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第三章・真っ黒な純白







………………。









「なんで人は死ぬんだろうな」

とぼけたように、銀髪の少年はそう言った。

灰色の瞳の少年は、怪訝そうに銀髪の少年を見る。

真っ赤な彼岸花が咲き誇る花園で、二人の少年は一人の少女に連れられて、ここにいたのだった。真っ赤な花束を抱えて手を振っている少女を、二人の少年は遠目に見やる。

「なんでって…死ぬからじゃないのか」

「答えになってねー」

ふい、と銀髪の少年はつまらなそうにそっぽを向く。

「こんなところに閉じ込められて…あいつは退屈しないのか」

少しだけ寂しそうに、少年は銀色の瞳を細める。

そんな銀色から、灰色の瞳は目を逸らした。

「…少なくとも、つまらなそうには見えないけど」

沈黙が、二人の少年を包む。

ざわざわと吹きつける風によって、真っ赤な花が舞い上がった。

「なんで人は死ぬんだろうな」

再び、銀髪の少年。

灰色の瞳は銀色を見る。

「君が殺すからじゃないか?」

軽快な灰色に、銀色は呟くように言った。


「違ぇねえや」




「……」

起きた。

昨夜カインを差し置いて美味しいものを食べた腹いせに、僕の頬にはしっかりとカインの爪で受けた傷が残されていた。人間ではない分多少は傷の治りは早いが、さすがに悪魔から受けた傷だけあって、かすり傷であるにも関わらず治りは遅かった。

なので、寝覚めは最悪である。

「…」

「…むみゃ〜」

と変な奇声を上げながら、カインはまだ夢の中のようだった。

もうそれなりの時間で、僕は朝食を取りに行くためにティアデールの長衣ローブを身にまとうと、自室の扉を開ける。

「じゃ、行ってくるからな〜〜…」

そっと確認するように言ってみたが、返事はない。この国にいる間、カインはほとんど行動を制限されることを少しだけ可哀想に思い、次は何か持ってきてあげようと心に誓った。

またこんな目立つ傷を付けられたらたまったもんじゃない。


バタン、

扉が閉まったのを確認して、黒猫は瞳を開く。ゴールド赤紫ワインレッドのオッドアイを細め、いやらしく笑んだ。

「くく…オレサマをこんな狭い箱に閉じ込めておけると思うなよ…!」



「頭痛いよ〜〜シュゼット〜〜〜〜っ!」

城内・客室用・蝙蝠こうもりの間。

がんがんと響く頭を抱え、シャーロットはあまりの激痛に橙色の瞳を歪めていた。そんな自分の上司に溜め息をつくと、シュゼットはくい、と眼鏡を上げる。

「昨日無理してあんなに飲むからですよ隊長?自業自得ですわ!」

一つに結い上げた茶色がかった髪をいじりながら、沸騰ふっとうしているポットを止める。てきぱきと食器棚からカップを取り出し、湯を注いだ。

「ほら隊長、グリーンティーですよ」

「う〜さんきゅ〜…」

テーブルに突っ伏していた顔を上げ、シャーロットは目の前に置かれたグリーンティーの香りに安堵の溜め息をつく。

「あ〜ん、やっぱ東洋の茶はさいこーね〜」

遥か東の島国でしか手に入らない茶葉を、シャーロットは高い金額を払って購入しているのだった。和みのひと時である。

「昨日みたいに召集令がかかっているのにあんまり遠くへ出かけられると困ります。エレス陛下に怒られるのはわたくしなんですから…ってちょっと隊長聞いてます?」

「聞いてる聞いてるっ!いいじゃないちょっとくらい。あの陛下に怒られたって恐くないでしょ?」

わたくしたちは雇われている身ですよ!?もう少し大人の事情を自覚して下さいっ!」

「まあまあ、そんなに怒んないでよシュゼット。あたしたちの仕事はこの戦を勝つことよ?勝ちゃいいのよ勝ちゃ!」

自信満々に橙色の瞳を輝かせるシャーロットに、シュゼットは諦めたように溜め息をついた。

「まったく…それだから隊長は…。とりあえず、せめて一ヶ月後の戦まではそのやんちゃな行動をつつしんで下さいませね」



蝶々の間。

昨日の宴会とはまた違った朝の雰囲気に、僕は若干の緊張を覚えながらもテーブルについた。この城はどうやらいつでもバイキングのようで、しかし朝食を取りに来ている兵士や傭兵は少ない。

