毘奈は上手く身を隠す為に姿勢を下げ、あろうことか僕の顔を胸に抱きかかえるように押さえつけていた。

 如何に毘奈とはいえ……十四歳の中学生だとはいえ、小さな頃のものとは異なる柔らかな感触に、僕は胸が高鳴って興奮を隠せなかった。



 「吾妻、近くに来るよ、もう少し我慢してて!」



 おいおい、我慢って……一体僕は何に対してどう我慢しなきゃいけないんだ。毘奈の腕とおっぱいとの狭間で、僕は必死に何かと戦っていた。

 そうだ、僕らのすぐ近くを通り過ぎて行く、彼女たちのその言葉を聞く前までは……。



 「それにしてもさ、あの時の那木、マジ傑作だったよね!」

 「そうそう、雨嶺の告白、真に受けちゃってさ! まあ、雨嶺の演技力の賜物だよね、さすが女優志望!」

 「ちょっと、勘弁してよ。罰ゲームだからってさ、あんな男子に告白させられる身にもなってよね……」



 僕は一瞬、彼女たちが何を言っているのか理解できなかった。罰ゲーム? あの榛名さんの口からそんな酷いこと……。そうだ、これは夢だ、夢に決まってるさ。



 「大体さ、雨嶺が那木みたいなイケてない男子に告るわけないじゃん。上手くいきすぎちゃって、こっちが困っちゃうよね」

 「そうそう、告白の呼び出しを授業中にあんな手紙で回すわけないし、普通に考えればわかるっしょ? 普段賢ぶってるくせして、馬鹿だよね、あいつ」

 「ねえねえ雨嶺、明日デートの約束したんでしょ? どーすんの、行くの?」

 「行くわけないじゃん! 明日は仕方ないから、急用ができたってことにするよ。あーあ、本気にしちゃってるし、どうフッたらいーのかな……」



 動揺する僕の心へ、次々と心ない残酷な言葉が突き刺さってくる。夢なんかじゃない。僕の耳下では、毘奈の波打つ鼓動がこんなにもリアルに響いているのだから。もうどうにかなってしまいそうだったよ。 

 だけどそれ以上に、更に高鳴っていく毘奈の鼓動と、怒りに震える彼女の腕の感触が恐ろしくてならなかった。



 「でもさ、おじいちゃんにタダ券もらったから来てみたけど、この遊園地つまんなかったね」

 「ほんと、なんか汚くてボロいしさ、どのアトラクションも子供騙しだし、来るんじゃなかったね。混んでてもデェスニー行けばよかった……」

 「さっきも変なカップルいたけどさ、こんなしょっぱい遊園地連れて来る彼氏ってどうなの?」

 「ないない、絶対無理! 百年の恋も冷めるっつーの! だけどさ、案外那木とかだったらあり得るんじゃない?」

 「ちょっとやめてよー!! 冗談じゃなくて、本気で連れてこられそうだし……」



 もう本当にやめてくれ。僕のことはいい、悲しいけど耐えられるからさ。だけど、こいつは……毘奈は僕みたいに我慢強い奴じゃないんだ。



 「ちょっと待ちなよ!!」

 (ひ、毘奈! あー言わんこっちゃない!)



