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第十二話 奴隷

 その日の午後、桜たちは新しい従者と出会うために城の外へと出ていた。

 向かったのは桜たちの屋敷とは正反対の位置だ。そこには煉瓦で作られていたみすぼらしい小屋が建っていた。かなり大きく、横にも上にも広がっている。

 その煉瓦の建物はぼろく、みみっちい。また獣臭のような臭いもした。


「さて、皆さん、お約束通り新しい従者を紹介します」


 煉瓦の建物の前に立ったゾラは酷いにおいに顔をしかめながら、二年二組の生徒に笑顔を振りまいた。

 その裏にどんな素顔が隠れているのだろうか。

 桜には彼女の本性が全く分からないが、聖女のようにふるまう彼女がとても恐ろしく見えた。


「あの、ゾラさん」


 そんな中、クラス内で最も発言力のある神倉が恐る恐る手を挙げた。

 これは桜が東雲から聞いた話であるが、どうやら神倉は勇者と言う特別な職業についていて、最初にクラスメイトをまとめたのも彼だったので、異世界の人からは二年二組の代表のような扱いを受けているらしく、度々王女や宰相、国王から今後の事について相談をしているようだ。その際には神倉の友人も数人付いて行っている、とも聞いた。


 東雲はそんな神倉の状況を知って、「このクラスの学級委員長は僕なのに」と愚痴をこぼしていた。どうやら東雲はそのような話し合いに一度も参加したことがないらしく、他のクラスメイトと同じような扱いを受けているらしい。クラス委員長という肩書はいつのまにか消えたようだ。


「何でしょうか、神倉さん」


「ここは一体何なのですか?」


 神倉は煉瓦の建物を指差しながら言った。


「これですか? ここは亜人達が住まう屋敷です」


 ゾラの亜人と言う言葉に反応し、誰かがケモミミと言ったのを桜の耳は逃さなかった。


「どうしてこんなに古いのですか?」


 神倉は不思議そうな顔をしていた。

 城は当然であるが、桜たちに用意された寮もほこりは多かったが、建物自体はそう古くはない。作りもしっかりとしていた。

 だが、ゾラの前にある建物は周りと比べても浮いており、一段と汚らしく感じた。


「この建物ですか? この建物に住んでいるのが亜人だからです」


 ゾラはすました顔で言った。


「亜人だからって、こんな……みすぼらしい建物に?」


 神倉は表情を複雑に歪めた。


「ええ。そうです。彼らは私たちとは別の生き物です。どうやら彼らにはこのような空間が落ち着くらしくて……ですが、皆様の従者としてはとても役に立つと思います。では、皆さん、中に入りましょう。そして自分たちのお気に入りの従者を見つけてください。ですが、一点だけご注意を。彼らは人ではなく、“亜人”です。危険ですからお気を付けを――」


 ゾラが建物へと手を広げると、一緒に着いてきた騎士が入り口の扉を開けてくれた。

 モミミという言葉に反応していたクラスメイトは建物に入るのも早かった。

 桜は入るのにあまり気が進まなかったが、クラスメイトが次々と入って行くので、王女たちに疑われないためにも騎士に横を囲まれながら桜たちは建物の中に入った。


 中は異臭がした。獣臭とほこりなどが混ざった臭いだった。気持ちのいい物ではない。また奥から聞こえる声も呻き声であり、腹の底からぞっとした。

壁に立てかけられているカンテラが照らす道を桜たちは進む。城や寮に比べると明かりが少なく、暗い印象を受けた。


 通路は狭く人が二人ほど通れるほどしかなく、左右は鉄格子が広がっていた。

 鉄格子で区切られた狭い空間の中に、亜人たちはいた。彼らはみすぼらしい服を肌に巻いて金属の首輪をしているだけで、部屋の中から縦に瞳孔が広がる眼を通路にいる人間へと向けている。


