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048_刺客を送ってきた可能性とアーデン式訓練

 


「ほう、五人もいたのか」

「はい。四人は落選し、苦汁を舐めておりましょう」


 母上が後宮に上がる時、他に四人もの候補がいたとサキノから報告を受けた。


「で、怪しい奴はいたのか?」


 後宮は結界で守られているため、エッガーシェルト家のエリーナのように呪われることはない。だから刺客を送り込んでくるのだ。

 これまでに法務大臣のアムレッツァ・ドルフォンが俺に刺客を送り込んできたことが分かっている。

 だが、他にも俺を殺そうとした奴がいると思っている。今回の迷宮内のことを合わせれば六回、片手の指では収まらなくなってきた。


「モルン伯爵家のミネルバ殿、今はケルン子爵夫人となっておりますが、かなり怪しいと思われます」

「モルン伯爵というと……。財務省の参事官か?」

「はい。財務参事官のモルン殿で間違いございません。また、ケルン子爵は財務省の官吏長です」


 財務省のナンバースリーと、中間管理職か。

 皇帝の妃になる話があったのに、子爵の妻に収まった。本人にとっては屈辱だったかもしれないな。


「かなり怪しいというのは、何かあるのか?」

「周囲にお母君アーマル正妃様を呪ってやると漏らしていたらしいのです」


 恨みがあるから呪ってやると言うのは、よくある話だ。

 だが、それを実行するのは、容易ではない。

 言うのと実行するのでは、天と地ほどの差があるのだから。


「他に怪しいのは、バーラス侯爵家のガルミア殿です」

「バーラス侯爵は資産省の政務官だな。御前会議などで顔を見たことがある」

「はい。資産省のナンバーツーにございます。娘のガルミア殿は妃になれなかった翌年にシェバルタ伯爵家の嫡子に嫁ぎましたが、結婚して半年ほどで嫡子が他界しましたので、実家であるバーラス侯爵家に戻っております」


