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名探偵サクラ ~魔王を倒せと言われたけど、職業が名探偵なので倒すビジョンが思い浮かばない件について~  作者: 乙黒


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第三十八話 クラス会議Ⅱ


「何を言ってやがる!! あんなにも俺たちにいい事をしてくれる彼らが、嘘をついているわけがねえだろうが!!」


「魔術を使えないからって僻まないでくれる? あの儀式にそれ以上の意味があるわけないわよ。だって私も魔術が使えるようになったんだから!」


「あんたは知らないんじゃないの? まあ、男にも抱かれた事もなさそうな顔をしているもんね。この国の人たちは本当に素敵な人ばかりよ。疑うなんて信じられないわ」


 阿鼻叫喚となった。

 クラスメイト達の様々な思いと共に、あらゆる罵詈雑言が千里へと向けられた。千里はその声の数の多さと大きさに、思わず耳を塞いでしまう。

 だが、その声はこの世界の人々を否定する千里への否定から、徐々にこの世界の執着へと変わる。


「はっ、あんな詰まらねえ世界に誰が帰るかよ! この世界じゃ、オレは英雄だ!! 元の世界よりもいい生活が待っている!!」


「帰る? そんなわけないじゃない。私は将来を約束したの。あんな素敵な彼、元の世界じゃきっと私なんか相手にしない。でも、この世界だと、こんな私でも相手にしてくれる! 元の世界に帰るなんて信じられないわ」


「頭もそんないよくない僕は三流の大学に行って、それなりの就職をする。顔だって冴えないから結婚できるかも分からない! このまま年をとっても僕は一人身の中年になるだけだ! そんな未来を選ぶぐらいなら、この世界でいい女を抱いて死んでやる!!」


 彼らが語るのはこの世界の魅力だ。

 確かに異世界は、素晴らしい場所だと思う。

 魔術と言うものは幻想でしかなく、ゲームや漫画などでしか見る事はない。どれだけ勉強をしても本当にものになるか分からないのに、魔術は頑張れば頑張るほど身に着ける事ができる。それも簡単な工程で学べるのだ。

魔族と言う悪役もいなければ、救うべき人々も元の世界にはいない。元の世界にいるのは高圧的な先生や先輩だ。優しい人もいるが、意地悪な者も多いのが事実だ。

美男美女とも知り合う機会はなく、テレビの中で見るぐらいだ。殆どが平均以下の容姿で、二年二組の大半の生徒がそうだ。美しい人は眺めているだけ。手が届く相手ではない。

貴族のような好待遇もなく、多くの人が送る平凡でつまらない生活を約束されているのだ。

 公立の高校に通う自分たちにとって、この異世界は素晴らしい非日常だった。それも只人ではなく、英雄としての道が待っている。


(でも――)