 僕の制止を振り切り、毘奈は公然と飛び出していった。そして、振返る彼女たちの前に、毘奈は静かな怒りをたぎらせて仁王立ちしていた。

 榛名さんはその威風堂々とした姿を見て、毘奈が何者であったのかやっと気付いたようだった。



 「あ、あなた、思い出した! 確か五組の天城さんだよね? どうしてこんな……」

 「馬鹿にしないで!!」

 「……え?」

 「ここはね、ここに来た人たちの……大事な人たちとの、大切な思い出が沢山詰まった場所なの! 馬鹿にしないで!!」



 突然現れた毘奈の鬼気迫る剣幕に、榛名さん含め軽口を叩いていた三人は完全に呆気に取られてしまった。

 物凄く気まずい空気に、榛名さんの横にいた二人が咄嗟にフォローに入る。



 「や……やだなー! 冗談だよ冗談! 真に受けないでよ」

 「ごめんごめん、気に障ったなら謝るよ! そんなに怒らないでよ!」



 ダメだダメだ。そんな取って付けたような謝罪で、本当に怒った毘奈が納得するわけがない。それに、問題の本質はそこじゃないんだ。



 「榛名 雨嶺さん……だよね? さっきの告白の話、本気で言ってるの?」

 「告白って、那木君とのこと? やだ、聞いてたんだ。ひょっとして知り合い?」

 「本気で言ってるのかって聞いてるの!!」



 怒りを露わにする毘奈に、他の二人はすっかり黙ってしまった。それに反して、榛名さんは不快感を出し始める。



 「本気もなにも、聞いてたんでしょ? ちょっとしたお遊びの罰ゲームだよ。あなたに何か関係あるの?」

 「よくもそんな酷いことぬけぬけと言えるね……許せない、吾妻に謝って!!!」

 「だから、何であなたにそんなこと指図されないといけないの? あなた何? 彼のお母さん?」

 「吾妻は私の幼馴染! 大いに関係あることだよ!!」



 それを聞いた榛名さんは嘲るように鼻で笑った。これは本当にまずいぞ。毘奈の怒りに触発されたのか、あの控えめだった榛名さんのボルテージも上がってきている。

 毘奈はマジギレしているように見えるけど、これでも最大限怒りを抑えている方なんだ。だから頼む、これ以上毘奈を煽らないでくれ。



 「私、今何かおかしいこと言った? 笑う意味が分からないんだけど」

 「だってさ……幼馴染って……。分かった! 天城さん、あなた那木君のこと好きだったんでしょ? そうかー、だからそんなに怒ってるんだ!」 

 「何を言ってるの?」

 「そんなに那木君のこと好きならさ、天城さんが付き合ってあげればいいんじゃない? そうだよ、名案! 彼モテないだろうしさ、天城さんが付き合ってあげたら、きっと凄く喜ぶよ! 私もすっきり縁切れるしさ、そうしない?」

 「もういい、黙って……」



 人は見かけによらないってのは本当だったんだね。実際今この耳で直接聞いてて尚、僕はあの控えめな美少女がこんな悪態を吐いてるなんて信じられなかった。

 そして、ダメ押しとも言えるようなその一言で、事態はもう取り返しのつかない方へと一気に傾いたんだ。



 「それでさ、傷ついた幼馴染同士、仲良く傷でも舐め合えばいいじゃん」



 言ってしまった。きっと売り言葉に買い言葉ってこともあったのだろう。だが、この恐れ知らずで本当に悪辣な美少女は、見事に越えてはならぬ一線を越えてしまったんだ。

 数秒間下を向いて沈黙した毘奈は、いよいよ右足を大きく前に踏み出し、怒鳴り散らすかのように叫んだ。



 「あんたなんか……あんたなんか!! 泣いて謝ったって、絶対に吾妻と付き合わせてなんかやるもんか!!!!!」



 ついにブチキレた毘奈が、榛名さんに向かって飛びかかろうとした刹那、僕はずっと隠れていた物陰から飛び出し、振り上げられた毘奈の右手を掴んでいた。



 毘奈がここまで怒った理由……。



 それは幼馴染である僕ですら、本当の意味で知るところではなかった。


 

 心当たりがあるとすれば、あれは遠い昔……。



 もうどれくらい前になるだろう?



 遊び疲れた僕が居間でうたた寝をしていると、騒がしい蝉の鳴き声と涼し気な風鈴の音が響く縁側で、毘奈とばあちゃんが何やら楽し気に話をしていたことだけは覚えている。



 ――……



 ――だってヒナ、年上でヒナより足の速い人がいいんだもん!



 ――そりゃ困ったね、おばあちゃん今から吾妻が心配だよ。



 ――うーん……じゃあね、おばあちゃん、ヒナが見つけてあげる! 吾妻にとびっきりのお嫁さん、ヒナが見つけてあげるよ! それなら安心でしょ?



 ――おやまあ、ヒナちゃんには敵わないね。でも……ヒナちゃんが見たててくれるんなら、おばあちゃん安心だよ。



 ――……



 それは、かつて空がどこまでも広く、世界が偉大であったあの夏の日の……二人だけの約束だった。


 

