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045_アルゴン迷宮探索(三)

 


 迷宮探索を開始してから、三日が経過した。

 現れるモンスターは強くなり、入り口付近にいたモンスターのように瞬殺できなくなっているが、それでも余裕を持って倒せている。


 ウーバーの大斧がモンスターの胴体を大きく抉り、痛みに顔を上げたモンスターの首にボドムが剣を刺した。

 その横では魔法士ロザリーの風魔法によって切り刻まれた瀕死のモンスターに、俺が剣でとどめをさす。

 この剣はミスリルの剣で、俺が使いやすいように短めのものを造った。革鎧と違って今回の迷宮探索に合わせて造らせたものではなく、以前から持っていたものだ。

 なぜミスリルかと言うと、ミスリルは魔法発動体として優秀な金属という理由からだ。

 魔法士のアザルやロザリーもミスリル製の杖を持っている。魔法使いにとってミスリルは身近な金属で、俺はそれを剣にしているだけなのだ。


「ゼノキア様。お見事にございます」


 サキノが褒めてきた。

 だが、あそこまで弱っていたモンスターにとどめをさすくらい、誰だってできるから、褒められるようなものではない。


「ロザリーの魔法で瀕死だったんだ。とどめをさすくらい、誰にでもできるぞ」

「騎士や兵士なら誰にでもできましょう。しかし、ゼノキア様はまだ九歳にございます。普通はモンスターの姿を見て足がすくんで動けないものです」

「なるほど。そういう考え方もあるか」


 言われてみれば、そうかもしれない。だからと言って調子には乗らないように、自分を律しておかないと痛い目を見るのは俺だからな。


「この辺りで探索している小隊はいないようだな」


 相変わらずの洞窟内だが、ゲランドが地図を作ってくれるので、どの辺りにいるか分かる。

 その地図によれば、入り口から大体2日もしない辺りに俺たちはいる。あっちこっちの道を探索して地図を埋めていきながらなので、3日が経過してもこんなものだ。


「場合によっては、全滅しかけている小隊もいるかもしれませんし、道に迷っている小隊もいるかもしれません」


 サキノはそう言うが、地図を作らないから道に迷うのだ。

 団長がアホでも小隊を指揮する騎士が、地図を作るように指示すれば道に迷ったりはしない。それは部下を預かる隊長としての資質に欠けるというものである。


「リースが何かを見つけたようです」


 細い通路から広い場所に出る辺りで、リースがハンドサインを送ってきている。

 それによれば、かなり多くのモンスターがいるようだ。


「確認してきます。団長はこちらでお待ちください」


 アーサーが確認のためにリースのところに向かった。

 この時、俺は違和感を感じて、後ろを振り向いた。違和感と言ってもそれが何か分からず、ただ嫌な感じがしたというだけなのだが……。

 後方にはB班のボドムとウーバーがいて、警戒している。

 だが次の瞬間、ウーバーが危険のサインを送ってきた。

 その直後、一人の騎士がウーバーたちの前に現れ、その後ろから大量のモンスターの姿が見えた。その騎士はB班の制止を素早い動きで避け、こちらに走ってくる。


「サキノ! A班は後方に展開! あの騎士を捕縛し、B班を援護しろ!」

「はっ!」


 俺の指示でA班のサキノとソドムが、駆け出した。

 あの騎士が誰かは知らないが、モンスターの群れを連れてくるとはふざけてやがる!


「ミリアムはアーサーと合流し、前方の敵を防げ! アザルとロザリーは後方のサキノたちを支援! ポーターの二人は俺から離れるな!」


 早口で指示を与えると、俺は前方に走り出した。

 サキノが騎士に止まれと命じるが、騎士はその言葉に耳を傾けない。いったいなんだというのだ?

