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043_アルゴン迷宮探索(一)

 


「アーデン騎士団より某と騎士が五名」


 アーデン騎士団の『アーデン』は、俺ことゼノキア・アーデン・フォンステルトのミドルネームが使われている。

 これは他の親王も同様で、騎士団や軍にミドルネームがつく。そして国の騎士団は帝国騎士団と言っている。普通は騎士団とだけ言っているが、親王騎士団と区別する時などは帝国騎士団と呼称しているのだ。


 サキノと騎士五名は順当だ。本当はソーサーも連れていくつもりだったが、帝国騎士団の副団長の座についたため、俺がいない間の帝国騎士団を任せることになってしまった。


「魔法士より水属性が得意なアザル殿、風属性が帝級のロザリー殿」


 水属性の回復魔法を使えるアザルは、重要な回復要員で外せない。

 ロザリーは俺の下にいる四人の魔法士の中で、最も若い女性魔法士だ。しかし、風属性が帝級まで扱える。

 他の二人が得意な属性はどれも王級なので、一段違った破壊力を期待している。


「最後に、帝国騎士団から三名。うち一名は副団長アーサー・エルングルト殿にございます」


 アーサーという副団長は、数少ないまともな騎士のように見えた。

 騎士長や副団長は、腕っぷしだけではダメだ。騎士たちを指揮する能力、戦術を考える頭脳、そして人望が必要である。

 少なくともアーサーは、人望はあると見た。また、歩き方や身のこなしから腕っぷしもそれなりだと思う。

 指揮能力を確認し、ついでに腕っぷしのほうも見ておきたいと思って、アーサーを入れた。騎士団の活動を見ていれば、そういうものは見えてくる。だが、副団長の実力は早めに把握したい。

 本人が迷宮探索など入りたくない、嫌だとぬかしたら、強権を発動してでも連れていくつもりだ。


「総勢十一名にて殿下をお守りいたします」


 アーデン騎士団は俺の直臣で、俺を守るためだけの騎士団で、アマニア・サキノを騎士団長に、約百五十名が在籍している。

 帝国騎士団の副団長にソーサーを就けたので、アーデン軍を併合しているため数が増えたように見えるが、総勢は変わらない。


「俺の家臣は心配していないが、帝国騎士団のアーサーを除く二名は、動けるのか?」


 なんと言っても今の帝国騎士団は弱体している可能性がある。アルゴン迷宮内では何が起きるか分からないので、本当は連れていきたくなかった。

 そんなところに足手まといを連れていくのは、危険極まりないからだ。


「某とソーサーが面接を行いました。力のある者を選んだつもりにございます」


 サキノがそう言うなら、問題ないな。


「初回の探索期間は五日だ。準備を怠らないように」

「承知しております」


 明日になったら、アルゴン迷宮探索に向かう。

 この時点で帝国騎士団の三名の人選が終わったので、本当にばたばただ。


「ソーサー。騎士団のことは頼んだぞ。騎士としての矜持を持たない奴は、容赦なく切り捨てていい」

「承知しました」


 ▽▽▽


 騎馬に乗ってアルゴン平原に向かう。

 真新しいドラゴンの革鎧を着込み、俺の体に合わせた長さの剣を佩いている。


 以前、俺に差し向けられた刺客で最も多かったのが、このアルゴン平原で遭遇した武力集団だった。

 奴らは二手に分かれて、俺の護衛を分断してきた。作戦としては下の下だ。

 俺が帝級魔法を試すために、アルゴン平原に向かったことくらい情報を得ていただろうに、俺に魔法の詠唱の時間を与えるなど、何を考えているのだろうかと思う。

 それに比べて、夜中に俺の部屋に侵入して殺そうとした刺客はよかった。あと少しで俺を殺せたかもしれないからな。

 それとアップルパイに毒を仕込んだのもよかった。このアップルパイ事件以降、俺は毒に警戒するようになったが、それ以前はそこまで気にしてなかったからな。


 何が言いたいのかというと、俺を狙った暗殺事件でアルゴン平原事件は、最もお粗末だったということだ。

 そんな最低の思い出のあるアルゴン平原に入っていく。


 さて、今回のアルゴン迷宮探索では、刺客は送られてくるのだろうか?

 俺ならこんなチャンスは逃さないけど、敵さんはどう出るのかな?


