第十八話 調査
桜ともみじはその話し合いが終わった後、ゾラの元を訪れていた。
先ほど神倉から「調査ってどこからするの?」と聞かれたので、まずはゾラから当時の状況を聞くと返したのだ。出来れば寮の中を探したい気持ちは沢山あったが、ゾラの物を探すと言う建前からは逃げ切れないので、調査をする振りとしてまずはゾラへと当時の状況を尋ねるにした。
桜達が残ったのは、先ほどまでクラスメイト全員が集まっていた大広間である。
既に他のクラスメイトの姿はない。既に剣術の訓練へと出かけた。桜ともみじは特別に訓練を免除されたのだ。
桜は名探偵の真似をするがごとく手には手帳とボールペンを持っていた。どちらも学生鞄に入っていた物である。
「さて、王女様。調査として、話を聞かせてもらっていいか?」
「はい。包み隠さずお話ししますわ。期待していますわよ。そうですね。どこから話せばよいでしょうか?」
「まずは昨日の状況から教えてもらいたい」
それからゾラの説明が始まった。
発端は摩那崎たちの女子グループから、入浴を誘われた事から始まったようだ。
ゾラにお湯につかるという文化はないので二年二組の生徒の為に善意で作った大浴場に入るつもりはなかったが、強く誘われると断ることもできず、摩那崎たちに誘われるがままに更衣室へと入ったようだ。
「それでですね。私は盗まれた家宝をいつものように身に着けていたのですが……」
どうやらゾラが服を脱いだ時に、まじまじと摩那崎のグループの女子の一人から家宝をまじまじと見つめられて、先祖代々受け継いでいる家宝だと説明したらしい。
「口をはさんで悪いんだが、家宝? ちなみにそれはどういう物なんだ? 盗まれたものなのだろう?」
桜はゾラの話の途中で口を挟むように言った。
「はい。そうです。盗まれたものですね。指輪です」
「どんな指輪だ?」
「金と銀が螺旋状に絡み合った指輪ですね」
「他に特徴はあるか? 今後指輪を見つけても、本物だと証明するには外見しかないからな。大きな特徴があったら欲しい。例えば裏側に文字が彫られているとか?」
桜は指輪の特徴を手帳に書き込みながら言う。
元の世界に戻る為の手掛かりになるとは思わないが、調査のふりとしてゾラの話は聞き洩らさないように書き込む。あまり記憶力には自信がないのだ。
残念ながら、桜は記憶の宮殿を持っていなかった。そして名探偵のスキルでも貰えなかった。非常に残念である。
「大変申し訳ございません。そのような特徴はないのです」
桜の質問にゾラは頭を大きく下げながら言った。
「……なるほど」
「でも、金と銀が細かく絡みあった指輪はとても幻想的できれいですわ。私の国では他にないデザインなので、もしも似たようなものを見つけたら私に教えて欲しいですわ。本物かどうか確認いたしますので」
「分かった。じゃあ話を続けてくれ」
「はい」
それからゾラはまた話し出す。
本来ならゾラはいつものように指輪を身に着けたまま入浴しようと思っていたのだが、それを摩那崎が止めたらしい。
大切な指輪なのだから湯にはつけないほうがいいと。
どうやらそのクラスメイトの女子は、大浴場で使われるのがただのお湯ではなく地面の底から湧いた温泉だと聞いていたようだ。金属の種類によっては温泉との化学反応にとって、色が変わる可能性がある。大切な物なのだから外していったほうがいいと説明したようだ。
ゾラもそんな彼女の言う事に一理ある、と思い、彼女の忠告通りに指輪を外して脱いだ衣服の上へと無造作に置いたようだ。
それから暫くの間、他のクラスメイトとも様々な事を語り合った。訓練やこの国については勿論の事、年頃の女子としての話も楽しんだようだ。ひとしきり女子生徒と話し終えて、摩那崎たちの姿がいなくなった頃、ゾラも更衣室に戻ってみると服の上においた指輪が無くなっていたようだ。
「私も最初は滑ってどこかに落ちたのかも知れない、と服の隙間や周りをくまなく探しましたわ。私の様子を察して赤雪様や他の方も探してくれたのですけど、一切見つかりませんの」
「なるほど。ちなみにだけど王女様が浴場から出た時にはまだ他の生徒は残っていたか?」
桜は納得したように言った。
「はい。半身浴でゆっくりと浸かりたい方もいらっしゃるようなので」
「それの名前は憶えているか?」
「ええ、覚えていますわ」
それからまだ浴場に残っていた何人かの女生徒の名前を聞く。
だが、桜は残っている彼女たちが指輪を盗んだ犯人の可能性は低いと思っていた。
彼女たちが指輪を盗むとしたら入浴する前だが、脱衣所で最後の一人だったのがゾラだからである。彼女は女子生徒とは違い、ドレスを着ていたので脱ぐのに時間がかかったらしいのだ。
「もしも盗んだとしたら私の前に上がった人たちだと思いますわ。盗むタイミングは沢山ありますし、脱衣所の籠置き場は扉もありませんから手を伸ばすのは一瞬で済みますし」
「そうだな。ちなみに指輪が無くなってからのボディチェックは?」
「もちろんしていますわ。ただ……」
「ただ?」
「女中に任せたのは簡単なボディチェックですわ。指輪は私の指にぴったりなので、とても小さな物です。隠そうと思えば口の中などに簡単に隠せますから、あまり意味はありませんでしたね」
ゾラは困ったように言う。
確かに人の体の中には隠す場所が沢山あるが、そこまでして指輪を盗むだろうか、と不思議に思うが無罪を証明できない以上、ゾラと一緒に脱衣所にいた女子たちも容疑者の一人なのは間違いない。
「……でも、ボディチェックを免れた者達もいたのだろう?」
「ええ。四人もいる筈ですわ」
「ちなみにその名前は?」
「摩那崎 礼香様、妻林 千里様、荒良木 栞奈様、大塩山 えな子様ですわ」
まずはこの四人が重要容疑者だと桜は思った。
特に妻林 千里以外の三人は摩那崎を筆頭に、彼女のグループに所属しているのだ。もしかしたら犯人がグループの可能性があることも桜は考えている。
「分かった。とりあえず聞きたいことは聞けた。王女様、わざわざ話に付き合ってくれてありがとう」
「調査の役に立つのなら問題ありませんわ。それでは絶対に私の指輪を見つけ出してくださいね」
「ああ、期待していてくれ」
桜はそれだけ言って、ゾラとの話し合いを終えた。
まず話を聞くべきなのは先ほどの四人の中で唯一摩那崎グループに所属していない妻林だと思った。
今は訓練に従事していると思うので話すことは出来ない。寮の調査をしようと思ったが、今朝に紙についてゾラから忠告された後ともなると探してもあまり意味がないとさえ思えてきた。
「で、桜、これからどうするの?」
桜ともみじは城内を二人並んで歩いている。
だが、二人の前にいるのは青い髪をしたメイドと、凛々しい顔つきの執事だ。どちらも桜ともみじの付き人であり、口を滑らせるにはいかない。
「決まっている。話を聞くしかないよ。まずは……四人の中で唯一グループが違う妻林からだな」
「そう。なら、私がその場を設けるわ。彼女とは友達だから」
もみじは冷たい声で言う。
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