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第二話 職業検査

 桜はクラスメイトと共にあれから温かい昼食をとることになった。

 食事は異世界だと言うのに、実に地球らしいフルコースであった。まずは色彩の豊かなオードブルが全員の前に出された。薄く切った豊かな風味の持つ白パンの上に、塩味が豊かな小さな黒い卵が乗っている。魚卵だろうか。クラスメイトの一人はキャビアだと喜んでいた。この料理はカナッペに似ているな、と桜は思いながら食べると、とても美味しかった


 オードブルを食べると次に出されたのがスープだ。

 甘くまろやかな味わいに、サイコロ状に切られた野菜が入っているスープだ。味付けはコンソメに似ており、桜はオニオンスープにとても似ていると思った。当然ながら美味しい。


 次に出されたのがポワソン。魚料理だ。

 白身魚をムニエルしたようなものを食べた。ほんのりとした塩味がよくきいており、甘い魚の身が口の中でとろけるようでとても美味しかった。


 それからソルベ――シャーベット、ヴィアンド――肉料理、それからデセール――デザートと続く。どれも見た目が華やかで、豊かな味わいでありとても美味しい料理だった。

 特にフランス料理に似たフルコースなど食べた事のないクラスメイトにとって、このもてなしはとても満足するものだった。


 桜も当然のように美味しい料理に舌鼓を打っていた。

 去年、親戚の結婚式に出た事のある桜は、登場する順番や料理の種類などがその時に出たフルコースに似ている事が少し気になったが、ゾラ曰く、どうやらこの国を救うべく異世界の勇者を召喚したのは今回が初めてではないらしい。


 彼らは世界を救った後、神の手によって元の世界に帰った、との事だが、その滞在中に彼らの料理も教わり、とてもこの国で流行しているとのことだった。


 そんな料理に満足したクラスメイト一行は、また移動することになった。


 と言っても、今日からいきなり魔族と戦うための訓練を始まるわけではない、とゾラは笑っていた。

 今日はその為の下準備を行うと事だった。


(下準備とはなんだ?)


 全員の体力測定でも行うのだろうか、と桜は思ったが、そんな時、珍しく秋山が大きな声で嬉しそうに言った。


「きっと次はステータスの確認だっ!!」


 そんな秋山を馬鹿にしたように笑ったのは桐原だった。


「はあ、何言ってんの? 秋山、ついに頭がおかしくなったか?」


「何言っているって、今の状況はテンプレじゃないか。よくある異世界召喚の。そうなれば次に来るのはステータスオープンに決まっているだろう? まさか知らないの? 最近流行っている小説では当たり前の展開だよ」


 まるで桐原を小馬鹿にしたような態度をとる秋山。そんな秋山に納得するように頷く生徒も男女関係なく多い。どうやら思った以上にその流行っている小説はクラスメイトにも認知度が高いようだ。

 桜は知らないが。


「いいか、オタク君、現実を見ようぜ。そんなアニメなんかの展開通りなわけねえだろうが!」


 桐原は憤慨するように言うが、これから桜たちの教官となった騎士――アルトレアスがいう事は違った。


「ええ、彼の言う通りです。皆様にはこれからステータスを測ってもらいます」


「嘘……だろ……」


 桐原は信じられない、と言った顔で騎士の顔を見つめていた。

 だが、そんな彼を無視して話は続く。アルトレアスが取り出したのは銀色のプレートだった。それには鎖がついており、首にかけられるようになっている。

 軍隊において兵士の個人識別用に使用する認識票ドッグタグにとてもよく似ていた。桜も同じものを何度か見た事があったからだ。


「これがプレートの見本です。皆様には今からこのプレートにステータスを刻んでもらいます。ステータスは装置が客観的に数値化してくれるので、とても分かりやすいと思います。また先に言っておきますが、このプレートはここでの身分証にもなります。大切なものだから失くさないでくださいね」