 夫が早逝したことで出戻りになったか。それで俺を生んだ母上を逆恨みしてもおかしくはないが……。


「ガルミア殿はかなり気性の激しい人物のようで、随分とアーマル正妃様を恨んでいたと聞きます」


 そこまで珍しい話ではないが、共に可能性はあるか。


「他の二人はどうなのだ?」

「表面上は目だった言動は確認されていません。もしかしたら、妃候補に名前が挙がっていたことを知らない可能性もあります」


 妃候補に名前が挙がっても、妃になれるわけではない。

 当主だけが知っている可能性だってあるわけだ。


「分かった。ミネルバとガルミアの身辺調査は継続してくれ。他の二人に関しては調査を打ち切って構わん」

「承知しました。続きまして、法務大臣の件ですが」

「聞こう」

「ドルフォン大臣は今回の件に関わってないと考えてよいと思われます」

「動いてはなかったのだな?」

「監視させている者から、動きはなかったと報告がありました」

「法務大臣はここ最近鳴りを潜めているが、監視していることに気づかれてはいないな?」

「そこは信用してくださって構いません」

「分かった。引き続き監視を怠らないように」

「はい」


 怪しい奴が三人。一人は間違いなく黒。だが、その黒が今では俺にすり寄ってきている。すり寄ってきてからは動きがない。

 今回の迷宮内での刺客騒動で最も怪しいのはミネルバだが、それも証拠はない。そもそもミネルバが裏ギルド闇夜の月と繋がっているかも分かっていない。

 もっとバンバン刺客を送ってきてくれれば、動きを掴みやすいのだけどな。

 これはやっぱり俺自身が餌になるしかないか。


「サキノ。次の迷宮探索のスケジュールを、不自然にならないように洩らせ」

「また刺客を送ってくると、お思いですか?」

「そうなればいいと思っている」

「ご自分を餌にするのは、感心しません」

「だが、敵の動きを探るために、動いてもらわねばならぬだろ。そのための餌がいるなら、いくらでも餌になってやろう」

「………」


 サキノの表情に、不満がありありと見えた。


「それに、お前は俺を守ってくれるのだろう?」

「命に代えましても」

「俺はサキノを信じている。俺の命をサキノに預けるから、好きなように使え。そして、刺客を送ってきた奴を突き止めろ」

「ゼノキア様はずるうございます。そんなことを言われては、何も言えないではありませんか」


 俺は微笑みでサキノに答えた。


 ▽▽▽


 久しぶりに魔法の訓練をするため、騎士団の訓練場に入った。

 訓練場ではソーサーが騎士たちを厳しくしごいている最中で、俺の姿を見たソーサーが駆け寄ってきて、敬礼した。


「ゼノキア様にご挨拶申し上げます」

「楽にしろ」

「はっ」

「騎士たちはどうだ?」

「二割ほど辞めていきました」

「二割か。意外と少なかったな」


 俺は半分くらいは辞めると思っていた。二割で済んだのであれば、予想よりもはるかにいい。

 そもそも騎士団の訓練が生温いわけがないのだ。本来の姿に戻っただけなので騎士たちが不満に思うのはおかしな話だ。厳しい訓練が嫌で辞めるような奴は、戦場でも使い物にならないから、今のうちに淘汰されればいい。

 とは言っても、アーデン式訓練は騎士団の訓練よりも厳しい。それを考えれば、二割減で済んだのだから、騎士たちを見くびっていたことを詫びないといけないな。


「第二ステージに移行した者は、どれだけいるんだ?」

「はい。第二ステージに移行した者は、およそ五百名にございます」


 第一ステージは重りを背負って、とにかく走らせるものだ。

 フル装備で重りを背負っているので、かなりの重量を身につけていることになる。そんな状態で朝から晩までとにかく走り続ける。

 そんな訓練をしているので、体は疲れ果てているはずだ。だから、夜はぐっすりと眠りたいだろうが、夜はランダムで敵襲(訓練)がある。この時に規定の時間内に集合できない者は、それ以降寝ることが許されない。

 身も心も追い込まれるのが、第一ステージだ。


 第二ステージでは、剣や槍などの武器を持って訓練ができる。

 だが、剣と槍は連続二千回の素振り、弓なら連続五百回矢を射る訓練が待っている。

 一千回の素振りでも大変だが、その倍の二千回を振るのはかなり難しい。もちろん、気合の入っていない素振りは数をカウントしないし、弓の場合は四百五十発が的に命中しないとダメだ。


「第三ステージに進んだ者は、まだいないな?」

「はい。残念ながら。しかし、かなり近い者であれば数人おります」

「第三ステージに移行する者は、余が言葉をかけることにする」

「ありがとうございます。皆の励みになるでしょう!」


 第三ステージは実戦を想定した訓練になる。この第三ステージをクリアした者だけを騎士に認定することにした。

 つまり、今まで騎士とか正騎士とか言われていた者は、その地位が保留されていて、第三ステージをクリアしないと従者長扱いである。

 逆に今まで従者や従者長だった者は、この第三ステージをクリアすれば、騎士になれる権利を得るのだ。


 これからの騎士団は功績だけでは昇進できない。一定の体力、戦闘力、そして戦術眼を修めていないと昇進できないのだ。

 昨日、昇進方法に関する改革を発令した。皇帝の承認を受けているため、俺が騎士団長を辞しても次の騎士団長がこの制度を簡単に変更できないようにしてやった。

 この制度が悪ければ、俺がいる間に改善するだろう。しかし、そうならなかったら、皇帝が承認しないかぎり、この制度は続くことになる。


 さて、第三ステージをクリアした者だけが、第四ステージにチャレンジする権利を得る。

 第四ステージはチャレンジしなくても構わない。ただし、第四ステージをクリアしなくても正騎士になれるが、騎士長にはなれない制度にしている。


 ちなみに、基本的な教育はまた別の話である。

 文字の読み書きができない者が第三ステージをクリアしても、騎士にはなれない。

 騎士や正騎士、そして騎士長になるには、それなりの教養を身につけていなければならないのだ。そうでなければ、戦術を理解することができない。

 圧倒的な武を持った者が、先頭に立って皆を引っ張っていくのは、集団戦闘としては不合格だ。集団戦闘は集団が戦術的に動くことで、成り立つものである。

 一騎当千の武辺者がいてもいいが、そういった者は単体で使うことで集団戦闘を生かすポジションになる。

 そういった武辺者が部隊を指揮すると、部下が苦労する代表みたいなものだ。


 

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