 ――だが、桜は知っている。

 この素晴らしい世界は虚構であり、真実の裏側にはどんな恐ろしい事が待っているか分からない。

 あの日記を信じなくても、王女達は嘘つきでありどれだけの真実が隠されているのは分からないのだから。


「皆さん、落ち着いて下さい! ゾラ様たちに騙されてはいけません!」


 千里はそんな彼らへともう一度説得を試みるが、火に油を注いだだけだ。


「お前が嘘を言っているんだろうが!」


「誰があんたの事を信じるのよ!」


「この裏切り者!」


「そんな日記の人物なんて嘘っぱちよ!」


「お前が俺たちを騙そうとしているんだろうが!」


「帰りたきゃ一人で帰れよ!」


「帰れ、帰れ、お前ひとりで帰れ!」


「お前なんかいらねえよ!」


「帰れ!」


「帰れ!」


「帰れ!」


「帰れ!」


「帰れ!!」


 立ち上がったクラスメイト達は、片手をあげて大きな声で千里を攻め立てた。それを行っていなかったのは桜ともみじだけだ。

 礼香は周りに紛れる為に行っていた。最もやる気なさげに片手をあげて、棒読みでコールを続けている。

 コールは続く。

 千里と言う異物を排除するまで。


「ひっ――」


 千里は彼らの圧力に屈して、目から涙をこぼした。

それは今にも千里を襲わんとばかりに近づいてきた男たちに対する恐怖からだろうか。それともクラスメイトを説得できなかったと言う絶望感からだろうか。

もしくは自分の無力さに嘆いただけだったのかも知れない。こんなことになるのなら最初から皆を助けるなんて提案をしなければよかった、とも思っているのかも知れない。

幾つもの感情がまじりあった涙が、幾つも千里の頬を流れる。


「帰れ!」


「泣いて許されると思うな!」


「帰れ!」


「お前こそが俺たちを騙す詐欺師だ!」


「帰れ!」


 そんな言葉の暴力を受けて、千里は膝が震えてしまった。動くことすらできない。身を知事こませて、その場に立ちすくむだけだ。

 その様子をまじかで見ていた恵は桜に目をやると、桜は部屋へ連れて行くように示した。また桜はもみじにも目線で合図を送り、千里を保護するように告げる。

 もみじはこそこそと椅子から立ち上がり、千里の方へ誰にも気づかれないように動く。

 それと共に恵が大きな声で言った。


「皆、すまない! 急にこんなことを話してしまって! 確かに君たちの言う通りだと思う」


 それと共に恵は千里の肩を強くもみじの方へ押す。

 既にクラスメイトの目は恵に向いており、もう誰も千里の事など気にしていなかった

 もみじは千里を受け取ると、涙でぐしゃぐしゃになった千里と共にリビングから去った。このことは予測していた事とは言え、なんとも痛ましい姿だと、もみじは思った。千里を労わるようにもみじは優しく抱いていた。


 そんなことは知ってか知らずか、リビングにいる全てのクラスメイトが恵を責めるように言った。


「そうだ! お前のせいだ!」


「ゾラ様の心証が悪く鳴ったらどうするつもりなんだ!!」


「あんな甘言で私たちを惑わして! 私たちが引っかかるとでも思ったの!?」


 そんな言葉を受けても恵は怯える様子もなく、困り顔をしていた。


「そうだね。君たちを混乱させたのは申し訳ないよ」


 そう謝罪するが、恵の言葉を受け入れる者はいなかった。

 クラスメイト達は次々に恵を大声で怒鳴った。恵の声をかき消すほどに彼らの声は大きく、そして多かった。

 やれやれ、と恵は首を振ってから神倉に視線を投げた。

 助けてほしい、と口パクで言った。

 その言葉を受けて神倉は立ち上がった。


「ちょっと待って、皆! ちゃんと東雲君の言葉も聞こうよ!」


 それだけでほぼ全てのクラスメイトの声が止んだ。

 

(おお、凄え)


 神倉の言葉に力を桜は心の中で褒め称えた。


「皆、ありがとう。僕も事前に妻林さんから話は聞いていたんだけど、まさかこんな事になるとわね。確かに彼女の言う事には怪しい点も多かったから、君たちが疑うのも無理ないよ」


「そうだ! そうだ!」


 恵の言葉に大声を出して賛同する男がいたが、彼の事は神倉が睨んで黙らせた。


「でもね、彼女の気持ちも少しはくみ取ってほしい。親もいないこの世界に来て、きっと不安だったのだろう。君たちもその気持ちは分かるだろう。親家族がいないこの世界だと、頼る人間が少ないからね」


 恵は千里をかばうように言った。

 その言葉は少しはクラスメイト達にも響き渡ったのか、誰も恵の言葉に反論は言わなかった。いや、言えなかったのだろう。ずっと神倉が目を光らせていたのだから。


「そうだね。彼女の気持ちはよく分かるよ。例え嘘だとしても、そういう希望に縋りたい気持ちはね。君からも言ってくれないか? そんな方法はあり得ない。ゾラ様も嘘を言うなんてありえない、と、彼女は本当にこの国の事を嘆いているだけなんだ」


 神倉も千里に同情した。

 だが、恵は真っ向から千里の言葉をあり得ない、という神倉の事が気に喰わなかった。どれだけゾラの事を信じているとはいえ、千里のあの感情が混じった言葉を聞いて、一蹴するだけなんて。


「そうかも知れないね。でも、妻林さんの話を僕はよく聞いていなくてね。よく聞いてから判断するよ。で、皆に聞きたいんだけど、もしも妻林さんの言う事が本当でも、帰る気はないという事でいいかな?」


 恵は千里の言葉を引き継いで言った。

 彼女は皆を説得することは出来なかったが、志は立派だったと恵は思う。皆を救おうとしたのだ。その言葉を否定することは許したとしても、皆を救おうとしていた彼女を貶すことまでは許す気にはなれなかった。

 だが、この場でクラスメイトを見捨てるのは、千里の考えとは違うため恵は皆へ改めて選択を迫ることにしたのだ。


「ああ、オレはないよ。この世界の人を救うまで元の世界に戻る気はね」


 最初に言ったのは神倉だった。

 やはり彼の意思は変わらないようだ。ゾラ達を疑う気も全くないようだ。

 それに続くように多くのクラスメイトが言った。


「オレだって帰る気はないよ!」


「私だって!」


「まだまだやり残したことがあるからな!」


「絶対に帰らない!」


 クラスメイト達の言葉はそれだけではなく、次々に「帰らない」もしくはそれに準ずる言葉を言っていた。


「分かったよ。君たちの意思はどうやら固いようだね。でもね、皆にお願いがあるんだ。もしも妻林さんの話が――本当だった場合協力してほしいんだよ。君たちが帰らないのは分かった。それは君たちの意思だ。でもね、元の世界に帰りたいのは僕たちの意思なんだよ」