 アルトレアスはステータスを測るための装置はどうやら大きい物のようで、この部屋にはないようだ。

 桜は自分の事をそんなに簡単に数値化できるのだろうか、と不思議に思っていたが、隣にいた秋山がしたり顔をしながら頷いている。どうやらよくあることのようだ。非常に不思議な事だが。


「では、ステータスを測るところまで移動します。こちらへどうぞ――」


 騎士が新たな場所に案内するために部屋から出ると、二年二組のクラスメイト達の中から何人かが声をあげた。


「これが勇者召喚かー!」


「本当にアニメ通りの展開だ!」


「俺はどんな職業に選ばれるんだろうなー?」


「私はきっと聖女か賢者ね」


 どうやらここまでの話の流れは、流行っている小説によくあるらしい。

 隣にいる秋山が興奮した様子で、「僕の職業は何かなー?」とずっと言っているので、今の状況をよく分かっていない桜は聞いてみる事にした。


「ねえ、秋山君」


「……どうしたの、織姫おりひめ君」


 織姫、とは桜の苗字だ。

 織姫桜と女らしい名前であるが、立派な男子であり、女装も似合わないだろう。


「俺たちの今の状況って、そんなにアニメとかと似ているの?」


「うん。似ているよ。というか、ほぼ一緒だね。クラスのみんなが異世界の人たち――王女様が多いかな。魔王を倒すために王女様に呼び出されて、元の世界へと戻る為に魔王などと戦う事になるんだ」


「どうして軍人などではなくて、俺達のような学生なのかは分かる?」


「さあ? でも、どの小説も学生が呼び出されることが多いかな」


「ステータス? それもよくある事なの?」


「うん! そうだよ! 僕たちはね、異世界に来て新しい力を得るんだけど、その際にそれぞれRPGみたいに職業が設定されるんだ。例えば勇者や魔法使いみたいにね」


「へえー」


 昔にRPGのゲームをしたことのある桜は、職業が色々あったなーとぼんやりとした記憶がある。


「中には珍しい職業もあってね……あ、そうだ。これはアドバイスだよ。変わった職業が出たり、弱い職業――簡単に言うとハズレが出てもショックなんて受けないでね」


「どうして?」


「弱い職業が実は最強っていうのもテンプレだからだよ!」


「へえー」


 桜はとりあえず頷いておくことにした。

 どうやら様々なテンプレがあるらしい。物語のお約束、という事だろうか。


「また何か分からないことがあったら聞いてよ。なんでも教えるから」


「うん。ありがと」


 桜は少しだけ秋山と仲良くなった。

 秋山も自分を理解してくれる人がいて嬉しかったらしく、軽い足取りで騎士たちが進む方を追いかけていく。

 桜もクラスメイト達が続々と騎士に付いて行くので、遅れないように足を急いだ。


「ちっ――」


 そんな桜と秋宮を見ながら、桐原は忌々しそうに顔を歪めている。



 ◆◆◆



 生徒たちが集められたのは広い講堂だった。

 天井は高く、シャンデリアか柔らかい光が降り注ぐ。机はなく、横に長い椅子のみが並んでいる。桜はこの場所が教会のようにも見えたが、騎士たちが立つ場所に祭壇はなく教壇があるだけだ。

桜たちは適当に座ると、教壇に立つ騎士の一人が金属の擦れる音を出しながら言った。


「さて、これから皆様にはステータスプレートを作ってもらいます。ステータスを客観的に数値化して表すものであり、ここでの身分証にもなります。再度となりますが、大切なものだから失くさないでくださいね」


 騎士であるアルトレアスは他の騎士に命じ、教壇の近くに二つの装置を用意した。それはパソコンのようなものであるが、画面には何も描かれていない。四角い口があるだけだった。また細長い管がつけられており、先端は針のように鋭くなっている。