 「吾妻、止めないでよ!! この女だけは許せない!!!」

 「な……那木君!? ど、どうしてここに?」



 さすがに僕がここにいるとは思っていなかったらしく、榛名さんはさっきまでの太々しい態度が嘘だったみたいに動揺していた。



 「そ……そうなんだ、二人ともグルだったんだ。あ……明日デートに誘っときながら、今日もずいぶんと楽しそうじゃない?」

 「僕と毘奈はただの幼馴染だよ。まあ、だからと言って褒められた行為じゃないけどね。……でも、最低なのはお互い様だろ?」



 榛名さんも他の二人も、口をつぐんでしまった。そうだよな、ここまで悪事がバレてしまえば何も言えないよな。

 後は僕の横で、今にも殴りかかろうとしているこの猛獣を何とかしないといけない。



 「離してよ吾妻!! こういう女はね、一度引っ叩いて痛い目見せないと!!」

 「榛名さん、別に謝ってくれなくたっていい。お願いだから、早くここから消えてくれないか? いつまでもブチキレたこいつを抑えておける自信はないからさ……」



 彼女たちは怯えながら顔を見合わせると、逃げるようにそそくさとその場を去って行った。

 そして、彼女たちの姿がもう見えなくなった頃、毘奈は拳を振り下ろす場所を失くし、彼女の腕を掴んでいた僕の右手を力任せに振り払ったんだ。



 「毘奈、怒ってくれてありがとな……俺なら大丈夫だからさ、もう帰ろ……」

 「……酷いよ、今日は大事な日だったのに……おばあちゃんとの大切な思い出、いっぱい思い出してたのに……なんでここで、あんな酷いこと言うの……」



 いつの間にか、怒りに満ちていた毘奈の瞳からは大粒の涙が溢れ出し、乾いたコンクリートの上へ止めどなく滴っていた。

 そして感極まってか、毘奈はこの遊園地のど真ん中で、膝を落としてわんわんと泣き崩れてしまったのだ。

 それを見た人たちが、周囲に集まって来る。



 「ママ、あのお兄ちゃん、お姉ちゃんを泣かしてるよ!」

 「まあ、ほんと、最低な彼氏ね」

 「あんなに可愛い女の子を泣かすなんて……」

 「なんて野郎だ、殴ってやりたい気分だな!」



 おいおい、勘弁してくれよ。正直言って、今泣きたいのはこっちの方なんだ。それなのに、これじゃまるで僕が悪い奴みたいじゃないか。

 僕は周囲の冷ややかな視線に耐えながら、泣きじゃくる毘奈を必死に宥めるようにして遊園地を出た。



  ★  ★  ★  ★



 僕と毘奈は日がかげって閑散とした商店街を、駅に向かって無言のまま歩いていた。

 毘奈は既に泣きやんではいたが、普段快活で愛嬌のある彼女が酷く泣き腫らした顔をしている。

 さすがに何て声を掛けて良いものか、僕は気を揉んでいた。でも、この居たたまれない空気のまま帰るのは嫌だった。



 「こんなことになっちゃったのは残念だけどさ、まあ、あれだ……一つだけいいこともあったな」

 「……え……なに?」

 「だってさ……その、またお前と……ここに来ることができるだろう?」



 全く、なんで僕が毘奈なんかに、こんなこっ恥ずかしい台詞を吐いてやらなきゃならないんだよ。今回限りだからな。

 毘奈はハッとした様子で僕を見上げると、これ以上ないくらい渾身の笑顔を見せて肯いた。



 「……うん、そうだね! また来よう、吾妻!」



 商店街を抜けた先に見える遠くの空には、幻想的なママレード色に染まった雲が浮かび、僕らが歩いて行く先を淡く彩っていた。

 どうやら、大人の階段ってやつはまだだいぶ遠くにあるらしい。だからそれまで、もう少しの間この鬱陶しくてお節介な幼馴染と、子供時代を一緒に満喫しようじゃないか。



 「色々あって腹減ったな、何か食べて帰ろうぜ、今日は奢るよ。明日のデート代も浮いたことだしな」

 「嘘!? ホントに? じゃあ私、叙情苑で特上カルビ食べたーい!」

 「馬鹿なの? そんな高い物、中学生が奢れるわけないよね?」

 「ええー! たまには可愛くて優しい幼馴染に、おいしいものごちそうしてよ!」

 「本当に可愛くて優しい幼馴染は、失恋したばかりの男子に叙情苑の特上カルビを奢らせたりしません!」

 「ああ、確かに!」

 「確かにって、お前な……」



 ちなみに……。



 この後、僕への罰ケーム告白事件が明るみとなり、榛名 雨嶺に対する男子からの評価は軒並み大暴落となる。

 騙された僕としてはスカッとした半面、自動的に学年可愛い女子ランキング一位となった毘奈が、調子に乗ってマウントをとってくるんじゃないかって、複雑な気分だったよ。

 絶対に内緒にしておこう……。



 そして、すっかり疲れ果てた僕らは、帰りの電車に揺られながら、二人で寄り添うように心地良い眠りに落ちていた。



 ――……



 ――ヒナちゃんは、大きくなったら何になりたいんだい?



