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名探偵サクラ ~魔王を倒せと言われたけど、職業が名探偵なので倒すビジョンが思い浮かばない件について~  作者: 乙黒


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第十七話 先手

 桜は寮の中を隙に探索できる権利を得たが、あいにくとこの日はもう既に夜が遅く、探索している時間はないとのことで、明日から調査をすることになった。

 次の日、朝食を終えると王女であるゾラから話があると言われ、二年二組の生徒は昨日全員集まった場所へともう一度集められた。拒否するクラスメイトはいない。

 ゾラもずっと泣いていた昨日とは違い、今日は凛とした姿だった。この日は昨日とは違い、多くの貴族の姿もあった。


「皆様、まずはお礼を。昨日はわたくしの為に集まって頂きありがとうございました。これから織姫さんが探してくれるということで非常に期待しております。頑張ってください」


 黄色い声が桜に飛んだ。

 それからゾラはクラスメイトを一旦見渡してから、真剣な表情で語りだした。


「さて、ここに集まってもらったのは他でもありません。先日、皆様の中から私にこのようなものが届きました」


 ゾラは貴族の一人から一枚の紙きれを受け取った。

 その紙は桜も見覚えがあった。

 桜やもみじなどの部屋の中に隠されたようにあった英単語が書かれた紙だ。


「どうやらこの紙は部屋の中にあったようです。これは中に単語が書かれておりまして、きっと先人の勇者が隠した手がかりでしょう」


 手がかり、という事は桜も気づいていた。

 問題はどのような手がかり、だという事だ。


「手がかりとはどういう事でしょうか?」


 神倉は手をおずおずと上げて覇気のない声で質問した。

 きっとこの紙を見つけたのは彼ではないのだろう。戸惑ったような顔で王女の持っている紙を見つめている。


「きっと皆さまが勇者として、立派になる為の方法です。きっと先人の勇者も気づいたのでしょう。私たちは生まれた頃から魔術を扱いますが、皆様は大人になってから使います。きっと魔術を使う時の感覚が違うのでしょう。子供は感覚で理解することでも、大人は頭で理解しないと使えません。きっと皆さまもそうでしょう?」


「そうですね。オレ達はまだ儀式が終わっていないのも原因の一つだと思いますけど、魔術が使えない人が数多くいます。オレだってその一人です。きっと感覚が無いことも原因だと思います」


 神倉は自分の努力が足りない事を嘆くように言った。


「それは仕方のないことなのです。まだあなた達がこの国に来てから、一か月も経っておりません。そんな短期間で魔術を行使できる存在など、特別な方だけです。何も心配するような事もございません。過去の勇者様も、最初の魔術が使えるまでに結構な時間を要したと聞きますから」


「そうですか。ありがとうございます」


「ですが、それも安心してください。この紙には“action”と書かれておりました。聞けば、勇者様の世界の言葉で実行、という意味があるそうです。きっとこれは魔術をするための手助けなのです」


「手助け、とは?」


「大変申し訳ない話なのですが、わたくし共では勇者様の感覚を手助けすることは出来ません。私たちは息をするように魔術を使うのですから」


「そうですね」


「でも、きっと大丈夫です。この手助けがあれば、予定よりも早く皆様は魔術を使えるはずなのです!」


「なるほど。そう言う事なのですね!」


 感心するように頷いた神倉。彼に習うかのように、他の生徒達も色めきだっている。


「ですから、皆様、もしもこのような紙をあの屋敷から見つけた場合には――是非とも近くにいる騎士やメイドにお渡しください」


 桜は顔には出さないが、やられた、と思った。

 まさかこのような形で王女たちに先手を打って、自分たちが回収するはずだった紙を先に回収されるとは思わなかったのだ。


「でも、回収してどうするのですか? オレ達が持った方がいいアドバイスになると思うんですけど。だってオレ達の国の言語で書かれているのでしょ? 王女様が持っていてもあまり意味はないと思うのですが」


 神倉が首を傾げながら言った。


(よし、いいぞ! 俺は神倉の事を信じていたぜ!)


 この時、桜は神倉を賞賛した。

 自分で王女に意見するのはリスクが伴うが、王女たちに気に入られている神倉が王女たちの行動を怪しいと言えば、手がかりの紙がクラスメイトの誰かに集まることになる。そうなれば、紙を見るぐらいの隙は生まれそうである。

 この時桜は心の中で最大限、神倉をほめていた。


 だが、王女は困ったふりをしながら言った。


「ですが、皆様には自らの身を守ってもらうための修業という大切な使命がございます。この紙の解読ならわたくしたちに任せて下さいまし。大丈夫です! 私共の中には、過去に勇者様の国の言語を学んだ者もいるらしく、この紙も簡単に読んでいました。またわたくしの国にいる有数の頭脳を集めて、必ずやこのメッセージを解読して見せますわ!」


「……そこまでオレ達に! ありがとうございます、ゾラ様! 期待にこたえられるように頑張って修行します! 皆! ゾラさん達の為にも頑張って先人のメッセージを集めよう!」


 王女の言葉によって態度が変わった神倉へと、桜は「ちっ、神倉の奴は使えねえな。一度言ったことは最後まで貫き通せ」と思わず舌打ちをして文句を言いそうになったが、喉まで出かかって何とか止まった。


 そんな桜の気持ちは知らず、神倉の声に意気揚々と声をあげる同級生は多かった。


「そうだな!」


「絶対に私たちが早く強くなる方法を見つけましょう!」


「すぐにでも力が必要な俺達には当然の事だな」


 多くのクラスメイトの意思は一つに固まった。

 魔術のコツが得られるのなら断る理由もなかったのだろう。


 桜はこの様子を客観的に見て、この紙も含めてどこまでが王女の息がかかっているのだろうか、という考えに陥った。

 遠くの席で神倉へと少女のようにあどけない笑みを浮かべている王女の真意が、桜には全く分からなかった。彼女が世間を知らないような箱入り娘を演じているが、教室に入ってきた時の姿を桜が忘れる筈がなかった。


(さて、俺の“紙”はどうする?)


 桜はけだるげに机に肘をつきながら考えた。

 どういう行動をするのが正解だろうか。

 ゾラからこの手がかりは魔術を覚えるための近道だと聞いても、あの紙は元の世界に帰る為の手掛かりかも知れない、という期待をどうしてもなくせなかった。


「特に織姫様――」


 だが、最後にゾラの目は桜に飛ぶ。

 心臓が大きく高鳴った。


「何ですか?」


「これから織姫様は寮を探索すると聞いております。もしもこれらを副産的に発見したときにはご報告してもらいたいですわ」


「…………そうだね」


「はい。きっと名探偵である織姫様は注意深く、観察力に優れた人だと思っておりますわ。沢山、手がかりを見つけてくださいね」


 ゾラの言葉に、桜は急に背筋が冷たくなった。

 もしかしたらゾラはクラスメイトの誰かがこの紙を集めているかも知れない、と疑っているかもしれないと。きっと彼女は大切な物が盗まれたことにより、警戒心を強めたのだろうと思った。

 桜たちが望んでいた手がかりの捜索は、早々に潰された。

 桜は誰にも気づかれないように奥歯をぎゅっと噛み締めた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分ほか数人が魔術使えるようになったから祝いで風呂になったはずなのに 誰一人魔術が使えないと言い出す神倉くん
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