040_光属性の伝説級魔法
大図書館の重要書エリアで、魔導書を読む。
本棚の奥に隠すようにしまってあった光属性の伝説級魔導書に、敵意の動きを見るものがあった。
毒サーチに通じるかもしれない魔法だ。しかも、敵意という皇族にとっては、極めて重要なものが分かるのだから、この魔導書を読まないわけにはいかない。
俺たち人間は嫌いだったり利害が相反する奴に、嫌悪感や敵意を持つものだ。まあ、中には無心や無我といった境地に至る奴もいると聞くが、それは例外中の例外で、大概の奴は少なからず感情を持っている。
感情を表に出すか出さないか、そういった処世術のようなスキルを持っている奴もいるが、それはあくまでも表面に出さないだけで、感情を持っている。
「しかも、効果が持続するのか。いいぞ、この魔法」
定期的に魔法をかけなおして、敵意が分かるようにしておけば、かなりの確率で敵味方が見分けられる。
ただし、俺が光属性の伝説級魔法を操ることができなければ、意味のない魔法だ。
魔導書を読み進めていくと、他にもいくつかの魔法が記載されていた。
その中には大規模殲滅魔法という、禁止魔法に指定されてもおかしくないようなものまである。
この大規模殲滅魔法は空に浮かぶ太陽の光を利用し、超高熱の攻撃をするもので大都市を一瞬で更地に変えることができるとある。読んでいて背筋に冷たいものが走った。伝説級の魔法だけあってあり得ない威力だ。
「こんなものが世の中で広く知られたら、シャレにならない。使える使えないではなく、使おうと試行錯誤するのが、人間という生き物なのだ」
この魔導書は元の場所に戻し、できるだけ人の目に触れさせないようにしておかなければいけないだろう。
その前に、敵意を見ることができる魔法だ。俺は必死にその魔法を覚えようとした。感触は悪くない。だが、簡単に発動できるものでもないようだ。
時間をかけてでもものにできればいい。
何か聞こえたので部屋の奥に目を移す。重たそうな本を抱えてくる司書長が見えた。
ドサッ。司書長が机の上に本を置いた。かなり重厚だ。
「殿下、こちらを」
「これは?」
「無詠唱のことが書かれているようです」
「ほう、無詠唱か」
それは魔法使いなら誰でも憧れる、最高の技術の一つだ。
本を開き、内容を読み進める。
難解な文章を解読しながらなので、進みは遅い。
「これは腰を据えてかからないと、まったく理解できないぞ」
「殿下でもそうなのですから、この年寄りにはさっぱりにございます」
「そんなことを言って、司書長ならすでに理解しているのではないか?」
「そんなことはありませんよ」
そう言いながらも口角を上げてにやりと笑う司書長。その思わせぶりな態度が、ちょっとムカつく。
だが、これはいい。無詠唱など、宮廷魔導士長でもできないと聞いている。とは言っても、あの宮廷魔導士長は笑って誤魔化して話をはぐらかすんだよな。
まあ、本当のところはできると、俺は思っている。もっとも、全ての魔法を無詠唱で行使できるとは限らないが。
「これは時間がかかるな」
光属性の伝説級といい、無詠唱といい、もっと早く出会っていたら、今度の迷宮探索に役に立ったものを。
もっとも、光属性の伝説級魔法、メガバーストレイを閉鎖された迷宮でぶっぱなしたら、俺まで逝ってしまいそうだし、迷宮内でも太陽の光を集めることができるのか分からない。
▽▽▽
時は少し遡るが、臨時御前会議の二日後に騎士団長が報告書を持ってきた。
「アストロ。貴様、この報告書を本気で作ったのか?」
俺は騎士団長ネルジン・アストロを、ぎろりと睨んだ。
それというのも、迷宮内の構造、出現する化け物の配置と強さ、罠の有無など多くのものを報告するのがこいつの義務だが、こいつはそのどれも中途半端な報告書を俺に提出した。
「この報告書は余だけではなく、陛下もお目を通される。それを知っていてこれか?」
額から大粒の汗を流し、俺の言葉に唸るばかりだ。
これはマズいな。こんな奴が騎士団長という非常に重要な職に就いていることは、騎士団の弱体に繋がっていると思われる。
騎士団などに興味はないが、騎士団をテコ入れしないと皇族の身が危険だ。
軍部では実力が優先されるが、騎士団は家柄が優先される傾向にある。
それでも、これまではここまで腐っていないと思っていたが、こいつは家柄だけで実力もないのに騎士団長になったようだ。もっとも、顔だけは歴戦の戦士のようだがな。
騎士団も実力主義にしなければ、安心できない。
「下がってよいぞ」
「はい」
騎士団長が大きな体を小さくして、俺の執務室を出ていく。
「サキノ。俺の鎧はできたか?」
「あと四日ほどかかると聞いております」
迷宮では間違いなく戦闘が行われる。
そんな場所に平服でいくほど、俺の頭はぶっ飛んでいない。
ちゃんと鎧を着ていくつもりだが、いかんせんまだ九歳なので鎧なんて作っていない。
だから迷宮探索の勅令を受けて、急いで鎧を作らせている。
皇帝も鎧もない俺に、迷宮へいけとは言わないからな。
「陛下に面会を申し込んでくれ」
「承知しました」
鎧ができ上っても調整があるだろうから、さらに数日はかかるだろう。
迷宮探索はそれからになると報告しにいくついでに、騎士団のことをなんとかしないとダメだと上申するつもりだ。
騎士団は皇帝の直属だから、俺になんの権限もない。全ては皇帝次第なんだよな。
▽▽▽
「ここまで酷いとは思ってもおりませんでした」
右丞相が首を振って発言した。
これは皇帝に騎士団のことを聞かれて、答えたものだ。
「おそらく、騎士団はかなり弱体化していると考えるべきです。家柄を優先させるのもよいですが、陛下を始め、皇族を守るべき騎士団の弱体化は、看過できるものではありません」
俺は自分の思いを語った。
後は皇帝の判断次第だ。皇帝が騎士団のテコ入れをしないのであれば、俺の家臣だけでも精強な兵になるように鍛えるつもりだ。
もっとも、俺の家臣たちは帝国内でも最精鋭と言えるほどの練度に、すでに達しているんだけどな。
「ゼノキアの言は理解した。右丞相、騎士団長の職を停止させよ。当面は各騎士長がそれぞれの指揮を執るように」
「承知いたしました」
騎士団長の更迭で騎士団員の意識が改善され、騎士としてプライドを持って日々の訓練に励んでくれればいいのだが。
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