「サキノ。法務大臣は動いたのか?」


 俺は騎馬に乗って隣を並走しているサキノに、小声で問いかけた。


「動いたという報告は受けておりません」

「そうか」


 法務大臣が動かずに俺を狙う刺客がきた場合、俺を狙う奴が法務大臣以外にもいるということがほぼ確定する。

 どうなるか、法務大臣の動向を注視するとしよう。


 しばらくすると、以前俺が帝級魔法を行使した場所に差しかかる。しかし、すでに数年たっているため、草が生い茂っていて他の場所と変わりないように見える。

 ただ違うのは、アルゴン迷宮に続く道が整備されていることだろう。いや、整備ではなく人や荷車などが通ることで草が踏まれて次第にはげていき、地面がむき出しになって踏み固められたものだ。


 その道を通って進むとすぐにアルゴン迷宮の前に作られた騎士団の野営地が見えてくる。

 その周辺には建設途中の建物や、突貫工事で作られたと思われる小屋が見える。


「アーサー。現在駐留している騎士団の規模は?」

「はい、一個中隊と二十個小隊、総勢でおよそ三百五十名になります」


 迷宮ができた直後は五個小隊と一個中隊だったから、予定通り小隊の数を増やしたようだな。

 質が伴わない騎士ばかりだと、いくら数がいても意味はないがな。


「中隊が出入り口の監視と要救護者の対応に当たり、小隊が探索を行っていたのだったな」

「その通りにございます」


 二十個小隊というから約三百人規模で、迷宮探索を行っている。

 それなのに、迷宮内の構造の情報が少ない。何をしているのやら……。


 野営地に到着すると、中隊を預かっている正騎士が駆け寄ってきて敬礼で迎える。

 野営地の中を見ると談笑している騎士も見受けられ、緊張感がないのがよく分かる。


「ソーサー」

「はっ」

「このアルゴン平原は、騎士の訓練場所に向いていると思うが、どうだ?」


 ソーサーは周囲を見渡し、ニヤリと笑みを漏らす。


「左様にございますな」

「ならば、やることは分かっているな」

「委細承知にございます」


 別に難しいことを言っているわけではない。

 何もなくだだっ広いこのアルゴン平原で、思いっきり騎士団員を鍛えなおせと言っているだけだ。


「サキノ、アーサー」

「「はっ!」」

「直ちに迷宮内に入る。問題ないか?」

「「問題ありません!」」


 俺は鷹揚に頷き、騎馬から降りる。


 野営地の奥に迷宮の入り口がある。

 迷宮が迷宮魔人によって作られた証拠ではないが、その入り口は人工的だ。


「門があるとは聞いていたが、本当に門だな」


 黒曜石のような黒光りする石造りの立派な門。高さ十メル、幅七メル、奥行き五メルほどの立派なものだ。今の俺の身長が約一・四一メルなので、門を見上げると首が痛くなる。

 ただ、門しかない。それなのに、門を潜るとダンジョンの中に通じている。迷宮の構造を研究している学者もいるらしいが、そういった者たちは別の空間に繋がっているのだろうと考えている。そんなものは、専門家でなくても分かるぞと言いたい。

 結局何が言いたいかというと、誰もこの構造を解明したものはいないということだ。


「さて、そろそろいこうか。ソーサー。あとのことは頼んだぞ」

「はっ! 無事のお帰りを祈っております」


 俺は今回の迷宮探索のメンバーを見た。

 アーデン騎士団、団長アマニア・サキノ(男・剣)

 魔法士アザル・フリック(男・杖)

 魔法士ロザリー・エミッツァ(女・杖)

 アーデン騎士団、正騎士ボドム・フォッパー(男・盾・剣)

 アーデン騎士団、騎士ウーバー・バーダン(男・大斧)

 アーデン騎士団、騎士ソドム・カルミア(男・盾・短槍)

 アーデン騎士団、従士長リース・ルーツ(女・斥候・弓)

 アーデン騎士団、従士ゲランド・アムガ(男・ポーター)

 帝国騎士団、副団長(騎士長)アーサー・エルングルト(男・盾・剣)

 帝国騎士団、騎士ミリアム・ドースン(女・槍)

 帝国騎士団、従士サージェ・ウイスコン(男・ポーター)


 誰もが気合の入った顔をしている。


 

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