「酷い……」


 クラスメイトの女子の誰かが呟いた。

 彼らが人としての扱いを受けていないことに関する感想だった。

 言葉には出さなかったが、他のクラスメイトも同じような感想を抱いたに違いない。


 桜も他のクラスメイトと共に、そんな亜人たちの様子を順番に見て回った。


 彼らの殆どが部屋の中でじっくりと町、まるで部屋の前を通る自分たちを一人一人見定めるかのように舐る視線だった。

 彼らは何も言わない。動きもしない。

 自分たちの状況を受け入れているようにも感じた。


 そんな亜人たちの特徴と言えば、頭に生えた二つの耳だ。それは人のように顔の側部についているのではなく、上に伸びるように三角の耳が二つ乗ってあった。それは大きく殆ども者の耳が立っている。

 また亜人たちは誰も彼も美男美女ばかりであり、口元から光る八重歯は人のよりも大きく鋭く、肩幅は広いので、城に住まう者達とはまた違う野性味に溢れた魅力を持っていた。


 そんな彼らの魅力に瞳を奪われる者も多かった、


「私、この子にします! 瞳の奥に寂しさを感じたので」


 鉄格子の先を呼び指して騎士に言う女子生徒。

 魅力的な亜人たちが多いので、それぞれの好みに合うような亜人を選ぶ者が一人、また一人と増えていった。男女ともに人気なのは女の亜人であり、男の亜人を選ぶ者は少なかった。きっと女の亜人は体毛が殆どなく、線も細く可愛らしい亜人が多かったからだろう。


 またある者は亜人たちを救おうとしていたが、どうやら桜たちが選べる従者は一人につき一体だけらしく、二人以上を選ぼうとすると騎士から断られていた。


 桜はそんなクラスメイト達を横眼に見ながら、一しきり見て奥に着くと、くしゃみをしてから建物を出て行った。

 従者としての亜人を一人も選ばなかったのである。

 どうやら自分は亜人に合わないらしい、と建物の中に入って思ったのだ。また彼女たちの毛並みなどにも引かれなかった。あまり触りたいと言う気持ちも起きなかった。


 建物を出ると、既に選んだ亜人と交流をしようとしている者が多かった。

 撫でてみたり、触ってみたりと、首輪の付けられた亜人たちは特に抵抗することもなく、ほぼ無抵抗だった。


「あれ、誰も選ばれなかったのですか?」


 二年二組の生徒の中で唯一亜人を選ばなかった桜は、ゾラから好意的に見られた。

 ねっとりとまとわりつく視線が桜にはうっとうしく思えた。


「どうやら俺には合わないらしい」


 桜は困ったように両手を上げた。


「なるほど。その気持ちはよく分かります。彼らは力持ちで有能ですが、そう好ましい人たちではございません。これから先、従者がいなくて困ることも多いと思いますが、わたくし達もサポートしますので是非とも頑張ってください!」


「ああ、ありがとう……」


「いえ、わたくしは感激いたしました。奴隷を近くに置かない高潔な人だと尊敬します!」


 桜は両手を掴まれてぶんぶんと上下に振られた。とても褒められているようで、ゾラからの評価も上がったようだ。

 だが、桜はずっと戸惑ったように苦笑いをしていた。たかだか亜人の従者を選ばなかっただけでここまで褒められるとは思わなかったのだ。

 またゾラは艶やかな唇を桜の耳元に寄せて、そっと撫でるように息を吐くと共に甘い声を奏でた。


「――ここだけのお話なのですが、実は彼らは見た目こそとても愛くるしいですが、中身は凶暴なけだものなので注意してくださいね。わたくし達の中にも彼らを愛玩動物として扱う者もいますが、痛い目に合った者も多いです。初見の人は彼らの可愛らしい容姿に騙される人が多いのです」


 王女は亜人たちを蔑むように言う。

 桜はそんなゾラの話をしれーっと聞いていた。

 どの口が言っているのだと、声を大にして言いたかった。

 目の前にいる女のほうが可愛らしい容姿で、人を騙す恐ろしい人間だと桜は思っている。


 桜はゾラからのお褒めの言葉をはははと流していると、建物から怒号の声が聞こえた。


「――だから、どうして駄目なの!?」

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