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074_事後処理と皇太子

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 074_事後処理と皇太子

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 ハマネスク遠征について皇帝に報告するため、執務室に入った。

 反乱軍の首謀者は死亡したが、幹部たちは帝都まで護送している。

 誰がどういった手柄を立てたか。どのような褒美が妥当か。

 今後のハマネスク統治に関する意見書を送付して、分厚い報告書を提出した。


「ゼノキアよ。ご苦労であった」

「帝国の親王として、当然のことをしたまでにございます」


 皇帝は満足して、戦いに参戦した者たちへの褒美については、できるだけ俺の考えに沿うようにすると言った。

 俺への褒美はすでに決まっているが、アインファッツ子爵やベルバッファ男爵、それにピサロ提督やアルバルト陸軍中将など、多くの将兵に褒美が行き届くようにしてほしいものだ。


 皇帝がソファーに座るように促すので、座った。皇帝が俺の向かいに座るとお茶が出される。

 左丞相と右丞相が皇帝の後ろに立つ。親子の話ではなく、皇帝と親王の話があるということだ。しかも、左右丞相揃い踏みとなれば、かなり重要なことかと勘繰る。


 このタイミングで重要なことと言えば、おそらく皇太子のことではないだろうか。

 片腕を失ったこと、そしてハマネスクでの敗戦、それらのことを考えると廃嫡もあり得ると考えられる。さて、何が出てくるか。


「サーリマンを王に封じることにした」


 やっぱり皇太子のことか。原因は敗戦か。片腕を失ったのは、それほど大きなことではない。むしろ、戦争で腕を失うほど前線で指揮をしていたと考えれば、プラス要因だ。


「ハマネスクの鎮圧の失敗でしょうか」

「そうだ。誰かが敗戦の責任を取らねばならぬ」


 敗戦の責任を取らされる場合、臣下の貴族であれば死罪という判断もある。それが王に封じられるだけでそれ以上の罰はないのだから、皇太子としては良しとするべきだ。

 問題は次の皇太子だ。俺を含めた四人の親王の誰かか、それとも新しい誰かが皇太子になるのか。


「次の皇太子はゼノキアにする。そのつもりでいるように」


 なんともあっさりと言われてしまった。もっともったいぶってもいいだろうに。


「承知しました」

「戦勝祝いと同時に、このことを発表する」


 皇太子の廃嫡は敗戦の責任を追及する形になるから、戦勝祝いの前に発布される。そのすぐ後に戦勝祝いを行い、その場で俺を皇太子に就けることを発表する段取りになった。これは口外を禁じられた。当然のことだな。


 皇帝の執務室を辞す。控室でサキノと合流して、廊下へ出る。サキノと護衛たちを引き連れ、そのまま法務省へ向かった。法務大臣はすでに手勢を揃えていた。


「お待ちしておりました。閣下」

「準備はできているか」

「はい、問題なく」


 この帝城には、各省庁が入っている執政館と言われる広大で巨大な建物がある。その中に法務省もあれば、資産省もある。

 執政館は階が違うと、入っている役所が違うことで雰囲気も違う。二階は法務省があるためか陰気臭いが、四階は活気がある。

 そんなところへ陰気臭い集団が現れたら、誰でもピタリと動きが止める。資産省の職員の視線が俺たちに集まった。

 法務大臣が、ある部屋へと向かう。ノックもせずに扉を開けると、部屋の中には小太りの人物が居た。


「私は法務大臣、アムレッツァ・ドルフォンである」


 名乗りを挙げる。なかなか威厳があるじゃないか。

 部屋の主はただポカーンと法務大臣を見つめた。


「資産省の管理官、バージニア・ゾドホフだな」

「ノックもせずに何事ですかな」

「聞かれたことに答えよ。バージニア・ゾドホフか」


 犯罪者の検挙は法務省の管轄だが、通常は騎士団が犯人を捕まえる。だが、法務省も実行部隊を持っている。今回のような武力を必要としない汚職などの検挙は、その部隊が行う。

 法務大臣の後ろに控えるのが、その部隊だ。


「私がバージニア・ゾドホフです」


 憮然とした表情で短く答える。


「そなたに贈収賄、および横領の嫌疑がかかっている。同道するように」

「何かの間違いです。私は横領などしておりません」

「釈明は法務省で聞く。大人しく同道するのだ」


 デスクから腰を上げようとしないゾドホフ。法務大臣は部下に、連行するように命じた。


「私は何もしていない。何かの間違いです」

「法務卿、これはなんの騒ぎでしょうか」


 スラっと背の高い男が現れた。たしか、資産省のナンバーツー、政務官のバーラス侯爵だ。


「バーラス政務官か。これは役儀である。詳細は後日明らかになろう」

「バーラス様。これは何かの間違いであります。おとりなしください!」


 ゾドホフは必死で訴えた。


「法務卿、ゾドホフは真面目な男です。何かの間違いでありましょう」

「それを決めるのは、貴殿ではない。そこをどかれよ」


 法務大臣がどけと言ってもバーラスはどこうとしない。


「バーラス政務官。我らの職務を邪魔するつもりか」

「このような無体なことを見過ごすわけにはいきませんぞ、法務卿」

「バーラス政務官。貴殿はこのような些細なことに、法務大臣たる私が出てきた意味が理解できないようだな」


 その言葉でバーラスは俺の存在に気づいた。


「こ、これはゼノキア殿下」


 バーラスは跪き、周囲の者もそれに倣った。


「バーラスよ、立て」

「はっ」

「これは余が命じた捜査である。よって、余自らゾドホフへ尋問を行う。そなたは余の邪魔をするのか?」

「い、いえ、そのようなことは」

「ならば、引くが良い。そして、考えよ。ゾドホフの行ったことをな。それによって、そなたの処遇も定まるというものだ」


 ベルバッファ男爵に罪を擦りつけたのが、ゾドホフなのは明らか。だが、その横領にゾドホフ以外の者が関わっているかは、これからの捜査次第。

 下手をすれば資産省のトップまで巻き込んだ騒動になる。そして俺が乗り出した以上、それなりの決着になる。資産省の膿を全て出せとは言わないが、ベルバッファ男爵をハメた奴らにはその責任を取ってもらうつもりだ。