 ――ヒナね、ママみたいになりたいからお嫁さんになるの!



 ――ヒナちゃんは気立てがいいからね、きっといいお嫁さんになるよ。



 ――ホントに? ヒナ、可愛くて優しい、ママみたいな嫁さんになれる?



 ――もちろんだとも、おばあちゃんが約束するよ。



 ――じゃあ、おばあちゃんもヒナがお嫁さんになるとき、結婚式来てくれる? 



 ――そうだね、吾妻やヒナちゃんが結婚するまで、生きていたいものだね……。



 ――大丈夫だよ、おばあちゃんいつも元気だもん! 長生きできるもん!



 ――しかしね、吾妻は少し引っ込み思案なとこがあるから、ヒナちゃんみたいな子が吾妻のお嫁さんに来てくれると、おばあちゃんも安心なんだけどねえ。



 ――えぇー! 吾妻とー? 



 ――おやおや、吾妻は人気がないんだね。



 ――だってヒナ、年上でヒナより足の速い人がいいんだもん!



 ――そりゃ困ったね、おばあちゃん今から吾妻が心配だよ。



 ――うーん……じゃあね、おばあちゃん、ヒナが見つけてあげる! 吾妻にとびっきりのお嫁さん、ヒナが見つけてあげるよ! それなら安心でしょ?



 ――おやまあ、ヒナちゃんには敵わないね。でも……ヒナちゃんが見たててくれるんなら、おばあちゃん安心だよ。



 ――だからね、おばあちゃん! ヒナたちが結婚するまで、絶対長生きしてね! 約束だよ!



 ――……



 それは、かつて空がどこまでも広く、世界が偉大であった時代……。

 祖母の優しい眼差しに見守られながら過ごした、あの懐かしき夏の日のように。

最後までお読み頂きありがとうございます。

この作品は、前回書いたラブコメ企画の延長で書いたものとなります。

もっとも、友人に読んでもらったところ、

「ラブコメというか、スタンド・バイ・ミーみたいな話だね……」

と、言われてしまいましたが……。

まあ、昔好きだったアメリカの青春ドラマの影響を、受けている感は否めません。

とりあえず、おじ様向けのノスタルジックなラブコメということで……需要あるのかな?


【この先のエピソード、あります! 正規ラブコメルートはこちら】

元々、前作の短編で書いたラブコメ作品の前日談的位置づけになりますので、

ここから先の吾妻君と毘奈ちゃんの物語を読まれたい方は、是非こちらもどうぞ。


■■本作品の一年後を描いた短編 2021/9/22投稿予定■■

『腹黒くてドライな妹が、僕と幼馴染をくっつけたがる理由』

★吾妻君を毛嫌いする妹の伊吹ちゃんは、何故吾妻君と毘奈ちゃんをくっつけようとするのか?


■■本作品の正統続編 2021/11/24連載スタート予定です■■

『高校デビューに失敗した僕。甘くて危険なクーデレ狼に懐かれる』

★高校生になった吾妻君と毘奈ちゃん、今度は学園一危険な美少女と三角関係に!? 学園中から恐れられる霧島 摩利香の秘密とは?

※以前書いた短編の連載版です。


【吾妻君が異世界へ召還? 異世界転移ルートへ】

そもそもの話、以前連載物で書いていたラブコメ要素の強い異世界転移ものを、ラブコメ作品として再構築した作品となります。

ですので、一番最初の原作は下記の作品となります。

毘奈ちゃんに彼氏ができて傷ついている吾妻君を、謎の美少女 霧島 摩利香が異世界ハシエンダへと召還します。

まあ、今回の作品を異世界ものに繋げてしまうのは、世界観的に少し無理があります。

ただ、連載物で分量も多いので、よろしかったらどうぞ。


『失恋勇者~世界を売った少女と始める異世界往来記~』

★失恋から始まる二つの世界を股にかけた剣と魔法の異世界ラプソディ

この小説のURL : https://ncode.syosetu.com/n4934el/



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― 新着の感想 ―
[一言]  何かにたけている人って、他人をぞんざいに扱う傾向がありますね。
2021/09/08 09:00 退会済み
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