「でも、それは魔王を倒してからでも――」


 神倉は戸惑ったように言うが、恵は少しだけ微笑んだ。


「前に王女様に元の世界へ帰る事を聞いた時にも言ったけど、僕の祖母は体調が悪くてね、あまり家を離れるわけにはいかないんだよ。神倉君の気持ちは分かるけど、でも、帰りたいという理由がある人に強制するほどかな? 僕は大切な祖母の死に目にはどうして会いたいんだ。大切な人だからね。それが僕のちっぽけな正義だよ。神倉君の正義ほど立派じゃないかもしれないけど、君は自分の大きな正義の為なら他人の小さな正義は犠牲にするのかい?」


 恵が言ったのはどれも事実であり、嘘は一つも言っていない。

 桜の案に乗ったのも、自分がいち早く帰るためである。

 恵は家族との関係は非常に良好だ。だからこそ、家族が心配していると知っていて、その気持ちを早く解消したいのだ。


「…………そうだね。東雲君、君の言う通りだ。オレの目的と君の目的は違う。確かに君が行おうとしていることも正義だ。オレはもしも東雲君が元の世界に帰ろうとしたら、喜んで協力するよ」


 神倉は恵の言葉を受け入れた。

 やはり神倉の懐は広いようだ。正義感の強い人間だが、他人の声も聞くしたたかさも持っている。非常に有能な人物だと思った。ただその分、ゾラの事を信じてしまっているから面倒だと思うが。


「他の皆はどうかな? もしも帰ることになったら手助けだけでもてほしいんだ」


 恵は頭を九十度まで下げながら必死に願った。

 プライドなどもとよりない。

 皆の反応が悪かったので、続いて恵は両手をついて頭を下げた。額は地面についている。屈辱的な姿である土下座だ。

 だが、その姿を取るのに恵は全く躊躇しなかった。


「東雲君、そんな姿を取る必要はないよ。オレ達は協力するよ! なあ、皆!!」


「お、おう」


「そうだね」


「神倉君が言うなら」


 神倉の言葉に押されて次々とクラスメイト達が賛同し始めた。


「じゃあもし僕たちのすることにゾラ様たちが反対したとしても、僕たちの味方をしてくれるよね?」


「き、危険な事じゃなかったらね」


「ありがとう、神倉君! 君は本当にいい人だ! 君が味方になってくれると本当に助かるよ!」


 どうやら恵の思惑通りに事は運んだようだ。

 

「ああそうだ。僕は今から妻林さんの部屋に詳しい話を聞きに行くつもりだけど、もし帰りたい、という人がいたら妻林さんの部屋まで来て欲しいんだ。一緒に話を聞こう」


 それだけ言って、恵はリビングから去って行った。

 ざわめきのみがリビングには残る。

 千里の話、それに恵の話は衝撃が大きかった。思い思いにクラスメイトは話しながら、徐々にリビングを去って行く。

 自分の部屋に入る者もいれば、寮から出て行く者もいた。

 そんな中、桜はずっと自分の席に座っていたが、秋山が立ち上がったのをみて桜も立ち上がった。秋山にいつものように話しかける。


「やあ、秋山君」


「あ、織姫君」


 秋山は先ほどの戸惑っているようだった。

 こうして桜が話しかけても、ずっと目が泳いでいた。


「秋山君はさっきの話を聞いてどうするんだい? 俺はちょっとおもしろそうだなって思ったけど」


 元の世界に帰るメンバーの中心人物だと言うのに、桜はとぼけた顔で言う。よっぽど面の皮が分厚いようだ。


「僕かい? 帰るわけがないよ。彼女たちを助けないと。亜人と言うだけで迫害されているなんて酷いからね。それに――」


「それに?」


 桜は思わず聞き返した。


「今、彼女たちといい雰囲気なんだよ。もしかしたらと、もしかするかも知れない。僕の勘違いかも知れないけど、でももしそうなら僕はこの世界で生きていくことになると思うんだ」


 秋山は照れたように顔をかいた。

 そんな彼に思わず桜は微笑んでいた。


「そうか。分かったよ。あ、そう言えば借りたものを返すよ」


 桜はスマホを隠すように秋山へと渡しながら言った。

 また彼の耳元で次の言葉をささやくのを桜は忘れない。


「――誰にも見れられない所で、画面を開いて絶対に見てね」


 それだけ言うと桜はリビングから消えて行った。向かった先は千里の部屋がある方角だ。


「あ、ちょっ――」


 秋山はもう少しだけ桜と話したかったのだが、どうやらそんな暇はなかったようだ。

 そして秋山はこれからどうしようかと思った時に、先ほどの桜の言葉にまずは従ってみようと思った。

 寮にある自室に入り、一人でベッドの上に横になりながらスマホをいつものように起動する。


 ――すると、そこには桜が打ったであろう文字が書かれてあった。


 その文字をよくよく読んでみると、首輪の外し方だった。

 すぐに秋山は筆箱の中に入っているマジックペンを持ち出して、走りながら自室を出て、寮から飛び出した。


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