 その針は衛生上取り換える事ができるのか、すぐ横に何本も用意されていた。


「皆様には今からここに血を入れてもらいます。これで血を採取するとあなた方の情報が登録されます。そしてその情報が金属板に抽出されるのです」


「はい! 聞きたいことがあります」


「はいなんでしょう?」


「それは一体どのような仕組みなのでしょうか?」


 副委員長である萩村が手を上げて聞いた。

 彼女はアルトレアス達が持ち出した機械に興味津々だった。


「残念ながら分かりません。これは大昔に作られたとされるアイテムです。今の技術ではどのような仕組みで動いているのか、どのように作ったのかが分からず、使い方のみが今まで引き継がれております。大変貴重な物なので分解するわけにはいかず……」


「そうなのですかー」


 感嘆するように頷く萩村。


「ですが安全性は保障します。まずは私が測りましょう」


 そう言って、デモンストレーションをするようにアルトレアスはそれを使った。

細長い管の先端に指を当てると、細い針が飛び出すのか一瞬だけ顔を不快に染めた。すぐに管から手を離すと、生徒たちに傷口も見せる。注射されたような小さな穴から小さな血がでるだけで、大きな傷にはなっていなかった。

 それから数十秒ほどして、四角い口から四角い金属のプレートが出てきたのだ。


「これで一連の流れは終わりです。では、早速試してみましょう」


 アルトレアスの言葉に合わせて、生徒たちはエンシェントアイテムの周りへ集まった。

 特に駆け寄るのが早かったのは、秋山達でテンプレと言う言葉に頷いていた者だった。彼らはこの事態を楽しんでいるのかも知れない。


 桜はそんな彼らを注意深く観察しながら、列の一番後ろに並んだ。

 彼らの言う装置を信用していないのもあるが、単純に注射が昔から嫌いだった。毎年受けているインフルエンザの予防接種で涙目になるほどだった。

 だから生徒たちの中では最も遅くステータスを測った。

 もちろん血を採取されるときは針を見ずに、目を固く瞑る。


「おおおお! お前は何だった? 俺は戦士だぜ!」


「俺は回復術師だったよ。親が医者だからかなー」


「やった! 私は巫女だわ」


「うっわー、暗殺者かよー」


 その時、桜の耳に既にステータスを測り終えた同級生たちの言葉が耳に入った。

 彼らは自分たちのステータスを見せ合いながら楽しそうに喋っている。どうやらどんなスキルを持っているのか、能力値はどうなのかなどを言い合っている。

 もう注射が終わって楽しそうな彼らを桜は羨ましそうに見つめた。


「あーやっぱり勇者は神倉かー」


「聖女は萩村だって!」


「雨宮は魔弾の射手らしいわ!」


 そんな声も聞こえてくる。

 どうやら珍しい職業を引き当てたようで、話が盛り上がっているようだ。


「終わりましたよ。もう目を開けてもらって大丈夫です」


 騎士の一人から優しく声をかけられると桜は目を開けた。血がうっすらと滲み出ている指を消毒され終わると同時に金属のプレートが出てきた。

 そのステータスプレートを持って、先ほどまで座っていた椅子に戻ってからゆっくりと桜は自分のステータスを見る。


―――――


織姫 桜 

種族:人間

職業:名探偵


筋力 :16

 体力 :12

 精神力:12

 敏捷性:13

 容姿 :10

 体格 :14

 知性 :13

 教育 :11


スキル:古武術・応急手当


―――――


 こうして自分の能力値を見てみると不思議な気分だった。

 高いかどうかも分からないが、非常に気になる点がある。

 まず、職業の“名探偵”、ってなんだと桜は思った。探偵ならまだ分からない事もないが、わざわざ名探偵なんて怪しい、と。

 それだけではない。

 RPGをプレイしたことのある桜にとって、魔王と戦う職業と言えば勇者や魔法使いに戦士などだ。

 一度として、名探偵と言う職業で魔王と戦ったことなどない。

 

(きっとこれは秋山君の言うハズレだな)


 桜は自分の職業をそう判断する。

桜のスキルに関しては古武術にしようか、バリツにしようかとても悩みました。


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