 業を煮やしたサキノがその騎士を捕縛しようとした。しかし、騎士はジャンプしてそれを躱す。

 サキノの剣を躱すとは、あの騎士……騎士かと思ったが、騎士はあんな動きをしない。


 ―――刺客か!? 俺の勘が瞬時にそう判断した。


 サキノの纏う雰囲気が変わり、触れると食い千切られるのではと思うような、鋭いものになった。

 刺客が俺に迫ろうとする。それをサキノが悪魔のような形相で詰め寄り、背中を切る。

 刺客は声も出さずに倒れるが、その時に俺に暗器を放つ。

 俺はその暗器を魔力を放出して弾く。

 兜のフェイスマスクを下げているため顔は見えないが、刺客がぎょっと目を剥いたのが見えた。

 そこでサキノが刺客に剣を突き立て、息絶える。


「申しわけございません。お怪我はありませんか!?」

「余が怪我などするわけないだろ。それよりも、後方のモンスターを抑え込んでおけ。余は前方のモンスターをぶちのめしてくる」

「はっ!」


 後方ではすでに戦いが始まっている。通路ということもあり、モンスターが多くてもそれほど悲観することはない。

 問題は前方だ。アーサーとミリアムだけでは抑えきれないだろう。


 ―――俺は走りながら剣を抜き、詠唱を始めた。


「偉大なる風の大神よ、我は魔を追い求める者なり、我は風を求める者なり、我は風を操る者なり、我が魔を捧げ奉る。我が求めるは偉大なる風の大神の暴風なり。我が前に顕現せよ」


 広い場所の入り口に立った俺は、そこに広がるあり得ない光景を見た。

 まるで蟻塚のようにモンスターが犇めき合っているではないか。しかも、壁や天井にまでびっしりとモンスターがいる。気持ち悪い。

 しかし、俺は口角が上がるのを感じた。


 ―――これならいける!


 すでに詠唱を終えている俺は、手を振って皆を下がらせると、剣を掲げ魔法を発動させた。


「―――喰らえ! ディストラクションストーム」


 広場内に竜巻が発生し、それが規模を大きくして暴風へと発達していく。

 モンスターは暴風によって塵芥(ちりあくた)のごとく舞い上がった。

 ディストラクションストームの中で粉々に切り刻まれていくモンスターは、悲鳴を発していると思うが、ディストラクションストームが発する轟音にかき消されている。


「皆、地面に伏せろ!」


 ディストラクションストームが広場を蹂躙し、その猛威は通路へも及んだ。

 俺たちは地面に身を屈めてその猛威に耐える。

 いつも思うが、帝級魔法は威力がある。今回は魔法の中心を遠くに置いて調整したつもりだったが、それでも自分に多少の影響がある。

 こういう空間では特に威力の調整が難しいのだ。


 アーサーが前に出て俺を庇い、その金属の鎧にペチッペチッとモンスターの肉片が当たる。


「団長。お下がりください」


 大声で下がれと叫んできた。

 ドラゴンの革鎧の上から魔力の鎧を纏っているから大丈夫なんだが、アーサーにはそれが見えないので、俺を庇ってくれたのだろう。

 部下の厚意は無下に扱ってはいけないと思い、下がる。



 アーデン騎士団、団長アマニア・サキノ(男・剣・A班)

 アーデン騎士団、騎士ソドム・カルミア(男・盾・短槍・A班)

 アーデン騎士団、正騎士ボドム・フォッパー(男・盾・剣・B班)

 アーデン騎士団、騎士ウーバー・バーダン(男・大斧・B班)

 帝国騎士団、副団長(騎士長)アーサー・エルングルト(男・盾・剣・C班)

 帝国騎士団、騎士ミリアム・ドースン(女・槍・C班)

 魔法士アザル・フリック(男・杖・水・光)

 魔法士ロザリー・エミッツァ(女・杖・風・土)

 アーデン騎士団、従士長リース・ルーツ(女・斥候・弓)

 アーデン騎士団、従士ゲランド・アムガ(男・ポーター・地図)

 帝国騎士団、従士サージェ・ウイスコン(男・ポーター)


 

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