「…お早う御座います、二人とも」

僕は思わず表情をひきつらせる。昨夜の宴会と同じように、テーブルにはたくさんの料理が乗った皿と、既に二人が平らげたと思われる皿が山積みに重ねられていた。

「あ、エインセルさん。遅かったですね」

言いつつ、綜威チェン・ウェイさんは料理を口に運ぶ手を止めない。ジェノンさんも、僕の存在に気付いてないんじゃないかというくらいの勢いで夢中にがっついている。

やはりこの二人の中に遠慮という言葉はないんだなと確信した僕だった。

「ところでエインセルさん、私はこれからティアデールの蔵書をあさりに行くつもりですけど…エインセルさんはどうします?」

「とくに予定はないですけど…調べ物ですか?綜威さん」

僕もトマトスパゲティに手を付け、もくもくと食べ始める。しかし既に綜威さんはデザートに突入していた。本日はモンブランのようである。

「どうせこの国にいる間は暇ですしね。正式な戦も一ヵ月後らしいですから、魔術書でもあれば読もうと思って」

「…そう、ですか」

淡々と、彼女は続ける。とても美味しそうに食べている表情とは裏腹に、その凛と響く声には抑揚がなかった。

「ま、突然の奇襲でもない限りは当面やることないですよ。でも…」

「でも?」

一瞬青い瞳を伏せた綜威さんは、しかしにっこりと誤魔化すように笑った。

「いえ、何でもありません…じゃあのちほど、エインセルさん」


「…」

綜威さんの後姿を見送り、僕は食事を続けた。ふと見ると、ジェノンさんが綜威さんについていかずに、彼女が消えた方を闇紫の瞳で見つめている。

「ジェノンさん?珍しいですね、綜威さんをストー…いえ、ついていかないなんて」

さらっとだいぶ失礼なことを言ったにも関わらず、ジェノンさんは何も攻撃を仕掛けてこなかった。そんな彼に、僕は怪訝な目を向ける。

「私、本日は片付けなければならない仕事がありまして…と言うわけなので私も後ほど♪」

言って、ジェノンさんは一瞬で姿を消した。

今日はみんな忙しいんだな…とぼんやり考えながら、僕は再びフォークを握り直した。



「…」

お昼を少し過ぎた頃、僕は綜威さんの蔵書漁りにはついていかずに再び街の散策に出ていた。今日こそは絶対に迷わないぞと心に誓い、いろんなあきない品を見てまわる。ちなみにこの頃、僕がカインに何かおみやげを買っていこうと誓った事実は、僕の中で完璧に消失していた。

「お!兄ちゃん昨日の魔術師じゃねーか!」

「…何か用ですか?」

妖しい人を見るような目で、僕は話かけてきた男を見る。男は僕と同じでティアデールの紋が入れられた長衣ローブを纏っていた。肩からけているホルダーには常識では考えられないレベルの大刀がおさめられている。恐らく、傭兵なのだろう。かちゃ、とかけていたサングラスを外して男は僕に名乗った。

「オレはハロルド!個人フリーの傭兵さ。どうだい?観光だったら一緒にまわんねえ?」

「年上の男性を連れ歩く趣味はありません。迷惑です。ついてこないで下さい」

はっ、と僕はわざとらしく目を逸らす。

「つっめてえのなっ!いいじゃん別にダチになってくれてもっ!」

と、いきなりハロルドさんは涙目になっていた。

…なんか面白い人だな。

もう少しからかってみようと思い視線を外すと、嫌な光景が僕の瞳に飛び込んできた。


「おいガキ!なんか言ったらどうだ!」

「そっちからぶつかってきたんだろ?一言くれぇ謝れや!」

「……」


男二人に、少女一人。三人共ティアデールの長衣を纏っていて、少女の方は長衣を腰に巻いている。それぞれ剣を所持しているところを見るなり傭兵なのだろうが…どうやら仲間割れって雰囲気でもないようだった。

