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030_石化の呪い(三)

 


 帝城の屋敷に戻ったらすぐに皇帝に呼ばれた。


「エッガーシェルトの娘は呪いだったようだな」


 屋敷に戻ってすぐに呼び出されたので皇帝の執務室に向かったが、まさか皇帝がこの情報をすでに得ているとは思わなかったので驚いた。

 俺の行動が筒抜けのような気がする。気のせいか?


「はい、石化の呪いでございます」

「ゼノキアが解呪すると聞いたが?」

「その予定でございます」

「……できるか?」


 皇帝が厳しい目で見てくる。


「解呪は初めてですから、確実に成功すると断言はできません」

「……他の者が解呪できぬのか?」

「闇属性の適性が必要になりますので、すぐに見つけるのは難しいでしょう」


 これは俺を心配してしてくれているのだろうか?

 最近は会う機会も多くなったが、俺が親王になると決まる前はほとんど顔を会わさなかったのに?


 ……あぁ、これは帝国のことを心配しているのか。

 俺が順調に成長すれば、帝国にとって大きな戦力になる。その戦力を幼いうちに潰すのをためらっているのだろう……。


 それとも……。

 皇帝が伯爵家の娘の生き死にを気にかける必要はない。皇帝にとっては数多くある諸侯の中の一家なのだから。

 しかし、ここでエリーナ嬢の後宮入りの話が出てくる。エリーナ嬢を選んだのは皇帝であり、皇帝はエリーナ嬢に執着したのではないだろうか?

 だから、わざわざ俺にエリーナ嬢の治療を命じてきた。こう思えば、全てが納得できる。だが、俺の命と引き換えにしていいものかと考えたのではないだろうか。


「宮廷魔導士長が闇属性に長けていたはずだ」


 そういえば宮廷魔導士長は闇属性が帝級だと聞いたことがある。

 ただ、宮廷魔導士長にもしものことがあった場合、問題が発生する。


「陛下、宮廷魔導士長は……」

「む、そうか……あれがあったのだな……」


 あれというのは、この帝城を覆う結界のことだ。

 帝城には呪いを防ぐ結界が張られているが、その結界を維持すために宮廷魔導士長のような優秀な魔法士が必要なのだ。

 その宮廷魔導士長がもし解呪に失敗したら、結界の維持に支障が出る。

 まったく機能しないわけではないが、宮廷魔導士長に依存するところも大きいと聞く。


 宮廷魔導士長はそこそこ高齢なので後継者を育てているはずだが、思ったような人材は今のところ現れていないようだ。

 もしかしたら、俺を宮廷魔導士長の後釜に据えようなんて思っていないよな?


 結局、俺が解呪するのは皇帝も渋々承知した。

 そもそも、この話は皇帝から俺にきたのだから、無理やり止めさせるわけにもいかないのだろう。


 ▽▽▽


 触媒が揃ったと連絡がきたので、エッガーシェルト官房長の屋敷に再び赴いた。

 エリーナが亡くなる前に触媒が揃ってよかった。


「殿下、なにとぞ……」


 エッガーシェルト官房長が玄関まで出迎えにきた。


「分かっている」


 失敗は俺も呪われることを意味するから、盤石の態勢で臨むつもりだ。


「ロザリー、祭壇の設置は?」

「完了しています」


 状況の確認をしながらエリーナの部屋に向かう。

 エリーナの部屋はお香の香りで満たされていた。

 このお香は俺が作ったもので、気分をリラックスさせる効果があるものだ。

 これから失敗できない解呪を行うので、緊張しないようにロザリーに予め香を焚くように命じておいたのだ。


 エリーナのベッドの前には、俺が指示しておいた祭壇ができていた。

 その祭壇にエッガーシェルト官房長に集めるように指示した触媒が置かれている。

 それらの触媒を確認する前にエリーナの容態を診よう。

 呼吸が浅く脈も弱いが、悪化はしていない。

 アザルたちが昼夜関係なく定期的に回復魔法を行使していたのが功を奏したようで、悪化は防げたようだ。


「アザル、ご苦労だった」

「いえ……。殿下、本当に解呪を行うのですか?」

「余以外に解呪を行えるものがいないのだ。であるなら余がするしかあるまい」

「……ご武運を」

「うむ」


 次は祭壇の上に置かれている触媒を確認する。

 カースモンキーの頭蓋骨、銀の延べ棒五本、大回顧鳥(おおかいこちょう)の心臓。

 カースモンキーの頭蓋骨は呪いの効果を上昇させる効果があるアイテムだが、これは解呪でも同じように効果を上げてくれるものだ。

 銀の延べ棒は魔力との親和性がよく魔力を増幅してくれるアイテムとして有名で、これは貴族であれば持っていても不思議ではないので、入手するのに時間はかかっていないだろう。

 この中では大回顧鳥の心臓を入手するのが最も難しかったはずだ。

 回顧鳥は真っ黒な体をした比較的大きめの鳥だが、その回顧鳥の中に極稀に倍くらいの大きさの回顧鳥がいる。それが大回顧鳥である。

 回顧鳥は魂を食べる鳥だと言われていて、死者が出た家の屋根に必ずいると言われている。

 その回顧鳥の中でもひと際大きな体の大回顧鳥の心臓は魂を定着させる効果があるアイテムなのだ。

 今回の場合、解呪が成功してもあれだけ石化が進行していると、魂が酷く傷ついていると思われるので、この大回顧鳥の心臓によって魂の修復を促そうと思っている。

 他に、俺が持ってきた薬もあるが、これは解呪が成功してからの話になる。


「さて、これから解呪を行うが、エッガーシェルト卿はどうする? ここで見ているか?」

「よ、よろしいのですか?」

「邪魔をしなければ構わん」

「では、是非!」

「サキノ、ロザリー、邪魔が入らぬように見張っていてくれ」

「「承知しました」」


 二人に部屋の内外の警戒をしてもらう。

 解呪中に刺客に襲われでもして解呪が失敗したら、俺は呪いを受けてしまうことになるため、俺の命を狙っている奴にとっては狙い時なのだ。


 

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[良い点] 大変読みやすく好きな小説です これからも頑張ってください
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