 さて、どこでトカゲの尻尾が切られることか。楽しみに見させてもらうぞ。


 ゾドホフは法務省に連行された。この話は執政館内を駆け巡った。

 そして証拠を見せられたゾドホフは、力なく罪を認めた。


「ゾドホフよ、無実のベルバッファ男爵に罪を擦りつけたのは、お前の判断か?」


 法務省で厳しい追及がされたようで、拘束されて四日後に俺が尋問した時のゾドホフの瞳は死んだ魚のようになっていた。


「バーラス様の指示で行いました」

「ほう、バーラスがな。で、バーラスも横領をしているのか?」

「はい。私が改ざんした書類の多くは、バーラス様の指示によるものです」


 嘘は言っていない。もう諦めているようで、従順に答えている。

 法務大臣はすぐにバーラスも拘束した。その証拠は一部隠滅されていたが、ゾドホフが自分の身の安全のために、取っていた書類があった。

 その書類を見せられたバーラスは、項垂れ罪を認めるとおもったんだが、違った。

 バーラスは最後まで知らぬ存ぜぬを通した。だが、証拠がある以上、いくら知らないと言っても通じない。

 むしろ、証拠隠滅を行い、罪を認めなかったことで余計に罪が重くなることだろう。


 この間に、戦勝祝いが行われ、俺が皇太子になることが発表された。

 前皇太子を生んだ皇后がかなり怒っていたようだが、その怒りを俺に向けるのはお門違いだ。恨むなら無能な皇太子であり、それを育てた皇帝と皇后の責任だ。

 俺が皇太子を育てたわけではないのだから、八つ当たりもいいところだ。

 サキノには皇后が刺客を放ってくるかもしれないから、注意しておけと指示しておいた。


 刺客や暗殺者を誰が放ってきているのか、未だに分からない。敵は巧みに隠れて姿を見せないのだ。

 だが、皇后が俺に刺客を送ってくるなら、必ず動きがあるはずだ。そこを見逃すなとサキノに徹底させた。


「おめでとうございます。ゼノキア殿下」

「ありがとう、ミューレ」


 ミューレは日に日に大人の女性になっていく。女子というのは、本当に成長が早い。

 その瑠璃色の髪に皇太子妃用のティアラが載る日は近い。その時はもっと大人っぽくなり、綺麗になっていることだろう。楽しみだ。


「サキノ。ガルアミス家にミューレの身辺に気をつけるように促しておいてくれ」


 ミューレが帰った後、もしかしたらと思った。何もなければそれでいいが、何かあっては遅い。


「ミューレ様も刺客に狙われると、殿下はお思いなのですか?」

「念のためだ」


 思い過ごしならばいいと思いつつ、サキノにガルアミス家と連携するように命じた。


 懸案だったことに、一定の決着をつけた。各員への褒美もしっかりと出ている。

 外祖父のウルティアム伯爵は、侯爵に陞爵し領地を得た。

 アインファッツ子爵は正式にハマネスク総督に就任。

 ピサロ海軍中将は大将に昇進して、晴れて男爵に叙爵された。

 クラメル准将は少将に昇進。

 アルバルト陸軍中将は大将に昇進。

 バードン伯爵他多数には、金銭的な褒美が与えられた。


 ゾドホフとバーラスの贈収賄と横領が明るみになったことで、ベルバッファ男爵の汚名は返上されることになった。

 皇帝の名においてベルバッファ男爵の名誉を回復すると勅書が発布され、ハマネスクからベルバッファ男爵を呼び戻すことになった。


 問題はアインファッツ子爵だ。子爵の父親は承知のうえで、誰かの罪を被った。父親が承知のうえで罪を被っているので、今更それを暴いてもいいことはない。

 今回のハマネスク鎮圧で戦功を立てたことで、アインファッツ子爵は公職に就けた。それで良しとすればいいのだろうが、それでは家名が汚れたままだ。さて、どうしたものか。


「ゼノキア。変な奴」


 サキノが出て行って俺以外に誰も居ない執務室に、屋敷妖精のメイゾンが姿を現した。何が変なのか聞くと、よく分からない気配と答えた。


「そいつが、この屋敷に入り込んだのか」

「そう。捕まえられない」


 この屋敷内でメイゾンが捕縛できないだと……。


「どこに居るかは把握できているんだな?」

「大体は分かる」

「ならば、行くぞ」


 俺は魔力の鎧を身に纏い、その変な奴の捜索に向かった。


 

次回は来月の早々に更新予定です。

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[良い点] 読み始めたら、最後まで止まらないくらい面白かった。主人公補正で何をやっても失敗しない的ないい加減な思考や行動でなく、持てる力や頭脳を精一杯使った納得のいく展開を、ハラハラ・ドキドキさせても…
[一言] お、待ってました! 皇太子就任おめ!
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