「なんだなんだあ?傘蜘蛛かさぐもの奴ら、餓狼がろうじょうちゃんにからんでやがるぜ」

「傘蜘蛛?知ってるんですか?ハロルドさん」

男たちに聞こえないように声を低くして、ハロルドさんは続ける。

「餓狼よりか劣るが、それなりのやり手さ。しかし餓狼は別格の強さだからな。女・子どもばかりの集まりに自分たちより報酬がだいぶ違うのを根に持ってんだよ。へっ、実力の差を認めろってんだこのゴロツキが!ってカンジィ?」

「…」

言ってるうちに、野次馬も増えてきた。傘蜘蛛の男二人は少女に罵詈雑言をぶつけるが、少女はそんなことなどに興味はないとでも言うように無言でその場を立ち去ろうとしていた。激怒した風な男たちは剣を抜き始める始末。

「おいおいおい、ありゃやべえんじゃねえの?」

焦った風のハロルドさん。周囲の野次馬たちもざわざわし始めた。立ち去ろうとした少女は、静かに足を止める。それを合図にするかのように、男は少女に斬りかかった。しかし少女はそれでも背の剣を抜こうともせず黒曜石の瞳で男を見据えていて―――――


きいぃぃいいん――――!


耳鳴りがしたかのような、高い独特の金属音。とっさに僕の身体は動き、僕は少女の前に立っていた。ぎりぎりと、剣同士が押し合う音が響く。しかし僕が持っているのは短剣なので、どうしても男に力で押される。

「いきなり女の子を斬ろうとするのは、っ、どうかと思いますよ」

「るせえッ!そこをどけクソガキ!!」

瞬間、僕と男、そしてハロルドさん、少女の持っていた無線から一斉に召集がかかった。

『召集です!ティアデール23番エリアよりセルギオンの奇襲です!!動ける兵士、傭兵はすぐに現場に向かってください!!繰り返します―――!』

「こんなことしてる場合じゃねえぜっ!兄ちゃん!早くしろ!」

ハロルドさんの言葉に反応し、僕は即座に短剣を懐にしまった。

「お!らっきー!誰のか知んねーけどこのバイク借りまっす!!」

「は、ハロルドさんっ?」

ハロルドさんは僕の長衣を引っ張り、僕をもう一つあったバイクに投げ飛ばしやがった。「うわっ」と情けない声を出しながらも、なんとか着地に成功。すぐにバイクを走らせる。

「待てお前らっ!俺たちのバイク――――!!」

後ろの方で何か聞こえたが、聞こえないフリ。


すたん、


僕が走らせる背後に、そんな軽い音がした気がした。静かに後ろを振り向くと、そこには少女が腰に巻いている長衣をはためかせながら立っている。

「……えーっと…?」

「……」

「い、一緒に行く…?」

恐る恐る尋ねると、少女はこくりと頷いていそいそと座って僕の肩を掴んだ。黒曜石の瞳が、まったく感情がないかのように僕の瞳を捕らえる。

「前見て」

「え…あ、はい」

あまりの抑揚のなさに、僕は驚いた。しかし言われた通り、僕は運転に集中することに。喋れないわけじゃないんだなと思い、僕はほっと息をついた。

しばらくバイクを走らせて、少女は呟くように言った。あまりにも聞き取りずらい、か細い声音。

「どうして、助けたの…?」

「え、どうしてって、そんなの―――」

当たり前じゃないかと言おうとして、そんな僕の言葉は少女の抑揚のない声によって遮られた。


「わざわざ剣を抜かなくたって、簡単に殺せたのに」


本当に淡白な、何の感情も含まれない響き。僕はそんな人形のような存在に、恐怖すら感じた。


こんなたった一人の――――――人間の、少女に対して。








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